『雪の魔女の洞窟』の謎?

 今回も、『雪の魔女の洞窟』の疑問・感想などを書いていきます。かなりネタバレなので未読の方は注意して下さい。

 また、『トカゲ王の島』に引き続きリンク集も作りました。ぜひ、他の方の感想や冒険記録なども読んでみてください。

『雪の魔女の洞窟』の謎?

凍傷を回復する問題点

 24番。ゲーム的にはちょっと問題のある処理。

このポーションは凍傷も治してくれる。凍傷によって失った技術点があるなら、それを回復すること。

 しかし、凍傷を負う387番では凍傷で技術点を失ったということを記録するようには書かれていないので、この指示を実行するには凍傷で技術点が何点減ったかを記憶していないといけないことになります。回復する予定があるなら、減らす時に言ってほしかったなあ。*1

 そして、ここは凍傷によるマイナス回復に限るのではなく、単に「技術点を原点まで回復する」でいいと思うんですよね。そのための、技術点は原点を超えられないというルールじゃないの? つまり、上限を設けることで、技術点プラスを乱発してもゲームバランスが保てるので、いちいち増減の理由を記録する必要がなくなる。凍傷だけでなく雪崩による技術点マイナスも回復できてしまいますが(257番)、まあそれくらいいいじゃん。

 特定の原因の技術点マイナスを回復させるという処理をしたいなら、やはり技術点の増減の要因はすべて記録することにして、プラスの場合は原点を越えるプラスも許さないとフェアじゃないと思うなあ。

戦槌を持っていない方がいい?

 59番。必ず通るクリスタル・ウォリアー(結晶戦士)との戦闘の場面。

 刃のある武器でクリスタル・ウォリアーを傷つけることはできない――きみの剣は役に立たないのだ! 戦槌を持っているなら、クリスタル・ウォリアーを木っ端みじんに打ち砕くことができるかもしれない。

   クリスタル・ウォリアー 技術点 一一 体力点 一三

 戦槌を持っていないならへ。戦闘に勝ったなら一四八へ。

 戦槌を持っているとクリスタル・ウォリアーと戦闘することができますが、クリスタル・ウォリアーは技術点11の強敵です。戦槌がない場合は2番へ行くように指示があり、魔神を解放していない場合はそのままデッドエンドとなりますが、解放していれば魔神の力で無条件でクリスタル・ウォリアーに勝つことができます。技術点11相手に戦闘で勝つより、明らかにこちらの方が楽。

 しかし、59番の指示を文字通りに読むと、戦槌を持っていない場合しか2番へは行けません。戦槌を入手する255番では「きみは戦槌と槍を拾って小屋を出る」と書かれていて、戦槌と槍を必ずセットで拾うように書かれています。槍はほしいアイテムなので拾うことになりますが、一緒に付いてくる戦槌が邪魔。槍だけ入手したいのに、それができるようには書かれていません。ここまでに戦槌を捨てられるような指示もないですし……。

 自分としては、ここは59番で戦槌を持っていても2番へ行くことは可能という解釈でいいと思います。

赤速? レッドスウィフト?

 『雪の魔女の洞窟』で印象深いドワーフとエルフとの旅路の描写。旅の仲間の名前は、社会思想社版ではスタブ赤速でしたが、コレクション版ではスタッブレッドスウィフトになりました*2。特に赤速の名前の変わり様。

 確かに社会思想社版では、エルフの名前として漢字が使われているのは違和感ありまくりでした。しかし、だからこそ忘れがたい名前でしたし、物語の展開と相まって愛着あるものになっていたので、ちょっとショック。

 社会思想社版の翻訳は浅羽莢子ファイファング・ファンタジーでは、他に『火吹山の魔法使い』と『バルサスの要塞』などや『モンスター事典』、創土社版『ソーサリー』四部作を翻訳されました。英語で意味が通じるものは何でも日本語に訳すスタイルでした。ファンタジーの用語に慣れてくると違和感はありますが、納得はできるし、カタカナ語にはないおどろおどろしさがあって自分は好きでした。

 あと、〈水晶の洞窟〉の中のこれまでの道中でもエルフとドワーフは登場するのだけど(395番・311番)、この2人がレッドスウィフトとスタッブというわけじゃないんですよね? 395番のエルフは倒せてしまうし……。

雪の魔女の名前はシャリーラ?

 名前と言えば、雪の魔女の名前は当然のように「シャリーラ」だと思っていたのですが、『雪の魔女の洞窟』ではその名前は出てきませんね……。グループSNEの新刊案内のページでは名前が出てきますが……。ということはシャリーラの名前が初めて出てきたのは『タイタン』ですかね? “癒し手”の名前(ペン・ティ・コーラ)は出てこないとは思っていたけど、雪の魔女の名前が出てこないのは意外でした。

金貨を600枚全部入手したい!

 171番。冒険者としては聞き捨てならない記載。

金貨は全部で六百枚だった。しかしそれを五十枚詰め込むごとに、背負い袋に入っている品物を一個置いていかなくてはならない。

 『運命の森』の記事でも書いたとおり冒険者にとって金貨はスコアです。入手できる金貨をみすみす逃すなんてあり得ない! なんとしても600枚全部入手しましょう。

 この時点で金貨との交換に使えるアイテムはどれか表を作ってみました。

金貨50枚との交換に使えるアイテム候補リスト
アイテム名 使 備考
戦槌 255 59 クリスタル・ウォリアー戦で使用するが、失ってはいないと思う
255 77 × イエティに投げつけて、回収していないと思う
マント 264 198 大聖堂で使用するが、失ってはいないと思う
ゴブリンの品を入手する場合は入手できない
塩漬けの魚数匹 347 - ゴブリンの品
ロウソク 347 - ゴブリンの品
短剣2本*3 347 49 ゴブリンの品
鉄格子で使うが、そこに行かない方が有利
【疾風の剣】 237 - × 入手場所に来ると必須アイテムを逃す
【鉄の鍵】 247 323 × 入手場所に来ると必須アイテムを逃す
銀のフルート 74 370
125
19
使用箇所が2つあるが、失ってはいないと思う
後半にも使用箇所があるが、多くの場合、他のアイテムで代用できる*4
木の棒 345 210 × 必須アイテム。さすがに回収できないでしょう?
【勇気のお守り】 327 365 ないとこの後技術点-2を食らう
投石紐と鉄の玉3個 376 112
339
フロストジャイアント戦で使うが、失ってはいない
この後も使用箇所がある。必須ではないがあった方がいい
【金の指輪】 21 223 ホワイト・ドラゴン戦で使うが、失ってはいないと思う
【銅の指輪】 130 223 ホワイト・ドラゴン戦で使うが、失ってはいないと思う
ミノタウロスの角の粉末 200 150 ゾンピの品(5品中3品のみ入手可)
使用しても「少量の粉末を振りかけた」だから失ってはいないと思う
ニンニクいくつか 200 297 ゾンピの品(5品中3品のみ入手可)
ヴァンパイア戦で使うが、失ってはいない*5
歯が詰まった箱 200 - × ゾンピの品(5品中3品のみ入手可)
トカゲの尻尾のピクルス 200 - × ゾンピの品(5品中3品のみ入手可)
ドラゴンの卵4個 200 91 ゾンピの品(5品中3品のみ入手可)
後半に使用箇所がある。必須ではないが無いとかなりきつい

 まず、表の「換」の列で◎を付けた品は、ここまで最善ルートを通って入手できて、今後使用しないアイテムです。ここまで使っていない「戦槌*6」「【金の指輪】」「【銅の指輪】」と、使用したが失っていない「マント」「ミノタウロスの角の粉末」「ニンニク」は金貨と交換します。すると、交換できるアイテムは6つ。よって金貨は300枚しか入手できません。うーむ……。

 次に「○」の品。マウンテンエルフの次の分岐でゴブリンに勝つと(241番)、「塩漬けの魚数匹*7」「ロウソク」「短剣2本」を入手できます。ただし、マウンテンエルフからマントをもらってしまうとなぜかゴブリンと遭遇しないので(136番)、ゴブリンと戦う場合はマントは入手できません*8。よって、交換に使えるアイテム数は3-1で2つ増えました。これで金貨+100枚。あと200枚……。

 あとは適当なアイテムはないなあ……。この際、「△」のこのあと使用する品「銀のフルート」「【勇気のお守り】」「投石紐と鉄の玉」「ドラゴンの卵」も交換してしまおう。これでちょうど金貨+200枚。

 というわけで、表の「換」の列で「◎」「○」「△」がついているアイテムをすべて交換することで(マントは除く)金貨600枚全部入手できます! やったね! しかし、銀のフルートと投石紐はまだしもですが、【勇気のお守り】とドラゴンの卵を失うのはこの先が思いやられます……。金貨600枚への道は険しい……。

 後半に金貨400枚以上持っているかどうかで分岐するイベントがありますが(124番)、ここで金貨400枚以上持っている方へ行くのって、相当難度が高いよ!

剣が壊れる場面?

 155番。「もしきみの剣が壊れてしまっているなら、ゴブリンの剣を持っていくことができる。その場合は技術点を一点加えること」と書かれていますが、剣が壊れる場面なんてあったかなあ?

再び、文中指示による食事で体力点は回復するか?問題

 本作では、文中の指示による食事が2回あります。この食事で体力点は回復するか?

 まず、281番にはこのように書かれています。

しかしこれまでの歩き疲れと、かまくらを作るのに苦労したせいで、体力を維持するには保存食を二食分食べなくてはならない(食べても体力点は回復しない)。

 次に、285番。

座って休息をとることにする。保存食がまだ三食分残っているなら、一食を自分が食べ、レッドスウィフトとスタッブにも一食ずつわたすこと。

 以前、『魂を盗むもの』をプレイした時は、文中の指示による食事でも体力点は回復すると解釈しました。『雪の魔女の洞窟』では、281番は「食べても体力点は回復しない」とはっきり書かれているからもちろん回復しないとして、285番は回復するかどうか書かれていません。これは自分なら回復すると解釈したい。

 これに習うと、『魂を盗むもの』でも、通常の旅路での食事は体力点が回復し、重労働などのペナルティとして保存食を消費する場合は体力点は回復しない、と解釈するべきとも考えられます。まあ、自分ならそんな面倒な判断はせず、明示の指示はない限り体力点は回復すると解釈しますね。

 そして、285番のもう一つの問題は、この時点で保存食の残りが1食や2食だった場合はどうなるか?ということ。

「君たちに分ける食糧は残ってないよ。あしからず」

とか、

「私は1食分食べるけど、あと1食分しか残ってないので、君たちはこれを2人で分け合って食べてくれたまえ」

ということになるんですかね?(^_^;)*9

〈金属板〉ゲームを一発で突破する方法?

