ひらがなキーを押すと謎な再変換が掛かる?(Microsoft IME)

ひらがなキー再変換

Microsoft IME』で起こる不思議な現象

 『Microsoft IME』で、確定した文字列を選択して[ひらがな]キーを押すと、なぜかすべてひらがなに戻った上で変換済み(確定前)の状態になってしまいます。この現象のことを「ひらがなキー再変換」と呼ぶことにします。

文字列選択状態

文字列を選択して[ひらがな]キーを押すと……

すべてひらがな1文節で確定前の状態

すべて1文節のひらがなに変換されて確定前の状態になる

 『Microsoft IME』の設定上の[ひらがな]キーの機能は「ひらがなキー(ひらがな入力モードに切り替えます)」のはずです。「ひらがなキー再変換」が掛かるのは納得できない挙動です。昔はこんな現象は起こらなかったと思うのだけど、いつから起こるようになったのか思い出せません。*1

「再変換」と「ひらがなキー再変換」の違い

 「ひらがなキー再変換」は、確定前の状態に戻るという点では[変換]キーで掛かる「再変換」と似ていますが、それとは異なる挙動です。例えば、以下の点が異なります。

  1. IME OFFで掛かるか?
    • [変換]キーの「再変換」はIME OFFの状態でも掛かる(再変換と同時にIME ONになる)。
    • 「ひらがなキー再変換」はIME OFFでは掛からない([ひらがな]キーの効果でIME ONになるだけ)。
  2. 漢字かひらがなか? 文節構造は再構築されるか?
    • [変換]キーの「再変換」は漢字などに変換済みの状態になる。文節構造は適当に再構築される(IMEの学習による)。

      漢字に変換された状態で確定前。文節構造は構築される

      [変換]キーの再変換は、漢字交じりで文節構造も再構築される
    • 「ひらがなキー再変換」はすべてひらがな(英数は全角文字)に変換済み状態になる。全体が1文節になる。

      すべてひらがな1文節で確定前の状態

      「ひらがなキー再変換」は、すべてひらがなで全体が1文節になる
  3. 文字列を選択していない場合でも掛かるか?
    • [変換]キーの「再変換」は、文字列を選択してなくてもキャレットがある部分の文節に対して再変換が掛かる。

      文字列を選択していない状態

      文字列を選択していなくても[変換]キーを押すと……

      キャレットのある文節のみ確定前の状態になった

      キャレットのある部分の文節に対して再変換が掛かる
    • 「ひらがなキー再変換」は、文字列を選択していないと掛からない。

「ひらがなキー再変換」が掛かるのは、キー設定が「Microsoft IME」の場合だけ

 「ひらがなキー再変換」が起こるIMEは『Microsoft IME』だけです。『ATOK』や『Google 日本語入力』では起こりません。

 さらに、プロパティの「キー設定」*2が「Microsoft IME」の場合にのみ起こります。他のキー設定に変更した場合は起こりません。なお、「変更」ボタンでキー設定をカスタマイズした場合は、自動的にキー設定が「ユーザー定義」に変更されますので、「ひらがなキー再変換」は起こらないということになります(ひらがなキーの設定を変更したかどうかは関係ない)。

Microsoft IMEのプロパティのキー設定を選択するウィンドウ

「ひらがなキー再変換」が起こるのは、キー設定を「Microsoft IME」にしている場合のみ

 よって、「ひらがなキー再変換」を回避する方法は、「キー設定を「ユーザー定義」にする」*3というのが、一番簡単で副作用がない方法です。

「ひらがなキー再変換」が掛かるのは一部のアプリケーションのみ

 「ひらがなキー再変換」は、すべてのアプリケーションで起こるのではありません。起こるアプリと起こらないアプリがあります。自分が使っているいくつかのアプリで、「再変換」と「ひらがなキー再変換」が掛かるかどうか調べてみました。

「再変換」と「ひらがな再変換」が掛かるアプリケーション
アプリケーション名 [変換]キーの再変換 ひらがなキー再変換
Windows 10のスタートメニュー
メモ帳 ×
ワードパッド *4
Microsoft Edge
Internet Explorer *5
Mozilla Firefox
Google Chrome ×
Microsoft Excel 2016 ×
Apache OpenOffice Writer ×
Apache OpenOffice Calc × ×
Nami2000 ×*6 ×
TeraPad ×

 ご覧の通り、「ひらがなキー再変換」が掛かるアプリケーションは一部に限られます。とりあえず、再変換が掛からないアプリでは「ひらがなキー再変換」も掛からない感じはありますが、「ひらがなキー再変換」が掛かるアプリケーションの共通点はよく分かりません。

「ひらがなキー再変換」はバグなの?

 「ひらがなキー再変換」はバグなんでしょうか? 意図して組み込んだ挙動にしては、IMEのキー設定を変更するだけで発生しなくなるというのが不自然だと思います。

 本来の『Microsoft IME』の[ひらがな]キーは、元のIMEの状態が何であってもひらがな入力モードにしてくれるという、初期設定の中では気の利いたキーでした*7。初期設定で使わざるを得ないPCを使うときは「これから日本語を入力するぞ」というときは何も考えずとりあえず[ひらがな]キーを押せば良かったので、自分はよく使います。その[ひらがな]キーで「ひらがな再変換」が掛かってしまうのは微妙に邪魔です。これが意図した挙動だというのならあきらめますが*8、バグだというのならMicrosoftにはなんとかしてほしいところです。

スペースキーを押すと謎な再変換が掛かる?

