カーリング日本選手権2024を名場面で振り返る:準決勝・決勝編

 カーリング日本選手権2024の振り返り。前編に続き、後編はプレーオフの試合から名場面を取り上げます。

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男子準決勝 SC軽井沢クラブ-LOCOSOLARE

3エンド:目視判定

 男子準決勝での珍しい一幕を紹介。

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 3エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ リード2投目

3E 先攻(赤)リード2投目

 3エンド。先攻(赤)SC軽井沢クラブ、リード2投目を終えてこの状況。いま投げた赤がハウスに入っているかどうかが微妙。入っていればテイクできますが、入っていなければセンターラインからずらすこともできません。ロコ・ソラーレのスキップ前田拓がSC軽井沢クラブのスキップ栁澤に確認を求め、2人で上から見るが……。

「ギリだねー」
「これは測れないよねー」

 ルール上は、フリーガードゾーンルール適用になるかどうかは、バイターメジャーでハウスにかかっているか測定することができます。しかし、この場合はティー(ハウスの中心点)とその石との間に別の石があるためメジャーが使えません。結局、審判が目視で測定するということになり、審判がシートに入って、上から、左右から見た結果……。

「入っていないです」

谷田「カーリングは審判が何かのジャッジを下すことってのはほぼないので、ちょっとああいうシーンは緊張感がありますね」
高木アナ「いま会場も少しざわつきましたね」

男子準決勝 SC軽井沢クラブ-LOCOSOLARE
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   1 1 0 0 2 0 0 3 1 X 8
LOCOSOLARE * 0 0 2 0 0 2 1 0 0 X 5

女子準決勝 SC軽井沢クラブ-中部電力

7エンド:最後にくるっと回って

 女子準決勝は前編でも紹介した1次予選の組み合わせの再戦となりました。この試合が本大会一番の名勝負だったと思います。

SC軽井沢クラブ-中部電力 7エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

7E 後攻(赤)フォース1投目

 6エンドを終わって3-3という、1次リーグほどではないがロースコアの戦い。

 7エンド、後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース上野美優1投目。鮮やかなトリプルテイクを決めます。特に後方の黄も動いたのが良かった。赤がナンバー3まで取ってSC軽井沢クラブは大量点のチャンス。中部電力大ピンチ。

SC軽井沢クラブ-中部電力 7エンド 先攻(黄)中部電力 フォース2投目

7E 先攻(黄)フォース2投目

 ……かに見えましたが、しかし先攻(黄)中部電力フォース北澤育恵2投目。渾身のハウス内カマー。14.9秒でT奥だがギリギリで止まってナンバー1を取ります。最後にくるっと回ってさらに内側に隠れました。これが効いた。

SC軽井沢クラブ-中部電力 7エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

7E 後攻(赤)フォース2投目

 SC軽井沢クラブ(赤)のラストストーンは、その黄の前へのドローで1点、少し押せれば2点というショット。しかし、こちらは14.7秒で曲がりきらずにスルーしてしまいました。1点スチール。

 SC軽井沢クラブにビッグショットが出て大量点かと思ったところから、北澤のドロー一発で大逆転。

 同点の7エンドをスチールして、4-3と中部電力が一歩リードしました。

8エンド:またも北澤

SC軽井沢クラブ-中部電力 8エンド 後攻(赤)中部電力 フォース1投目

8E 後攻(赤)フォース1投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース上野美1投目。絶妙なウェイトコントロールショットを見せます。解説は市川美余

市川「いやー、でもこれいいですね。1・2で、ダブルするにはかなり角度が難しくなりましたね」

 ナンバー1の黄を押し下げつつ、シューターの赤はナンバー2で残る。しかも黄の裏に入ったのでダブルテイクもできない。SC軽井沢クラブが2点チャンスを作りました。

SC軽井沢クラブ-中部電力 8エンド 先攻(黄)中部電力 フォース2投目

8E 先攻(黄)フォース2投目

 しかし、後攻(黄)中部電力フォース北澤2投目。赤の前にフリーズ。手前で止まってしまうとテイクされて3失点になる可能性もありましたが、しっかり1の黄にコツンと当てて止める。これなら1点取らせの形。さすが北澤。

 試合は同点で9エンドへ。

9エンド:どう見ても2点形?

SC軽井沢クラブ-中部電力 9エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目 投球前

9E 先攻(赤)フォース2投目 投球前

 同点の9エンドは、フォース1投目を終えてこの形。両チームあと1投。先攻(赤)SC軽井沢クラブの選択は?

 自分は中継を見ていて、どう見ても後攻(黄)中部電力が複数点取ったと思いました。ハウス内に赤を隠す場所もないし、フリーズの目標となる石もない。トリプルテイクも無理そう。何とかダブルテイクして失点を減らすくらいしか手がないのでは?と思って見ていました。

 みなさんは、ここからSC軽井沢クラブ(赤)が1失点でしのぐ手を想像できますか?

 SC軽井沢クラブのショットはこれ!

SC軽井沢クラブ-中部電力 9エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

9E 先攻(赤)フォース2投目

 ランバック・ダブルテイクですが、それより残った石の位置関係がすばらしい。シューターがガードで残って、中に飛んだ赤が黄の裏に入り込むような動きをしました。Xで動画が見られるので、ぜひ見て下さい。

 ハウス内の黄と赤があと少しずれていたら、赤だけテイクして2点は簡単でした。また、シューターがこのガードの位置に止まらなかったら、黄から赤を押し出して2点を取るのは簡単でした。この位置関係でしか1点取らせの形にはならなかった。

 中部電力はドローで1点取る。1点差で最終エンドへ。

10エンド:究極のドロー

 そして運命の10エンド。後攻(赤)SC軽井沢クラブの1点ダウンというカーリングにおいて最も際どい点差。このエンドは両チームともやや時間がない中でドロー合戦。両チームともセンターラインへ向かってどんどんドローを投げ込み、あっという間に石が積み重なっていきます。

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、サード2投目の前には、こんな会話がありました。
「タイム取っていいよ! タイム、タイム!」
「いや時間に残しておいた方がいい」

 この判断が運命を分けたかもしれません。

SC軽井沢クラブ-中部電力 10エンド 先攻(黄)中部電力 フォース2投目

10E 先攻(黄)フォース2投目

 先攻(黄)中部電力フォース2投目。ハウス内の黄・黄・赤でナンバー1の赤を動かそうとしますが、いま置かれたばかりのガードに当たってしまって中には触れず。ナンバー1は赤のままで、SC軽井沢クラブのラストストーンを迎えます。

 しかし、ナンバー2を取れる範囲は極めて小さい。と言うよりも、手前の黄が邪魔をして、ナンバー2に届くラインは無いように見えます。そうだからこそ、SC軽井沢クラブは、フォース1投目で、ナンバー2を取りに行くドローではなく、ガードを選択したのでしょう? そして、そのガードのおかげでナンバー1を守れたわけだから、良かったじゃないですか。勝負はエキストラエンドかあ。

 SC軽井沢クラブはここまで取っておいたタイムアウトを使います。西室コーチのアドバイスも受けて狙いを確認。

「黄色触んないようにドローですよね?」
「いまの幅じゃたぶんガードの感じだと触っちゃうよね」
「うん、ちょっと広めでいけば」
「じゃあここでいく? ここでいい?」
「ライトの方がいいからね。だから、さらに幅取った方がいい」
「速かったら触んない方がいいんじゃん?」
「速かったら全力スイープで」

SC軽井沢クラブ-中部電力 10エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

10E 後攻(赤)フォース2投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース2投目。かなり外側のラインを使って15.3秒でドロー。スイーパー2人は最初からスイープしている。

「まだ待てるよ」
「ライン悪くないよ」
「ウェイトだ。ウェイトだ」
「ウェイトだけ」
「ギリギリ、ギリギリ」
「ちょっと曲がってる、曲がってる」
「イエス!」
「ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!」
「イエス!イエス!イエス!イエス!」
「ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!ゴー!」

 上の黄に沿うように曲がって、ボタンに赤が入ってきた! ボタン上下の黄はボタンに掛かっているかどうか微妙だが、いま入ってきた赤は、わずかだが明らかにボタンに掛かっている! ナンバー2は赤! SC軽井沢クラブの逆転勝ち!

