ラグビーが台風で中止になったのはしょうがなかったんですか?

 ラグビーワールドカップ2019は南アフリカの優勝で幕を閉じました。事前には、日本では盛り上がりに欠けるのではないかという心配もありました。しかし、蓋を開けてみれば大盛況。日本は予選プール4戦4勝で初の決勝トーナメント進出という躍進。日本以外の試合も注目を集め、大会自体は大成功に終わりました。

 自分としてもおもしろい試合を多数見られて大満足。ちなみに、自分が見た中で一番おもしろかった試合は、予選プールのフランス-アルゼンチンです。前半はフランスが地力を見せて20-3とリードするが、後半は一転してアルゼンチンが猛追。ついに20-21と逆転。「これは大逆転ゲームきたか?」と思った直後、フランスがドロップゴールを決めて再逆転。残り約10分。79分過ぎにアルゼンチンがPGのチャンスを得るが、惜しくも左に曲がって外れノーサイド。フランスが23-21で勝ったという試合でした。

 しかし、全体として大成功でも反省するべき点もあったと思います。自分が気になるのが、台風19号の影響で3試合が中止、延期ではなく試合自体が行われない中止という事態になったことについてです。*1

台風が来たら中止って知ってましたか?

 みなさんは、予選プールの場合は(延期ではなく)中止というルールになっていることを知っていましたか? わたしは知りませんでした。そして、今回の台風でそのルールを知ってびっくりしました。当然、予備日が1・2日はあるものだと思っていました。その予備日もアクシデントで試合ができないという事態になったら中止もやむを得ないと思いますが、予備日もなくいきなり中止になるなんて。4年に1度しか開催されない世界3番目とも言われる大きなスポーツ大会で、こんなルールになっているなんて思いもよりませんでした。

 中止の可能性がニュースで出始めた直後の段階では、代替会場や無観客試合での試合開催を検討しているという報道もありました*2。とはいえ、無観客試合にしても、実際に台風が来ている状況になれば選手や関係者の安全面も考える必要があるし、これだけの規模の試合を急遽延期したり代替会場を確保したりするのは難しいだろう、と思っていました。ただ、運営側は密かにBプランを用意していて、それに沿って動いているのでは?という期待も抱いていました。

 しかし、その期待むなしく、10月12日のニュージーランド-イタリア(豊田)、イングランド-フランス(横浜)*3、13日のカナダ-ナミビア(釜石)の3試合が中止となました。ラグビーワールドカップの試合が中止になったのは、9回目で初のことになります。

 また、13日の日本-スコットランド(横浜)は、関係者の懸命な努力により開催することができましたが、その前に中止が懸念された段階で、スコットランド側が中止の場合は法的措置も検討しているという声明を出しました*4。この発言は問題視され、その後勝ち点剥奪も懸念される事態になっています。*5*6

台風が来たら中止にするのは当たり前でしょう

 さて、この出来事を自分はどう考えるか。

 まず、観客などの安全を考えて中止にした判断が正しいことは論を待ちません。事前の準備がなかった中で、会場変更・延期などが難しいことは容易に想像できます。結果的に中止にしたことは納得できます。

 無観客試合や会場変更、延期等の検討もするべきではなかったという意見があります。それも一理あると思いますが、自分はできる限り試合を開催するように努力した運営側は正しいと思います。何が起こっても事前に決めたルール通りにやるというのも一つの方法ですが、事前に決めたルールが適切ではなかったと気がついたなら、その場でできる限り柔軟に対応するのは良いことだと思います。その場でルールを変更すると公平性が大きな問題になりますが、今回は“想定外の事態”だったわけですから、ルール外の処置を検討するのも許容できると思います。

 スコットランドの声明は、法的措置を言い出したのはやり過ぎだったとは思ますが、理解できる部分もあります。試合が中止になったことに対して不満を述べたのはスコットランドだけではありません*7 。試合開催を熱望する気持ちは十分に理解できます。それはスコットランドも日本も、その他のラグビー関係者・ファンも同じではないのですか? 一方で、中止するかどうかは運営側が状況を総合的に判断することであり、スコットランドの主張とは関係なく決めるべきです。スコットランドがなんと言おうと運営側は中止の判断をする。それだけでいいと思います。

台風が来たらどうするか事前に考えていましたか?

 自分が気になるのは、なんで(代替試合なしの)中止というルールになっていたのか?という点です。

 まず、自分の思いは、「ラグビーワールドカップの試合が、行われないことが、いいわけがない」です。当日のアクシデントにより試合ができないことを想定して、「無観客試合はできないか?」「別会場で開催できないか?」「延期することはできないか?」などを事前に十分に検討して、できる限り試合が行われないという事態を避ける準備をするべきだと思います。

 そういう検討・準備は十分にしたが、それでも日程・会場・金銭などの問題で代替試合の開催は不可能であることがわかったからこのルールにした、ということならしょうがないと思います。でも、そうなんですか? 4年に1度開催の世界3番目とも言われる大きなスポーツ大会で、1ヶ月以上も開催期間がある大会で、予備日や別会場を用意しておくことは、不可能なことですか? 予選プールではなく決勝トーナメントの場合なら、中止の場合は延期になるということです。決勝トーナメントでできるなら、予選プールでも1回や2回の予備日を設けることはできたんじゃないですか?