 〈雪の魔女〉と行なう〈金属板〉ゲーム(23番)。じゃんけんのような三すくみゲームですが、みなさんは何回で突破できましたか? 自分は一発で突破しました!(エッヘン!)

 なぜなら、これまでのプレイでページをめくっている最中に「〈雪の魔女〉はしばらくきみを見つめたあと、「…」と宣言する。」というデッドエンド項目が目に入っていたから(^_^;) ゲームブックにおいては、これは正当な情報です!

 しかし、あとで調べてみたら、〈金属板〉ゲームは2戦目がある可能性があって、そちらでは魔女の手は変わるんですね。そちらの項目が目に入っていたら逆に負けてたな……。

分岐を使ってヒントを出す(この項、特にネタバレ)

 38番。この物語の最大の見せ場である《死の呪文》の分岐の立て方に感心した。

【健康のポーション】を飲んでいるなら三〇へ。飲んでいないなら三六七へ。

となっていて、367番へ行くとデッドエンドとなります。

 こういう分岐の立て方をすると【健康のポーション】が重要アイテムであることがわかってしまいます。これは嫌われる場合の方が多い気がしますが、この場合はこれがかえって良いヒントになっていると思います。

 というのは、普通に考えると【健康のポーション】はかなり入手が難しいアイテムだからです。コク川を渡りたいと思っているところで、大金を持っているのに渡し守に金を払わず歩き続けて(104番)、小舟を発見したのにそれに乗らず(131番)、さらにレッドスウィフトの警告を無視してポーションを飲まないといけません(289番)。特に、最後の選択は自分には相当抵抗がある。エルフの警告を無視するとろくな事がないというのは、ファンタジー世界の冒険者の常識ですから。*10

 38番の分岐が露骨なヒントになっているので、ここは1回デッドエンドになれば「あれがそうだったのか」と気がつけることでしょう。38番の分岐が、30番へ行くには何が必要か簡単にはわからない構造だったら、理不尽に難度が上がっていたと思います。

ゲイリー・ウォードとエドワード・クロスビーの挿絵

 『雪の魔女の洞窟』と言えば、挿絵が印象に残っているという方も多いでしょう。版画のような太い線が、雪の氷の世界の雰囲気のよくあっていると思う。インパクトでは297番の〈雪の魔女〉のイラストが一番だと思いますが、自分は「背景」のパイプをくわえたビッグ・ジムの姿が好きだな。

 この絵を描いたのはGary WardとEdward Crosby。紹介するツイートがあったので引用しておきます。

バードマンが強すぎる問題

 『雪の魔女の洞窟』はファイティング・ファンタジーの9作目で、初期と中期の橋渡しのような位置づけの作品です。前半は、洞窟などでの冒険を雪の氷の世界を舞台に行なうという“初期の文法”で書かれています。しかし、後半は一転して、これまで作品で出てきた地名などが多数登場する西アランシアをめぐる旅という、冒険の舞台としての世界のつながりを意識させるキャンペーンの手法が使われます。

 ファイティング・ファンタジーの転換点として意義深い作品で、自分も好きな作品でした。今回改めて読んでみて、強敵との戦闘はほとんどは避けられるし、最後がヒントのある2択で締められているし、これまでのファイティング・ファンタジーではなかった仲間との旅との描写や、最後の目的が怪物を倒すことや富や名声を得ることではないことなどが印象深く、その思いを再確認しました。

 しかし、昔はおそらくルール通りに遊んでいなかったと思うので、今回ルール通りにプレイしてみたところ、重大な問題がある作品であることに気がつきました。似たような問題は『死の罠の地下迷宮』や『トカゲ王の島』にもありますが、それらと比べても『雪の魔女の洞窟』がひどい理由があります。

 『雪の魔女の洞窟』の最大の問題は、バードマンが強すぎることです(348番)*11。必ず通る戦闘で、技術点12・体力点8というとんでもない強敵。これはどう考えてもおかしい。

 同じ強敵でも、イエティ(190番)が強敵なのはいいんですよ。物語的にそれだけ強敵である理由があるから。序盤だからといって、前哨砦を全滅させた化け物が技術点8とかだったら白けてしまいます。

 他にも、マンモス(310番)、フロスト・ジャイアント(288番)、ホワイト・ドラゴン(150番)、ナイト・ストーカー(37番)、バンシー(154番)など技術点10以上の強敵は続々と登場しますが、これらはいいんですよ。選択次第で戦闘を回避できるから。ノーヒントの選択肢で強敵と当たるのはどうなんだ?という気もしますが、繰り返しのプレイを前提としているなら、ゲームとしては成立しています。

 他の作品でも、『盗賊都市』のムーン・ドッグ『死の罠の地下迷宮』のマンティコア、『トカゲ王の島』のスティラコサウルスなど、救済措置なしの必須戦闘で技術点11以上という強敵はイアン・リビングストンの作品にはたびたび登場します。これらもゲームバランスを考えれば問題あるのですが*12物語としては納得できます。『盗賊都市』のオープニングで恐怖の対象として格調高く語られるムーン・ドッグ、これまで生還者が一人もいない迷宮探検競技の最後の強敵であるマンティコア、火山島を支配するトカゲ王の軍の主力であるスティラコサウルスは、やはりこれくらい強くあるべきです。

 しかし、『雪の魔女の洞窟』のバードマンに関しては、この点でも納得できません。いくらアランシアが危険な世界だといっても、ただ西アランシアの異教平原を旅しているだけですよ? ストーンブリッジへの道程でたまたま襲ってきただけの怪物が、なんでそんな強敵なの? 納得できる理由が一つもない。ゲームとしても物語としても怪物の格としても、ここでバードマンの技術点を12にする必然性がない。

 これ、バードマンの技術点は10の間違いだったんじゃないかなあ……? 『モンスター事典』では鳥男は技術点10となっていますし……(p. 330)。

 というわけで、いつもの推奨能力値です。バードマンは技術点10の間違いだったという前提で、以下の通りとします。

  • 技術点:10
  • 体力点:24
  • 運点:12

 バードマン戦さえなければ、他には技術点11以上の敵との必須戦闘はないので、技術点は10にしました。『トカゲ王の島』と同じく分岐が少ない長い冒険になるので、“消耗品”である体力点と運点は最大にして、リソース管理をする感じの方が面白いと思います。最善ルートを通れば体力点や運点の回復ポイントも結構あるので何とかなります。クライマックスの75番で、“癒し手”の仮面による体力点-1dを食らうので、これに耐えられるかどうかが最後の試練という展開になります。

 バードマンの技術点を12とするなら、技術点は11以上ないと無理でしょう。技術点11あると、他の強敵との戦闘を必ずしも避ける必要がなくなって最善ルートを通る意義が薄くなるので、ゲームとしての興は削がれます。返す返すも、バードマン強すぎ問題が惜しい作品です。

リンク集

 その記事に日付が書かれている場合は、タイトルの末尾にその日付を記載しました。連載の場合は基本的に最初の記事の日付を記載しました。

リプレイ

紹介・攻略・感想など

プレイ記録(旧Twitter

関連する記事

y-koutarou.hatenablog.com

*1:そもそも、利き腕に凍傷を負ったこともフラグなのに(391番)、それを記録するようには書かれていないし……。

*2:なお、秦皮もアッシュになりました。

*3:366番ではなぜか1本しか入手できない。

*4:バーバリアンとの戦闘に勝てば代替アイテムを入手できるので(92番)、役に立つのは【エルフのブーツ】を入手している場合だけ(確率1/9)(259番)。

*5:デッドエンドになる134番で「ニンニクを捨て」と書いてあるので、ここに来ない限り捨てていないと解釈。

*6:先に書いたとおり、クリスタル・ウォリアー戦では持っていなくても使わなくて良いという解釈を採用します。

*7:なお、『運命の森』に書いてあった、同じ品が複数あっても1つの品物とみなすという解釈を採用します。

*8:マントがない事によって大聖堂を安全に通過できる可能性は少し低くなります(198番)。

*9:まあ、「保存食がまだ三食分残っているなら」なので、3食分未満の場合は、これ以下の記述はすべて無効。つまり、そもそも食事をしないという解釈が妥当かな。

*10:もっともこのエルフ、オーブのところでも間違ったことを言っていますが……(61番)。

*11:社会思想社版では鳥男。

*12:少なくとも、これらの敵が出現する時点で、「たった一つの真実の道」の記述は嘘になってしまいます。

『雪の魔女の洞窟』の手描き地図とテキストマップ

 FFCの第4弾、『ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」』がすでに発売されているところです。今回も外出先でスマホでメモを取りながら少しずつプレイしています。表題作の『サラモニスの秘密』から始めていますが、任務達成まではまだ目処が立たない感じ。

 そんな中ですが、第3弾の『雪の魔女の洞窟』のテキストマップが完成しましたのでそのテキストマップと、大昔に書いた手描きマップをアップします。これでやっと第3弾のテキストマップがすべて完成しました。

手描き地図

 『雪の魔女の洞窟』は前半と後半で舞台が大きく変わります。前半は氷指山脈と水晶の洞窟という雪と氷の世界が舞台のダンジョン物ですが、後半はうって変わってこれまでのFFシリーズで出てきた地名や人物名が多数登場する、西アランシアの観光名所(?)を巡る旅となります。