 ところで、「ひらがなキー再変換」とは別に、文字列を選択した状態で[スペース]キーを押すと再変換が掛かるという不思議な現象もあります(以下「スペースキー再変換」と呼びます)。『Microsoft IME』の設定上の[スペース]キーの機能は、当然「空白」(スペースを入力する)です。文字列を選択して[スペース]キーを押す際に期待する挙動は「選択した文字列を削除してスペースを入力する」ですので、これも納得できない挙動です。

 「スペースキー再変換」で起こる再変換は、「ひらがなキー再変換」ではなく[変換]キーで行う「再変換」と同じです(つまり、漢字に変換済み状態になり、文節構造は再構築される)。

 「スペースキー再変換」が起こる条件は、「ひらがなキー再変換」と似ています。「IME ON」「文字列選択状態」「特定のアプリケーション」の場合のみ起こります。しかし、キー設定が「ユーザー定義」の場合は掛かりませんが、それ以外の場合は掛かります(「ひらがなキー再変換」は、キー設定が「Microsoft IME」の場合にのみ掛かりました)。

 これも意図した挙動なのか、バグなのか分かりません。これはこういうものだと決まっていればこれはこれで使い道ありそうな挙動ですが*9、アプリやキー設定によって使えたり使えなかったりするのではどうしようもない。Twitterで検索すると、『Microsoft Word』ではスペースキーで再変換が掛かるのに他のアプリでできないのは不便だという声と、2015年頃から『Firefox』でスペースキー再変換が掛かるようになってしまったのが邪魔だという声が交錯しています。「ひらがなキー再変換」ともども、なんとかしてほしいです。

2020/05/06追記:変換を行うあらゆるキーで謎な再変換が掛かる?

 Twitterでご指摘いただいて気がついたのですが、[ひらがな]キーや[スペース]キーに限らず、[英数]キーと[F6]~[F10]キーでも、そのキーに応じた変換状態になる再変換が掛かることがわかりました。

 つまり、これらの現象は[ひらがな]キーなどに限った話ではなく、文字列を選択して変換を行うキーを押すと、確定前と同じような変換が行われるということのようです(ただし、[ひらがな]や[英数]は変換するキーではないですし、[無変換]は変換するキーですが再変換は掛からないので、この説明では説明し尽くせていません……)。

 もっとも、そうだとしても一部のIME・一部のキー設定・一部のアプリのみで起こるのはなぜかという疑問は変わりませんし、意図した挙動だとしたらこれがいい機能かどうかはやはり疑問がある、という結論は変わりませんが。*10

Windowsキー + スラッシュキーで再変換が掛かる

 ついでに、再変換に関するあまり知られていない気がするショートカットキーの話を一つ。

 [Windows] + [/](スラッシュキー)で再変換が掛かります。

 この再変換はバグっぽい要素はなく、ふつうの[変換]キーで行う「再変換」と同じ挙動です。すなわち、IME OFFの状態でも掛かりますし、漢字などに変換済みの状態に戻って文節構造も再構築されますし、文字列を選択していなくても掛かりますし、『ATOK』でも『Google 日本語入力』でも利きますし、ほとんどのアプリケーションで利きます。

 IME関連の操作に[Windows]キーを使うというのが意外ですし、[/]キーで再変換というのも連想しにくい。また、[変換]キーの再変換はIMEのキーカスマタイズ機能で無効にしたり他のキーに設定したりできるのに対し、[Windows] + [/]はカスタマイズできません。ちょっと不思議なショートカットの設定という感じはします。

 しかし、これは意図した設定でしょう。Microsoftの公式サポートページのショートカット一覧にも載ってますし。そのページによると、Windows 8.1から追加されたようです(Windows 7の一覧には載っていない)。

 [変換]キーがない英語キーボードでも再変換できるようにという意味でしょうか? 確かに、[再変換]は便利ではあるけれどそこまで多用する機能ではないので、この程度のショートカットキーでできれば十分という気がします。

「ひらがなキー再変換」と「スペースキー再変換」にまつわるリンク集

「ひらがなキー再変換」

「スペースキー再変換」

*1:Windows Vistaを使っていたときは起こらなかった気がするが自信ない……。Windows 10(8?)からかなあ……?

*2:プロパティ → 詳細設定 → 「全般」タブの編集操作

*3:「ユーザー定義」がない場合は、とにかくどこか1箇所キー設定を変更する(と同時に「ユーザー定義」が作成される)。いったん「ユーザー定義」にしてしまえば、変更した箇所を元に戻しても良い。

*4:ただし、検索ウィンドウでは掛からない。

*5: アドレスバーなどでは再変換は掛からないが、Webページが表示される部分に設置される検索窓などでは再変換が掛かる。

*6:右クリックメニューの「IME再変換」(Shift+Ctrl+Z)は再変換が掛かるが、[変換]キーでは再変換は掛からない。

*7:例えば、[半角/全角]キーは、IME OFFならON、IME ONならOFF、というように現在のモードによって挙動が変わるので、現在の入力モードを把握していないと目的のモードにできないので、使いにくい

*8:キー設定やアプリによって掛かったり掛からなかったりするのをなんとかしろよとは思いますが。

*9:[変換]キーの使い道がますますなくなりますね。

*10:Microsoft Wordの意図した挙動だとしたら、Microsoftの公式サポートページのWordショートカット一覧に載っていてもいいと思うけど……。

配列沼ビンゴ

 「使ったことのある日本語キーボード配列 - めけぽんビンゴ」というものを作りました。

bingo.mekepon.com

使ったことのある日本語キーボード配列ビンゴ。チェック10、ビンゴ0。

 思ったより多くの方にプレイしていただいています。こんな、ゲームとしては破綻しているビンゴをプレイしていただいてありがとうございます。すいません(..;)

 プレイすると、これまでプレイした人の各マスのチェック率がパーセンテージが表示されるので、興味がある方はぜひ。こんなの、ふつうはビンゴできるわけないので(^_^;)、配列沼とは無縁の方も臆さずどうぞ。「ローマ字入力だけ」「ローマ字入力とかな入力だけ」「ローマ字入力NICOLAだけ」「キーボードなんて触ったことないですよ」なんて方に参加いただけると実態に近づけるでしょう。まあ、それにしても項目もサンプルも偏りすぎているので、アンケートとしては参考にならないでしょうが……。

 配置は、とりあえず真ん中はローマ字入力、斜めラインに有名な・歴史的に重要な配列を入れて、あとは配列的・考え方・作られた時期など何かしら似ていたり関連性があったりする配列をできるだけ対称的な位置に配置しました。何となくですけど。あと、個人的趣味で昔からある配列が多めです。入り切らなかった配列もいっぱいあります。入らなかった配列の作者・使用者の方にはごめんなさい。めけぽんビンゴは最大10*10マスまで作れるのですが、さすがにこれ以上広げると難度がひどすぎるので5*5にしぼりました。