 これは究極のドローと言っていいんじゃないでしょうか。自分がこれまでカーリングの試合を見てきた中で、これよりすごいドローは見たことがない。この場面の動画は何回も繰り返し見ましたが、見るたびに、ないと思っていたラインを通っていく石の動きにぞくぞくします。

市川「このショットはカーリングの歴史に名を残すぐらいスーパーショットだったんじゃないですかね」

女子準決勝 SC軽井沢クラブ-中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 0 2 0 1 0 0 1 0 2 6
中部電力 * 0 1 0 1 0 1 1 0 1 0 5

男子決勝 コンサドーレ-SC軽井沢クラブ

4エンド:想像できないミス

SC軽井沢クラブ-コンサドーレ 4エンド 先攻(黄)コンサドーレ フォース1投目

4E 先攻(黄)フォース1投目

 男子決勝は、2連覇中のSC軽井沢クラブと、その前に3連覇しているが、若手2名が加わって当時とはメンバーが替わっているコンサドーレの対戦。

 勝負の分かれ目となった4エンドの場面を紹介します。試合は2-1とコンサドーレ1点リード。先攻(黄)コンサドーレ、フォース清水徹郎1投目。自分の黄から角度を変えてボタンの赤をはじき出すナイスショット。センターガードは無いものの、4フットに黄が4つ固まって残って、いかにもスチールになりそうな形になりました。

SC軽井沢クラブ-コンサドーレ 4エンド 先攻(黄)コンサドーレ フォース2投目

4E 先攻(黄)フォース2投目

 先攻(黄)コンサドーレ、フォース2投目。4フットへドロー。やや伸びてフリーズになってスチール形ではなくなりましたがまずまず。1点取らせの形にはなりました。

 さて、ラストストーンはその黄の前にドローすれば1点は取れますが、しかしSC軽井沢クラブ(赤)は前の赤を見ている。

曽根アナ「スチールされる危険性は?」
谷田「ありますね」

 曽根アナの質問に、谷田は即答しました。

SC軽井沢クラブ-コンサドーレ 4エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

4E 後攻(赤)フォース2投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース栁澤2投目。ハウス内の赤を使ったトリプルテイクを狙うが、ややラインがずれました。

谷田「ああ、外だ」

 やや左に当たって黄が思ったより飛び散らず3点スチールになってしまう。ミスになったとしても、ここまでになるとは思いませんでした。

谷田「ここまでのミスは、チームの中であまり想像できていなかったというか。僕も想像できませんでしたし」

男子決勝 SC軽井沢クラブ-コンサドーレ
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 1 0 0 0 1 1 0 0 X 3
コンサドーレ * 0 0 2 3 1 0 0 1 1 X 8

女子決勝 SC軽井沢クラブ-北海道銀行

2エンド:ぴったりフリーズ

 女子決勝は、SC軽井沢クラブ-北海道銀行の組み合わせ。本大会の女子は、ロコ・ソラーレ中部電力フォルティウス北海道銀行SC軽井沢クラブの5チームが「5強」と見ていました。実績は前者3チームが上回っていますが、決勝に進出したのは後者の2チーム。2大会連続五輪出場など知名度抜群のロコ・ソラーレが予選リーグで敗退する一方、北海道銀行リラーズがついに決勝まで来て、SC軽井沢クラブも2年連続の決勝進出。SC軽井沢クラブの1人のベテラン選手以外は両チーム20代前半の選手で構成されるというという若手対決となりました。時代は変わった? さあ、それはまだわからないな!

 試合前の選手紹介で、その1人ベテランのSC軽井沢クラブ西室淳子。

西室「行くぞー! 1、2、3、ファイヤー!!!」

 「ファイヤー!」と言えば男子のSC軽井沢クラブの山口剛史の十八番でしたが、西室これ気に入ってるのか。そういえば山口は今大会、ファイヤーってあまり言ってなかったような。

SC軽井沢クラブ-北海道銀行 2エンド 後攻(黄)北海道銀行 セカンド2投目

2E 後攻(黄)セカンド2投目

 

 1エンドはブランクとなって2エンド。後攻(赤)北海道銀行セカンド山本2投目。クアドラプル・テイク(4石テイク)。センターガードとボタンに赤があるという、先攻にとって良い形ができていましたが、1投で打開しました。シンプルにコーナーガードが残る形になって北海道銀行のチャンス形。

市川「正直、ここまで石が動くとは思ってなかったんですけれども、すばらしいショットになりましたね」
谷田「まさかこんなショット来ると思ってなくて、リアクションの準備ができてなかったですね」

 これを見た方は、カーリング・ビンゴのクアドラプル・テイクの項目を達成できましたね。

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SC軽井沢クラブ-北海道銀行 2エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

2E 先攻(赤)フォース1投目

 しかし、先攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース2投目。フリーズを決める。15.2秒のドローでぴったり止まった。準決勝に続いて精密なドローを見せた上野美優。

谷田「あれ、この試合1投目ですか?ドローこれ。上野選手は」
塚本アナ「上野のドローは、そうですね。これが初めてです」
谷田「1投目でこの精度ですか」

 2失点を消して、逆にスチールチャンス。このあと、北海道銀行のラストドローは少し伸びてしまってSC軽井沢クラブのスチールとなりました。

9エンド:1点アップの先攻か? 1点ダウンの後攻か?

 試合は9エンド、先攻・北海道銀行の1点アップという接戦になりましたが、ここで解説者の市川美余、谷田康真の2人から興味深い話がありました。

塚本アナ「1点リードして10エンドの先攻、あるいは1点リードをされて10エンドの後攻、というパターンがありますけれども、谷田さんはどちらがいいかというのはありますか?」
谷田「僕は1点を追いかける最終エンド後攻の方が僕は好きですね」
市川「その選手の方が多いんじゃないかなとは思いますね。1点勝ちの先攻って結構つらいですよね」
谷田「1点勝ちの先攻は攻め方が難しいですし、基本的にはもうスチールを狙っていくような攻め方をしないといけないので。ドキドキはしますね」

 同じような話は何回か聞いたことがあると思うのですが、これ本当にそうなのかなあ?と聞くたびに思います。

 「じりつくん」によると、9エンド終了時、1点アップ先攻の勝率は、女子で57.6%、男子で56.1%。どちらも1点アップ先攻の方が勝率が高いというデータになっています。*1

 また、試合を観戦していて、10エンド1点ダウンの後攻を狙いに行く場面はそれほど多くないという印象があります。例えば、先ほども紹介した女子準決勝、SC軽井沢クラブ-中部電力の9エンド

SC軽井沢クラブ-中部電力 9エンド 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース2投目

9E 先攻(赤)フォース2投目

 同点の9エンド。SC軽井沢クラブのスーパーショットで1点取らせの形を作られた後攻(黄)中部電力は、この後ドローで1点取りました。

 しかし、もし10エンド1点ダウン後攻の方が良いなら、わざとスルーすれば良いのです。このままの形で1点スチールとなりますが、そうすれば10エンド1点ダウンの後攻になれます。1点取ると、10エンド1点アップの先攻になってしまいます。

 もちろん、チームによって・選手によって、あるいはそれまでの展開によって・状況によって判断が変わるということはあるでしょう。だから、個々の選択、個々の発言がおかしいということはありません。しかし、それにしても「10エンド1点ダウンの後攻の方が戦いやすい」という見解をよく耳にするわりには、実際の試合では、9エンド同点の後攻が1点スチールにもできるのに1点取ったり、9エンド1点ダウンの後攻がブランク狙いではなくガードを置いて2点取りを狙ったりする場面を多く見る気がします。この乖離は何なんだろうと思うことがたびたびあるのです。

女子決勝 SC軽井沢クラブ-北海道銀行
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 1 0 0 0 2 0 0 0 2 5
北海道銀行 * 0 0 0 2 1 0 0 1 0 0 4

SC軽井沢クラブ(女子)が世界選手権へ

 女子で優勝したSC軽井沢クラブは、3月17日から行なわれる女子カーリング世界選手権に出場します。西室淳子はチーム長野(PICTIC)時代の2006年以来の世界選手権出場となります*2。富士急時代は、チームは2018年に世界選手権に出場していますが、西室自身は妊娠のため欠場しています。チーム長野ではチーム青森などに敗れて五輪出場はならず。チーム最年長として立ち上げ時から所属した富士急でも、関東選手権を勝ち抜けなかった時代から四強と呼ばれるまでチームは成長しましたが五輪出場はならず。富士急を脱退した時は、さすがにもうないかと思いました。ここから新チームで世界選手権出場まで来るとは。そして五輪出場の可能性も十分にあるのか。