 手描き地図の構成は、1枚目の左側がスタートで、オープニングの氷指山脈。2枚目が前半戦の中心舞台である水晶の洞窟。1枚目に戻って右側が後半のオープンフィールドとなっています。

氷指山脈、西アランシアの旅

『雪の魔女の洞窟』の地図を手描きで書いたもの:氷指山脈、西アランシアの旅

『雪の魔女の洞窟』お手製手書きマップ:氷指山脈、西アランシアの旅

水晶の洞窟

『雪の魔女の』の地図を手書きで書いたもの:水晶の洞窟

『雪の魔女の洞窟』お手製手書きマップ:水晶の洞窟

テキストマップ

 テキストマップの方は、前半と後半の2つに分けました。水晶の洞窟は構造がわかるように書かれているので(一部よくわからない箇所もありますが、後述します)物理空間マップ。後半はオープンフィールドなのでイベントマップになっています。後半は方角としては、最初は南へ、途中からは西へ旅していますが、テキストマップ上では表現できませんでした。

後半:西アランシアの旅

                  ┏━━━━━━━━━┓                   
                  ┃217 〈火吹山〉山頂┃ 【〈火吹山〉】           
                  ┗━━━━━━━━━┛                   
                       ↑                        
                   ┏━━━┷━━━┓                    
                   ┃19〈火吹山〉へ┃                    
                   ┗━━━━━━━┛                    
                       ↑                        
                    ┏━━┷━━━┓                    
                    ┃154 バンシー┃                    
                    ┗━━━━━━┛                    
                       ↑                        
                    ┏━━┷━━━┓                    
                    ┃258 丸太の橋┃                    
                    ┗━━━━━━┛                    
                       ↑                        
                    ┏━━┷━━━┓                    
                    ┃75“癒し手”┃                    
                    ┗━━━━━━┛                    
                       ↑                        
                   ┏━━━┷━━━┓                    
                   ┃319 彫刻の洞穴┃                    
                   ┗━━━━━━━┛                    
                       ↑                        
                   ┏━━━┷━━━┓                    
                   ┃92バーバリアン┃                    
                   ┗━━━━━━━┛                    
                       ↑←─────┐                 
              ┏━━━┓   ┏┷━┓ ┏━━┷━━┓              
              ┃85死鷹┠──→┃252 ┠→┃398 縄梯子┃              
              ┗━━━┛   ┗━━┛ ┗━━━━━┛              
                ↑      ↑                        
             ┏━━┷━━┓   │       ┏━━━━━━━━┓       
             ┃115 エルフ┃   └───────┨377 ガラガラヘビ┃       
             ┗━━━━━┛           ┗━━━━━━━━┛       
                ↑←────────────┐     ↑←─────┐    
               ┏┷━┓ ┏━━━━━┓ ┏━┷━┓ ┏━┷━━┓ ┏━┷━━┓ 
               ┃205 ┠→┃268 飛び石┠→┃50焚火┠→┃231・385┠→┃170 洞穴┃ 
               ┗━━┛ ┗━━━━━┛ ┗━━━┛ ┗━━━━┛ ┗━━━━┛ 
        ┌──────→↑            【月岩山地】 ↑           
   ┏━━━━┷━━━━┓ ┏┷━┓                 │           
   ┃341 揺り椅子の老人┃←┨119 ┃                 │           
   ┗━━━━━━━━━┛ ┗━━┛                 │           
        ┌──────→↑            【赤水川】  │           
  ┏━━━━━┷━━━━┓ ┏┷┓ ┏━━━━━━━┓        │           
  ┃312・394切り株の空洞┃←┨46┃←┨38《死の呪文》┠────────┘           
  ┗━━━━━━━━━━┛ ┗━┛ ┗━━━━━━━┛                    
                       ↑                        
                  ┏━━━━┷━━━━┓                   
                  ┃13丘トロールの部隊┃ 【ストーンブリッジ】        
                  ┗━━━━━━━━━┛                   
                       ↑                        
                     ┏━┷━━┓                     
                     ┃110 野営┃                     
                     ┗━━━━┛                     
                       ↑                        
                      ┏┷━┓                      
                      ┃18池┃                      
                      ┗━━┛                      
                       ↑                        
                   ┏━━━┷━━━┓                    
                   ┃348 バードマン┃   【異教平原】           
                   ┗━━━━━━━┛                    
                       ↑                        
        ┏━━━━━━━━┓ ┏━━━┷━━━┓                    
        ┃315 ケンタウロス┠→┃278 老人の情報┃←───┐               
        ┗━━━━━━━━┛ ┗━━━━━━━┛    │               
             ↑     ┏━━━━━━━━┓ ┏━┷━━┓            
             └─────┃104 コク川の渡し┠→┃131 小舟┃ 【コク川】      
                   ┗━━━━━━━━┛ ┗━━━━┛            
                       ↑                        
                       ★B                        

前半:氷指山脈~水晶の洞窟

                                          ┏━┓298  
                                          ┃298┃盾  
                              365ブレインスレイヤー  ┃ ┃   
                         20ケイブマン┏━━━┓      │ │   
                          ─━━━─┨   ┠─━━┳──┛ ┃285  
                            20  □ 365 □  176□   285┃休息 
                          ─┓ ┏─┨   ┠─━━┻──┓ ┃   
                           │ │ ┗━━━┛176     │ │   
                           ┃ ┃      ドアの短剣 ┣□┫   
                           ┃259┃259くじ         ┃135┃135  
                           ┃ ┃            ┃ ┃水滴 
                    ┌──────┘ └──────┐ 339   │ │   
                    │      166        │ 雪の魔女/  \   
                    │ ┌───────────┐ │    /    \  
                    │ │┏━━┓ 388白黒の足跡│ │   /      \ 
                    │ └┛48 ┗━━━─━━━┘ │  │   339   │
                    │    61  171   388 207│  │   262   │
                    └──────┓ ┏─━━━──┘ 23 \   23   / 
                      48オーブ │ │171仲間     金属板\    /  
                         ┏━┷∞┷━┓          \  /   
                         ┃     ┃235         │ │   
                  323鉄のドア  ┃  235  ┃センティネル    /  \   
             288フロストジャイアント ┃  297  ┃         / 3 90 \  
           ┌──────━━┳──┐ ┃     ┃297       /   ↓  \ 
           │266      323■ 165│ ┃  150  ┃ヴァンパイア    ●Bへ    
           │…┌────━━┻┐ │ ┗━┯□┯━┛                
311穴の縁のドワーフ ┏┛ ┗┓┏━━━┓ │ │   │ │150白いネズミ            
━━━───────┛   ┗┛   ┗─┘ └━━─┘ │                  
■311   137     125 72   288    338 59  148│59クリスタル・ウォリアー      
━━━─┐ ┌───┓   ┏┓   ┏─┐ ┌━━─┐ │                  
    │ │   ┗┓ ┏┛┗━━━┛ │ │   │368│                  
    │ │    │…└────━━┳┘ │  ┏┷□┷┓                 
    │ │    │       49: 120│  ┃   ┃                 
    │ │    └──────━━┻──┘  ┃ 83 ┃83ゾンビ             
  ┏━┛ ┗━┓125プリズムの男  49鉄格子    ┃   ┃                 
  ┃     ┃                 ┗━━━┛                 
  ┃     ┗────────────────────┐                  
  ┃  ☆ 198                     │                  
  ┃     ┏──────────────────┐ │                  
  ┃  111  ┃111・198聖堂            │ │                  
  ┗━┓ ┏━┛                  │ │                  
    │ │                95台所 │ │                  
┏━━━┫ │               ┏━━━┓│ │ 【水晶の洞窟】          
┃   ┃ │   /─\   321落とし穴 ┃   ┃│ │                  
┃ 303  221└──/   \─━━━━┓  ┃ 95 ┃│ │                  
┃   ┃      88     321■┃  ┃   ┃│ │                  
┗━━━┻────\   /─━━┓ ┗━─┻━ ━┻┘ │                  
303吟遊詩人     \─/ 241足音┃241 136  106    │                  
         88二つの池   ┃ ┏━────────┘                  
                 │ │       ┏━━━┓                
                 ┃ ┗───────┛   ┃                
                 ┃395   363 56    215 ┃215鉢              
                 ┗━━──┐ ┌──┓   ┃                
             395マウンテンエルフ│ │  ┗━━━┛                
                      /  \                       
                       ↑                        
                     ┏━┷━┓                      
                     ┃25雪崩┃                      
                     ┗━━━┛                      
                       ↑                        
                     ┏━┷━┓                      
                     ┃67遺言┃                      
                     ┗━━━┛                      
                       ↑                        
                    ┏━━┷━━━┓                    
                    ┃190 イエティ┃                    
                    ┗━━━━━━┛                    
                       ↑←────┐                  
                      ┏┷━┓ ┏━┷━┓                
                      ┃169 ┠→┃36小屋┃                
                      ┗━━┛ ┗━━━┛                
                       ↑                        
                     ┏━┷━━┓                     
                     ┃337 吹雪┃                     
                     ┗━━━━┛                     
                       ↑                        
                    ┏━━┷━━┓                     
                    ┃1 クレパス┃ 【氷指山脈】              
                    ┗━━━━━┛                     
丁字路? Y字路?