参考にした配列リンク集など

カーリング日本選手権2020は他にも名シーンがあったぞ

 先日、第37回日本カーリング選手権大会女子決勝が名シーン満載の好ゲームだっただという記事を書きましたが、本大会はそれ以外でも名シーンがありました。そこで、今回は女子決勝以外の名シーンをいくつか、局面図を交えながら振り返ってみます。

y-koutarou.hatenablog.com

男子予選 コンサドーレ-TM軽井沢

3エンド 混み合った石の動き

 のちに決勝戦で顔を合わせることになる両チームが予選第1戦で対戦。

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3E 後攻(赤)スキップ2投目前

 0-2で2点ダウンの後攻(赤)コンサドーレ、スキップ松村雄太のラストストーンを前にすごい形が残った。コンサドーレの選手が4人集まって作戦会議、石の飛ぶ角度を綿密に検討している。

 これ、どういうショットを投げたらどうなるか想像できますか? 自分は、こういう混み合った場面の石の動きが、なかなか分からないんですよね。

敦賀「これ、おもしろい形になったと思いますね。というのは石の芯より少し右側に……赤に当たってこの黄色も出ますし、これはこう、これはどこまで行くかですね。この赤は残ると思います。この赤も出る可能性ありますし、この赤も出る可能性もありますけど、もしかするとうまくいけば……赤2点を取ることができるショットになるかも知れませんね」

 いつものように石の動きの読みを詳しく説明する敦賀解説。

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3E 後攻(赤)スキップ2投目

 1・2の黄が両方出ていく形だった。狙いより少し厚く当たったが、下の黄もぎりぎりナンバー3まで押しやれて赤2点。

敦賀「少し芯だったんですけど、ただ赤に少しかすったことによって良かったですね。黄色がずれたということで」

4エンド コンサドーレの作戦会議

 コンサドーレのコミュニケーションがおもしろかったシーン。

 2-2の同点で先攻(赤)コンサドーレ、サード清水徹郎2投目を前にハウス側と投げ手側で作戦会議。ハウス側にはスキップの松村、投げ手側には清水、谷田、阿部。

 最初、スキップの松村はガードの赤の黄の間の、さらに高い位置のガードを指示していたが……。 

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4E 先攻(赤)サード2投目

(投げ手側で)

谷田「あそこ置いて」
清水「赤・赤・赤で行ったら」
谷田「俺ら微妙そうじゃない」
阿部「ショットのガードになった方がいいんじゃないか」

(ハウスと投げ手側で)

清水「そこ、俺らふさぐ必要あるかい?」
谷田「ガードするならショット上の石の上じゃない?」
松村「こっちはさ、結構……」
谷田「そっち3つ一気に切られちゃったら黄色のガードになっちゃうよ」
松村「ここ来たとしても、こっち側抜くんだよね相手」

 清水がハウス側に行く。投げ手側ではガードの赤から縦3つを一気にテイクされる手を心配している。

清水「ここ置いて、これ行ったら、俺らもうこれ取れないよ」
松村「こっち側しか抜けないんだよね相手」
清水「いや抜けてさ、これ1でしょそしたら。俺らそこにガード置いちゃったらさ、俺らもう」

 さらに、ハウス側の松村と清水の話し合いが続き、中の黄を直接テイクする手に作戦を変えた。結果は、見事にガードの間を通してテイク成功。

 コンサドーレは、松村が決断よく作戦を指示するが、清水と谷田からの指摘があって作戦を変えるというシーンを結構よく見る気がします。2018年12月の軽井沢国際でも印象深いシーンがありました。

y-koutarou.hatenablog.com

4エンド 女子決勝の伏線?

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4E 後攻(黄)スキップ1投目

 同じ4エンドの後攻(黄)TM軽井沢、スキップ両角友佑1投目。ほんの少ししか見えていない黄に向かって、速いウェイトでデリバリーする。狙い通りの場所に当てて黄からナンバー1の赤をテイクする。スルーになる危険もあったと思うけど、そこを狙うか。

 これが、女子決勝での8エンド中部電力タイムアウトで話していたショットかな。

 しかし、TM軽井沢のラストストーンは、ガードの間を縫って4フットに止めないといけない難しいドローが決まらず。このエンドはTM軽井沢が1点止まりとなった。

男子予選 コンサドーレ - TM軽井沢
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
コンサドーレ   0 0 2 0 2 0 0 2 0 1 7
TM軽井沢 1 1 0 1 0 0 2 0 1 0 6

女子予選 札幌協会-富士急

5エンド 富士急コミュニケーション

 5エンドで2-0とリードして先攻の富士急。1投目はハウス内へのドローを選択。Tラインの前で止めたいが……。解説は石崎琴美

「ちょっと伸びそう」
「ちょっと伸びそうじゃない?」
「でも止まるよりは……」
「そうだよ、止まるよりまだマシ」
「いいよ、ちょっと止まってきた」
「ラインはいいよ」

(スイープをやめる)

「あんまり最後引っ張りたくないよ」
「OK」
「ちょっと速いね」
「大丈夫かい」
「14.1」
「あらー」
「おー、また」

(Tラインを越えて止まる)

「ちょっと後ろ」
「ちょっと後ろ、失礼」
石崎「(笑)。分かりますあの気持ち(笑)。そうなんですよね、本当はT前に止めたいのにね、ちょっと行ってしまうと投げ手に申し訳ないと思いますからね」

 ボタンで止まるがわずかにT奥に行ってしまいました。前年の西室の「走ってるよー。やり過ぎたわー」を思い出す。なぜ、富士急のコミュニケーションは解説者を吹き出させてしまうのか……。

10エンド 劇場型

 10エンド。7-4で3点リードで先攻(黄)富士急、スキップ小穴桃里1投目。3点リードで大優勢の富士急だが、ここで大きなミスが出てしまう。

 半分見えている赤から左下の赤へのダブルテイクを狙う。決まれば一気にコンシードだが……。

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10E 先攻(黄)スキップ1投目

実況「当たらない!」
石崎「あれ?」
実況「中の石が、富士急の石がすべて出ました」
石崎「それも……あったか(笑)。これは、3点あるかもしれないですね」
実況「考えていた中では、富士急は一番悪い結果になりましたね?」
石崎「そうですね、はい。ちょっとやっぱり警戒しすぎたというか。なんかこう……薄くなきゃいけなかったので、ダブルにするには」

 ラインが左にずれてスルー。ボタンの黄に当たって、自分たちの黄だけなくなってしまう。これだけは避けたかったというショットになってしまった。手のひらを顔の前に縦にしてこうべを垂れる小穴。