 女子のSC軽井沢クラブといえば、自分が覚えているのが、まだチームが立ち上がって1シーズン目の2021年の日本選手権。西室の古巣の富士急と対戦した試合がNHKで中継されました。劣勢の試合の中、西室が若い選手を鼓舞していた姿が印象に残っています。そのシーンがNHKTwitterに残っていました。

西室「まだ行ける。2か3狙えれば。3。2でもいい。最低2。3は取れるから」

西室「やるだけやるか? 今後のために? コンシードしてもいいけど、どっちでもいいよ。来年につなげるならやってもいい。5は……難しい(笑)。やめてもいいよ」

 正直言って、この頃はこのチームがこんなに強くなるとは思いませんでした。西室に気圧されているようにも見えましたし。

 やはり、女子決勝の10エンド、先攻の北海道銀行がセカンド2投目でタイムアウトを使ったのに対し、西室が

「タイム取ってもいいけどねー。タイムアウト返しやー」

と騒いでいたのを無視して作戦検討を続けるくらい、他のメンバーが西室と対等に渡り合えるようになったのが強くなった要因か、というのは1ファンの勝手な見方です(^_^;) そして、準決勝に引き続き10エンドの最後のショットを前にタイムアウトを使って、プレッシャーの掛かるラストドローを決めて優勝したわけです。

 NHKのチーム自己紹介動画では、息の合ったパフォーマンスを見せてくれました。

「私たちが」
「ニュースター!」

 昔はこんなパフォーマンスするチームには見えなかったよなあ。そして、本当にその言葉通りになりましたからね。

おまけ:市川 vs. 谷田 リターンズ

 女子決勝は、NHK BSの中継で本大会で唯一の市川美余・谷田康真のダブル解説となりました。この2人は、前年もいろいろ因縁があった(^_^;)組み合わせです。今年も見せてくれました。

 1エンド。試合序盤でよくある、単純なヒットステイが続くブランクとなりそうな流れの中でこの会話。

谷田「市川さんは現役時代どういう戦い方が好きだったんですか?」
市川「フフフッ。私たちはまあ、チームのテーマとして、溜めていくアグレッシブな作戦を」
谷田「(かぶせ気味で嬉しそうに)マンリーカーリング、マンリーカーリングね」
市川「はい(笑)。マンリーカーリングというふうに名付けて、男子のような力強いプレーをめざしてましたね。谷田さんは4人制のときはいかがでしたか?」(立て板に水のようにさらっと話して、さっと谷田に話を振る)
谷田「僕は堅実なタイプなので(笑)、序盤は結構、ここまでじゃないですけど、クリーンな展開を好む選手で、後半にかけてショット精度が上がってく中で勝負を仕掛けるというのが、僕は好きなタイプでしたけど」
市川「それは今もミックスも同じですか?」
谷田「あー、ミックスまったく別ですね」
市川「あー、やっぱり戦い方変わるんですね」
谷田「それを説明すると夜が明けちゃいます」
市川「(笑)ではミックスの、いつかに」

 相変わらず仕掛ける谷田。マンリーカーリングって言わせたいだけだろw

*1:これはノーティックルール採用前のデータですが、センターガードへのウィックはほぼ後攻のチームが行なうものなので、ノーティックルールによって後攻が有利になることはあまり無いと思います。

*2:当時の姓は園部。

カーリング日本選手権2024を名場面で振り返る:予選リーグ編

 2024年1月27日から2月4日にかけて、カーリング日本選手権が行なわれていました。名場面が目白押しでしたので、今回も自分が印象に残ったシーンを局面図を交えながら振り返ってみます。長くなってしまったので2つの記事に分けます。前編は予選リーグの試合から。

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女子1次予選 北海道銀行-岩手県協会

4エンド:リラーズ、上位進出なるか?

 強豪チームの一角の北海道銀行岩手県協会の対戦。

北海道銀行-岩手県協会 4エンド 後攻(黄)岩手県協会 フォース1投目

4E 後攻(黄)フォース1投目

 岩手県協会(Koto)は“岩手のレジェンド”苫米地と高校生3人という構成のチーム。今回優勝したSC軽井沢クラブといい、ロコ・ステラといい、ベテランが1人だけいて、あとは10代・20代の選手で構成されているというチームを比較的よく見ます。カーリングではこういうチーム構成が良いということなのかなあ。3チームとも、そのベテランがスキップではないというのも興味深いところ。

 試合の方は、やはり北海道銀行が実力を見せて序盤から連続スチール。3エンドを終わって4-0と早くもリードを広げます。

 しかし、4エンド。後攻(黄)岩手県協会のスキップ瀬川1投目は、見事なダブルテイクを決めます。シューターを残しつつ、後ろの黄も2つとも残してハウス内は黄のみナンバー1・2・3。大量点のチャンス。岩手県協会の反撃か?

北海道銀行-岩手県協会 4エンド 先攻(赤)北海道銀行 フォース2投目

4E 先攻(赤)フォース2投目

 しかし、先攻(赤)北海道銀行はチャンスの芽を摘む。フォース田畑のトリプルテイク。岩手県協会はダブルテイクを決められても2点はありましたが、トリプルテイクを決められてはチャンスはなくなってしまいました。この試合は、このまま北海道銀行が勝ちました。

 北海道銀行リラーズは3シーズン目。自分は、カーリング中継を見る際に、その時の状況や、気になった実況、感想などをPCにメモしながら見ています。そのメモに、この試合の開始前にこう書きました。「北海道銀行リラーズ登場。これまでも実力は見せてきたが、そろそろ大きな結果を出してほしい」。さて、どうなったか?

女子1次予選 北海道銀行-岩手県協会
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道銀行   2 1 1 0 0 3 2 0 X X 9
岩手県協会 * 0 0 0 1 1 0 0 1 X X 3

男子1次予選 札幌国際大学-北見協会

5エンド:破壊王不在でも

札幌国際大学-北見協会 5エンド 先攻(赤)札幌国際大学 フォース2投目

5E 先攻(赤)フォース2投目

 昨年と一昨年の準優勝チーム対決となった試合。

 札幌国際大学は2022年の準優勝チーム。カナダ仕込みのスキップ佐藤剣仁と、難しいランバックをばしばし決める“破壊王”青木豪を中心とした魅力的なチームです。しかし、その青木が大会直前にケガをして欠場。青木は昨年も体調不良で欠場していたので、2年連続欠場となりました。残念。

 しかし、青木が不在でも佐藤が魅せます。5エンド、先攻(黄)札幌国際大学フォース2投目。黄が3つ残っていて大量失点のピンチでしたが、ダブルテイクしつつ、シューターはセンターガードの裏で止める。クールなガッツポーズを見せる佐藤。

札幌国際大学-北見協会 5エンド 後攻(黄)北見協会 フォース2投目

5E 後攻(黄)フォース2投目

 しかし、2023年の準優勝チーム、北見協会(黄)のスキップ平田洸介もナイスショットで返します。カマーテイクでその赤を押し出して2点。手前の黄にわずかにチップしてコースが変わったのも良かった。

 前半5エンドを終えて5-6の接戦ですが、ここまですべてのエンドで複数点が入るという派手な展開となっています。

9エンド:9エンド2点ダウンの後攻の作戦選択は?

 後半は、6エンドに北見協会が1点スチールした後は、7・8エンド連続ブランクという、一転して静かな試合に。

 そして9エンド、ここで札幌国際大学が面白い作戦を見せます。1投目をハウス内にドローした北見協会に対し、後攻の札幌国際大学の選択はテイク! 結局、このエンドもブランクとなって3エンド連続のブランクとなりました。

 2点ダウンで、9エンドではなく10エンドに仕掛ける。考えてみれば当然あり得る選択です。残り2エンドで2点差を逆転する主なプランは「2点取って同点にし、次のエンドでスチールで逆転」と「3点取って逆転」の2つがあります。前者のプランなら、それを9・10エンドでやるのも10・11エンドでやるのも同じです。後者のプランなら、9エンドに3点取って逆転しても、試合に勝つには1点アップの10エンドをしのぐ必要があります。9エンドをブランクにして10エンドに3点取って逆転すればそれで勝ちですので、10エンドで仕掛ける方がはっきり優れています。