 もしかしたら、ラグビーの試合は基本的に悪天候により中止ということがないので、延期にするのは極めて例外で、予備日は設けないのが普通。アクシデントが起こった場合は中止で構わない。という合意が関係者やファンの間であるのかしれない、とも思いました。そうだとしたら、それは考え直してほしいです。

 大会後、こんな記事がありました。

中止の判断については、本当にそれで正しいのかを「百万回」自分に問いかけたが、もっと良い解決策は出てこなかったという。ギルピン氏は「台風の勢力が判明した時点で、会場を別の場所に移し、限られた時間の中で、大所帯の各チームに日本を縦断してもらうのは現実的ではないと分かった」と話し、自身の判断に「後悔はない」と強調した。

 これを読む限り、「アクシデントの場合は中止にすれば問題ない」と考えていたわけではないと思います。これには少しほっとしました。一方で、大会中には次の記事も出ています。

「われわれは台風の可能性に備えていた。日本で台風が発生するのは何ら珍しいことではない。しかし、今回の台風は50年に一度の例外だった」「どうか理解してほしい。今回起きたことは異例であり、その中で大会側は見事な対応をした。台風の到来は予測していたが、規模は想定外だった」

 これは認識が甘いと思います。確かに今回の台風は大きな台風でしたが、想定し得ないというほどではなかったと思います。「50年に一度」は例外と言える頻度じゃないと思います。また、これほどの規模の台風でなくても、交通機関が止まったり、観客の安全面が懸念される事態は十分起こると思います。「規模は想定外だった」って、小さな台風だったら中止以外の対応をすることができたんですか? もっと規模の小さい台風だったとしても、試合時間に直撃したら中止せざるを得ない可能性は高かったと思います。

 自分が心配するのは、台風などのアクシデントも来る可能性は十分認識していたにもかかわらず、何となくそんな事は起こらないだろうと思って何の対策もしていなかったという可能性です。台風が来る可能性があることは分かっていたとしても、実際に大会期間中に台風が直撃する可能性なんてごくわずかです。何の対策をしていなくてもうまくいく可能性は高いし、対策は無駄になる可能性の方がずっと高い。だから、何となく今までどおりのルールにして、それに対して誰も異議を唱えず、参加国は同意して、わたしは知りもしようとせず、そしてラグビーワールドカップの試合が中止になるという日を迎えてしまった。そういうことではないですか?

 実際にそういうことだったのかどうかは分かりませんが、もしそうだったとしたら今後は改める必要があると思います。きっと、次はもっとうまくできるでしょう。

2019/11/17(日)追記:この記事の続きを書きました

 その後、この記事を書いたときには知らなかったことを知ったり、新たな情報・続報が出てきたりしたので、この続きの記事を書きました。

y-koutarou.hatenablog.com

リンク集

*1:その他の反省するべき点。

 その1:微妙な判定に反論が相次ぎ、主催者側が判定に一貫性がなかったことを認める事態となった。

 その2:会場の売店で売り切れが相次ぎ、観客が飲食物を調達できない事態となった。その後、会場への飲食物の持ち込みを一部認める事になった。

*2:

運営側は代替会場での無観客試合のほか、3連休最終日となる14日への延期も検討している。ただいずれもチームの移動や宿泊場所の確保、観客への周知など課題が多く、9日午前現在で決定に至っていない。幹部は「様々な想定を重ね準備している」という。

*3:

組織委は12日の2試合について会場を変更したうえで、無観客で行うことなどを検討していた。しかし準備期間が極端に短く、チームの移動や宿泊、警備など課題が多く、1次リーグに関しては試合中止の規定もあったため、今回の判断となった。アラン・ギルピン大会統括責任者は「リスクが広範すぎて、すべてのチームを平等にすることができなかった。安全第一に考えた」と話した。

*4:

ドッドソン氏は「大会のインテグリティー(健全性)に関わる。日程に柔軟性を持たせるべきで、再考してほしい。開始を24時間遅らせてでもプレーしたい。どこでも、無観客でも構わない」と話した。英メディアによると、中止となった場合は主催者側への法的措置も検討しているという。

日本戦「日程変更してでも」 スコットランド協会が訴え - 一般スポーツ,テニス,バスケット,ラグビー,アメフット,格闘技,陸上:朝日新聞デジタル

https://www.asahi.com/articles/ASMBC6HGMMBCUTQP02M.html

*5:

我々が、日曜日の試合を日程通りに行えるようできる限りのことをしている中、そして1958年以来最も大きく破壊的と予想されている台風による、公衆安全への深刻な被害が懸念される状況で、スコットランドラグビー協会があのような声明を発表したことについて失望している。

*6:その後、7万ポンド(約945万円)の罰金ということになりました。

*7:

組織委からは会場や日程の変更が可能か、問い合わせがあったという。「チーム内で検討した。選ぶ権利があるのなら、1日前倒しして金曜日(11日)にしたかった」と話した。一方で、中止の判断については「危険を顧みず試合をするか、安全を優先するかであれば、安全が大事なのは言うまでもない」と理解を示した。
史上最多タイの5度目のW杯出場で、今大会限りでの現役引退を表明しているセルジオ・パリセ主将は「台風の季節にやるのは分かっていたこと。プランB(代替策)をつくるべきだった」と話した。
天候に関してのリスクマネジメントについても言及。「W杯は、別のプランを用意しておくべきだ。イタリアとニュージーランドが中止を望むのならいいが。何度も言うようだが、ニュージーランド(の決勝トーナメント進出)に(一定以上の)勝ち点が必要だったら中止にはならなかったはずだ」。逆の立場なら試合は行われていたと繰り返した。
  • 戦わずに敗退 イタリア主将が非情の中止に訴え「つらい」「こんな決定はおかしい」 | THE ANSWER スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト
    https://the-ans.jp/rugby-world-cup/87781/