 続く札幌協会、スキップ佐々木1投目は左下の赤にフリーズを決める。ガードの裏に赤が3つある形になる。赤を1つテイクしたとしても、シューターの黄がテイクできる位置に止まると、簡単に3点取られて同点に追いつかれてしまう。3点リードしているのに追い詰められた富士急。

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10E 先攻(黄)スキップ2投目

 しかし、小穴2投目は、1投目のミスを帳消しにするショットを決める。後ろの赤をテイクしつつ赤の前にぴったり縦に止めて、この黄は出せない。

石崎「決めてきましたね。ナイスショット」

 ナイスショットを決めたのに、小穴の表情は固いままだった。

 札幌協会はラストストーンの角度を検討するが、打つ手がない。残り時間もあとわずか。

「どう思う? ここから3つ」
「ちょっと待って」
「飛ばすしかないよね」
「いま後ろどれくらい近い?」
「もうくっついてるよ、ほぼ」
「ああ、マジかー」
「1分切った」
「でも3つ飛ばなくない?」
「後ろの赤、入ってるの?」
「入ってないよ。掛かってない」
「3つの目ある? これからも飛ばせないし……」
「赤から飛ばないっしょ」
「35秒」
「ちょっと時間ないから。こっち来れる?」
「ないんなら握手でもいいんだけど」
「ないよね」
「終わるか」

 残り時間17秒で、ラストストーンを投げずにコンシードとなった。コンシード後、札幌協会と富士急の選手が一緒になって、ラストストーンで何か手がなかった検討する「感想戦」が行われていた。

女子予選 札幌協会 - 富士急
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
札幌協会 0 0 0 0 0 2 0 2 0 x 4
富士急   0 1 1 0 3 0 1 0 1 x 7

 というわけで富士急が勝ったわけですが、富士急を応援している観戦者としてはなんと心臓に悪い試合だったことか……。自分は録画して見ていたので、残り録画時間からエキストラエンドには行かないんだろうなとは思っていましたが、4点取られて逆転負けまで想像しましたよ。

 今大会の富士急は、ロコ・ソラーレ中部電力北海道銀行を含めた「四強」の一角と見られていました。しかし予選リーグは、四強直接対決の他、チーム軽井沢にも敗れて、4勝4敗の4位でギリギリ予選リーグ通過。プレーオフでも3位-4位で北海道銀行に敗れて4位で大会終了。その北海道銀行も準決勝では中部電力に完敗して、トップとは差があるという印象が残る大会となりました。自分としては、もう1回世界選手権で富士急を見たいものだと思っているのですが……。2018年の富士急の世界選手権は実に魅力的でした。

y-koutarou.hatenablog.com

 ちなみに富士急は、次のチーム東京戦でもすごい劇場型ショットを決めてます(^_^;)

2020/06/04(木)追記:#おうちで作戦会議 Part 4

 日本カーリング協会公式Twitterで「#おうちで作戦会議」という企画が行われていましたが*1、そのPart 4で札幌協会-富士急の10エンドの局面が取り上げられました。

 さらに、富士急の選手・コーチによるリモート作戦会議の動画もアップされています。これは貴重な動画だ!

男子予選 北海道大学-チームTANI

 この試合は、自分が見た中では本大会で2番目にいい試合*2。名シーン満載でした。

3エンド 解説を上回るショット

 3エンドで2点リードの先攻北海道大学、スキップ河野2投目。ショットの選択はヒットロールだが、解説の敦賀信人カムアラウンドを推奨。

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3E 先攻(赤)スキップ2投目

敦賀「ここ思い切って、回り込んでも面白かったんですけどね。当てて内側にロールしないとナンバー1を隠すことできませんので。それができるかですね」

 ヒットロール狙いの石が進んでくるが……。

敦賀「お、良さそうですね」
実況「いい角度で当たりそうです!」
敦賀「ナイスショットですね(笑)」

 苦笑する敦賀

敦賀「ほぼ完璧です。わたし始め、いま置けたところに直接置いてくるのかなと思ったんですね。そうしますとナンバー1を完全に隠すことができる位置ですので」

 相手の石をテイクしてセンターガードの裏に入るヒットロールを決める。敦賀推奨ショットを上回るショットを決めた。

 このあと、チームTANIのラストストーンのドローは決まらず。このエンド、北海道大学が2点スチールする。4-0と序盤で優位に立った。

5エンド 踏みとどまる

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5E 後攻(黄)スキップ2投目

 さらに、4エンドも北海道大学が1点スチール。3エンド連続スチールで、5-0と大きくリード。カーリングでは、序盤で差が付くと負けている方が無理をせざるを得ず、さらに大差になってしまうという展開も多い。しかし、ここでチームTANIは踏みとどまる。

 後攻(黄)チームTANI、スキップ谷のラストストーン。ガードの間をすり抜けて、黄をまっすぐ押してナンバー1の赤をテイク。難度は高く、失敗すればまたスチールという場面だった。飛ばした黄も止めて、右下の黄もメジャーで計測してナンバー2で黄が2点。ここからチームTANIの逆襲が始まる。

8エンド 満面の苦笑い

 試合は進んで8エンド。6-3で北海道大学の3点アップ。しかも8エンド後攻。まだ北海道大学が大優勢といえる点差。

 先攻(黄)チームTANI、スキップ谷1投目はフリーズ狙い。ドローは狙ったラインよりやや外側を走っている。

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8E 先攻(黄)スキップ1投目

「ちょっとあるよ」
「6、7、7」
「クリーンだけ、クリーン」
「ウェイトオンリーで」
「8」
「クリーン」
「ウェイトオンリーで」
「9はない」
「8ならごっつんさせて外の方がいいよ」
「7」
「8」

 コールが飛び交うが……。

「おお、曲がったわ」
「イエスエスエス
「わからんわからんわからん」

 何か噛んで急に曲がった。さらに中の赤にかすってコースが変わり、当初の狙い通りの位置にピタリ。満面の苦笑いの谷。

谷「いま無茶苦茶噛んだよね」

 このあと、4フットに黄に1・2持たれた状態で迎えた北海道大学のラストドローは、わずかに伸びてしまった。今度はチームTANIが2点スチール。これで試合はわからなくなった。