 水晶の洞窟のマップで1つ問題が。マウンテンエルフに遭遇したあとの分かれ道(136番・241番)がどうなっているのかよくわかりません。

 241番には「トンネルは二手に分かれている。《中略》左の道を走っていくなら三二一へ。右の道を行って《中略》なら一四五へ。」と書かれているので、丁字路になっていて、ここへは丁字路の足から入ってきたように思えます。

 しかし、左に進んだあとそのまま進むか引き返すか問われる43番では、「このままトンネルを歩き続けるなら八八へ。分かれ道まで戻って左に折れ、もう一方の道をたどるなら二九へ。」と*1、最初に進んできた方から見て右の通路が丁字路の足であるかのように書かれています。一見して矛盾があるように思えます。

 手描きマップを描いた時は後者(43番)の記述を重視して描いていますが、241番の“左へ行くか? 右へ行くか?”という記述を「直進と右折」と解釈するのはやっぱり無理があるよなー。

 Twitterで海外の方で『The Caverns of the Snow Witch』のマップを描いている方を見つけました。それによると、Y字路のような描き方になっています。なるほど、これなら確かに矛盾はない。

 テキストマップではY字路は表現しづらいので、直進と右折の丁字路のすぐ先で、直進部分が左折しているという形にしてみました。

 それと、台所の前(106番)から大聖堂(198番)への通路もどうなっているのかわかりません。大聖堂へつながる通路の位置はこれで矛盾ないのですが、106番から198番はこんなに大回りになっているという記述はなく、むしろもっと近いようにも思えます。

 手描きマップでは、先の丁字路の左側を直進と解釈した影響でテキストマップより90度右に回転した形になっているので、台所と大聖堂の距離が近くなっています。この位置関係の方が正しい気もするのですが……。

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*1:366番・29番も同じような表現。

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男子準決勝 SC軽井沢クラブ-LOCOSOLARE

3エンド:目視判定

 男子準決勝での珍しい一幕を紹介。

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 3エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ リード2投目

3E 先攻(赤)リード2投目

 3エンド。先攻(赤)SC軽井沢クラブ、リード2投目を終えてこの状況。いま投げた赤がハウスに入っているかどうかが微妙。入っていればテイクできますが、入っていなければセンターラインからずらすこともできません。ロコ・ソラーレのスキップ前田拓がSC軽井沢クラブのスキップ栁澤に確認を求め、2人で上から見るが……。

「ギリだねー」
「これは測れないよねー」

 ルール上は、フリーガードゾーンルール適用になるかどうかは、バイターメジャーでハウスにかかっているか測定することができます。しかし、この場合はティー(ハウスの中心点)とその石との間に別の石があるためメジャーが使えません。結局、審判が目視で測定するということになり、審判がシートに入って、上から、左右から見た結果……。

「入っていないです」

谷田「カーリングは審判が何かのジャッジを下すことってのはほぼないので、ちょっとああいうシーンは緊張感がありますね」
高木アナ「いま会場も少しざわつきましたね」

男子準決勝 SC軽井沢クラブ-LOCOSOLARE
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   1 1 0 0 2 0 0 3 1 X 8
LOCOSOLARE * 0 0 2 0 0 2 1 0 0 X 5

女子準決勝 SC軽井沢クラブ-中部電力

7エンド:最後にくるっと回って

 女子準決勝は前編でも紹介した1次予選の組み合わせの再戦となりました。この試合が本大会一番の名勝負だったと思います。

SC軽井沢クラブ-中部電力 7エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

7E 後攻(赤)フォース1投目

 6エンドを終わって3-3という、1次リーグほどではないがロースコアの戦い。

 7エンド、後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース上野美優1投目。鮮やかなトリプルテイクを決めます。特に後方の黄も動いたのが良かった。赤がナンバー3まで取ってSC軽井沢クラブは大量点のチャンス。中部電力大ピンチ。

SC軽井沢クラブ-中部電力 7エンド 先攻(黄)中部電力 フォース2投目

7E 先攻(黄)フォース2投目

 ……かに見えましたが、しかし先攻(黄)中部電力フォース北澤育恵2投目。渾身のハウス内カマー。14.9秒でT奥だがギリギリで止まってナンバー1を取ります。最後にくるっと回ってさらに内側に隠れました。これが効いた。

SC軽井沢クラブ-中部電力 7エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

7E 後攻(赤)フォース2投目

 SC軽井沢クラブ(赤)のラストストーンは、その黄の前へのドローで1点、少し押せれば2点というショット。しかし、こちらは14.7秒で曲がりきらずにスルーしてしまいました。1点スチール。

 SC軽井沢クラブにビッグショットが出て大量点かと思ったところから、北澤のドロー一発で大逆転。

 同点の7エンドをスチールして、4-3と中部電力が一歩リードしました。

8エンド:またも北澤

SC軽井沢クラブ-中部電力 8エンド 後攻(赤)中部電力 フォース1投目

8E 後攻(赤)フォース1投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース上野美1投目。絶妙なウェイトコントロールショットを見せます。解説は市川美余

市川「いやー、でもこれいいですね。1・2で、ダブルするにはかなり角度が難しくなりましたね」

 ナンバー1の黄を押し下げつつ、シューターの赤はナンバー2で残る。しかも黄の裏に入ったのでダブルテイクもできない。SC軽井沢クラブが2点チャンスを作りました。

SC軽井沢クラブ-中部電力 8エンド 先攻(黄)中部電力 フォース2投目

8E 先攻(黄)フォース2投目

 しかし、後攻(黄)中部電力フォース北澤2投目。赤の前にフリーズ。手前で止まってしまうとテイクされて3失点になる可能性もありましたが、しっかり1の黄にコツンと当てて止める。これなら1点取らせの形。さすが北澤。

 試合は同点で9エンドへ。

9エンド:どう見ても2点形?

SC軽井沢クラブ-中部電力 9エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目 投球前

9E 先攻(赤)フォース2投目 投球前

 同点の9エンドは、フォース1投目を終えてこの形。両チームあと1投。先攻(赤)SC軽井沢クラブの選択は?

 自分は中継を見ていて、どう見ても後攻(黄)中部電力が複数点取ったと思いました。ハウス内に赤を隠す場所もないし、フリーズの目標となる石もない。トリプルテイクも無理そう。何とかダブルテイクして失点を減らすくらいしか手がないのでは?と思って見ていました。

 みなさんは、ここからSC軽井沢クラブ(赤)が1失点でしのぐ手を想像できますか?

 SC軽井沢クラブのショットはこれ!

SC軽井沢クラブ-中部電力 9エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

9E 先攻(赤)フォース2投目

 ランバック・ダブルテイクですが、それより残った石の位置関係がすばらしい。シューターがガードで残って、中に飛んだ赤が黄の裏に入り込むような動きをしました。Xで動画が見られるので、ぜひ見て下さい。

 ハウス内の黄と赤があと少しずれていたら、赤だけテイクして2点は簡単でした。また、シューターがこのガードの位置に止まらなかったら、黄から赤を押し出して2点を取るのは簡単でした。この位置関係でしか1点取らせの形にはならなかった。

 中部電力はドローで1点取る。1点差で最終エンドへ。

10エンド:究極のドロー

 そして運命の10エンド。後攻(赤)SC軽井沢クラブの1点ダウンというカーリングにおいて最も際どい点差。このエンドは両チームともやや時間がない中でドロー合戦。両チームともセンターラインへ向かってどんどんドローを投げ込み、あっという間に石が積み重なっていきます。

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、サード2投目の前には、こんな会話がありました。
「タイム取っていいよ! タイム、タイム!」
「いや時間に残しておいた方がいい」

 この判断が運命を分けたかもしれません。

SC軽井沢クラブ-中部電力 10エンド 先攻(黄)中部電力 フォース2投目

10E 先攻(黄)フォース2投目

 先攻(黄)中部電力フォース2投目。ハウス内の黄・黄・赤でナンバー1の赤を動かそうとしますが、いま置かれたばかりのガードに当たってしまって中には触れず。ナンバー1は赤のままで、SC軽井沢クラブのラストストーンを迎えます。

 しかし、ナンバー2を取れる範囲は極めて小さい。と言うよりも、手前の黄が邪魔をして、ナンバー2に届くラインは無いように見えます。そうだからこそ、SC軽井沢クラブは、フォース1投目で、ナンバー2を取りに行くドローではなく、ガードを選択したのでしょう? そして、そのガードのおかげでナンバー1を守れたわけだから、良かったじゃないですか。勝負はエキストラエンドかあ。

 SC軽井沢クラブはここまで取っておいたタイムアウトを使います。西室コーチのアドバイスも受けて狙いを確認。

「黄色触んないようにドローですよね?」
「いまの幅じゃたぶんガードの感じだと触っちゃうよね」
「うん、ちょっと広めでいけば」
「じゃあここでいく? ここでいい?」
「ライトの方がいいからね。だから、さらに幅取った方がいい」
「速かったら触んない方がいいんじゃん?」
「速かったら全力スイープで」

SC軽井沢クラブ-中部電力 10エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

10E 後攻(赤)フォース2投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース2投目。かなり外側のラインを使って15.3秒でドロー。スイーパー2人は最初からスイープしている。

「まだ待てるよ」
「ライン悪くないよ」
「ウェイトだ。ウェイトだ」
「ウェイトだけ」
「ギリギリ、ギリギリ」
「ちょっと曲がってる、曲がってる」
「イエス!」
「ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!」
「イエス!イエス!イエス!イエス!」
「ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!」

 上の黄に沿うように曲がって、ボタンに赤が入ってきた! ボタン上下の黄はボタンに掛かっているかどうか微妙だが、いま入ってきた赤は、わずかだが明らかにボタンに掛かっている! ナンバー2は赤! SC軽井沢クラブの逆転勝ち!

