『アランシアの暗殺者』の謎?

 今回も、『アランシアの暗殺者』をプレイし終わっての疑問・感想などを書いていきます。ネタバレなので未読の方は注意して下さい。

アランシアの暗殺者の謎?

これでこそ蛇島

 新作のリビングストンは昔と比べるとだいぶ丸くなったようで、『危難の港』に引き続き、本作の難度も、技術点12でないと無理*1というようなプレイヤーをいじめるような高難度ではありません。

 しかし、序盤の蛇島でのサバイバルはやや厳しい難度。本作は蛇島から出るあたりで、冒険の目的が開始当初とは大きく変わるのですが、蛇島を抜けるのも結構大変です。

 特に厳しい箇所を見ていきます。まず、ディケイヤー*2との遭遇(223番)。技術点8・体力点8で、この戦闘中はこちらの技術点-2*3、こちらが受けるダメージは4点という特殊能力を持つ強敵。できれば逃げたいところですが、逃げて運だめしに失敗すると技術点-1を食らった上に戦闘になってしまうので、さらに苦しくなります。戦闘で有利に展開するには技術点11以上必要なので、基本的には運だめしを通して逃げる選択になると思いますが、運の悪い冒険者はここで2~3割くらい淘汰されてしまうでしょう。

 次に洞窟の入口(213番)。石段を下ろうとすると運だめし失敗で技術点-1を食らいます。しかし、しばらく様子を見るとフレッシュ・ヘッドが突進してきて技術ロール*4に失敗すると、続く運だめしに失敗すると技術点-3、成功しても技術点-2を食らいます。運点より技術点の方が高い冒険者は突進回避の方が成功しやすいですが、失敗すると致命的なので、あえて石段を下りて悪くても技術点-1で済ますという選択もあります。いずれにせよ、サイコロ運で技術点マイナスを食らうは厳しい。また、フレッシュ・ヘッドの突進を回避するとルビーが入手できて(267番)、このルビーが必要なアイテムかどうかわからないというのも選択を難しくしています。

 浜辺(231番)で波間の樽へ向かって泳いだ時の大海ヘビとの戦闘(技術点7・体力点7)も厳しい。戦闘中こちらの技術点-2になるので実質技術点9の相手。ここまでに技術点マイナスを食らっていると不利な戦闘になる可能性があります。しかし、この戦闘が不利という理由でここを回避すると、のちにオレアンダー・レッドフライ(技術点8・体力点8)との戦闘前に体力点-2・技術点-1・体力点-1Dを食らうので(312番)、もっと不利な戦闘をすることになります。

 そして、もちろんファイア・ドラゴンとの遭遇(127番)。ごくナチュラルにドラゴンと遭遇するってそんな無茶な……。いろいろとダメージを食らったりアイテムが必要になったりしますが、大きくは、運だめしに失敗すると技術点-2のリスクを負うか、技術ロールに失敗するとデッドエンドのリスクを負うかの選択を迫られることになります。

 他にも、初見殺しの罠は多数あります。これでこそ蛇島。この島に上陸した者がすべて行方知らずになっているというのもうなずける。やはり蛇島はこのくらいの難度であってほしい。ゲームブックは、ゲームの面白さとしての適切な難度とは別に、物語の状況に応じた妥当な難度も必要だと思います。

ディケイヤー戦で運だめしをすると?

 先に書いたとおり、ディケイヤーとの戦闘(306番)でダメージを受けると、体力点が4点減ります。ここで運だめしに成功するとどうなるか?

