カーリング、9エンドの戦術の考え方

2022/03/03追記

 この記事の内容を検証した記事を書きました。

y-koutarou.hatenablog.com


 今年もカーリング日本選手権の季節がやってきました。試合は2月9日(日)から始まります。今回もNHKの充実の中継態勢で連日放送があるので楽しみです。

 ところで、カーリングの試合を見ていると、終盤で際どい点差になった場合、どういう戦術を採れば良いのかわからなくなるのです。勝っている方は安全策、負けている方は積極策というのはどの競技でもよくある話ですが、カーリングの場合は、それが点差によって極端に出ることがあります。どの点差ならどういう戦術になるのか、よく考えるとわかるのですが、特に9エンドの戦術が独特でいつも混乱します。そこで、カーリング日本選手権を前に、一度整理して書いておこうと思います。

通常の後攻・先攻の狙い

 まず、序盤~中盤の点差がそれほど離れていない場合の考え方を確認しておきます。

 カーリングは、そのエンドで点数を取った方が次のエンドで先攻、取られたが後攻になります。また、両者点数が入らなかった場合(ブランクエンド)は、次のエンドの先攻・後攻は入れ替わりません。

 後攻は最後の1投(ラストストーン)を持っているので、1点を取るのは比較的容易です。先攻は1点を取る(スチール)のもなかなか大変です。

後攻は2点以上を狙う

 後攻の第一目標は2点以上を取ることです。2点以上取るのができないようなら、ブランクにして後攻を維持して、次のエンドで2点以上を狙う方が良いです。1点取るのは「有利な後攻をたった1点で手放してしまう」ことになるので、後攻にとっては良くない結果です。

先攻は1点取らせを狙う

 先攻の第一目標は相手に1点取らせることです。そして、次のエンドの後攻を得て2点以上を狙います。スチールができればなお良いですが、スチールを狙って攻めすぎると、後攻に3点以上のビッグエンドのチャンスを与えてしまう可能性もあります。

まとめ

  • 後攻:2点取り > ブランク > 1点取り > 1点スチール
  • 先攻:1点スチール > 1点取らせ > ブランク > 2点取られ

10エンドで有利な状況は?

 しかし、終盤になるとこの考え方を修正する必要があります。まず、最終10エンドの状況を考えてみます。

10エンド同点は後攻有利

 10エンドを同点で迎えた場合。後攻はラストストーンを持っている状況で1点取りで勝ちになるので、後攻が有利です。ただし、先攻もスチールすれば勝ちで、それを狙ってくるので、後攻が楽に勝てるというほどではありません。自分の観戦体感的には、10エンド同点の後攻が勝つ確率は2/3~3/4という感覚です。

 もちろん、後攻が1点以上アップであればさらに有利です。

10エンド後攻1点ダウンは互角

 10エンド後攻1点ダウンは最も際どいスコアです。後攻は、2点取れば逆転勝ちで、その可能性は十分あります。1点にとどまって同点になってしまうと、エキストラエンドの先攻でスチールしないと勝てないので不利になります。それでもまったく勝てないわけではありません。

 先攻は、1点取らせて同点にし、エキストラの後攻になって1点取って勝つのが主な狙い筋になります。このエンドで勝つためにはスチールが必要ですが*1、スチールを狙うと2失点して一気に逆転負けになるリスクも上がります。

 総合すると、10エンド後攻1点ダウンという状況は、後攻・先攻どちらも互角だと思います。

10エンド後攻2点ダウンは先攻有利

 10エンド後攻2点ダウンの場合。2点差になると、後攻が勝つには「2点取って同点にした上で、エキストラの先攻でスチール」するか「このエンドで3点以上取る」しかありません。不可能ではありませんが、どちらも難しい狙いになります。よって、この場合は先攻の方が有利です。

 「2点ダウンの後攻」と「同点の先攻」を比較すると、2点ダウンの後攻は「2点取った上で、次にスチールで勝ち」です。同点の先攻は「スチールで勝ち」なので、2点ダウンの後攻の方が条件は厳しいです。2点ダウンの後攻は「3点取って勝ち」というプランもありますが、それを合わせても2点ダウンの後攻の方が勝つのは難しいと思います。よって、「2点ダウンの後攻」より「同点の先攻」の方が有利です。

 もちろん、後攻3点以上ダウンなら、さらに先攻有利です。

まとめ

  • 10エンド同点なら後攻有利
  • 10エンド後攻1点ダウンなら互角
  • 10エンド後攻2点ダウンなら先攻有利

9エンドの戦術

 以上を踏まえて、9エンドをどう終えれば10エンドで有利な状況になるかを考えて、9エンドで採るべき戦術を決めます。

9エンド同点

 後攻は、ブランクにすれば「10エンド同点の後攻」になれるので有利です。よって、通常よりブランクの価値が上がります。2点取って「10エンド2点アップの先攻」になればさらに有利ですが、ブランクでも十分有利ですし、2点取りに行って1点しか取れなかった場合の損も大きいです。ブランク狙いと2点狙いは作戦が正反対なので、基本的には後攻はブランクを狙います。