 これは究極のドローと言っていいんじゃないでしょうか。自分がこれまでカーリングの試合を見てきた中で、これよりすごいドローは見たことがない。この場面の動画は何回も繰り返し見ましたが、見るたびに、ないと思っていたラインを通っていく石の動きにぞくぞくします。

市川「このショットはカーリングの歴史に名を残すぐらいスーパーショットだったんじゃないですかね」

女子準決勝 SC軽井沢クラブ-中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 0 2 0 1 0 0 1 0 2 6
中部電力 * 0 1 0 1 0 1 1 0 1 0 5

男子決勝 コンサドーレ-SC軽井沢クラブ

4エンド:想像できないミス

SC軽井沢クラブ-コンサドーレ 4エンド 先攻(黄)コンサドーレ フォース1投目

4E 先攻(黄)フォース1投目

 男子決勝は、2連覇中のSC軽井沢クラブと、その前に3連覇しているが、若手2名が加わって当時とはメンバーが替わっているコンサドーレの対戦。

 勝負の分かれ目となった4エンドの場面を紹介します。試合は2-1とコンサドーレ1点リード。先攻(黄)コンサドーレ、フォース清水徹郎1投目。自分の黄から角度を変えてボタンの赤をはじき出すナイスショット。センターガードは無いものの、4フットに黄が4つ固まって残って、いかにもスチールになりそうな形になりました。

SC軽井沢クラブ-コンサドーレ 4エンド 先攻(黄)コンサドーレ フォース2投目

4E 先攻(黄)フォース2投目

 先攻(黄)コンサドーレ、フォース2投目。4フットへドロー。やや伸びてフリーズになってスチール形ではなくなりましたがまずまず。1点取らせの形にはなりました。

 さて、ラストストーンはその黄の前にドローすれば1点は取れますが、しかしSC軽井沢クラブ(赤)は前の赤を見ている。

曽根アナ「スチールされる危険性は?」
谷田「ありますね」

 曽根アナの質問に、谷田は即答しました。

SC軽井沢クラブ-コンサドーレ 4エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

4E 後攻(赤)フォース2投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース栁澤2投目。ハウス内の赤を使ったトリプルテイクを狙うが、ややラインがずれました。

谷田「ああ、外だ」

 やや左に当たって黄が思ったより飛び散らず3点スチールになってしまう。ミスになったとしても、ここまでになるとは思いませんでした。

谷田「ここまでのミスは、チームの中であまり想像できていなかったというか。僕も想像できませんでしたし」

男子決勝 SC軽井沢クラブ-コンサドーレ
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 1 0 0 0 1 1 0 0 X 3
コンサドーレ * 0 0 2 3 1 0 0 1 1 X 8

女子決勝 SC軽井沢クラブ-北海道銀行

2エンド:ぴったりフリーズ

 女子決勝は、SC軽井沢クラブ-北海道銀行の組み合わせ。本大会の女子は、ロコ・ソラーレ中部電力フォルティウス北海道銀行SC軽井沢クラブの5チームが「5強」と見ていました。実績は前者3チームが上回っていますが、決勝に進出したのは後者の2チーム。2大会連続五輪出場など知名度抜群のロコ・ソラーレが予選リーグで敗退する一方、北海道銀行リラーズがついに決勝まで来て、SC軽井沢クラブも2年連続の決勝進出。SC軽井沢クラブの1人のベテラン選手以外は両チーム20代前半の選手で構成されるというという若手対決となりました。時代は変わった? さあ、それはまだわからないな!

 試合前の選手紹介で、その1人ベテランのSC軽井沢クラブ西室淳子。

西室「行くぞー! 1、2、3、ファイヤー!!!」

 「ファイヤー!」と言えば男子のSC軽井沢クラブの山口剛史の十八番でしたが、西室これ気に入ってるのか。そういえば山口は今大会、ファイヤーってあまり言ってなかったような。

SC軽井沢クラブ-北海道銀行 2エンド 後攻(黄)北海道銀行 セカンド2投目

2E 後攻(黄)セカンド2投目

 

 1エンドはブランクとなって2エンド。後攻(赤)北海道銀行セカンド山本2投目。クアドラプル・テイク(4石テイク)。センターガードとボタンに赤があるという、先攻にとって良い形ができていましたが、1投で打開しました。シンプルにコーナーガードが残る形になって北海道銀行のチャンス形。

市川「正直、ここまで石が動くとは思ってなかったんですけれども、すばらしいショットになりましたね」
谷田「まさかこんなショット来ると思ってなくて、リアクションの準備ができてなかったですね」

 これを見た方は、カーリング・ビンゴのクアドラプル・テイクの項目を達成できましたね。

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SC軽井沢クラブ-北海道銀行 2エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

2E 先攻(赤)フォース1投目

 しかし、先攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース2投目。フリーズを決める。15.2秒のドローでぴったり止まった。準決勝に続いて精密なドローを見せた上野美優。

谷田「あれ、この試合1投目ですか?ドローこれ。上野選手は」
塚本アナ「上野のドローは、そうですね。これが初めてです」
谷田「1投目でこの精度ですか」

 2失点を消して、逆にスチールチャンス。このあと、北海道銀行のラストドローは少し伸びてしまってSC軽井沢クラブのスチールとなりました。

9エンド:1点アップの先攻か? 1点ダウンの後攻か?

 試合は9エンド、先攻・北海道銀行の1点アップという接戦になりましたが、ここで解説者の市川美余、谷田康真の2人から興味深い話がありました。

塚本アナ「1点リードして10エンドの先攻、あるいは1点リードをされて10エンドの後攻、というパターンがありますけれども、谷田さんはどちらがいいかというのはありますか?」
谷田「僕は1点を追いかける最終エンド後攻の方が僕は好きですね」
市川「その選手の方が多いんじゃないかなとは思いますね。1点勝ちの先攻って結構つらいですよね」
谷田「1点勝ちの先攻は攻め方が難しいですし、基本的にはもうスチールを狙っていくような攻め方をしないといけないので。ドキドキはしますね」

 同じような話は何回か聞いたことがあると思うのですが、これ本当にそうなのかなあ?と聞くたびに思います。

 「じりつくん」によると、9エンド終了時、1点アップ先攻の勝率は、女子で57.6%、男子で56.1%。どちらも1点アップ先攻の方が勝率が高いというデータになっています。*1

 また、試合を観戦していて、10エンド1点ダウンの後攻を狙いに行く場面はそれほど多くないという印象があります。例えば、先ほども紹介した女子準決勝、SC軽井沢クラブ-中部電力の9エンド

SC軽井沢クラブ-中部電力 9エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

9E 先攻(赤)フォース2投目

 同点の9エンド。SC軽井沢クラブのスーパーショットで1点取らせの形を作られた後攻(黄)中部電力は、この後ドローで1点取りました。

 しかし、もし10エンド1点ダウン後攻の方が良いなら、わざとスルーすれば良いのです。このままの形で1点スチールとなりますが、そうすれば10エンド1点ダウンの後攻になれます。1点取ると、10エンド1点アップの先攻になってしまいます。

 もちろん、チームによって・選手によって、あるいはそれまでの展開によって・状況によって判断が変わるということはあるでしょう。だから、個々の選択、個々の発言がおかしいということはありません。しかし、それにしても「10エンド1点ダウンの後攻の方が戦いやすい」という見解をよく耳にするわりには、実際の試合では、9エンド同点の後攻が1点スチールにもできるのに1点取ったり、9エンド1点ダウンの後攻がブランク狙いではなくガードを置いて2点取りを狙ったりする場面を多く見る気がします。この乖離は何なんだろうと思うことがたびたびあるのです。

女子決勝 SC軽井沢クラブ-北海道銀行
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 1 0 0 0 2 0 0 0 2 5
北海道銀行 * 0 0 0 2 1 0 0 1 0 0 4

SC軽井沢クラブ(女子)が世界選手権へ

 女子で優勝したSC軽井沢クラブは、3月17日から行なわれる女子カーリング世界選手権に出場します。西室淳子はチーム長野(PICTIC)時代の2006年以来の世界選手権出場となります*2。富士急時代は、チームは2018年に世界選手権に出場していますが、西室自身は妊娠のため欠場しています。チーム長野ではチーム青森などに敗れて五輪出場はならず。チーム最年長として立ち上げ時から所属した富士急でも、関東選手権を勝ち抜けなかった時代から四強と呼ばれるまでチームは成長しましたが五輪出場はならず。富士急を脱退した時は、さすがにもうないかと思いました。ここから新チームで世界選手権出場まで来るとは。そして五輪出場の可能性も十分にあるのか。

 女子のSC軽井沢クラブといえば、自分が覚えているのが、まだチームが立ち上がって1シーズン目の2021年の日本選手権。西室の古巣の富士急と対戦した試合がNHKで中継されました。劣勢の試合の中、西室が若い選手を鼓舞していた姿が印象に残っています。そのシーンがNHKTwitterに残っていました。

西室「まだ行ける。2か3狙えれば。3。2でもいい。最低2。3は取れるから」

西室「やるだけやるか? 今後のために? コンシードしてもいいけど、どっちでもいいよ。来年につなげるならやってもいい。5は……難しい(笑)。やめてもいいよ」

 正直言って、この頃はこのチームがこんなに強くなるとは思いませんでした。西室に気圧されているようにも見えましたし。

 やはり、女子決勝の10エンド、先攻の北海道銀行がセカンド2投目でタイムアウトを使ったのに対し、西室が

「タイム取ってもいいけどねー。タイムアウト返しやー」

と騒いでいたのを無視して作戦検討を続けるくらい、他のメンバーが西室と対等に渡り合えるようになったのが強くなった要因か、というのは1ファンの勝手な見方です(^_^;) そして、準決勝に引き続き10エンドの最後のショットを前にタイムアウトを使って、プレッシャーの掛かるラストドローを決めて優勝したわけです。

 NHKのチーム自己紹介動画では、息の合ったパフォーマンスを見せてくれました。

「私たちが」
「ニュースター!」

 昔はこんなパフォーマンスするチームには見えなかったよなあ。そして、本当にその言葉通りになりましたからね。

おまけ:市川 vs. 谷田 リターンズ

 女子決勝は、NHK BSの中継で本大会で唯一の市川美余・谷田康真のダブル解説となりました。この2人は、前年もいろいろ因縁があった(^_^;)組み合わせです。今年も見せてくれました。

 1エンド。試合序盤でよくある、単純なヒットステイが続くブランクとなりそうな流れの中でこの会話。

谷田「市川さんは現役時代どういう戦い方が好きだったんですか?」
市川「フフフッ。私たちはまあ、チームのテーマとして、溜めていくアグレッシブな作戦を」
谷田「(かぶせ気味で嬉しそうに)マンリーカーリング、マンリーカーリングね」
市川「はい(笑)。マンリーカーリングというふうに名付けて、男子のような力強いプレーをめざしてましたね。谷田さんは4人制のときはいかがでしたか?」(立て板に水のようにさらっと話して、さっと谷田に話を振る)
谷田「僕は堅実なタイプなので(笑)、序盤は結構、ここまでじゃないですけど、クリーンな展開を好む選手で、後半にかけてショット精度が上がってく中で勝負を仕掛けるというのが、僕は好きなタイプでしたけど」
市川「それは今もミックスも同じですか?」
谷田「あー、ミックスまったく別ですね」
市川「あー、やっぱり戦い方変わるんですね」
谷田「それを説明すると夜が明けちゃいます」
市川「(笑)ではミックスの、いつかに」

 相変わらず仕掛ける谷田。マンリーカーリングって言わせたいだけだろw

*1:これはノーティックルール採用前のデータですが、センターガードへのウィックはほぼ後攻のチームが行なうものなので、ノーティックルールによって後攻が有利になることはあまり無いと思います。

*2:当時の姓は園部。

カーリング日本選手権2024を名場面で振り返る:予選リーグ編

 2024年1月27日から2月4日にかけて、カーリング日本選手権が行なわれていました。名場面が目白押しでしたので、今回も自分が印象に残ったシーンを局面図を交えながら振り返ってみます。長くなってしまったので2つの記事に分けます。前編は予選リーグの試合から。

japan-curling.jp

女子1次予選 北海道銀行-岩手県協会

4エンド:リラーズ、上位進出なるか?

