カーリング日本選手権2017の思い出のシーン

 もう1ヶ月前の話になりますが、1月30日から2月5日まで第34回カーリング日本選手権が開催されました。男子はSC軽井沢クラブが優勝して平昌五輪代表決定。女子は“古豪”の中部電力が優勝。平昌五輪代表は9月8日~10日に行われるLS北見-中部電力の代表決定戦にもつれ込むことになりました。

 今回はNHK BSの中継が連日2試合あったことに加え、NHKの特設サイトで配信があり、Ustream中継も合わせるといくら時間があったも足りない、カーリングファンにはたまらない大会期間となりました。自分もたっぷり見ることができました。その中で、いくつか思い出深いシーンがあるので、局面図を挟んだり、他のサイトのリンクをしたりしつつ記録しておきたいと思います。

www.nhk.or.jp

「ピョンチャン五輪への道 カーリング日本選手権」

 まず、大会初日にNHK BSで放送された「ピョンチャン五輪への道 カーリング日本選手権」という番組から、富士急・小谷優奈の言葉。

 確かに年齢も出身地もバラバラなのがおもしろいチームですが……。でも、実際その通りだったw

1/30(月)北海道銀行 - 中部電力(予選)

松村千秋の4点ショット

 大会前は、自分の中では中部電力はベスト4に入れるかどうか、というイメージでした。それが一変して「もしかしたら中部電力はやるかもしれない」と思った試合。

 第7エンド。中部電力・松村千秋のラストストーンの4点ショット。先攻のラストショットの北海道銀行小笠原歩のガードがいい位置に置けなくて(ハウス右手前の赤)、4点ショットのルートを残してしまいました。これで7-1となって勝負あり。

 このショットを決めたときの、解説の市川美余のはしゃぎぶりがすごかったw

清水のダブルテイクアウト

 ところでこの7エンド、途中までは北海道銀行がいい形を作れていて、むしろスチールできそうな感じでした。解説の市川美余も「中部電力は注意してほしいですね。センターガードが2つありますので」「中部電力の方がセンターガードを触らなかったので、リスクを背負いすぎましたね」と言っている。

 その流れが変わったのがサード清水絵美の2投目。2つ石の間をぎりぎり抜けるダブルテイクアウトとなったが、2つ目は狙っていたのかどうか。これがなかったらどうなっていたか、と思います。あの赤が残っていたらハウス上部の黄色はナンバー1にはならない。中に押すルートはいくつかあるが、難しいショットになっていただろう。これがなかったら4点ショットもなかったし、そうするとこの試合もどうなっていたか、するとこの後の両チームもどうなっていたか……。

予選 北海道銀行 - 中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道銀行   0 0 0 0 1 0 0 1 - - 2
中部電力 0 0 1 2 0 0 4 0 - - 7

1/31(火)LS北見 - 札幌学院大学(予選)

 札幌学院大学の“噂の美女カーラー”夏井坂真由。投げたストーンがガードに当たりそうになって名言が飛び出す。解説は石崎琴美

夏井坂「やめてやめて、やめて。ちょっと待ってやめて」
石崎「(笑)」

 こういう選手の言葉が聞こえるのがカーリング中継の醍醐味ですよね(^_^;)

 札幌学院大学は小学4年から同級生の4人でやってきたチーム。今回の日本選手権で一区切りだそうです。

予選 LS北見 - 札幌学院大学
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
LS北見 3 0 2 0 0 1 0 1 0 - 7
札幌学院大学   0 1 0 2 1 0 1 0 1 - 6

 ところで、結果的には女子でベスト4に残れなかったチームでNHK BSで中継されたのは札幌学院大学だけでした(2試合)。予選リーグの段階ではもっといろいろなチームの試合を中継してほしかった。こういう試合はそれぞれの気持ちの入ったショットが見られるのでおもしろい。かつては、チームフジヤマ - 青森県協会とか中継していたし。

 今回の日本選手権で0勝8敗の最下位に終わったチームの様子を伝えるページがあったので、リンクしておきます。

2/2(木)SC軽井沢クラブ - 札幌(予選)