9エンド 9エンド1点ダウン先攻の作戦選択

 しかし、9エンドで1点リード側が後攻なので、スコアだけを見ればまだ北海道大学が十分有利。

 そして、先攻(黄)チームTANI、スキップ2投目で作戦選択の局面を迎える。センターラインが空いていて先攻のチャンスが少ない形。単にヒットステイすればブランクになる可能性が高い。チームTANIのスキップ谷はあくまで1点取らせを狙っているが、解説の敦賀信人はブランクを推奨。

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9E 先攻(黄)スキップ2投目

敦賀「これ、入れ替えてゼロゼロにしてもいいと思いますね。くっつけにいってもし短いようでしたら2点取られて3点差になる、可能性もあるので。くっつけにいくショットというのは置きにいくショットの中で、難しいと思うんですね」
「前の方が1点取らせられる」
「8?」
「付けるとやばい。完全に付くなら付いてもいいけど」
「付けた方がブランクにされて嫌かも。8くらい」
「バック4くらいだな」
「ピールするには難しくて、2点取るにはジャムりそうな位置、がベスト」
「芯でまっすぐ付くんならそれはそれで最高だけど、ちょっとでもずれたらブランクにされちゃうから」
敦賀「ちょっとでもずれたら、ブランクどころか2点取られる危険性もあるので。1点差で最終エンドを迎えるのであれば全然大丈夫な場面なんですね」

 狙いは、完全にフリーズではなく、あえて赤を少し押して、黄と赤の距離を作ってダブルテイクを難しくする手。しかし、少し斜めに押してしまって黄の後ろに赤があまりかぶらない配置になってしまった。北海道大学は2点チャンス。ここは敦賀の不安通りになってしまった。ややうつむき加減の谷。

 しかし、北海道大学のラストストーンは、黄は後ろの赤に引っかかって残り、シューターの赤は右にロールして出ていってしまう。黄が1点スチール。天を仰いだ北海道大学スキップの河野。結果的にはチームTANIの狙い通りとなった。試合は同点で最終エンドを迎える。

10エンド カーリングの醍醐味

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10E 後攻(赤)スキップ2投目

 そして、局面は後攻(赤)北海道大学スキップ、河野2投目。同点の最終エンド。カーリングの醍醐味、プレッシャードロー。

 この場面はNHKスポーツのTwitterで動画が見られるので、とにかくこのショットを見てください。当たったらまずい石も見える中、4フットに入らないといけないラストドローをボタンに決めて北海道大学勝ち。ナイスゲーム!

男子予選 北海道大学 - チームTANI
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道大学 1 1 2 1 0 1 0 0 0 1 7
チームTANI   0 0 0 0 2 0 1 2 1 0 6


男子決勝 コンサドーレ-TM軽井沢

4エンド 両角友佑のスーパーショット

 最後は男子決勝、TM軽井沢スキップ、両角友佑のスーパーショットを紹介。 

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4E 先攻(黄)スキップ2投目

 ショットの前に4人集まって作戦会議。石が散っていていろいろな手がある。左上の黄を飛ばして中を狙う手を選択。黄が赤を経由して中に飛んでいって、なんと赤3つをはじき出すトリプルテイク。シューターの黄も残って黄が1・2でスチールチャンス。掛け値なしのスーパーショット。

 NHKスポーツのTwitterの動画は、通常ラストストーンしか配信されないのが、このシーンが配信されている。逆にラストストーンがない。コンサドーレスキップ、松村雄太のラストストーンはドローで1点を狙うが、わずかにウェイトが足りずTM軽井沢の1点スチールとなった。

敦賀「ただここもよくナンバー2にしたなと思いますね。ナンバー1、ナンバー2いい位置でしたし、ああいう決められ方をしますと、ものすごくプレッシャーの掛けられるんですけど、よく1点に抑えたなと思いますね」

 エンド後、両角と松村が、逆側のハウスに移動しながら今のショットについて何か話している姿が映る。この2人、試合中にも何か言葉を交わしている姿がたびたび映っていました。

男子決勝 コンサドーレ - TM軽井沢
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
コンサドーレ 2 1 0 0 0 0 2 0 1 x 6
TM軽井沢   0 0 1 1 0 0 0 2 0 x 4

カーリング日本選手権2020、女子決勝の名シーン

 2020年2月8日から16日まで第37回日本カーリング選手権大会が行われていました。今年も熱戦が繰り広げられていたわけですが、中でも女子決勝、ロコ・ソラーレ-中部電力がとてもおもしろい試合でした。ナイスショットもあり、ミスショットあり、作戦面やタイムアウトの場面などでも見所が多く、最後まで接戦でどちらが勝つかわからない展開。

 だからなのかどうかは分かりませんが、2月27日(木) 19:00から『熱戦凝縮!「カーリング日本選手権2020」』という番組が放送されるそうなので、どんな取り上げ方をされるのか楽しみです。

www2.nhk.or.jp

 と言うわけで、例によって今回も局面図を交えながら、女子決勝の名シーンを振り返ってみます。

1エンド ヒットロール一発で逆転

 お互いにまだアイスの状態が読めていないのか、カマーもヒットロールもいまいち決まらない立ち上がり。後攻ロコ・ソラーレのセカンド鈴木夕湖2投目で、残っていたガード2つをテイクしてブランク模様かと思った。

カーリング図 1エンド 先攻中部電力・フォース北澤2投目 ヒットロールを決める

1E 先攻(黄)フォース2投目

 しかし、そんな単純な作戦は採らない両チーム。ハウス左上にガードの位置で黄が残ったのを見て後攻ロコ・ソラーレ、スキップ藤澤五月2投目はすかさずカマーに行く。しかしこれがガードにかすって丸見えでハウスに入る形になって、図の投球前の局面。

 ここで先攻(黄)中部電力、フォース北澤育恵2投目。距離のあるヒットロールを完璧に決める。解説はおなじみの石崎琴美

石崎「途中まではロコ・ソラーレ、ブランクにできるなと思ってたんですけど、逆転しましたね」

 ロコ・ソラーレは仕方なくドローで1点取る。ブランクになりそうだったエンドを北澤のショット一発で逆転した。

3エンド 再び北澤

カーリング図 3E 先攻(黄)中部電力 フォース北澤1投目 赤のポケットの前にフリーズを決める。

3E 先攻(黄)フォース1投目

 2エンドは中部電力が1点。1-1で3エンド。

 早くも吉田夕梨花のウィックが炸裂したりして、右上にガードのかたまりを残したまま進む。ハウスの中の赤2つは、ロコ・ソラーレのサード吉田知那美の2投で作ったもの。この2投のヒットロールとカマーがともにナイスショット。このエンドはロコ・ソラーレが複数点を取るかと思った。