 強豪チームの一角の北海道銀行岩手県協会の対戦。

北海道銀行-岩手県協会 4エンド 後攻(黄)岩手県協会 フォース1投目

4E 後攻(黄)フォース1投目

 岩手県協会(Koto)は“岩手のレジェンド”苫米地と高校生3人という構成のチーム。今回優勝したSC軽井沢クラブといい、ロコ・ステラといい、ベテランが1人だけいて、あとは10代・20代の選手で構成されているというチームを比較的よく見ます。カーリングではこういうチーム構成が良いということなのかなあ。3チームとも、そのベテランがスキップではないというのも興味深いところ。

 試合の方は、やはり北海道銀行が実力を見せて序盤から連続スチール。3エンドを終わって4-0と早くもリードを広げます。

 しかし、4エンド。後攻(黄)岩手県協会のスキップ瀬川1投目は、見事なダブルテイクを決めます。シューターを残しつつ、後ろの黄も2つとも残してハウス内は黄のみナンバー1・2・3。大量点のチャンス。岩手県協会の反撃か?

北海道銀行-岩手県協会 4エンド 先攻(赤)北海道銀行 フォース2投目

4E 先攻(赤)フォース2投目

 しかし、先攻(赤)北海道銀行はチャンスの芽を摘む。フォース田畑のトリプルテイク。岩手県協会はダブルテイクを決められても2点はありましたが、トリプルテイクを決められてはチャンスはなくなってしまいました。この試合は、このまま北海道銀行が勝ちました。

 北海道銀行リラーズは3シーズン目。自分は、カーリング中継を見る際に、その時の状況や、気になった実況、感想などをPCにメモしながら見ています。そのメモに、この試合の開始前にこう書きました。「北海道銀行リラーズ登場。これまでも実力は見せてきたが、そろそろ大きな結果を出してほしい」。さて、どうなったか?

女子1次予選 北海道銀行-岩手県協会
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道銀行   2 1 1 0 0 3 2 0 X X 9
岩手県協会 * 0 0 0 1 1 0 0 1 X X 3

男子1次予選 札幌国際大学-北見協会

5エンド:破壊王不在でも

札幌国際大学-北見協会 5エンド 先攻(赤)札幌国際大学 フォース2投目

5E 先攻(赤)フォース2投目

 昨年と一昨年の準優勝チーム対決となった試合。

 札幌国際大学は2022年の準優勝チーム。カナダ仕込みのスキップ佐藤剣仁と、難しいランバックをばしばし決める“破壊王”青木豪を中心とした魅力的なチームです。しかし、その青木が大会直前にケガをして欠場。青木は昨年も体調不良で欠場していたので、2年連続欠場となりました。残念。

 しかし、青木が不在でも佐藤が魅せます。5エンド、先攻(黄)札幌国際大学フォース2投目。黄が3つ残っていて大量失点のピンチでしたが、ダブルテイクしつつ、シューターはセンターガードの裏で止める。クールなガッツポーズを見せる佐藤。

札幌国際大学-北見協会 5エンド 後攻(黄)北見協会 フォース2投目

5E 後攻(黄)フォース2投目

 しかし、2023年の準優勝チーム、北見協会(黄)のスキップ平田洸介もナイスショットで返します。カマーテイクでその赤を押し出して2点。手前の黄にわずかにチップしてコースが変わったのも良かった。

 前半5エンドを終えて5-6の接戦ですが、ここまですべてのエンドで複数点が入るという派手な展開となっています。

9エンド:9エンド2点ダウンの後攻の作戦選択は?

 後半は、6エンドに北見協会が1点スチールした後は、7・8エンド連続ブランクという、一転して静かな試合に。

 そして9エンド、ここで札幌国際大学が面白い作戦を見せます。1投目をハウス内にドローした北見協会に対し、後攻の札幌国際大学の選択はテイク! 結局、このエンドもブランクとなって3エンド連続のブランクとなりました。

 2点ダウンで、9エンドではなく10エンドに仕掛ける。考えてみれば当然あり得る選択です。残り2エンドで2点差を逆転する主なプランは「2点取って同点にし、次のエンドでスチールで逆転」と「3点取って逆転」の2つがあります。前者のプランなら、それを9・10エンドでやるのも10・11エンドでやるのも同じです。後者のプランなら、9エンドに3点取って逆転しても、試合に勝つには1点アップの10エンドをしのぐ必要があります。9エンドをブランクにして10エンドに3点取って逆転すればそれで勝ちですので、10エンドで仕掛ける方がはっきり優れています。

 10エンドに仕掛けると、2点取らないとすぐ負けになるというマイナスはありますが*1、それを合わせても10エンドに仕掛ける方が勝ちやすいという判断でしょう。

 実際、「じりつくん」による勝率は、男子の8エンド終了-2点は11.8%、9エンド終了-2点は14.8%となっています。

「じりつくん」8エンド終了時-2点後攻の勝率11.8%、8エンド0点だと14.8%

「じりつくん」による8エンド終了-2点後攻の勝率

10エンド:スーパーショットを決められても負けない

札幌国際大学-北見協会 10エンド 後攻(赤)札幌国際大学 フォース2投目

10E 後攻(赤)フォース2投目

 よって、試合は2点差で10エンドとなりました。他のシートの試合は終わって静かな環境の中で試合は進みます。

 そして、後攻(赤)札幌国際大学フォース2投目。ラストストーン。2点取らないと負けてしまうのに、センターガードの裏に相手にナンバー1・2を持たれています。絶体絶命。しかし、ここで佐藤がまたも魅せます。

 ガードから飛ばす距離のある斜めランバック・ダブルテイク。シューターも残さないといけないので、ラインもウェイトも完璧に合わないと決まらない高難度のショットでしたが、見事に決めました。これは掛け値なしのスーパーショット。これが大会一のベストショットになると思いましたが……。

 スーパーショットを決めて2点取って同点に追いついて延長戦。一気に逆転といきたいところですが、後攻・先攻という要素があるカーリングでは、同点だから互角ということはありません。得点を取った札幌国際大学エキストラエンド先攻。有利な後攻を持った北見協会が11エンドで順当に得点して、この試合勝ちました。

 スーパーショットではありましたが、このショットは決めれば3点という状況で出したかっところです。実は、この直前までそうなる可能性はありました。あのスーパーショットの直前、先攻(赤)北見協会フォース平田洸介2投目は、このショットを選択していました。

札幌国際大学-北見協会 10エンド 先攻(黄)北見協会 フォース2投目

10E 先攻(黄)フォース2投目

 丸見えのナンバー4の赤をテイク。簡単なショットで3失点を消しました。ショットの前には、右側のナンバー3の赤のテイクも考えていました。これをテイクしてシューターの黄も残れば、赤が2点取るのは不可能だったと思います。しかし、もし手前のガードに当たったり、ハウスの赤を出しきれなかったりしたら、あのスーパーショットが決まっていたのだから、3点取られて逆転負けしていたことになります。

 北見協会といえば、昨年も独特の守備作戦を採っていて印象に残っていたのですが、この試合も冷静な作戦選択で勝ちにつなげました。

男子1次予選 札幌国際大学-北見協会
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
札幌国際大学   0 3 0 2 0 0 0 0 0 2 0 7
北見協会 * 2 0 2 0 2 1 0 0 0 0 3 10

男子1次予選 LOCOSOLARE-TM Karuizawa

4エンド:フリーズより良い手

ロコ・ソラーレ-TM軽井沢 4エンド 先攻(赤)ロコ・ソラーレ フォース2投目

4E 先攻(赤)フォース2投目

 女子ではなく男子のロコ・ソラーレ(ロコ・ドラーゴ)は、2021年準優勝の常呂ジュニアと同じチーム。注目の若手チームです。TM軽井沢戦でのナイスショットを紹介します。

 4エンド。先攻(赤)ロコ・ソラーレ、フォース2投目。絶妙な位置にドロー。奥の黄にぴったりフリーズすれば1点取らせの形でしたが、それよりもスチールのチャンスが大きい。解説は両角公佑。

公佑「後ろにくっつけるよりも1点を取るのを難しくできたんじゃないかなと思いますね。ここまで来ていると(ぴったりくっつけると)、その前に、まさにこの赤いストーンの位置にくっつければ1点取れるという状況だったんですけど、今もう本当に、この中心に止めるというところでしか1点を取ることができませんので」

 実際、このあとのTM軽井沢のラストストーンはボタン付近まで届かず、ロコ・ソラーレのスチールとなりました。

男子1次予選 LOCOSOLARE-TM Karuizawa
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
LOCOSOLARE * 0 1 0 1 0 1 3 0 0 X 6
TM Karuizawa   0 0 0 0 2 0 0 0 1 X 3