松村のダブルテイクアウト

 “絶対王者”のSC軽井沢クラブが日本選手権で2年ぶりに黒星を喫した試合。

 7エンド。先攻札幌、サード松村雄太2投目。ガードから飛ばしてのダブルテイクアウトを決める。このエンド、SC軽井沢に1点取らせて徐々に王者を追い詰める。

相手の石だけ出て行く

 8エンド。後攻札幌、スキップ阿部晋也2投目。先攻SC軽井沢のスキップ両角友佑のラストショットでフリーズが決まったように見えたが、そうではなかった。ちょうど赤だけが出て行って黄色が残るルートが残っていた。右下の黄色は惜しくも残らなかったが、黄色が2点。2エンド残して3点リードと優位を広げる。

 この試合、現地で観戦しました。序盤から札幌がややリードしているがSC軽井沢も離されない。結局最後はSC軽井沢が逆転するんだろうと思って見ていたところで、7エンド、8エンド連続のビッグショット。いよいよSC軽井沢が負けるのか。それでも9エンドで2点取って最後までもつれる。客席も落ち着かなかった。

予選 SC軽井沢クラブ - 札幌
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 0 3 0 0 0 1 0 2 0 6
札幌 0 2 0 0 2 1 0 2 0 0 7

2/2(木)富士急 - LS北見(予選)

 自分が観戦に行った日の試合ですが、夜の試合だったので現地では見られませんでした。見たかったなあ。名シーン満載の試合でした。

 3エンド。フォース西室淳子の1投目を前に何やらもめている富士急。スキップの小穴桃里がハウスから「外からがいい?」とチームメイトに呼びかけるが反応がない。自分を指さして「外からがいい?」と声の大きさを上げながらさらに2回呼びかけるががまだ反応なし。最後は「外からでいーい?」と大声でさけぶ。

 西室、ようやく投球体勢へ。しかし、ヒットロール狙いが石1個分以上外れてスルーする大失投となってしまう。小穴の元へ近寄る西室、開口一番「これ石違う。私のじゃない。私の石じゃない」。しょんぼりしてハウスに立ちつくす小穴。

 西室はラストストーンもハウスにも届かない大ショートになってしまい、LS北見の3点スチールとなる。3エンド終わって0-6と早くも大差がついてしまいました。エンド後、みんなで反省。

小穴「石の確認、気をつけて」

 何やってるんだか……。

 しかし、この試合はこのあと接戦になります。迎えた7エンド。後攻富士急サード小穴2投目の前の一幕。解説は敦賀信人

石垣「平行でいいの?」
西室「うーん、そうだね。でもヒットロールあるよね(つぶやく)。どこがいい桃里ちゃん。ここでいいよね?」(ガードの裏のT前を指しながら)
小穴「ダブルがない位置がいい」
敦賀「(笑)」
小穴「T奥の方がいい」
西室「えーっとある? 平行?」
小谷「T奥」
小穴「(平行だと)近そうだよね。あー、後ろの方がいいかも」

 しかし、西室が息切れするくらい一所懸命スイープしたのに(バイススキップなのに……)、奥まで行かず平行近くに止まってしまい。次のLS北見スキップ藤澤に簡単にダブルテイクアウトされてしまいました。

 9エンド。後攻・富士急はフォース西室1投目を前にタイムアウトをとる。

西室「タイムでーす。タイマーの方~」

 コーチが来る前から盛んに意見を言い合う。ハウス左側のルートを主に検討している。

「3点取りたいな。いじるかー」
「最後でもいいと思うんだよね。先に行ってもいいかな」
「五月ちゃん速いのあるからバーンと来るかもしれないじゃん」
「だけど、ここに付けば絶対これに引っかかる」
「それがすごいベストだけど」
「そうなんだよ。変なとこに置くとさ、そこからあくでしょ」
「ただ、これはこうなってもいい」
「それかここってことでしょ」
「どっちがいいかな」
「置くんだったらここの方がいい」
「間違いはないけど」
「うーむむむ」
「まあ相手からフリーズがあるのはこっちからだけど」
「そうなんだよね。こっちはもう大丈夫で、こっちがあるよね」
「ここか」
「ここ入りたいな」
「どっちがいいですかね?」

 西室雄二コーチ(西室淳子の夫)到着。考えてなかったハウス右側からのルートを提案する。

石垣「こっちから?」
西室「まじで?」
小穴「こっちから!?」
西室・小穴「えええええ?」

 コントかよw 結局、コーチの意見は採用されず、左側から中央へのドローという選択になりました。「命がけで」。

藤澤のヒットロール

 その9エンドの先攻・LS北見スキップ藤澤の2投目。ヒットして角度を変えて中央の石を打ち出す。これに失敗していたら3点取られていた可能性もあるリスクの高いショットだったと思うのだけど、見事に決めた。富士急は西室の最後のドローも決まらず1点止まり。

ガードはどこに置く?