 しかし、ここで先攻(黄)中部電力のフォース北澤1投目のショットが決まる。北澤はこの試合初めて投げるドローだったが、ぴったり赤2つの前にフリーズしてこの黄は出せない。再び北澤のナイスショットで追いついた。

 この後はお互いに難しいショットを決めきれず、4フット付近の石はこのまま動かず。ロコ・ソラーレが1点取るエンドとなった。

5エンド ダブルロールイン失敗

カーリング図 5E 後攻(赤)ロコ・ソラーレ スキップ藤澤2投目 ダブルロールインに失敗。

5E 後攻(赤)スキップ2投目

 4エンドは中部電力が2点を取って、3-2で中部電力がリードして5エンド。

 ハウスに石がない状態でロコ・ソラーレ(赤)のラストストーン。スキップ藤澤はダブルロールインを狙ったが、当たり薄すぎて惜しくも失敗。2点取る狙いが1点取ってしまう結果となった。

 実は、この局面になる直前の北澤2投目は、センター付近の赤のガードの裏にカマーを狙ったが、まるでラインが合わず、赤のガードにまともに当たって少し押すというミスショットだった。このミスショットがあったためにダブルロールインを狙いやすい形になって、ダブルロールインを狙ったためにロコ・ソラーレは1点取ってしまった。もし、このミスショットがなかったとしたら、簡単にブランクになっていたかもしれない。ミスしたことがかえって良い結果をもたらすということはカーリングではよくある。ミスした結果どうするかも含めてカーリング

 この試合は、ここまで藤澤のショットがいまいち決まっておらず、中部電力が優勢かと思ったのだが……。

6エンド テイク失敗でスチール

カーリング図 6E 後攻(黄)中部電力 フォース北澤2投目 テイクに失敗してスチールを喫する。

6E 後攻(黄)フォース2投目

 しかし、続く6エンドは中部電力にミスが出てしまう。

 後攻中部電力(黄)のラストストーン。北澤はガードをかわしてのテイクを狙ったが、当たりが薄すぎて赤が残ってしまう。ロコ・ソラーレが1点スチール。ここまでナイスショットを連発していた北澤だが、ここで痛いミスが出てしまった。これで試合の行方は分からなくなった。

 スチールは最悪で、テイクは確実に決めてせめて1点取らないといけなかった。と言いたいところですが、これまでの北澤を見ていたら、このブランクも成功しそうだと思って見ていました。これは決めてほしかった。ショット前には「しっかりは出したいね」「芯で、1点取る」という話もしていたのだけど。

7エンド ダブルテイクでブランクか、ドローで1点か

 中部電力が1点ダウンの後攻で迎えた7エンド。ここも中部電力は2点パターンを作っていたが、フォース北澤1投目のドローがショートする痛いミス(右上の黄)。ハウス内に黄がなくなって図の局面。中部電力(黄)のラストストーン。残った赤をダブルテイクしてシューターも出ていくブランクも狙えるが、どうする? 中嶋と北澤が作戦会議。

カーリング図 7E 後攻(黄)中部電力 フォース北澤2投目 ダブルテイクでブランクを狙うか、ドローで1点を取るか。

7E 後攻(黄)フォース2投目前

中嶋「難しいかなこれ」
北澤「ここに当たれば、行きそう」
中嶋「ステイとかだとちょっとまずい」
北澤「後攻がいいんだったら……」
中嶋「ここにする?」
北澤「1点取って、8エンド相手後攻……」

 松村と石郷岡もやってきて話し合いに加わる。

北澤「ブランクにするか、1点取るか」
松村「ブランク楽そう?」
中嶋「ちょっとね外当たればいいんだけど、芯とかだとこっちの方が近くなっちゃうんだよね」
松村「まあ行くは行く」
中嶋「ブランクにして8エンド目で、そっちの方が流れ的には良さそうだよね」
松村「ラインがどう?」
北澤「そうなんだよね。ドローする?」
松村「それでいいと思う」

 最後の方までどちらになるのかわからない話の流れだったが、最後はあっさり決まってドローで1点と取るという選択になった。同点の8エンドを後攻で迎えたロコ・ソラーレが優位に立った。

8エンド 中部電力タイムアウト

 同点、ロコ・ソラーレ後攻で8エンド。先攻(黄)中部電力、フォース北澤の2投目を前に図の形。 ハウス側に中嶋と北澤、投げ手側に松村と石郷岡で作戦会議。

カーリング図 8E 先攻(黄)中部電力 フォース北澤2投目の投球前 ガードの赤を飛ばすランバックが2通りあって防ぐ手段がない。

8E 先攻(黄)フォース2投目前

中嶋「これと、これは相手もいじれないね。あとドローくらいしかないか? 前にする?」
北澤「これと?」
中嶋「こっちからドローと、こっちと。それか前にする」
松村「ボードとかハック系で黄色触るのは微妙?」
北澤「そうだねー、これがね出てきちゃう。この黄色が」
松村「あー、簡単に2点になっちゃうかい」
北澤「あと、これと、これが(左の赤からとセンターの赤からのランバック)があるんだけど」
中嶋「でもこれやってここ止まれば、そしたらさ、もうちょっと隠れるからさ……でも相手ピールでもよくなっちゃうか。そっか。これ微妙か?」
石郷岡「それ出しておけば2点?」

 松村もやってきて作戦会議に加わる。

中嶋「自分のこういう感じで」
松村「ここに止まりたいね、だったらね。バックラインとかじゃ遅いか」
北澤「これがね、出したいよね、2点でいいんだったらパーンってやりたいけどね」
松村「でも2点だったらしょうがないよね」
中嶋「取るか。うん、取ろう」
松村「タイムアウトお願いします」