 先攻は、ブランクにされると不利なので、1点取らせて「10エンド1点ダウンの後攻」の互角の立場をめざします。1点スチールして「10エンド1点アップの先攻」になっても、先攻後攻が逆なだけで「10エンド後攻1点ダウン」の互角の状況なのは同じです。よって、1点スチールの価値がかなり低くなります。*2

後攻:2点取り > ブランク >>> 1点取らされ = 1点スチール
ブランクの価値が高い。2点取るのも良いが、ブランクでも十分有利。1点スチールは怖くない。
先攻:1点スチール = 1点取らせ >>> ブランク > 2点取られ
狙いはほぼ1点取らせのみ。スチールの価値が低い。

 なお、9エンド同点より後攻が有利な状況(9エンド後攻1点以上アップ)の場合は、直感的に思う戦術でおおむね正しいので、混乱することはそれほどありません。

 後攻は、2点以上取っても良いし、ブランクでも良いし、1点取らされでもそれほど悪くない。逆に先攻は、ひたすらスチールを狙うか、1点だけ取らせて最終エンドでビッグエンドを狙う。2点以上取られるのはもちろんダメだし、ブランクにされるのも悪い。

 つまり、勝っている方は無理をせず安全策で十分、負けている方は多少無理でも勝負手を放つという、競技の終盤でよくある展開となります。

9エンド後攻1点ダウン/先攻1点アップ

 後攻は、このエンドはブランクにすれば「10エンド1点ダウンの後攻」の互角の立場になります。2点取ると逆転して一見良いように見えますが、「10エンド1点アップの先攻」になるだけで、「10エンド後攻1点ダウン」の互角の状況になるのは変わりません。よって、2点取りの価値は低いです。しかも、1点取らされると「10エンド同点の先攻」になってしまうので不利です。2点取りの価値が低い上に1点取らされの損も大きいので、2点取りに行くメリットがありません。

 先攻は、1点取らせて「10エンド同点の後攻」になると有利だし、1点スチールで「10エンド2点アップの先攻」ならもっと有利。よって、先攻は1点取らせか1点スチールを狙うという、通常のエンドと似た狙いになります。2点取られてもブランクでも「10エンド後攻1点ダウン」の互角の状況になるので、2点取られは怖くない。よって、2失点を恐れず、最後までスチールか1点取らせを追求することができます。

後攻:2点取り = ブランク >>> 1点取らされ > 1点スチール
狙いはほぼブランク。2点取りのメリットがない。
先攻:1点スチール > 1点取らせ >>> ブランク = 2点取られ
1点スチールか1点取らせ。2点取られは怖くない。

ただし、後攻がビッグエンドを狙うなら……

 というわけで、9エンドで同点か後攻1点ダウンという僅差の展開の場合は、後攻はブランク狙いでクリーンな展開をめざす、先攻はそれを阻止するべくガードを置くということになります。その上で、通常のエンドと大きく異なる点が――同点の場合は「先攻1点スチールの価値が低い」、後攻1点ダウンの場合は「後攻2点取りの価値が低い」――という点を押さえておけば良いでしょう。

 ただし、後攻が3点取りを狙うなら話は別です。9エンド同点の後攻が3点取れば、10エンド3点アップの先攻。9エンド1点ダウンの後攻が3点取れば10エンド2点アップの先攻。どちらも、2点取り・ブランクの場合よりもかなり有利になります。

 したがって、後攻が3点取りができると思うなら、9エンドでガードを置いて攻めてくることも考えられます。その場合は、先攻はそれを阻止しようとしても、クリーン展開になってブランクになったら、それこそ後攻の思う壺です。よって、先攻も攻め合いに出るしかありません。この場合、9エンドが、お互いにガード・フリーズを多用する両者攻めの勝負エンドになると予想できます。

 特に、5ロックルールになってからは3点取れる可能性が高くなっているので、こういう展開も多くなるかもしれません。まだ5ロックルールになってから2シーズン目なので、各チームがどう考えているのか。その辺りも注目しながらカーリング日本選手権を観ることにしましょう。

*1:ラストストーンは相手が持っているので、ブランクになって1点逃げ切りで勝つという展開はまずありません。

*2:逆に、後攻の方が(2点取りもブランクもできないなら)わざと1点スチールさせる手もあるくらいです。