 ルールには、自分がダメージを受けた時の運だめしに成功すると、「きみは体力点を一点返してもらえる」と書いてあります(p. 283)。ということは、4点のところが3点になるだけ、と解釈するべきですよね、やっぱり(´・ω・`)

 ことに、かつて『危難の港』で、巨大な溶岩ワーム(こちらの与えるダメージが1点になる)との戦闘で、こちらがダメージを与えた時の運だめしに成功すると1点+2点で3点のダメージを与えられると解釈したことがありますので……。こういうのを自縄自縛と言います。

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海賊から逃げる方法

 蛇島からアランシア大陸西岸に向けて〈ブルームーン〉号を出すが、すぐに海賊船と遭遇する場面(71番)。大きく3つのイベントに分かれていて、非常に複雑な分岐をする。本作きっての難所だと思います。

 一番スマートに見えるのは、「死んだふり」→「赤インクの瓶」です。サイコロを振ることなく安全に抜けられて、その内容も、トリッキーな作戦を成功させて海賊を欺き、そののち海賊船がクラーケンに襲われて沈没するという、いかにも正解っぽい結末。自分はかなり最後の方までこの方法ばかり採っていました。

 しかしこの方法だと、赤水川の入江にしか向かえずポート・ブラックサンドへ行けないので、最終的な任務達成はできないというデッドエンド確定選択でした。これは自分としては大トラップでした。

 ヒントとしては、71番このように書かれていることでしょう。

東に舵を切って赤水川に向かい暗殺者から逃れようか? それとも、ポート・ブラックサンドに戻ってアズール卿に立ち向かうべきだろうか?

この主人公の性格から考えて、「暗殺者から逃れる」という選択はあり得ない。アズール卿に立ち向かうという選択こそらしい選択だ。だから赤水川に向かっている時点でおかしい。――と少なくとも途中からは考えるべきでした*5。これについては、あとで詳しく書きます。

 というわけで、他の方法を考えることになります。「海に飛び込んで船の後ろの隠れる」は、海に飛び込むなんていかにも危険そうで避けていましたが、これが最善。このあと「甲板に戻る」を選択するなどして進行すると、運が良ければ運だめし1回のみ、運が悪くても運だめし2回と体力点-2で、確実に海賊船から逃れてポート・ブラックサンドへ向かう選択肢が出現します。

 「投降する」という選択肢を選ぶと次の展開に移行します(290番)。ここで、「剣を抜いて戦う」選択は、運が悪いとデッドエンドになる危険がある上、最善の選択をしても「海に飛び込んで船の後ろの隠れる」からの展開より有利になる場合がない。「自分が新しい船長だと宣言する」なんて面白い選択肢もありますが、あっさり鎮圧されて血ザメの海に放り出される悲しい結末。

 290番で「持ち物を手放して海賊の一員となる」を選択するとさらに次の展開へ(199番)。この展開はここでしか入手できない【蛇牙の耳飾り】を入手できる可能性があるのが最大のメリット。しかし、そもそもすべての持ち物を失うのが痛すぎる上、運が悪ければデッドエンドの危険もあるので、とても割に合わない。【蛇牙の耳飾り】がないと将来のトゥンク・ヤンとの遭遇時(268番)に体力点-10を食らいますが、甘んじて受けるしかないでしょう。大海原に投げ出されるが、漂ってきたバナナの樽に逃げ込んで助かって運点+1・体力点+1をもらえるなんていう(270番)、いかにもリビングストンらしい面白い展開もあるのですが。

体力点マイナス10

 本作では、体力点-10を食らう場面が2ヶ所あります。一つは、ウジ犬にダメージを受けて【ウジ虫の練り薬】を持っておらずガングー・ウイルスに感染した場合(227番)。もう一つは、先ほども触れた、トゥンク・ヤンとの遭遇時に【蛇牙の耳飾り】を持っていない場合(237番)。

 体力点-10という数字にはびっくりしました。体力点-10って他の作品でありましたか? ちょっと記憶にない*6。自分が知る限り、FFシリーズにおける一度に受ける最大ダメージ量は、『盗賊都市』で、6本の矢を射かけられたときの体力点-1D*3、つまり最大で体力点-18だと思います(137番)。それにしても固定ダメージで10点は破格。

 以前、自分が『危難の港』について書いた記事で、「ここは体力点-6くらいで手を打ってほしかった」と書いたのは、一度に受ける固定ダメージは6点くらいが最大だろうと思ったからなのですが、あっさり超えてきましたね……。

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雑貨屋の秘密?