女子1次予選 SC軽井沢クラブ-中部電力

6エンド:びっくりした……

 前年準優勝のSC軽井沢クラブと、少しずつメンバーを変えながら長年活動している強豪中部電力の対戦。試合は5エンド終わって1-1というロースコアな展開。中部電力もやや守備的に感じますが、それ以上にSC軽井沢クラブが守備作戦。リスクが少なめの手を選択し、チャンスがあれば攻めますが、チャンスがないと見るとすぐにブランクに切り替えて次のチャンスを待つという戦術です。

SC軽井沢クラブ-中部電力 6エンド 後攻(黄)中部電力 フォース2投目投球前

6E 後攻(黄)フォース2投目投球前

 そして迎えた6エンド。ここは先攻(赤)のSC軽井沢クラブにチャンスが来て攻めのエンド。4フットに赤を3つ置いて、スチールもありえる形を作って後攻のラストストーンを迎えます。中部電力(黄)の選択は? 解説は市川美余

市川「1点で良ければ先ほど言ったこれが(4フット右上の黄から中へ)、ありそうには感じますけどね」

 しかし、中部電力の選手は右上のガードの黄を見ている。

市川「ただ、これがこう(ハウス内右上の黄に飛ぶ)行ってしまっても……。どう動いていくかという感じで……」
曽根アナ「ん。2点スチールまでは……。ん、3点……? ん」
市川「そうですね、結構勝負の一投になりますね」

SC軽井沢クラブ-中部電力 6エンド 後攻(黄)中部電力 フォース2投目

6E 後攻(黄)フォース2投目

 後攻(黄)中部電力、フォース北澤育恵2投目は、右上のガードの黄からからランバックを選択! ほぼ狙い通りの角度で飛んで赤が2つ左右に出ていきますが、後方の赤がずらしきれず。しかしシューターの黄はギリギリ残って1点は確保。なんとか成功の部類か。

 中継を見ていて、この1投にはびっくりしました。失敗したら2点スチールになりませんか!? 6エンド同点の後攻で、2点スチールになる危険を冒してまで2点取りに行くものなの!?

 決まれば2点で、あとちょっとで決まりそうだったし、実際1点は取れたのだから、結果的には正しい選択でした。また、解説で出ていた1点取りに行く手も、実際にはそれほど簡単ではない気もします。失敗したら1点スチールです。それにしても、この状況なら1点スチールならやむなしかと思ったけどなあ。

 また「じりつくん」で勝率を調べてみました。

6エンドの結果と7エンド勝率
6エンドの結果 6エンド終了時 7エンド 「じりつくん」での勝率
2点取り 2点アップ 先攻 78.3%
1点取り 1点アップ 先攻 61.1%
1点スチール 1点ダウン 後攻 38.8%
2点スチール 2点ダウン 後攻 21.6%

 2点取りは、1点取りの場合と比べて+17.2と十分な得があるように見えます。これを見ると2点チャンスがあるならチャレンジしてみたくなります。しかし、1点スチールになると-22.3とそれ以上の損があります。1点スチールやむなしと言える状況ではない。2点スチールになってしまったらさらに痛い。確実に1点取れるなら、その手を選択したくなります。

 まあ、この数字をショット選択に活用するには、この数字の他に、そのショットを選択した場合の成功率を考える必要があります。それは観戦している側にはわからないことなので、これ以上は何とも言えないところです。

女子1次予選 SC軽井沢クラブ-中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 0 0 1 0 0 0 2 0 X 3
中部電力 * 1 0 0 0 0 1 0 0 3 X 5

女子2次予選 中部電力-北海道銀行

4エンド:プレッシャードロー

中部電力-北海道銀行 4エンド 後攻(赤)中部電力 フォース2投目

4E 後攻(赤)フォース2投目

 もう1つ中部電力の名場面を紹介。2次リーグの北海道銀行との対戦。

 4エンド。中部電力(赤)フォース北澤育恵2投目。ラストドロー。左の赤のコーナーガードをギリギリでかわさないといけない難しいラインで、ボタンに止めないとスチールになり、ガードに当てたりウェイトが強すぎたりすれば3点スチールもあり得るという、非常にプレッシャーが掛かったドローを決めます。

 やはり、こういうプレッシャードローはカーリングの醍醐味です。ショット、コール、スイープ。すべて完璧に揃わないとこういうショットは決まりません。

女子2次予選 中部電力-北海道銀行
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
中部電力   0 2 0 1 0 1 0 2 0 0 6
北海道銀行 * 2 0 1 0 2 0 1 0 0 1 7

男子2次予選 北見協会-コンサドーレ

8エンド:平田が吠えた

北見協会-コンサドーレ 8エンド 後攻(赤)北見協会 フォース2投目

8E 後攻(赤)フォース2投目

 男子2次リーグ。北見協会のスキップ、平田洸介のナイスショットを紹介します。1点ダウンの8エンド、後攻(赤)北見協会フォース2投目。ダブルテイクを決めて2点。平田が吠えた。

 キーとなる8エンド後攻で複数点を取って5-4と逆転し、北見協会が優位に立ったのですが……。

10エンド:時間がなくて

 しかし、最後の最後で北見協会に致命的なミスが出てしまいます。

 9エンドはブランクとなり、5-4と北見協会1点リードのまま10エンドを迎えます。

北見協会-コンサドーレ 10エンド 先攻(赤)北見協会 フォース2投目

10E 先攻(赤)フォース2投目

 先攻(赤)北見協会フォース2投目。先攻のラストストーン。1点取らせの形を作りたいところで、黄にフリーズすればその形を作れたはずでした。しかし、投げたストーンは13.8秒。思ったより強く投げてしまって曲がりきらず、狙いの黄の左の赤に当たって止る形に。ナンバー1の赤を押せる形を残して、逆転の2点チャンスを与えてしまいました。解説は両角公佑。

公佑「時間がなかった分、ちょっと焦りが出たかもしれないですね」

 投げる場所を決めてハックに戻る場面ですでに残り36秒、ハックに座って投球準備をするところで残り17秒という表示が見えていました。「あと40秒ね」「時間あれだよ」「大丈夫時間はあるよ」という声も聞こえる中でのショットでした。

 このあと、コンサドーレのフォース清水徹郎がナンバー1の赤を押し下げて2点を取り、コンサドーレ逆転勝ち。北見協会は痛恨の負けとなりました。

 先ほど、プレッシャードローがカーリングの醍醐味と書きましたが、プレッシャードローでこういうミスが出るのも含めての醍醐味です。普段は難しいとはいえ決められるショットでも、勝つか負けるかという場面で、残り時間も少ないとミスが出てしまう。こういうことが往々にしてあります。というか、そういうことの方が多い。プレッシャーの掛かるピンポイントのラストドローなんて決まるわけがない。だからこそ、決まったショットが際立ちます。

男子2次予選 北見協会-コンサドーレ
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北見協会 * 1 0 1 1 0 0 0 2 0 0 5
コンサドーレ   0 1 0 0 2 0 1 0 0 2 6

男子2次予選 SC軽井沢クラブ-LOCOSOLARE

9エンド:後攻のセンターガード策

 男子2次リーグのSC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレとの対戦。試合は8エンド終了時で3-7とロコ・ソラーレが大きくリードしますが、劣勢に立たされたSC軽井沢クラブがおもしろい作戦を見せます。

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 9エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ セカンド1投目

9E 後攻(赤)セカンド1投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、セカンド1投目を終えてこの状況。もう一度書きますが、黄が先攻で、赤が後攻です。SC軽井沢クラブは後攻にもかかわらず、ダブルセンターガードを置きました。セオリー無視のセンターガード作戦。解説は谷田康真。

谷田「ここはもうセオリー通りに戦っていてもなかなか難しいというのと、ノーティックルールというのがありますので、それを後攻のチームが逆に利用するような。《中略》4点差ぐらい付いてくると、海外のトップチームも含めですけど、コーナーガードをウィックされるという場面が出てきますので、海外の強豪チームもセンターガードを置くっていうチームはいます」

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 9エンド 先攻(黄)ロコ・ソラーレ サード1投目

9E 先攻(黄)サード1投目

 先攻(黄)ロコ・ソラーレ、サード1投目。赤を1つテイクしつつ、赤にバックガードがある形を解消します。このあたりまではロコ・ソラーレがうまく対応していて、ビッグエンドになりそうな雰囲気はありませんでしたが……。

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 9エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

9E 後攻(赤)フォース1投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース栁澤1投目。赤の内側へタップバック。ちょうど、前のガードから縦に少しずつずれて隠す形を作りました。中の赤2つ、どちらもテイクしにくい。

 このあと、ロコ・ソラーレはナンバー2の黄を守るガードを置きますが、やや内側にずれてしまいました。SC軽井沢クラブはラストストーンでナンバー2の黄をカマーテイク。シューターも残って3点取りのビッグエンド。4点差から一気に1点差まで詰め寄りました。SC軽井沢クラブお見事。ロコ・ソラーレの方もそんなに大きなミスはなかったと思うのだけど。

谷田「いやーーーー、センターガード2つ置くっていう後攻の戦術が初めてここまで成功したのを見ました」

男子2次予選 SC軽井沢-LOCOSOLARE
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 1 1 0 0 0 1 0 3 0 6
LOCOSOLARE * 1 0 0 3 1 1 0 1 0 5 12

後編へ続く

y-koutarou.hatenablog.com

*1:9エンドで仕掛けておけば、うまくいかず2点取りが難しくなった際に「ブランクにして10エンドで仕切り直し」や「1点取って、10・11エンド連続スチールで逆転」というプランもあります。9エンドをブランクにするとこのプランはなくなります。

自分が持っているゲームブックリスト(自分のゲームブック遍歴も)

 初めて立ち寄った、昔ながらのたたずまいの古本屋で、ゲームブックが大量に置いてあるのを発見しました! しかも、値段も定価より安いものばかりです。

 これは宝の山だと思って物色し始めましたが、そのゲームブックをすでに持っているかどうか思い出せないことに気がつきました。まあ、もうダブりなんて気にせず全部買っちゃってもいいのかもしれませんが、めずらしく誰もが手に取れる棚にゲームブックがあるのだから、ゲームブックとの出会いの場は残しておきたいなあ。でも、もうこんな機会一生ないかもしれないし……。