 10エンドに仕掛けると、2点取らないとすぐ負けになるというマイナスはありますが*1、それを合わせても10エンドに仕掛ける方が勝ちやすいという判断でしょう。

 実際、「じりつくん」による勝率は、男子の8エンド終了-2点は11.8%、9エンド終了-2点は14.8%となっています。

「じりつくん」8エンド終了時-2点後攻の勝率11.8%、8エンド0点だと14.8%

「じりつくん」による8エンド終了-2点後攻の勝率

10エンド:スーパーショットを決められても負けない

札幌国際大学-北見協会 10エンド 後攻(赤)札幌国際大学 フォース2投目

10E 後攻(赤)フォース2投目

 よって、試合は2点差で10エンドとなりました。他のシートの試合は終わって静かな環境の中で試合は進みます。

 そして、後攻(赤)札幌国際大学フォース2投目。ラストストーン。2点取らないと負けてしまうのに、センターガードの裏に相手にナンバー1・2を持たれています。絶体絶命。しかし、ここで佐藤がまたも魅せます。

 ガードから飛ばす距離のある斜めランバック・ダブルテイク。飛ばした赤も残さないといけないので、ラインもウェイトも完璧に合わないと決まらない高難度のショットでしたが、見事に決めました。これは掛け値なしのスーパーショット。これが大会一のベストショットになると思いましたが……。

 スーパーショットを決めて2点取って同点に追いついて延長戦。一気に逆転といきたいところですが、後攻・先攻という要素があるカーリングでは、同点だから互角ということはありません。得点を取った札幌国際大学エキストラエンド先攻。有利な後攻を持った北見協会が11エンドで順当に得点して、この試合勝ちました。

 スーパーショットではありましたが、このショットは決めれば3点という状況で出したかっところです。実は、この直前までそうなる可能性はありました。あのスーパーショットの直前、先攻(赤)北見協会フォース平田洸介2投目は、このショットを選択していました。

札幌国際大学-北見協会 10エンド 先攻(黄)北見協会 フォース2投目

10E 先攻(黄)フォース2投目

 丸見えのナンバー4の赤をテイク。簡単なショットで3失点を消しました。ショットの前には、右側のナンバー3の赤のテイクも考えていました。これをテイクしてシューターの黄も残れば、赤が2点取るのは不可能だったと思います。しかし、もし手前のガードに当たったり、ハウスの赤を出しきれなかったりしたら、あのスーパーショットが決まっていたのだから、3点取られて逆転負けしていたことになります。

 北見協会といえば、昨年も独特の守備作戦を採っていて印象に残っていたのですが、この試合も冷静な作戦選択で勝ちにつなげました。

男子1次予選 札幌国際大学-北見協会
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
札幌国際大学   0 3 0 2 0 0 0 0 0 2 0 7
北見協会 * 2 0 2 0 2 1 0 0 0 0 3 10

男子1次予選 LOCOSOLARE-TM Karuizawa

4エンド:フリーズより良い手

ロコ・ソラーレ-TM軽井沢 4エンド 先攻(赤)ロコ・ソラーレ フォース2投目

4E 先攻(赤)フォース2投目

 女子ではなく男子のロコ・ソラーレ(ロコ・ドラーゴ)は、2021年準優勝の常呂ジュニアと同じチーム。注目の若手チームです。TM軽井沢戦でのナイスショットを紹介します。

 4エンド。先攻(赤)ロコ・ソラーレ、フォース2投目。絶妙な位置にドロー。奥の黄にぴったりフリーズすれば1点取らせの形でしたが、それよりもスチールのチャンスが大きい。解説は両角公佑。

公佑「後ろにくっつけるよりも1点を取るのを難しくできたんじゃないかなと思いますね。ここまで来ていると(ぴったりくっつけると)、その前に、まさにこの赤いストーンの位置にくっつければ1点取れるという状況だったんですけど、今もう本当に、この中心に止めるというところでしか1点を取ることができませんので」

 実際、このあとのTM軽井沢のラストストーンはボタン付近まで届かず、ロコ・ソラーレのスチールとなりました。

男子1次予選 LOCOSOLARE-TM Karuizawa
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
LOCOSOLARE * 0 1 0 1 0 1 3 0 0 X 6
TM Karuizawa   0 0 0 0 2 0 0 0 1 X 3

女子1次予選 SC軽井沢クラブ-中部電力

6エンド:びっくりした……

 前年準優勝のSC軽井沢クラブと、少しずつメンバーを変えながら長年活動している強豪中部電力の対戦。試合は5エンド終わって1-1というロースコアな展開。中部電力もやや守備的に感じますが、それ以上にSC軽井沢クラブが守備作戦。リスクが少なめの手を選択し、チャンスがあれば攻めますが、チャンスがないと見るとすぐにブランクに切り替えて次のチャンスを待つという戦術です。

SC軽井沢クラブ-中部電力 6エンド 後攻(黄)中部電力 フォース2投目投球前

6E 後攻(黄)フォース2投目投球前

 そして迎えた6エンド。ここは先攻(赤)のSC軽井沢クラブにチャンスが来て攻めのエンド。4フットに赤を3つ置いて、スチールもありえる形を作って後攻のラストストーンを迎えます。中部電力(黄)の選択は? 解説は市川美余

市川「1点で良ければ先ほど言ったこれが(4フット右上の黄から中へ)、ありそうには感じますけどね」

 しかし、中部電力の選手は右上のガードの黄を見ている。

市川「ただ、これがこう(ハウス内右上の黄に飛ぶ)行ってしまっても……。どう動いていくかという感じで……」
曽根アナ「ん。2点スチールまでは……。ん、3点……? ん」
市川「そうですね、結構勝負の一投になりますね」

SC軽井沢クラブ-中部電力 6エンド 後攻(黄)中部電力 フォース2投目

6E 後攻(黄)フォース2投目

 後攻(黄)中部電力、フォース北澤育恵2投目は、右上のガードの黄からからランバックを選択! ほぼ狙い通りの角度で飛んで赤が2つ左右に出ていきますが、後方の赤がずらしきれず。しかしシューターの黄はギリギリ残って1点は確保。なんとか成功の部類か。

 中継を見ていて、この1投にはびっくりしました。失敗したら2点スチールになりませんか!? 6エンド同点の後攻で、2点スチールになる危険を冒してまで2点取りに行くものなの!?

 決まれば2点で、あとちょっとで決まりそうだったし、実際1点は取れたのだから、結果的には正しい選択でした。また、解説で出ていた1点取りに行く手も、実際にはそれほど簡単ではない気もします。失敗したら1点スチールです。それにしても、この状況なら1点スチールならやむなしかと思ったけどなあ。

 また「じりつくん」で勝率を調べてみました。

6エンドの結果と7エンド勝率
6エンドの結果 6エンド終了時 7エンド 「じりつくん」での勝率
2点取り 2点アップ 先攻 78.3%
1点取り 1点アップ 先攻 61.1%
1点スチール 1点ダウン 後攻 38.8%
2点スチール 2点ダウン 後攻 21.6%

 2点取りは、1点取りの場合と比べて+17.2と十分な得があるように見えます。これを見ると2点チャンスがあるならチャレンジしてみたくなります。しかし、1点スチールになると-22.3とそれ以上の損があります。1点スチールやむなしと言える状況ではない。2点スチールになってしまったらさらに痛い。確実に1点取れるなら、その手を選択したくなります。

 まあ、この数字をショット選択に活用するには、この数字の他に、そのショットを選択した場合の成功率を考える必要があります。それは観戦している側にはわからないことなので、これ以上は何とも言えないところです。

女子1次予選 SC軽井沢クラブ-中部電力
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 0 0 1 0 0 0 2 0 X 3
中部電力 * 1 0 0 0 0 1 0 0 3 X 5

女子2次予選 中部電力-北海道銀行

4エンド:プレッシャードロー

中部電力-北海道銀行 4エンド 後攻(赤)中部電力 フォース2投目

4E 後攻(赤)フォース2投目

 もう1つ中部電力の名場面を紹介。2次リーグの北海道銀行との対戦。

 4エンド。中部電力(赤)フォース北澤育恵2投目。ラストドロー。左の赤のコーナーガードをギリギリでかわさないといけない難しいラインで、ボタンに止めないとスチールになり、ガードに当てたりウェイトが強すぎたりすれば3点スチールもあり得るという、非常にプレッシャーが掛かったドローを決めます。

 やはり、こういうプレッシャードローはカーリングの醍醐味です。ショット、コール、スイープ。すべて完璧に揃わないとこういうショットは決まりません。

女子2次予選 中部電力-北海道銀行
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
中部電力   0 2 0 1 0 1 0 2 0 0 6
北海道銀行 * 2 0 1 0 2 0 1 0 0 1 7

男子2次予選 北見協会-コンサドーレ

8エンド:平田が吠えた

北見協会-コンサドーレ 8エンド 後攻(赤)北見協会 フォース2投目

8E 後攻(赤)フォース2投目

 男子2次リーグ。北見協会のスキップ、平田洸介のナイスショットを紹介します。1点ダウンの8エンド、後攻(赤)北見協会フォース2投目。ダブルテイクを決めて2点。平田が吠えた。