 赤水川の入江の雑貨屋の主人、ハロルド・コーンペッパー(23番)。イラスト付きで登場しますが、安田均先生のツイートによると、このイラストに秘密が。面白い話なので紹介します。

不死身のガランカ・ヴァッセル?

 〈背たかトムの宿〉でガランカ・ヴァッセルの存在にいち早く気がついた場合(197番)は矢を射かけることができますが、矢が当たった場合でも自分の運点が+1されるだけで、肝心のヴァッセルがノーダメージって、そんなのあり? 技術点-1とかだとさすがに簡単すぎるかもしれないが、せめて体力点-2くらいはくれても良かったのでは……。

ブーツを売る?

 ノームと遭遇して革のブーツかエルフのブーツを売る場面(133番)。所持金が少ない場合は金貨1枚でも得たいところですが、ここはエルフのブーツを持っていない場合は革のブーツも売ることはできない、という解釈でいいよね? このあと裸足で旅をするわけにもいかないでしょうし……。

ポケットに入った品は無事?

 本作では、持ち物をすべて失うというような指示がある場面が3ヶ所あります。

  • 「きみの持ち物は取り上げられたが、ポケットに入ったいくつかの品だけは無事だ。残忍な興奮に取りつかれた海賊たちは、ポケットの中身を見落としたのだ。」(81番)
  • 「持ち物を手放して海賊の一員となるなら」→「持ち物を差し出したきみは」(290番 → 199番)
  • 「きみは足を止めることなく背負い袋を放り出した(アドベンチャーシートから背負い袋に入っているすべての品物と保存食を削除すること)」(83番)

 似たような指示ですが、微妙に表現が異なります。特に、81番の「ポケットに入ったいくつかの品だけは無事だ」という指示が気になります。ポケットに入った品とは?

 そう思って本作のアドベンチャーシートを見ると、持ち物の記録は次のように分類されていることに気がつきました。

  1. 背負い袋のアイテム
  2. ポケットのアイテム
  3. ペンダント
  4. 保存食
  5. 金貨
  6. 武器
  7. 防具

 さらに、改めてアイテム入手時の文章を読んでみると、銀のサソリのペンダントトップに関しては、そのほとんどで、入手時に「ポケットにしまう」というような記述があることに気がつきました*7。また、他のアイテムでも、いくつか「ポケットにしまう」というような記述があるアイテムがあります。*8

 これらのことを合わせて考えると、それぞれのアイテムを失う指示は、次のように解釈するべきなのでしょう。

  • 81番の「きみの持ち物は取り上げられたが、ポケットに入ったいくつかの品だけは無事だ」は、「2. ポケットのアイテム」と「3. ペンダント」は失わない(サソリの首飾りはポケットに入れたという描写があるので)。
  • 290番の「持ち物を手放して海賊の一員となる」は、1から7まですべてのアイテムを失う。
  • 83番は「(アドベンチャーシートから背負い袋に入っているすべての品物と保存食を削除すること)」とはっきり指示があるので、1. 背負い袋のアイテムと4. 保存食は失うが、その他のアイテムは失わない。

 ……と、まじめにルールを解釈してみましたが、ま、てきとうでいいんじゃないでしょうか。なんとなくポケットに入りそうなものはポケットに入れたことにする、くらいの解釈でいいんじゃないでしょうか。あと、武器と防具はなんだかんだ言って失わずに済んだ、とか。

 ルールとしてきちんと解釈をしてほしいのなら、ルールに「手に入れた物をどこにしまったか(背負い袋か、ポケットか)を記録すること」と書くべきでしょう。「ポケットにしまった」なんて普通は読み飛ばすよね。

 それに、きちんと解釈しようとしても、金貨はポケットにしまったという描写がある場合とない場合があるし、武器と防具を失った場合の技術点マイナスなどに言及がないし、腕輪や指輪などはどこに分類するんだ?とか、いろいろと不完全なことがあるので……。

ネズミ獲り屋?