 最終10エンド。1点ビハインドで先攻の富士急は何が何でもスチールが必要。逆に、LS北見はひたすらテイクアウトで失点を防ぎに来る。先攻富士急のサード1投目の前でこの局面。先攻で攻める場合はセンターガードを置くのがセオリー。「絶対に入れてやる(ホッグラインを越える)」という言葉も聞こえるスイープでセンターガードを置き続けた富士急だったが、解説の敦賀信人は否定的だった。

敦賀「できれば入っている赤をガードした方がいいと思うんですね。センターに置きますと、ガードと角度ができますので2つ出される危険があるんですね。いま入っているストーンはそんなに弱くもないと思うんですね。いい位置にあると思いますのでこのストーンを大事にした方が、私はいいのではないかと思いますね」

 この後、敦賀の言葉通り、LS北見サード本橋麻里1投目でガードとハウス内のダブルテイクアウトを決められて勝負あり。

予選 富士急-LS北見
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
富士急   0 0 0 1 3 0 2 0 1 0 7
LS北見 1 2 3 0 0 1 0 1 0 1 9

2/4(土)北海道銀行 - 富士急(3位 vs. 4位)

 決勝トーナメント3位 vs. 4位。負けた方は平昌五輪出場の可能性が消滅する。

 試合は富士急がまたも序盤から連続スチールされて北海道銀行優勢。富士急のこの立ち上がりの悪さは何なのか……。昨年の決勝もそんな感じだった記憶がある。

 7エンドで3点ビハインドの富士急、サード1投目を前にしてこの会話。

西室「ねえ何点ほしい?」
小穴「3点(笑) 取れるだけ取りたい」
西室「OK どうするかなじゃあ」

トリプルテイクアウト狙い

 その7エンドの後攻・富士急、フォース西室のラストストーン。NHK『アスリートの魂』でも取り上げられたシーン。

 選択肢は2つ。1つは真ん中にドローして1点取る。すると2点ビハインドで8エンド先攻となる。逆転の可能性もなくはないが厳しい。もう1つはトリプルテイクアウト。成功すれば2点。1点ビハインドで8エンド先攻。逆転の可能性はぐっと上がる。しかし、失敗して大量失点スチールとなれば試合は決まってしまう。そのときの会話。

西室「1点取って決死のアレにするか、2点取って……」
小穴「でもアングルあるんだよね」
西室「どっちがいい?」
石垣「やる? やらない?」
西室「わからん。アングルはあるけど」
小穴「でもあと3エンドしかないでしょ」
西室「やる? やるか」

 結果は、惜しくも2つめの赤が出きらず、ナンバー2が取れず1点止まり。

 8エンド。先攻・富士急、フォース西室の2投目。ヒットロールを決めて中央のガードの後ろに隠れればスチールもあるかも?という場面だったが、ガードに当たってしまう。このエンドで北海道銀行が決定的な3点を取った。

敦賀「ここはもったいなかったですね。いま、投げる前に少しコミュニケーション不足があったんですね。というのは、西室さんはインターンで投げると思っていたのが、掃き役が『アウトターンで指示してるよ』って、言われて変えていきなり投げたので。きちんとそこをもう一度確認して、しっかり一呼吸置いてから投げれば良かったんですけど」

ダブルロールイン狙い

 9エンド。富士急は8-3で5点ビハインドの後攻。現実的には逆転はない点差だが、まだあきらめない。フォース西室のラストストーン。単にハウスに入れれば2点だが……。

実況「ガードに近づいているか? ガードに当たってしまうか! ただ、ガードが押されますか」
敦賀「今のは、押すだけじゃなくて投げたやつも当たって入ろうという3つを狙ってたんですね。ただ、少し距離があったので難しかったですけど」

 投球前にこんな会話をしている。

西室「ちょっと回転数上げるから、もっと詰めていいよ。優奈ちゃんと真央ちゃんでスイープする方向(?)、変えられるようにだけ準備しとかないと、2つ入んないから」
 投球後にはこんな会話。