 キーとなる8エンド後攻で複数点を取って5-4と逆転し、北見協会が優位に立ったのですが……。

10エンド:時間がなくて

 しかし、最後の最後で北見協会に致命的なミスが出てしまいます。

 9エンドはブランクとなり、5-4と北見協会1点リードのまま10エンドを迎えます。

北見協会-コンサドーレ 10エンド 先攻(赤)北見協会 フォース2投目

10E 先攻(赤)フォース2投目

 先攻(赤)北見協会フォース2投目。先攻のラストストーン。1点取らせの形を作りたいところで、黄にフリーズすればその形を作れたはずでした。しかし、投げたストーンは13.8秒。思ったより強く投げてしまって曲がりきらず、狙いの黄の左の赤に当たって止る形に。ナンバー1の赤を押せる形を残して、逆転の2点チャンスを与えてしまいました。解説は両角公佑。

公佑「時間がなかった分、ちょっと焦りが出たかもしれないですね」

 投げる場所を決めてハックに戻る場面ですでに残り36秒、ハックに座って投球準備をするところで残り17秒という表示が見えていました。「あと40秒ね」「時間あれだよ」「大丈夫時間はあるよ」という声も聞こえる中でのショットでした。

 このあと、コンサドーレのフォース清水徹郎がナンバー1の赤を押し下げて2点を取り、コンサドーレ逆転勝ち。北見協会は痛恨の負けとなりました。

 先ほど、プレッシャードローがカーリングの醍醐味と書きましたが、プレッシャードローでこういうミスが出るのも含めての醍醐味です。普段は難しいとはいえ決められるショットでも、勝つか負けるかという場面で、残り時間も少ないとミスが出てしまう。こういうことが往々にしてあります。というか、そういうことの方が多い。プレッシャーの掛かるピンポイントのラストドローなんて決まるわけがない。だからこそ、決まったショットが際立ちます。

男子2次予選 北見協会-コンサドーレ
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北見協会 * 1 0 1 1 0 0 0 2 0 0 5
コンサドーレ   0 1 0 0 2 0 1 0 0 2 6

男子2次予選 SC軽井沢クラブ-LOCOSOLARE

9エンド:後攻のセンターガード策

 男子2次リーグのSC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレとの対戦。試合は8エンド終了時で3-7とロコ・ソラーレが大きくリードしますが、劣勢に立たされたSC軽井沢クラブがおもしろい作戦を見せます。

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 9エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ セカンド1投目

9E 後攻(赤)セカンド1投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、セカンド1投目を終えてこの状況。もう一度書きますが、黄が先攻で、赤が後攻です。SC軽井沢クラブは後攻にもかかわらず、ダブルセンターガードを置きました。セオリー無視のセンターガード作戦。解説は谷田康真。

谷田「ここはもうセオリー通りに戦っていてもなかなか難しいというのと、ノーティックルールというのがありますので、それを後攻のチームが逆に利用するような。《中略》4点差ぐらい付いてくると、海外のトップチームも含めですけど、コーナーガードをウィックされるという場面が出てきますので、海外の強豪チームもセンターガードを置くっていうチームはいます」

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 9エンド 先攻(黄)ロコ・ソラーレ サード1投目

9E 先攻(黄)サード1投目

 先攻(黄)ロコ・ソラーレ、サード1投目。赤を1つテイクしつつ、赤にバックガードがある形を解消します。このあたりまではロコ・ソラーレがうまく対応していて、ビッグエンドになりそうな雰囲気はありませんでしたが……。

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 9エンド 後攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

9E 後攻(赤)フォース1投目

 後攻(赤)SC軽井沢クラブ、フォース栁澤1投目。赤の内側へタップバック。ちょうど、前のガードから縦に少しずつずれて隠す形を作りました。中の赤2つ、どちらもテイクしにくい。

 このあと、ロコ・ソラーレはナンバー2の黄を守るガードを置きますが、やや内側にずれてしまいました。SC軽井沢クラブはラストストーンでナンバー2の黄をカマーテイク。シューターも残って3点取りのビッグエンド。4点差から一気に1点差まで詰め寄りました。SC軽井沢クラブお見事。ロコ・ソラーレの方もそんなに大きなミスはなかったと思うのだけど。

谷田「いやーーーー、センターガード2つ置くっていう後攻の戦術が初めてここまで成功したのを見ました」

男子2次予選 SC軽井沢-LOCOSOLARE
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
SC軽井沢クラブ   0 1 1 0 0 0 1 0 3 0 6
LOCOSOLARE * 1 0 0 3 1 1 0 1 0 5 12

後編へ続く

y-koutarou.hatenablog.com

*1:9エンドで仕掛けておけば、うまくいかず2点取りが難しくなった際に「ブランクにして10エンドで仕切り直し」や「1点取って、10・11エンド連続スチールで逆転」というプランもあります。9エンドをブランクにするとこのプランはなくなります。

男子カーリング世界選手権2023準決勝 カナダ-スイスがすごい試合だった

 2023年4月1日から9日にかけて、男子カーリング世界選手権が開催されていました。日本の試合はNHK BS1で連日中継されていましたが*1、準決勝と決勝も放送されました。そのうち、準決勝のカナダ-スイスが名勝負でした。自分がこれまで見てきた中で一番良い試合だったかもというくらい。*2

 前半は精密なショットがピタリピタリと決まる気持ちの良い投げ合いで、1点取らせが続く。後半は、精密ショットに加えてビッグショットもたびたび飛び出し大興奮という内容でした。

 そこで、どのような試合だったのか、局面図を使って振り返ってみたいと思います。

worldcurling.org

試合情報

  • 準決勝:カナダ-スイス
  • 日付:2023/04/09(日) ※放送日
  • 場所:カナダ オタワ TDプレイスアリーナ
  • 放送:NHK BS1
  • 解説:両角友佑
  • 解説:両角公佑
  • 実況:田中秀樹
選手・コーチ
カナダ
リード - Geoff WALKER ジェフ・ウォーカー 37歳
セカンド - E.J. HARNDEN E・J・ハーンデン 40歳
サード V Mark NICHOLS マーク・ニコルズ 43歳
フォース S Brad GUSHUE ブラッド・グシュー 42歳
フィフス - Ryan HARNDEN ライアン・ハーンデン -
コーチ - Caleb FLAXEY ケイレブ・フラクセイ -
スイス
リード - Pablo LACHAT パブロ・ラシャ 22歳
セカンド - Sven MICHEL スベン・ミヒェル 35歳
サード S Yannick SCHWALLER ヤニック・シュバラー 28歳
フォース V Benoit SCHWARZ ブノワ・シュワルツ 31歳
コーチ - Haavard Vad PETERSSON ホーバル・バド・ピーターソン -

1エンド:いきなりスチール

 手拍子の中、大観衆のカウントダウンで試合開始。地元カナダの登場とあって、1投目のセンターガードから大きな拍手。

 途中まではセンターガードを1つ残したままハウスに入った石をテイクしあうという、1エンド目でよくある展開だったが、後攻スイスのサード2投目のテイクを狙ったショットが、ガードにかすってほぼスルーになってしまうミスになってしまう。カナダがいきなりスチールチャンスを迎えた。

1E 先攻(赤)カナダ フォース2投目

1E 先攻(赤)フォース2投目

 そして、先攻カナダ(赤)フォースのブラッド・グシュー2投目のドロー。ベストポジションに置いてスチール形を作った。ボタン12時方向の赤はガードに隠れていて、9時方向の赤をヒットステイしてもナンバー1になれない。

 この後、スイスは黄のガードからのランバックを狙うしかなかったが、ボタン12時方向の赤の左肩に当たって9時方向の赤はそのまま残る。先攻スタートのカナダがいきなり1点スチールした。

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1                   1
スイス * 0                   0