 カアドの町の時計職人、バルサザール・ウィトル(249番)。時計の針を届けるのが本筋っぽいですが、ネズミ獲り屋と答えても普通に進行します。ネズミ獲りを成功させた時に、ちょうどブラックソーンからかくまってくれたのは嬉しいし、さらに暗殺者の風貌を教えてくれるのはありがたい情報ですが(280番)、ネズミ獲りの代金は……? 

 ネズミ獲りに失敗した場合は、「誰がネズミ獲り屋だって? わたしが金を払うとでも思ったなら、考え直すんだな!」って言ってくるけど(219番)、成功してもお金くれないんじゃん(´・ω・`)

狂戦士の名前は?

 主人公をファングの町の正門で待ち構えている狂戦士のウルズル・アイアンフェイス(163番)。技術点12・体力点12を誇る最大の強敵ですが、106番ではウルズル・アイアンフォースと書かれているんですけど……。

時間歪曲の指輪?

 忍者、山久利剛三と謎の銀髮の魔道女*9の隠れ家で入手できる【時間歪曲の指輪】(12番)。仰々しい名前ですが、その効果は、衛兵に囲まれたアズール卿に飛びかかるという明らかに無茶な行動を救済するだけ(65番)。しょぼい。それよりも、兜を脱ぐことを拒否した場合の方を救済してほしかった(´・ω・`)

 どうせなら、任意の場面でパラグラフの選択を1回だけやり直すことができるか、サイコロを1回だけ振り直すことができるという効果にすればゲーム的におもしろかったのに。

兜を脱ぐ?

 ファングでの〈迷宮探検競技〉開催式の場面。サカムビット公の兜を脱ぐ命令を拒否した場合は366番で兜を脱がされた上でデッドエンドになりますが、アズール卿の名代となって〈死の罠の地下迷宮〉に入る命令(276番)を拒否した場合も366番に行きます。この場合、兜はすでに脱いでいると思うんですけど……。

刺客リスト

 本作の冒険の目的は、開始当初は蛇島でのサバイバルですが、のちにアズール卿が送り出した暗殺者から逃れること変わり、そして初めてファングに到達してアズール卿の対面した時に(145番)、どうやらこれは暗殺者から逃れるのではなく、むしろ暗殺者を見つけて倒すことが目的なんだなと気がつく、という構造になっています。

 ――という指摘が、下記のブログでされていました。なるほど。

shinsei.hatenadiary.jp

 自分が初めてアズール卿の前にたどり着いた時のサソリの首飾りの数は6個だったのだけど*10、このゲームブックを一番味わえる展開でプレイできたということですね。ラッキー(?)。

 最終的な任務達成のためには、すべての暗殺者を倒す必要があるわけですが、暗殺者がそれぞれ個性的で面白い。というわけでリストを作ってみました。

『アランシアの暗殺者』刺客リスト
登P 絵P 名前 肩書き 戦P
1 - ラク・カザン シャザールのナイフ使い 315 7 6
147 147 オレアンダー・レッドフライ ダークエルフの女司祭、弓使い 13 8 8
110 389 ラズロ・マリック 手練れの剣士 389 8 5
244 244 グレッタ・モーグ 《死の手》 35 8 7
45 53 ガランカ・ヴァッセル 元傭兵の戦士 53 10 9
224 - 山久利剛三 忍者 93 7 6
363 363 レン=レン・パック 〈ゼンギスの超人〉 266 9 6
349 - 〈斧使いダックス〉 バーバリアン 349 9 8
89 89 ブラックソーン チャリスのサーベル使い 160 8 7
109 - レッド・ルース 《精神支配》 344 5 5
268 268 トゥンク・ヤン ケイ・ポンの毒使い 271 5 6
39 39 ジードル - - - -
163 163 ウルズル・アイアンフェイス 元奴隷闘士の狂戦士 163 12 12

 Pはパラグラフ。登Pは初めて登場するパラグラフ、絵Pはイラストがあるパラグラフ、戦Pは戦闘の能力値が書かれているパラグラフです。複数のパラグラフがある暗殺者もいますが、代表する1つだけ載せています。イラストのない暗殺者がいるのは残念。ジードルだけは肩書きが思いつきませんでした(^_^;) 登場パラグラフ数は少ないですが、そのどれもが長文で多彩な反応を見せてくれる印象深いキャラだったのですが。

