その後のラグビーが台風で中止になった話

 前回ラグビーワールドカップ2019日本大会において台風第19号の影響で予選プールの3試合が中止になったことや、それに関してスコットランド協会の声明が問題視されていることについて書きました。ですが、前回の記事を書いたときには知らなかったことがあったり、その後当時のワールドラグビー(WR)や大会組織委の対応や、スコットランド協会の発言に関する新たな記事があったりしたので、追加して書きたいことが出てきたのです。と言っても、「大会前の準備は十分だったんですか?」という前回の結論に変わりはありません。

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ニュージーランドが延期案を拒絶していた?

 日本語の記事は見つからなかったのですが、台風19号の影響で中止となった10月12日(土)のニュージーランド-イタリアは、14日(月)に延期する案があっが、ニュージーランド側が拒否した、という記事があるそうです。

 これが本当だとすると、この時のニュージーランドやイタリアのコメントの印象が少し変わります。

組織委からは会場や日程の変更が可能か、問い合わせがあったという。「チーム内で検討した。選ぶ権利があるのなら、1日前倒しして金曜日(11日)にしたかった」と話した。

 これは、「代替日が11日(金)ならやったけど、14日(月)だから拒否した」という意味なんですね。

「W杯は、別のプランを用意しておくべきだ。イタリアとニュージーランドが中止を望むのならいいが。何度も言うようだが、ニュージーランド(の決勝トーナメント進出)に(一定以上の)勝ち点が必要だったら中止にはならなかったはずだ」
  • 戦わずに敗退 イタリア主将が非情の中止に訴え「つらい」「こんな決定はおかしい」 | THE ANSWER スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト
    https://the-ans.jp/rugby-world-cup/87781/

 「イタリアとニュージーランドが中止を望むのならいいが」というのは、「イタリアは試合を望んだが、ニュージーランドが拒否した」という事を踏まえたコメントなんですね。

 また、ニュージーランドに打診するほど具体的な代替案があったことを考えると、「ニュージーランド(の決勝トーナメント進出)に(一定以上の)勝ち点が必要だったら中止にはならなかったはずだ」というコメントもより真実味を帯びてきます。もし、ニュージーランドに勝ち点が必要な状況だったら、両チームへの打診なしに代替試合が決定していたのでは……という想像はできてしまいます。

 スコットランドが法的措置まで言い出して代替試合を訴えたのも、ニュージーランドが拒否したから代替試合がなくなったと考えると心情は理解できます。具体的で、かつ安全に開催できる代替試合案があり、あとはスコットランドと日本が同意すれば開催できるところを、日本に拒否されただけでなくなってしまう。その可能性を恐れたんですね。

地震や乱射事件でスーパーラグビーの中止を経験している。その試合について、なぜ(中止)なのかは理解ができるでしょう。ラグビーはささいなこと」

 「ラグビーはささいなこと」というのはその通りだと思いますが、代替試合案を拒否した側が言うことじゃねーよ。この発言をした人と代替案を拒否した人は違う人ということだと思うけど。

 ただ、ニュージーランドが代替試合を拒否したのも理解できます。日本の立場に置き換えて考えてみます。自分の思いは、13日(日)の日本-スコットランド戦は、無観客でも、別会場でも、延期でもいいから試合はしてほしい、というものです。しかし、仮に「台風で13日(日)の試合は延期します。代替試合は会場の都合で16日(水)になりました。決勝トーナメント1回戦まで中2・3日になるけどがんばってね。ちなみに1回戦の相手は中10日以上で休養万全です!」と言われたらどうだったか? たぶん「最初からそういう予定なら仕方ないけど、急遽決めた日程でそれは不公平すぎません? そんな日程になるくらいなら、大会規則通り中止で引き分け扱いにしましょうよ」と言うと思います。