 話し合いが続いた末にタイムアウトを取る。両角友佑コーチが降りてくる。

両角「こっちからカマーとかフリーズだとさ、逆にランバックで止まる石が増えちゃうじゃん。後ろもさ、何かウチのキャッチャーになるんだったらいいけどそうでもないでしょ。それだったらこっちから1個出しとくというのは1つ手かもしれないなと、いまの話聞いてると思う。
 それでさ、いま言ったさ、ウェイトの話なんだけど、しっかり出しといた方が。最低でもあの黄色よりはさ、赤が出てないと意味がないから。すごく、薄い、8、9、の方がいいと思う。8、ノーマルの辺り、かなって思うな。8、9だと2センチ当たれば余裕で出る。俺この前さ、あっ……、コンサとの予選のさ、これくらいのこうやって出したの覚えてる? あれ8秒で1センチくらい当たってるんだよね。それで十分出てるから。8秒であればかなり薄くても。
 あとはラインの選び方ね、それだけ慎重に。まずはしっかり出す。あとはなるべく狙い通りのとこに」

 時間いっぱい使って具体的なアドバイスを送る両角コーチ。自身がTM軽井沢の選手として出場したコンサドーレ戦の経験も踏まえた話も出た。

カーリング図 8E 先攻(黄)中部電力 フォース北澤2投目 ガードをかわして黄に薄く当てて赤を出すテイクアウトに成功。

8E 先攻(黄)フォース2投目

 黄に薄く当ててのテイクアウトを選択。狙い通りの場所に当てて、赤はしっかり出して黄はほぼ動かずナンバー1キープ。しかし、赤には2点チャンスが来ている。

 この場面、自分が最初に見たときは「長い作戦会議をしたのに、ロコに2点チャンスを与えてしまったなあ」と思ったんですが、この局面、中部電力は3失点のピンチだったんですね。ランバックで12時方向の赤に触ると黄は簡単に出てしまう。ランバックに使える赤は2つある。両方を防ぐ手はない。そして、どこに黄をドローしても、少しでもずれたらやはり3失点ピンチだし、かえってランバックで飛んできた赤が出ていくのを止めてしまうかもしれない。それだったら、確実に赤を出しておけば悪くても2点で済む。そして確実に赤を出すならウェイトは……。というタイムアウトの話だったんですね。

 このあと、ロコ・ソラーレ藤澤のラストストーンは、黄に当てて押し出してシューターは残って2点というショットを狙ったが、わずかに右にそれて、黄にかするだけでほぼスルー。中部電力の1点スチールとなった。この試合、まだ藤澤のショットが決まらない。同点の8エンドをスチールして、逆に中部電力が優位に立った。勝負の行方はまだわからない。

9エンド ガードでも良かったのでは?

カーリング図 9E 先攻(黄)中部電力 フォース北澤2投目 ドローが短くなって相手にダブルテイクのラインを残してしまった。

9E 先攻(黄)フォース2投目

 後攻(黄)中部電力、フォース北澤2投目。センターガードの裏へカマーだが、やや短かったのが致命的。相手にダブルテイクのチャンスを与えてしまった。このドローを投げるなら、少なくともハウス後方の赤よりも内側まで持ってきてナンバー1・2・3を作らないといけなかった。

カーリング図 9E 後攻(黄)ロコ・ソラーレ スキップ藤澤2投目 距離のあるダブルテイクアウトを決めて2点。

9E 後攻(赤)スキップ2投目

 ロコ・ソラーレ(赤)藤澤のラストショットは狙い通りのダブルテイクを決めた! ブラシを掲げて笑顔の藤澤。ここまでショットが決まっていなかった藤澤だが、土壇場でビッグショットを決めた。

 この場面、黄は1・2持っているので、ダブルテイクのラインをふさぐガードという選択もあったと思います。9エンド1点リードの先攻。1点スチールの価値も確かに高いが、1点取らせの価値も高い。何より3失点は良くない。藤澤のダブルテイクはナイスショットでしたが、もう少しで3点の可能性もありました。ガードで確実に1点取らせができるならその方が良かった気がします。もっとも、ガードを選択して、そのガードがずれて同じダブルテイクを決められていたら、3失点どころか4失点になっていましたが……。

10エンド 2点目を取る手段はあるか?

 6-5で後攻中部電力の1点ダウン。10エンド後攻1点ダウンはカーリングで最も際どい点差。終盤フリーズ合戦になって、先攻(赤)ロコ・ソラーレ、スキップ藤澤2投目を前に図の形。ナンバー1の黄は強いが、ナンバー2の赤も強く、黄は2点目を置くスペースがない。赤としては黄が2点取る手段を消したいが、黄が2点取るにはどんな手があるか? タイムアウトを取って考えるが……。

カーリング図 10E 先攻(赤)ロコ・ソラーレ スキップ藤澤2投目の投球前 ボタン付近にスペースがない。

10E 先攻(赤)スキップ2投目前

鈴木「隙間はちょっとある」
藤澤「ここから2点はね、うちらが何かしない限り」
知那美「ない?」
藤澤「ない」
鈴木「これ、こうは?」
知那美「触らなくていいんじゃないかな。ガードじゃない?」
藤澤「でもガードって言ってもさ、これで相手2点取るの何があると思う? これか」
知那美「でも狙うかい? こっちに当たったら終わりで」
鈴木「これじゃない?」
藤澤「でも、ガードしてもさ意味なくない?」

 小野寺亮二コーチが降りてくる。

知那美「何もないんだよね、相手ここから」
小野寺コーチ「これで相手がどうなったら2点があるか」
知那美「うちらが余計なことしたら」
藤澤「余計なことするか、赤のノーズ? だけど黄色に行ったら終わり」
知那美「いやガードでいいと思う」
藤澤「いやどこにガードするか」
小野寺コーチ「ゆっくり考えよう」
知那美「センターでいい? こっち見せていいもんね。これバーンとやったところでさ、何もないもんね」
小野寺コーチ「何があるか」
藤澤「相手赤のノーズしかないんですよ」

 結局、中には触らないという選択。他に有効な手もないので、一応ランバックと左からのドローラインをふさぐガードを置いた。

 そして中部電力のラストストーン。相手のストーンが止まるや否や「何かある?」から始まって、中嶋、北澤、松村がハウスに3人集まって作戦会議。石郷岡は投げ手側から見ている。