 自分が最後まで見つけられなかったのは2人。ラズロ・マリックは、先ほども書いたとおり、ポート・ブラックサンドへ向かうという選択肢がなかなか見つけられなかったため。レン=レン・パックは、前々から名前が出ていたガランカ・ヴァッセルを倒した直後に名前が出てきたので、これがラスボス的に最後に出てくると思っていました。何回かファングまでたどり着いて、あれ? そういえば最後の方で出る機会はなさそうだな、と。それまではカアドへ向かうのが正解だと思っていたので、なかなかこちらの道を選べませんした。

この物語の主人公の行動が納得できない

 このように、暗殺者をすべて倒すルートを探し出すのはおもしろかったのですが、正直言って本作はあまり――例えば『危難の港』と比べて――楽しめませんでした。その理由としては、このゲームブックの主人公の行動に納得できなかったから、ということが大きいと思います。

 まず、「背景」からして「おいおい」と思いました。ポート・ブラックサンドで偶然出会った人物と、蛇島で1ヶ月生き延びられるか賭けて、30日後に船で迎えに来てくれて生き延びていれば金貨20枚って、そんな無茶な。金貨を払ってくれる保証がないし、なにより30日後に本当に迎えに来てくれるのかという心配をしませんか??? ついでに、金貨20枚は安すぎると思うし。

 アズール卿から刺客を送られていると聞いた後の行動も理解できない。蛇島にいたままだと次々と暗殺者がやってくる(特にガランカ・ヴァッセル)のは目に見えているので蛇島を出るのはわかりますが、その後アズール卿がいる場所へ行こうとしていませんか? アズール卿に会ったところでどうにもならないと思うんですけど……。アズール卿を暗殺するなんて無理にきまってるし。自分なら、アズール卿の手の届かない遠くの土地へ逃げようとすると思います……。

 そして、この物語の結末。〈迷宮探検競技〉に参加するなんて、死亡確定じゃん。ぜんぜん嬉しくない。ことに、自分が初めて400番にたどり着いた時の状況が、技術点9/9、体力点1/19、運点6/9、保存食0、ポーションなしという状態だったので……*11。これだけ苦労に苦労を重ねてエンディングまでたどり着いてデッドエンドかよ。

 『危難の港』は、腹ペコのトレジャーハンターがうさんくさい宝の地図を見つけて旅に出るという冒険者らしいスタートでした。その後の物語の変化も、半ばハカサンに尻を叩かれる格好で、アランシアの危機を救えるのは自分しかいないという状況に追い込まれた事もあって奮闘するという、共感しやすい展開でした。それと比べると、『アランシアの暗殺者』の主人公の行動にはついていけないよ。*12

この物語の主人公の人物像

 しかし、改めて読み返してみると、主人公の人物像は、この物語の中で一貫していることに気がつきました。

 蛇島の賭けに乗ったのは、この主人公がサミュエル・クロウは信頼できる人物だと確信したから。それくらい人を見る目に自信があるから。そしてその判断が正しかったことは、その後のクロウ船長の行動によって証明されました。

 金貨20枚という安すぎると思える賭けに乗ったのも、蛇島で1ヶ月生き延びるということは、この主人公にとってはそのくらい簡単なことだから。それくらい自分の腕に自信があるから。

 この物語の主人公は、技術にも、体力にも、運にも絶大な自信があり、しかもその通りの実力を備えているという、稀代の英雄タイプの人物なのです。ファイティング・ファンタジーの主人公は「無色透明のきみ」だと思い込んでいたのがまちがい。それは作品による。「背景」だけでもこれだけ強烈な個性が示されていたのですから、このゲームブックの主人公はこういう人物像なのだと、できれば「背景」を読んだ時点で、遅くともクロウ船長と再会したくらい気がつくべきだった。それなら、もっとこのゲームブックを楽しめたかもしれません。