組織委は代替試合を本気でやろうとしていた

 大会規則は、予選プールで試合が中止になった場合は引き分け扱いにして代替試合はなし、となっていました。また、会場変更もしないことになっていたそうです。*1

 ところが、組織委は日程変更・会場変更を本気で、かなり具体的に考えていたようです。

 読売新聞の記事によると「台風の影響が大きいとみられた12日の横浜と愛知・豊田の2試合を中心に」や「大分を代替地とする案も挙がった」という具体的な話も出ています。また、朝日新聞の記事では、日本-スコットランドは、当初の予定通りの横浜開催案と「大会基準を満たさずW杯の試合会場からもれた」秩父宮代替会場案の、二段構えの準備が前夜から懸命に続けられていた様子が書かれています。スコットランド協会には「横浜以外考えていない」と回答しておいて*2、その裏で秩父宮案を準備していたとは驚きました。この3つの記事からは、なんとか試合なしという事態は避けようと模索し、懸命に努力していた姿が生々しく浮かび上がります。

 しかし、やはり物理的に困難だったことに加え、日程などで5試合すべてに公平な代替案を作ることができないから(なんならニュージーランドには拒否されたから?)、代替試合はあきらめて、当初の予定通り開催できない試合は中止にした、ということなんですね。大会規則で代替試合なしとなっているからあきらめた、というわけじゃないんですね。

「どうか理解してほしい。今回起きたことは異例であり、その中で大会側は見事な対応をした。台風の到来は予測していたが、規模は想定外だった」

 だからこの「規模は想定外だった」というコメントになるんですね。自分は「規模が小さな台風でも、試合時間に直撃したら中止にせざるを得ないのは同じ事じゃん」と思ったので、規模のせいにするこのコメントは不可解でした。違うんですね。もし、規模が小さな台風で、影響を受ける試合が少なくて、すべての中止試合に公平な代替案を用意できていたら、大会規則を無視して代替試合をやっていたんですね。

 このような柔軟対応は、自分は前回の記事でも書いたように賛成ですが、「事前に定められたルール通りやるべき」と考える人から見れば異論もあるでしょう。

罰金を言い渡されたスコットランドが反発したが……

 発言直後から問題視されていたスコットランド協会のドッドソン氏の「法的措置」発言ですが、大会後、スコットランド協会に罰金7万ポンド(約980万円)が言い渡されました*3。当初は、スコットランド協会はこの処分に到底納得できないと反発し、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に訴えるという選択肢も示唆していましたが*4、その後、スコットランド協会は処分を受け入れたという短い記事がWRから発表されました。どちらもこれ以上コメントしないとしています。*5

 自分は両者の主張ともよく分かりません。WR側のコメントは*6スコットランド協会のコメントのどの部分が問題だったのか分かりませんし、スコットランド協会側のコメント*7は意味不明です。反論するなら、なぜあのコメントが妥当だと考えているのか言ってほしかった。

 スコットランド協会の問題となったコメントを振り返ってみます。

ドッドソン氏は「大会のインテグリティー(健全性)に関わる。日程に柔軟性を持たせるべきで、再考してほしい。開始を24時間遅らせてでもプレーしたい。どこでも、無観客でも構わない」と話した。英メディアによると、中止となった場合は主催者側への法的措置も検討しているという。
同CEOは「弁護士と相談したら、日程を柔軟にできるはずとの意見をもらった。でも今は法的措置の可能性よりも、常識的な対応を考えて大会の権威を守ってほしい」と語った。
13日の試合は両チームに1次リーグ突破の可能性があり「どのチームも4年間準備してきたし、世界中の人がこの試合を見たいと思っている」と試合の重要性を強調した。

 これってそんなに問題発言でしょうか? 中止に対して猛烈に反発したのはイタリアもそうですし、予定通りの試合を望むというコメントは日本も言っています*8。それに、大会規則を無視するのは、WRや大会組織委自らがやろうとしていたことじゃないですか。混乱の原因は、組織委が大会規則に反する代替試合を模索して動いたことだと思います。でもそれはしょうがないと思います。事前に決めた大会規則に問題があったのだから。もし、大会規則は問題なかったというのなら、大会規則に反する動きをしたWRや組織委が罰せられるべきでしょう。