 ああ、自分が持っているゲームブックのリストを作っておけばよかったなあ……。


 ……というところで目が覚めるという夢を何回も見たことがあります(^_^;)

 というわけで、少し前に本棚を整理したのを機会に、所有するゲームブックのリストを作って、ついでにアップしておこうと思いました。これなら夢のような事態になった時でもいつでもスマホで持っているか確認できるので安心。あくまで自分のために作ったリストなので、どの情報を載せるかやリストの順番などは自分の好みです。右端の“既読”は、少なくとも1回はクリアしたという記憶があれば“○”としました。途中で挫折したものは空欄のままです。*1*2

所有ゲームブックリストの表の一部

docs.google.com


 なかなか懐かしいリストになりました。これを見ていると、自分のゲームブック遍歴を書きたくなったので以下に書きます。簡単なゲームブック紹介も含んでいますが、読み返したりしないで記憶で書いているので、思い出補正が入っている可能性があります(^_^;)

 マンガ雑誌に掲載されたものや、付録のゲームブックはもっと前に触れた事があると思いますが、一番最初にはっきりゲームブックを読んだと認識したのは、双葉文庫スーパーマリオブラザーズVol.3 マリオ軍団出撃』だと思います*3。いわゆる“双葉の青背表紙”の一つ。マリオ、ルイージ、ピーチ姫のパーティ・プレイ。3人それぞれに体力ポイント・知力ポイント・経験ポイントがあり、さらにルイージはガンとボムの弾数、ピーチ姫は2種類のマジカルロッド(体力回復アイテム)の使用回数とコイン(攻撃アイテム)の枚数を記録するという、管理する数字が多い本格的なゲーム。ランダム要素は使わないのでゲームバランス抜群で最後まで楽しめる。今でも最も好きなゲームブックの1つです。

 そのあとも、よく読んだのは双葉の青背表紙です。「粗製濫造」と言われることがあるけれど、自分はそんな印象はまったくない。むしろ珠玉の名作揃いだと思います。中でも特に好きだった作品をいくつか挙げてみます。

 それと、ファミコン関連ではエニックス文庫のドラゴンクエストも好きでした。当時のエニックスは「ドラゴンクエストIII」の発売後から出版事業に力を入れ始めた(と記憶している)ので、ゲームブックはIII、II、Iの順番で発売されています。特におもしろかったのが、ドラゴンクエストII『上 勇者の末裔たち』『下 激闘! ハーゴンの神殿』)。それまでのとぼけたイメージを覆した、かっこいいサマルトリアの王子の描写は今でも語り草。

 という感じでゲームブックは読んでいたものの、あくまでファミコンものが中心で、社会思想社東京創元社のものなどにはあまり興味はありませんした。テーブルトークRPGには興味があったので、文庫で手に入る「ソード・ワールドRPG」と「トンネルズ&トロールズ」は買い集めていました。なので、T&Tソロ・アドベンチャーはすべてプレイしていました。ゲームバランスが豪快すぎたけど、まあT&Tはそういうものだと思って楽しんでいました。「サルクティの魔除け」(『恐怖の街』収録)は謎解き要素もある本格的な冒険物で、T&Tソロ・アドベンチャーの中では完成度が高い、というか唯一のまともな作品だった気がする(^_^;) 他に、「青蛙亭ふたたび」(『傭兵剣士』収録)、ソーサラー・ソリテア」(『カザンの闘技場』収録)、嘆きの壁を越えて』が好きでした。*5

 そのうちに、双葉文庫青背表紙も、T&Tソロ・アドベンチャーも新刊が途絶え、そのままゲームブックは自分の中でもフェードアウトしてもおかしくなかったのですが……。その状況を一変させるゲームブックとの出会いがありました。

 時期がはっきりとは思い出せないのですが*6、場所は覚えている。神保町の三省堂書店本店*7。入口から入ってすぐのエスカレーターを上がった2階の一角がゲームコーナーになっていて、双葉文庫青背表紙がずらりと並んでいました。その中にあった1冊が『少年魔術師インディ マジカルインフェルノ。当時は主にファミコン原作ものを読んでいたので、なぜこれを買おうと思ったのか思い出せないのですが、買ってプレイしたところ、これが抜群におもしろい! ストーリー、キャラクター、謎解き、すべてが良かった。これは『2』も読みたいなあと思ったけど、確か『2』は三省堂の本棚にはなかったなあ、と思って三省堂を訪れてみると『少年魔術師インディ2 禁断の魔力』が棚に置かれていた! もちろん即購入してプレイしたところ、これが『1』以上におもしろい!*8

 『1』で1つだけ残念だったのが、謎解き要素が強いゲームブックなのに、物語上一番重要な“謎解き”が、物語の進行の中で自動的に解かれてしまったことでした。物語的な盛り上がりはあったけど、ゲーム的にはここが弱かった。それが『2』では、クライマックスも含め、あらゆる謎解きがプレイヤーが能動的に関われるようになっていました。一見ノーヒントに見える選択肢でも、注意深く読んでいると正しい選択ができる。とは言え、そのヒントをすべて読み解くのも難しいので、試行錯誤で解くこともできるし、救済措置の露骨なヒントを入手する手段もある。謎解きの面白さと難度のバランスが絶妙。ゲームブックがこんなにおもしろいなんて!

 それ以来、ゲームブックと名のつくものすべてに興味が出てきて、社会思想社や、東京創元社富士見書房などのゲームブックも読むようになりました。だから、ファイティング・ファンタジー「ソーサリー」ドルアーガの塔」三部作、富士見ドラゴンブックなどの大半は、ゲームブック・ブームは下火になっていて、新作の発売がすでに止まっていた頃に読んだことになります。

 この頃は、書店のゲームブックの棚も縮小されていました。でも、ゲームブックの入手に困ることはありませんでした。なぜなら、ゲームブックは古本屋でいくらでも売られていたから。後期のものはさすがになかなか見つかりませんでしたが、初期のものは100円で売られていることも頻繁にありました。それだけでも読みたいゲームブックは十分入手できました。当初は実際に読みたいものだけを買っていましたが、そのうちに「どうやらゲームブックはこれ以上発売されることはなさそうだ」と思うようになって、ゲームブックはできるだけ集めたくなったので、定期的に神田神保町の古本屋街を巡って買い集めるようになりました。*9

 21世紀に入る頃から、古本屋でもゲームブックを見かける機会は次第に少なくなりました。まあ、それでもすでに十分な量のゲームブックを持っているし、少なくとも「ファイティング・ファンタジー」は書泉ブックマートの2階に全巻揃っているからいつでも入手できるし、と思っていたらいつの間にかそれも無くなっていた(´・ω・`) いま思えば、これが予兆だったかなあ……。これ以降は、古本屋でゲームブックを見かけることもなくなり、ゲームブックの価格は高騰しました。自分の本棚には、創土社などの復刊&新作を買いつつ、近年の『ファイティング・ファンタジー・コレクション』などを加えたのが、今回作ったリストということになります。


 今となっては高値で取り引きされている本もたくさんありますが、当時はこんなことになるなんて思いもしませんでした。ゲームブック・ブームが終焉して投げ売りされているのを目の当たりにしてきましたから。

 以前も書いたことがありますがほしいと思った本は読む時間が無くてもとりあえず買っておくべき、と自分に言い聞かせています(^_^;) いつでも買えると思っていると、いつの間にか買えなくなります。2009年発売のHJ文庫Gの『ハウス・オブ・ヘル』『デストラップ・ダンジョン』『サムライ・ソード』の3作*10は、発売当初はそれほど興味がなくて買いませんでしたが、2015年頃になって「これはそのうち買えなくなるかもなあ」と思って購入しました。その頃でもまだ新品で入手できましたし、古本でも500円以下で売られていました。買っておいて大正解*11。『サムライ・ソード』なんて、2021年頃までAmazonで新品で買えたみたいじゃないですか。そして、新品で買えなくなった途端に高騰。創土社浅羽莢子訳「ソーサリー」四部作や『夢幻の双刃』、新紀元社の『魔法使いディノン(2) 闇と炎の狩人』なんかはまだ新品で入手できるようですが、これらもいつの間にかなくなって、高値で取り引きされるようになるよ、きっと。

 というわけで、『ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび~ 再生産版』は2024年2月16日予約分までの受注生産品となっているので、みなさんお買い逃しのないように(^_^;)

 

*1:読んだ記憶はあるけどクリアはしていない気がするゲームブックもいくつか……。『甦る妖術使い』とか『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』とか……。

*2:さらにその右の数字は、自分用の並び替え番号です。

*3:「Vol.3」とありますが、ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ3」のゲームブック版というわけではありません。そもそも発売が「3」より前ですし。

*4:自分はファミコン版はクリアしていないのだけど、本書のプロローグってもしかして、ファミコン版のこれ以上ないすさまじいネタバレだったのでは……。

*5:ソード・ワールドのソロ・アドベンチャーが発売されるという予告を見た記憶があるのですが、結局発売されなかったので残念。

*6:1990年代前半だとは思う。

*7:現在建て替え工事中。

*8:なお、そのあと何度も三省堂に足を運びましたが、『少年魔術師インディ3 異境の呪術師』が棚に並ぶことはなく、やがてゲームブックコーナーは消滅しました。『3』はだいぶあとになって古本で入手しました。

*9:二見書房の「ドラゴン・ファンタジーグレイルクエスト)」や勁文社のアドベンチャーヒーローブックスなどがあまり入手できていないのは、古本屋では主に文庫の棚ばかりを探していたので、新書サイズの本は目に入らなかったからだと思います。「グレイルクエスト」は、インターネットで「マーリンの呼び声」を読むまで存在自体知らなかったと思う。ソード・ワールドのリプレイ(たぶん)で「14へ進め」という冗談がでてきたとき、意味がわからなかったもの。

*10:いわゆる“萌えFF”。

*11:高値が付いたからということではなく、おもしろかったから。