 アズール卿のいる場所へ行こうとしていたのも、アズール卿に会っていかに自分が傑出した人物であるかを示せば何とかなると思ったのでしょう。アズール卿がそのような人物であると見抜いていたのでしょう。あるいは、本気で暗殺できると思っていたのかもしれません*13。そして実際、アズール卿は(サソリの首飾りの数によっては)主人公の不敵な態度と実力に興味を示したわけです。

 〈死の罠の地下迷宮〉に挑むという結末も、この主人公なら、もちろん生き残ることができると思っているのでしょう。なので、この結末で問題ない。

 というわけで、いつもの推奨能力値です。ゲーム的には、この記事の最初にも書いたとおり、それほど無茶な難度ではありません。事実上最強の敵はガランカ・ヴァッセルの技術点10なので、技術点9でギリギリ、技術点10ならやや余裕があるというバランスです*14。体力点と運点はルール通りで良いでしょう。できれば技術点9で、ちょっと運が悪いと抜けられない蛇島の厳しさを実感していただきたい。

 ですが、この物語の主人公らしさということで考えたら、技術点12・体力点24・運点12の最強冒険者で挑むのもいいかもしれません。これで、襲いかかってくる暗殺者など簡単に蹴散らして、アズール卿にサソリの首飾りをじゃらじゃら見せつけて、ついでに〈迷宮探検競技〉の勝者になる。このくらいやった方が、この物語の主人公らしいと言えます。この能力値でも、すべての暗殺者と遭遇できるかはプレイヤー次第になりますので、ゲーム的に簡単すぎるということはないと思いますよ。

プレイ記録(旧Twitter

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*1:あるいは、12でも無理。

*2:かつては「腐れ」と翻訳されていました。『モンスター辞典』の巻末の「モンスター・英語索引」では「Decayer→腐れ」、『タイタンふたたび』では“腐れ(ディケイヤー)”(p. 108)と表記されています。

*3:それなら攻撃力-2と書けばいいのに。

*4:サイコロ2個振って技術点以下が出れば成功という判定のこと。※独自用語

*5:ポート・ブラックサンドに行くことができるということも知らなかったのである程度仕方ないと思いつつも、それでも。

*6:全作品を読んでいるわけではないので、あるのかもしれません。

*7:132番だけポケットにしまうという記述がない。

*8:「ポケットに入れる」というような記述のあるアイテムは以下の通り。

  • 174番:サソリの首飾り
  • 267番:ルビー
  • 122番:鉄の鍵
  • 377番:小ぶりなダイヤモンド2粒
  • 377番:銀の箱
  • 231番:銀貨1枚
  • 231番:錆びたナイフ
  • 61番:サソリの首飾り
  • 190番:サソリの首飾り
  • 283番:金貨3枚
  • 321番:サソリの首飾り
  • 387番:サソリの首飾り
  • 232番:金貨10枚
  • 151番:クローバーのお守り
  • 254番:サソリの首飾り
  • 173番:金貨6枚
  • 22番:サソリの首飾り
  • 103番:サソリの首飾り
  • 109番:サソリの首飾り
  • 33番:サソリの首飾り
  • 326番:サソリの首飾り
  • 132番:サソリの首飾り
  • 106番:サソリの首飾り

*9:241番と94番では「銀髮の女」と書かれているが、83番では「白髪の女」になっている。

*10:ブラックサンドに行けるとは知らなかったし、〈背たかトムの宿〉以降はリンゴルート、町へ直行ルートを通って、ボッグの農場は行ったけど〈ラッパを鳴らせ〉で、フローレンス・フィギンズのお言葉に甘えて〈オットーの基地〉へ直行。

*11:ファングの“贅沢な宿”に泊まると、一晩で体力点も運点も全回復して、保存食と魔法のポーションも調達できるのでしょうか? そうだとしても、技術点9では死亡確定なのは変わらないけど。

*12:『アランシアの暗殺者』は『危難の港』の続編だから主人公は同一人物ですって? わたしはそんな話は知りません。

*13:それが309番の選択肢に現れています。

*14:ルール通り、原技術点を超える技術点アップはできないという想定。