 ただし、「法的処置」に関しては、大会規則に代替試合はないと明記され、参加条項にサインしている以上、言い過ぎだと思います。「大会組織委の決定には従うし、安全に開催できることが大前提だが、我々は試合を望んでいる。そのためならどんな条件でも受け入れる」くらいのコメントなら良かったのでしょうか? それとも、これでも問題あるのでしょうか? せっかく処分するならここを明らかにしてほしかった。

 もし、大会組織委が、「予定通り開催」か「中止」かの二択の判断をするために動いていたのだとしたら、スコットランド協会の「無観客でも」「どこでも」「24時間遅らせてでも」という発言が組織委などを混乱させたというのはよく分かります。

 でも、そうではないですよね?

中止の判断については、本当にそれで正しいのかを「百万回」自分に問いかけたが、もっと良い解決策は出てこなかったという。

 何を『「百万回」自分に問いかけた』のか。もし「危険はあるが試合をする」か「安全を考えて中止にする」の二択だったら百万回も考える必要ないですよね。中止に決まってます。違いますよね。「無観客でできないか?」「会場変更できないか?」「延期できないか?」。つまり、まさにスコットランド協会が言ったのと同じ事を百万回問いかけていたんですよね?

 大会規則に中止の場合は代替試合なしと定められているにもかかわらず、WRも大会組織委も、なんとか試合をしようと代替案を必死で模索していた。イタリアやスコットランドが代替試合を望んでいたのは言うに及ばず。日本も試合開催を望んでいたし、状況的には中止で得をする立場のニュージーランドも、代替日が金曜日なら大会規則無視の日程変更を受け入れると言っていた。

 誰も中止で良いとは思っていなかった。思いはみんな同じだったのではないですか? 記事を見る限り、WRとスコットランド協会の思惑は完全に一致しているように見えるんですけど。そして結果的に、大会組織委が安全に試合ができないと判断した試合は中止となり、そうでない試合は安全に開催されました。だから自分は、大会期間中の対応は、誰も悪くないと思います。だから、なんでこんな結末になったのかさっぱり理解できません。

リンク集(追加分)

 ここに上げたリンクは前回の記事のリンク集にも追加しています。

2019/12/30追記:リンク2件とコメントを追加しました

*1:

会場変更はしないとも予め決められている。

*2:

「スケジュールを柔軟に、スポーツの高潔性を守ってほしいと言っています。ワールドラグビーの返答は『横浜開催以外は考えていない』ですが…」

*3:

*4:

*5:

*6:

ワールドラグビーはこの日、独立紛争委員会がSRUのコメントは不適切だったとの裁定を下したと発表し、「日本が数十年に一度の大型台風への対応を進めている中、不公平ですべてのチームを混乱させる発言だったと強く認識している。そういったコメントは競技に対する信用を失墜させる」とのコメントを出した。

*7:

「ワールドラグビーの悩ましい仕打ちに対して、スコットランド協会としていかなる振る舞いがベストなのかを考えて行動する。正当性は我々にあると信じており、尊厳は守られなければならない。あの時点で我々が取るべき手段は妥当であったと考えるし、日本の人びと、日本を訪れている人びとのことを案じ、そして、日本対スコットランド戦が安全に開催されることを念じていた。今後はスポーツ裁定裁判所(CAS)に調停を申し出ることを含めて、協議していきたい」

*8:

一方、日本のジョセフHCは「選手、スタッフ全員がプレーしたいと思っている。我々は、世界のエリートチームの一つと認められるくらいのプレーをしている」と厳しい口調で話し、試合実施を望む姿勢を強調した。