カーリング図 10E 後攻(黄)中部電力 フォース北澤2投目 ボタンの隙間のないところに押し込むドロー。惜しくもナンバー2は取れず1点。

10E 後攻(黄)フォース2投目

北澤「アウトターンからいけそうじゃない? 半分……3分の2でしょ? ちょっと中に」
松村「これは絶対こっち側にはなるからさ。ギリギリ狙って。それか外からドロー?」
石郷岡「黄色の内側の隙間はありそうだけど」
北澤「ちょっと押せないとダメだね」
中嶋「ちょっと内側、ここって感じ?」
松村「絶対抜けることはないから、相当速くない限り」
北澤「ここに当てたい」
松村「ギリでこれかわせば」
北澤「ちょっと狭めにとってこれに当たってもいいや」

 右からガードをかわしてボタンに入るドローを狙う。ボタンに石が入ってくる! わずかにナンバー2は取れず! 同点でエキストラエンドへ。

 こんなラインがあったのか。これがあるならロコ・ソラーレはこのラインをふさぐガードを置くべきでしたが、どうだったんでしょう? 手前の赤もギリギリかわしたし、これが精いっぱいだったかもしれません。

11エンド 対照的なアドバイス

 エンドの序盤にちょっと珍しいシーンがあった。吉田夕梨花の1投目はウィックだが、ガードに厚く当たって押してしまった。黄がバックラインギリギリまで下がって越えたかどうか。

藤澤「お、ほほー、びみょー」

 審判が三角定規のような物を持ってきてラインを越えているかどうか判定する。選手から「初めて見た」という声が聞こえた。

石崎「わたしも初めて見ました、これ」

 結果はラインに乗っていないという判定でウィック失敗。この後、2投目もウィックを狙うが、これも厚く当たってシューターがセンターライン付近に残ってしまう。珍しく、吉田夕梨花がウィックを2投とも失敗した。中部電力チャンスかと思ったが、ここから後のガード外しはロコ・ソラーレも失敗せず、スチール形にはさせない。

 そして中部電力(黄)フォース北澤1投目を前に図の形。すかさずタイムアウトを取る。 

カーリング図 11E 先攻(黄)中部電力 フォース藤澤1投目の投球前 センターラインが空いた状態でガードをどこに置くか。

11E 先攻(黄)フォース1投目前

両角「まだガードでもいいと思う。どっちにしろガードは、払わないわけにいかないじゃん。自分たちでもそうするじゃん。一番大事なのは最後ドローを置く位置だよね。こういうときの鉄板は、4フット半分掛けた、Tライン上だよね。右か左か。たぶんインアウトのテイク狙うんだよね相手は。絶対どっちか狙うんだけど、俺のオススメはアウトターンを残す。だからここのドロー、かなって思ってる。
 いずれにせよ次はガードでいいじゃん。やっばりセンターガードは絶対必要だからね。ああ距離は全然、いまの赤の並びかでいいと思う。こっちの方が、最後にアウトターン相手に残す方がいいんじゃないかな。
 (見えててもいいってこと?)全然見えててもいい。だってテイクしてもちょっとやな位置じゃん。隠すってのが目的じゃなくて、どれだけテイクもしにくくてドローも狭くするかというのが一番大事」

 8エンドに続いて、時間いっぱい使って具体的なアドバイスを送る両角コーチ。

 ショットの選択はセンターガード。センターライン上で赤の少し下あたり、やや長めのガードになった。アドバイスの中で「赤の並びかでいいと思う」という話もあったので狙い通りだと思うが……。

 続いてロコ・ソラーレもスキップ1投目すかさずタイムアウト

知那美「相手がここに置いて来たとしたら」
鈴木「こう取る?」
知那美「結構難しいもんね」
藤澤「これロングじゃん。最悪こっちになって、相手決められたら……」
鈴木「ああ打てばいいもんね」
知那美「ああそうかそうか。じゃあここにするか」
梨花「こっちが最悪だもんね」

 作戦会議はコーチが来る前から結論が出そう感じ。降りてきた小野寺コーチは開口一番「終わったか?」。

知那美「相手のガードがロングだから、ウチら先に入れて、後ろになっちゃって相手がいいとこあれても、ロングだから出せるんで」
小野寺コーチ「最後の投げるやつをどうするかだけイメージして、よし行こう」

 中部電力とは対照的に、うなずきながら選手の考えた作戦を聞き、アドバイスは短く終わる。ショットの選択は、ガードピールではなく、カマー。左のラインからセンターガードの真裏、Tライン前でボタンに止めるナイスドロー。この試合の前半はショットが決まっていなかった藤澤だが、終盤の勝負所で決めてきた。小野寺コーチも笑顔。

 このカマーがあるなら、中部電力のガードの位置がどうだったか。もっとハウスに近いガードでないといけなかったのかもしれません。

 この後、中部電力北澤2投目はガードをギリギリかわしてその赤をテイクしてナンバー1を取るが、わずかに右にロールしてガードから半分見えてしまった。最後は藤澤がその黄を芯でテイクして1点。ロコ・ソラーレの優勝となりました。笑顔で涙を流す藤澤。ナイスゲーム。

 試合後のインタビュー。

藤澤「私の最終ショットの前のショットで相手の前の石を開いて、最後にドローショットを投げるというのが一般的な作戦ではあるんですけど、投げたくなくて(笑)。プレッシャーがすごすぎて、ちょっとごめん先に投げさせてほしいというのをみんなにお願いして」

女子決勝 LOCO SOLARE - 中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
LOCO SOLARE 1 0 1 0 1 1 0 0 2 0 1 7
中部電力   0 1 0 2 0 0 1 1 0 1 0 6

www.nhk.or.jp

日本女子カーリングの主な大会の出場チームと成績
オリンピック 日本選手権優勝 世界選手権
2020 - ロコ・ソラーレ ロコ・ソラーレ(?位)
2019 - 中部電力 中部電力(4位)
2018 LS北見(3位) 富士急 富士急(10位)
2017 - 中部電力 ※不出場
2016 - LS北見 LS北見(2位)
2015 - 北海道銀行 北海道銀行(6位)
2014 北海道銀行(5位) 中部電力 ※不出場
2013 - 中部電力 中部電力(7位)
2012 - 中部電力 ※不出場
2011 - 中部電力 ※不出場
2010 チーム青森(8位) チーム青森 チーム青森(11位)

女子決勝以外の名シーン

y-koutarou.hatenablog.com