2エンド:精密ショットの応酬

2E 後攻(黄)スイス フォース1投目

2E 後攻(黄)フォース1投目

 後攻スイス(黄)フォースのブノア・シュワルツ1投目。カマーはナイスショット。センターガードの真裏に強いナンバー1を作ってスイス2点形かに見えた。

2E 先攻(赤)カナダ フォース2投目

2E 先攻(赤)フォース2投目

 しかし、先攻カナダ(赤)のラストストーン。スキップのグシューはテイクを狙っている。

公佑「ほぼ隠れてると思うんですけどね」

 完全に隠れているかに見えた黄だったが ウェイトを抑えたテイクでしっかり出し切る。ナイスショットの応酬。

youtu.be

2E 後攻(黄)スイス フォース2投目

2E 後攻(黄)フォース2投目

 スイスは1点取るしかないが、シュワルツはここでドローを投げる。

友佑「ヒットステイで1点というチームも多いと思うんですけども、ドローで取りにいくあたりね、いいですよね。僕、こういうときにドロー投げてくるスキップ好きですね」

 4フットに止まらないとスチールになるドローをボタンに決める。お互いにさすがの精度。

youtu.be

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0                 1
スイス * 0 1                 1

4エンド:「手で置いた形」から……

 3エンドは、終盤ブランク形になったが、先攻のスイス、フォースのシュワルツ2投目のヒットロール一発で1点取らせの形を作ってカナダ1点。

4E 先攻(赤)カナダ セカンド1投目

4E 先攻(赤)セカンド1投目

 4エンド。先攻カナダ(赤)の最初の3投はセンターガード、センターカマー、遠いセンターガード。後攻スイス(黄)の2投はコーナーガード、コーナーカマー。

 で、この形。ここまでの5投がすべて完璧な位置。

友佑「手で置いたみたいですよね。練習のときに手で置いた形ですよね」

 しかも、完璧なショットはここで終わりではない。このエンドはこの後のショットすべて紹介します。

4E 後攻(黄)スイス セカンド1投目

4E 後攻(黄)セカンド1投目

4E 先攻(赤)カナダ セカンド2投目

4E 先攻(赤)セカンド2投目

 後攻スイス(黄)セカンド1投目。センターガードからランバックでセンターライン上の赤を3つとも動かす。

 先攻カナダ(赤)セカンド2投目。コーナーガードからランバックでダブルテイク。黄のコーナーの良い形が一投で消滅する。お互いにやりたいことをやる。

4E 後攻(黄)スイス セカンド2投目

4E 後攻(黄)セカンド2投目

4E 先攻(赤)カナダ サード1投目

4E 先攻(赤)サード1投目

 後攻スイス(赤)セカンド2投目。ヒットロールでセンターガードの裏へ。センター戦に引き込まれたとはいえ、これだけ良い位置にナンバー1を取れば優勢かと思ったが。

 しかし先攻カナダ(黄)サード1投目。ハウス内カマーでさらにその裏へ入って、しかもボタンでT前という好位置。本当にやりたいことをやるな。

4E 後攻(黄)スイス サード1投目

4E 後攻(黄)サード1投目

4E 先攻(赤)カナダ サード2投目

4E 先攻(赤)サード2投目

 後攻スイス(黄)サード1投目。ランバックを狙ったが中には当たらずガード外しのみ。先攻のカナダにチャンス来た。

 先攻カナダ(赤)サード2投目。ガードを置いてハウス内12時方向の黄を押すラインをふさいだ、かに見えたが……。

4E 後攻(黄)スイス サード2投目

4E 後攻(黄)サード2投目

 後攻スイス(黄)サードのヤニック・シュバラー2投目。

友佑「いやー、ここはもうガードを払っとく方がいいのかってふうに思いますね。ガードを3つ出せる角度になってますので」

 しかし、スイスはガードをギリギリかわして黄を押し込む! 触れないかに見えた好位置の赤を動かす。

 すごいショットだった。このラインが通るのか。これをやられてしまったということは、先ほどのカナダのガードはわずかに曲がりすぎていた。しかし、本当にギリギリのショット。

4E 先攻(赤)カナダ フォース1投目

4E 先攻(赤)フォース1投目

4E 後攻(黄)スイス フォース1投目

4E 後攻(黄)フォース1投目

 しかし、まだナンバー1は赤。先攻カナダ(赤)フォース1投目を前に4人集まって作戦会議。ピンチもチャンスもありそうな形。ここは時間を使う。結局、ナンバー1の赤を守る高いガードを選択した。

 後攻スイス(黄)フォース1投目。そのガードの外側からナンバー1の赤を押しに行くが、わずかに曲がりが足りず届かない。まだ赤のカナダがナンバー1。しかし、次は今の黄から1の赤を押す手がある。

4E 先攻(赤)カナダ フォース2投目

4E 先攻(赤)フォース2投目

 先攻カナダ(赤)フォースのグシュー2投目。先攻のラストストーン。直前のスイスのショットと同じラインのカマーで黄を少し押し下げて、その黄から1の赤を動かす手を消す。

公佑「押し下げたことによって、スイスが2点取る可能性が…………なくなったのかなと」
友佑「どうでしょうね。さきほどのように大きく曲がるのであれば、アウトターン側*3から芯近く行けばもしかしたらというのは。あと3センチ押せればいいので。ただそのウェイトでナンバー2の芯をとらえられるかというところですね。かなり難しいと思うので、ここは1点狙いかなという感じがします」

4E 後攻(黄)スイス フォース2投目

4E 後攻(黄)フォース2投目

 後攻スイス(黄)フォースのシュワルツ2投目。ガードにギリギリかすってしまうが、それでも中に入ってきて黄を少し押してナンバー1を取る。スイス1点。

友佑「2点狙ってましたね」

 スイスは黄を押し込んでナンバー1の赤を少しでも押せれば2点という手を狙っていた。もしガードにかすらなければ2点になっていたかも……。逆に、あとわずかでも厚く当たっていたら、黄を押せずにカナダのスチールになっていただろう。どちらにも紙一重の差で結果は1点。

 お互いに力の入ったショットが続いたエンドだった。

youtu.be

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0 1 0             2
スイス * 0 1 0 1             2

5エンド:1点取らせが続く

5E 先攻(黄)スイス フォース1投目

5E 先攻(黄)フォース1投目

5E 後攻(赤)カナダ フォース1投目

5E 後攻(赤)フォース1投目

 先攻スイス(黄)フォース1投目。外側のラインを使ったテイク。難しいラインだったが、当然のように決める。ハウス左端で黄が1・2取って1点取らせの形か。

 しかし、後攻カナダ(赤)フォース1投目。右のコーナーガードを使ってナンバー1を取れるようになったので、1・2の黄は無視してこちらにカマー。完璧に隠して2点チャンスを作る。

5E 先攻(黄)スイス フォース2投目

5E 先攻(黄)フォース2投目

 しかし、先攻スイス(黄)フォースのシュワルツ2投目。すかさずランバックでダブルテイク。本当に、難しいショットが当然のように決まるな。

 結局、1点取らせの形に。カナダのラストストーンは、ほぼハウスまるまる空いているドローをボタンに決めてカナダ1点。前半はお互いに精密ショットの応酬。1エンドでカナダがスチールした以外は1点取らせが続いた。

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0 1 0 1           3
スイス * 0 1 0 1 0           2

6エンド:スイスしのぐ

 後半の立ち上がりの6エンドは後攻のスイスに厳しい形が残る。後攻スイス(黄)スキップ1投目を前にハウス内は赤のみ4つ。3分にわたる長考からのダブルテイクも決まらず。

6E 後攻(黄)スイス フォース2投目

6E 後攻(黄)フォース2投目

 そして、カナダのスチールチャンスとなってスイスのラストストーンを迎える。4フットに入れば1点というドローだが、左の黄のコーナーガードと4フット12時方向の赤の2つの石をかわさないといけない難しいライン。

 左のコーナーガードはかわしたが、12時方向の赤にかすってしまう! しかし、そのまま石は進んでギリギリ4フットに転がり込んでナンバー1を取る。スイス、スチールのピンチをしのいだ。

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0 1 0 1 0         3
スイス * 0 1 0 1 0 1         3

7エンド:信じられないショット

7E 先攻(黄)スイス サード2投目

7E 先攻(黄)サード2投目

 先攻スイス(黄)サードのシュバラー2投目。スイスは2つの黄を抜かれると大量失点の可能性もある危険な形だったが、シュバラーはボタンへフリーズを決める。

友佑「完璧ですね。きれいに直線に並びましたよね」
田中「これですと、前から押してもなにかしら、1個2個は残るということですね」

 これでスイスがこのエンドもしのいだかと思ったが……。

7E 後攻(赤)カナダ サード2投目

7E 後攻(赤)サード2投目

 後攻カナダ(赤)サードのニコルズ2投目。石が飛び散ってその黄を一発で動かす。あのフリーズ状態の黄がこんなに動くのか。

友佑「今の黄色、この石あそこまで出ると思わなかったので、いやナイスですね。ここまで出るならこのショットの方が全然いいですね」

7E 先攻(黄)スイス フォース1投目

7E 先攻(黄)フォース1投目

 しかし、よく見るとまだ黄がナンバー1なので、ナンバー1・2取れば1点取らせの形にできる。

 先攻スイス(黄)スキップのシュワルツ1投目。絶妙な位置にドローを置く。角度がつくとダブルテイクされるので、ナンバー1・2の黄を平行に置かないといけない。近すぎるとやはりダブルテイクされるので距離を取らないといけないが、ナンバー1・2取らないと意味がないので遠すぎてもいけない。さまざまな制約がある中、完璧な位置に決めた。これでやっとスイスがしのいだと思ったが……。