西室「ごめん、もっとまっすぐで良かった?」
石垣「ちょっと厚かったですね」
西室「回転数? ウェイト?」

 7エンドで「やるか」と言って投球に向かう西室と、8エンドのラストショットをミスして小笠原のラストショットを悲しそうな表情で見守る西室の姿は、今回の大会で一番印象に残ったシーンです。

3位 vs 4位 北海道銀行 - 富士急
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道銀行 1 1 2 0 0 1 0 3 0 - 8
富士急   0 0 0 1 1 0 1 0 2 - 5

2/5(日)LS北見 - 中部電力(決勝)

ガードの間をすり抜けるショット

 3エンドの後攻・中部電力のスキップ松村千秋の1投目。ピンチを救う針の穴を通すテイクアウト。2エンドに2点先制されて、この3エンドもLS北見がいい形でスチールもあるかという展開だったが、一転して2点取るエンドになった。解説の市川さんの「おおおおお」も出たw 初日より控えめでしたが。

ダブルテイクアウトしてロールも決める

 5エンド。先攻・LS北見藤澤五月の2投目。ダブルテイクアウトして、かつ自分はガードの後ろに隠れるヒットロール。このショットを決められては、中部電力は1点を取るしかなかった。

ガードを飛ばして3つ押し出す

 ニュース映像でも頻繁にリピートされた9エンドのスーパーショットの応酬。まずは後攻・LS北見のスキップ藤澤1投目。

市川「意外とこういう難しいショットを決めるのが藤澤選手なんですよね」

 ガードから飛ばして黄色を2つ押し出し、赤には触らずナンバー1・2・3。3点チャンス。残った黄色もバックガードとして利いている。これを見たときはLS北見が勝ったと思ったが……。

松村のお返しのダブルテイクアウト

 先攻・中部電力の松村の2投目。スーパーショットのお返しのダブルテイクアウト。3失点のピンチを脱する。このあと、藤澤のラストストーンのドローが決まらずLS北見は1点止まり。

作戦会議

 10エンド。後攻・中部電力村松1投目の前の作戦会議。タイムアウトの1分経過後、さらに2分を費やした。断片的ですが、中継で聞こえた言葉をできる限り記してみます。

「これが、たぶんこの辺までは見えてる」
「これ触れば」
(コーチ)「そこ置くのが」
「たぶん最後相手これやってくる」
(コーチ)「それでもワンツー取られちゃう」
「たぶん前切るとタップでこうだと思うんだよね」
「でもタップされると結構きつい」
「本当にここにぴったりくっついて」
(コーチ)「それの内側のロールはないの?」
「ハックくらいでできそうじゃない?」
「まあ内ロールもあるかもだけど、でもこれ触ると良くなくない? 結構リスクだと思う」
「これがあるからね。来るんだったらここまでこないとダメ」
「もう、転がす感じ?」
「違う違う。こっちから」
(コーチ)「転がす感じもあるかもしれないけどね」
「いやー」
「そしたらこれがさー」
(コーチ)「そこまでだったら赤にくっつくまで」
「これも悪くないけどね」
「これ使ってじゃないとさ、結構動かしづらい」
「ちょっと外開くと、これ見えてるから」
「一本あるならさ、ちょっとでもあったら相手は嫌かなと思うんだよね」
「これ触るとね。ドローウェイトとかでやってみる?」
「バックラインくらい?」
「最低バックフォーあれば転がりは」
「バックフォーじゃちょっと遅いかも」
「バックラインくらい」
「こっちでもいいと思う」
「これ使われるのがちょっと嫌な感じで。1点で抑えるって言うんだったらこれ打ってもいいと思うけど」
「相手は手玉は少なくなるのが」
「相手あと1投だからね」
「こっちから?」
「押すとさ、もしかしてだけどこれ触るかも」
「あまり触りたくない」
「この辺当てないといけないね。これは」
「転がしたら相手何やってくるかな?」
「転がしてきたら、押すんじゃない?」
「ていうかさ、前切って相手にドローさせれば」
「でもこれだとさ」
「ちょっと離れれば」
「2点のチャンスあるよね相手。でもさ、これ出しとけば1点で済むかもしれない」
「OK」
「当てるなら内側だね」
「バックラインくらいでいい」

 最後はLS北見藤澤五月のショットがガードに当たってしまいナンバー1を取れず、中部電力の優勝となりました。

決勝 LS北見-中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
LS北見 0 2 0 1 0 0 1 0 1 0 5
中部電力   0 0 2 0 1 2 0 1 0 1 7

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