7E 後攻(赤)カナダ フォース1投目

7E 後攻(赤)フォース1投目

田中「飛んだストーンが、黄色に向かった! 信じられないショットが決まりました」

 後攻カナダ(赤)スキップのグシュー1投目。2つの赤と2つの黄が八の字を描いて黄が2つ出ていく。こんなショットが、こんなきれいに決まりますか。赤がナンバー3まで取って3点チャンス。この試合一番の大歓声。

友佑「ナイスショットですね。ペンでタッチで書くのは簡単だったんですけど、実際に決めましたね」

 この後のスイスはダブルテイクを決めて失点を減らすが、カナダはラストストーンのヒットステイでこのエンド2点を取る。この展開で2点は決定的かと思ったが。

youtu.be

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0 1 0 1 0 2       5
スイス * 0 1 0 1 0 1 0       3

8エンド:3点取りの道はあったか?

 しかし、8エンドでスイスは2点取って同点に追いつく。

8E 先攻(赤)カナダ フォース2投目

8E 先攻(赤)フォース2投目

 先攻カナダ(赤)スキップ2投目。ボタンのナンバー1・2を作るスペースを埋めにいったが、ウェイトが足りず4フットまでも届かない。グシュー、大きなミスショット。

 解説の両角友佑が、画面に線を書きながら石の動きを説明する。

友佑「これは2点のチャンスですね。2点……もしかしたら3点もある……ありますね3点。これのダブルをすると、この石がここに当たってちょっと戻ってきそうなので。《中略》これはたぶん動かないんですよ。この石がこの石に当たって跳ねてくるので、おそらくナンバー1・2・3になる……。《中略》こんな感じで残りますねシューターは。これは出てしまいますが、まあでもこの石がどれくらい上がってくれるかですね」

8E 後攻(黄)スイス フォース2投目

8E 後攻(黄)フォース2投目

 後攻スイス(黄)スキップのシュワラー2投目。右の黄から角度を変えてシューターをボタンに押し込んだ。しかし、赤もナンバー3で残って2点止まり。

友佑「思いのほか、ゆるめのショットできましたね。結構ギリギリだったんでしょうね」

 スイスが2点取りかえして試合はまだわからなくなったが、結果的にはスイスはここで3点取らなければいけなかった。あと少し赤がずれているか、4時方向の黄が跳ね返っていれば3点だった。

友佑「もうほんのわずかに速いウェイトだったら、いまナンバー3で止まった赤も動いた可能性もあるので。ただ、結構ギリギリでしたね。当て所的にはギリギリだったのであのウェイトしか投げられなかったのかなという感じですね」

youtu.be

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0 1 0 1 0 2 0     5
スイス * 0 1 0 1 0 1 0 2     5

9エンド:決め手のブランク

 試合は同点で9エンド。ここで、同点の9エンドの戦い方を確認しておきます。

 後攻は、ブランクになれば10エンドを同点の後攻で迎えることができるのでかなり有利になります。よってブランクの価値が高いです。とは言え、2点取って10エンド2点リードの先攻になればさらに有利ですので、2点取れるなら2点取るべきです。今シーズンはノーティックルールが採用されて、スチールの可能性も今までより上がっているところですし。

 先攻は、ブランクはダメだし、2点取られるのはもっとダメ。狙いはほぼ1点取らせのみとなります。1点スチールしても、1点取らせより明確に良いというほどではありません。

y-koutarou.hatenablog.com

9E 後攻(赤)カナダ セカンド2投目

9E 後攻(赤)セカンド2投目

 という同点の9エンドで、セカンドの投球を終えてこの状況。

 後攻のカナダ(赤)がハウスを広く使ってナンバー1・2・3。センターガードはあるが、そのガードの裏に強い赤の1・2があり、後攻のカナダにとって良い形。2点どころか3点も見える。

友佑「(カナダは)ノーティックがあるから、ブランクして同点でいくっていうのもなかなか後攻は大変だっていう判断なのかもしれないですね。複数得点はじめから狙ってるんですね、おそらく」

 先攻のスイス(黄)としてはフリーズの目標となるような石もないので、1点取らせの形を作るのが難しく、厳しい形。

9E 先攻(黄)スイス サード1投目

9E 先攻(黄)サード1投目

 というわけで、先攻スイス(黄)サード1投目は仕方ないのでランバックでダブルテイクを選択。これはナイスショット。赤を減らして失点を減らす。

友佑「ただ、カナダにとってはいい形になりましたね。コーナーガードができたので良い位置を押さえられると……」

 赤がまだ1つ残っていて、シューターの黄がコーナーガードで残って、カナダは2点が狙える形。当然、黄のガードの裏にカマーだと思ったが……。

9E 後攻(赤)カナダ サード1投目

9E 後攻(赤)サード1投目

 カナダの選択はコーナーガードピール! ここでブランク狙いに切り替えた。

友佑「おぉ、ただブランクでもやっぱいいってことですね。コーナーガード外しに来ますね。やっぱチャンスさえあればブランクの方がいいって事なんですね」

 この選択が、この試合の決め手になった。このあと9エンドはカナダの狙い通りブランクとなる。ノーティックルールがあるとは言え、やはり同点の10エンド先攻は厳しい。

 10エンド、カナダは2投目で早くもセンターガードの裏の強い位置にナンバー1を取るが、スイスはスチールのためにそのナンバー1を無視してガードを置き続けるしかない。結局、スイスはこのナンバー1より内側に石を置くことができず、10エンドは順当にカナダが得点してカナダ勝ち。すごい試合だった。

準決勝 カナダ - スイス
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ   1 0 1 0 1 0 2 0 0 2 7
スイス * 0 1 0 1 0 1 0 2 0 0 5

ハイライト動画

*1:日本は5勝7敗の7位で予選リーグ敗退(6位までがプレーオフ進出)。

*2:ちなみに、自分が見た一番良い試合の候補は次の通り。

y-koutarou.hatenablog.com

y-koutarou.hatenablog.com

*3:筆者注:図の左側のこと。

カーリング日本選手権2023の名シーン

 2023年1月28日から2月5日にかけてカーリング日本選手権2023が開催されました。もう1ヶ月以上前のことになりますが、やっと局面図をいくつか作ってみたので、その局面図やNHK BS1での中継の文字起こしなどを元に名場面を振り返ってみたいと思います。ちょうど、次の土曜日から女子カーリング世界選手権が始まるところでもありますし。

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男子予選 コンサドーレ-北見協会 2エンド:北見協会の作戦 その1

 今大会で自分が特に印象に残ったのが、男子で準優勝した北見協会です。かつてSC軽井沢クラブリザーブとして平昌五輪にも出場した平田洸介が立ち上げたチーム(KiT CURLING CLUB)です。今大会では、他のチームの試合ではあまり見ない独特の守備的作戦を採っていました。それが良く現れたシーンを2つ紹介します。まずは、予選リーグのコンサドーレ-北見協会の試合から。

 1エンドは後攻の北見協会が1点取って2エンド。先攻(黄)北見協会のフォース1投目を前にこの局面。あなたならどう考えますか?

コンサドーレ-北見協会 2E 先攻(黄)北見協会 フォース1投目 投球前

2E 先攻(黄)フォース1投目 投球前

 先攻なので、相手に1点取らせることを狙いたいところです。しかし、すでに赤にナンバー1・2を持たれています。しかも、2つとも強い。赤に直接触りづらいし、下手に触ると4フット左上の黄や右下の黄が出されやすくなってしまいそう。

 自分は中継を見ていて、そうは言っても右からフリーズして、できる限りナンバー1の赤に近づけて、次にナンバー1の赤を動かせる形になればいいな……という手くらいしかないかな? と思っていました。

 北見協会の選択はこれ!

コンサドーレ-北見協会 2E 先攻(黄)北見協会 フォース1投目

2E 先攻(黄)フォース1投目

 ナンバー3の黄を守るガード! まだ2投あるのに、1点取らせはあきらめて、2失点で抑えにいく作戦です。解説は谷田康真、実況は田中秀樹。

田中アナ「またガードを置きにいこうというのは、北見協会は、谷田さんこれ2点取られたままでいいということなんですか?」
谷田「そうですね。2点取られたままで、2点やむなしという形ですし、いま北見協会がナンバー3持ってますが、そのナンバー3が今いつでも出せる状態にありますので、そのナンバー3を出されたときに2点以上取られる形になってしまいますので、もうここはそのナンバー3をいかに守り切るかという戦い方に切り替えてますね」

コンサドーレ-北見協会 2E 後攻(赤)コンサドーレ フォース2投目

2E 後攻(赤)フォース2投目

 さらにガードが増えてコンサドーレ(赤)のラストストーン。そのガードの黄からランバックを狙う。うまく飛べば最大4点まであったが、狙いの角度で飛ばず、ハウス内の形は変わらず2点止まり。

田中アナ「北見協会を2失点を……ナンバー3を守るというなかなかない展開になりましたけれどもね」
谷田「ただ、いい判断だったと思いますね。途中のハウス内の形を見ていると、コンサドーレこのエンド3点以上取ってもおかしくない形をしていましたので。逆にコンサドーレとしては少し決め切れなかったと言いますか、チャンスを広げることができなかったエンドだなと思いますね」

男子決勝 SC軽井沢クラブ-北見協会:北見協会の作戦 その2

 北見協会は、さらに決勝でもおもしろい作戦を見せてくれました。

SC軽井沢クラブ-北見協会 3E 後攻(黄)北見協会 サード2投目

3E 後攻(黄)サード2投目

 1-0と北見協会の1点ダウンで迎えた3エンド。後攻の北見協会(黄)サード2投目。絶妙なドローで北見協会に大量点のチャンスが来たかに見えました。解説は谷田康真と市川美余、実況は塚本貴之。

谷田「いや、ナイスショットだと思いますね。これによっていま、ナンバー2とナンバー1の赤と黄色が少しだけ離れたんですよね。で、離れたことによって、いま投げたストーンから次はじき出せるような形になってますので。この微妙な離れが、すごく良いショットになったと思います」

SC軽井沢クラブ-北見協会 3E 先攻(赤)SC軽井沢クラブ フォース1投目

3E 先攻(赤)フォース1投目

 しかし、先攻のSC軽井沢クラブ(赤)フォース1投目もナイスショットのお返し。赤には触らず黄だけテイクする。ナンバー2の赤を出すのに使いたかった黄が出されてしまった。

 さあ、次は後攻の北見協会(黄)フォース1投目。ここからどうやって複数点を取る形を作り直すのか、と思って見ていましたが、北見協会は早々にデリバリー態勢に入る。

塚本アナ「後攻の北見協会はもう作戦が決まりました。市川さんどうしますか?」
市川「……そーーですね、結構幅広めですよね。その、さらに裏に入ろうという作戦ですかね……」

 平田のデリバリー。ドローショットを投げるが……。

SC軽井沢クラブ-北見協会 3E 後攻(黄)北見協会 フォース1投目

3E 後攻(黄)フォース1投目

谷田「ガードストーン投げてきてますね」
市川「あー、ガードですね」
谷田「いまSC軽井沢クラブの柳澤選手のショットが非常に良かったので、その形のままでいると、相手に押されて相手にナンバー1を取られてしまうというところで。それを防ぎに来てますね」
塚本アナ「ということはもう複数得点はあきらめて、1点を守りに来ている」
谷田「そうですね」
塚本アナ「北見協会は今大会も、そのあたりの作戦は非常にはっきりしています。予選リーグの中でも、谷田さん、相手のいい形があって3点以上取られないために、自分たちのナンバー3を守りにいくという」
谷田「ありましたね。このあたりの判断といいますか、本当に無理をしにいかないですよね。この場面も、中の形を変えにいって、ハウスを広くしてより得点を狙うっていう選択肢も、ないことはないんですが、ただそれをやることによってやはり相手のチャンスになる可能性もある。そのリスク管理ですよね。そこがしっかり、北見協会できているなという印象ですね」

 後攻でまだ2投あるのに、2点はあきらめて1点を取りに行くという作戦。しかも、もしかしたら大量点もあるかという形から、相手のナイスショットを見てすぐに切り替えました。

 結局、このエンドは北見協会が1点取るエンドになっています。

 自分がこれまでカーリングを見ていた中では、どうしようもない場合以外は、後攻は2点以上取りにいく、先攻は相手に1点を取らせにいく(またはスチール狙い)ものでした。序盤のエンドで、まだ2点取り・1点取らせの可能性がある段階で、早めに切り替えて後攻で1点を守りにいく、先攻でナンバー3を守りにいくというのは、あまり見たことがなかったので、非常に印象に残るシーンでした。

男子予選 コンサドーレ-北見協会:こんな静かでいいの?

コンサドーレ-北見協会 3E 後攻(黄)北見協会 セカンド2投目

3E 後攻(黄)セカンド2投目

 3エンド。北見協会(黄)セカンド目黒良太選手のトリプルテイクアウト。美しい! 解説は谷田康真。実況は田中秀樹。

谷田「こんな静かでいいのかってくらいのナイスショットでしたよ」
田中「もうちょっと喜んでいいですか」
谷田「女子選手だったら信じられないくらい笑ってるんじゃないですか」

 いつもはそのエンドのラストショットをアップしているNHKスポーツのTwitterも、このエンドはこの場面の動画をアップしているのでぜひ見て下さい。

女子予選 中部電力-ロコ・ソラーレ:定石

 中部電力-ロコ・ソラーレと言えば、毎度名勝負を繰り広げるカーリング界のゴールデンカード。この試合も接戦で、8エンドを終わって5-6、ロコ・ソラーレ1点リードで終盤。とはいえ、9エンド1点アップで後攻のロコ・ソラーレはかなり有利な状態。中部電力はこのエンドはぜひスチールしたい。

中部電力-ロコ・ソラーレ 9E 先攻(赤)中部電力 フォース2投目前

9E 先攻(赤)フォース2投目前

 という状況でこの局面。先攻の中部電力(赤)フォース北澤育恵2投目。先攻のラストストーンですが、スチール狙いの先攻の、この局面での定石とも言える一手は?

中部電力-ロコ・ソラーレ 9E 先攻(赤)中部電力 フォース2投目前

9E 先攻(赤)中部電力 フォース2投目

 答えはここ。次に黄が、いま投げられた12時の赤・4時の赤、どちらをヒットステイしてもナンバー1になれず、かつ4フットへのドローラインも狭める。これより手前でも奥でもいけない。ベストポジションに置けた。

中部電力-ロコ・ソラーレ 9E 後攻(黄)ロコ・ソラーレ フォース2投目

9E 後攻(黄)フォース2投目

 後攻のロコ・ソラーレ(黄)フォース藤澤五月2投目。ドローではなくテイクを選択。少しでもロールすればナンバー1を取れたが、ステイしてしまって、メジャーを経て中部電力スチール。試合は同点で最終エンドとなりました。

 結局、10エンドはロコ・ソラーレが得点して逃げ切りましたが、力の入った好ゲームでした。やはり、この2チームの対戦は熱い!

男子予選 チーム荻原-岡山CA:長考

 6エンド、先攻の岡山CA(黄)のフォース2投目。スコアは3-2。岡山CAは1点ダウンの上、偶数エンドの後攻を相手に持たれているので、ここで2失点以上するとかなり厳しくなる。この局面で長考に入る。

チーム荻原-岡山CA 6E 先攻(黄)岡山CA フォース2投目

6E 先攻(黄)フォース2投目

 考えられる手は、まず左下の赤にフリーズ。決まれば確実に1失点に抑えられる。しかし、少しずれたら2失点・3失点の可能性もある。

 左下の赤からヒットロールは、3失点は防げるが、センターガードの裏までロールするのは、ロール幅が大きいので難しいショットになる。決まらなかったら2失点は避けられない。

 直接カマーは、右上の赤を使うハウス内ランバックがある。それを決められると3失点になる。

 悩みに悩んだ末にカマーを選択。「いやー」という言葉が連発する、2分30秒の長い作戦会議だった。

谷田「僕もこの選択は全然ありだと思いますね。というのも、こうすることによって相手がランバックショットで3点を狙いに来ても、ランバックの方が精度が、難易度が難しいので、もしミスになったときにスチールの可能性も出てくるんですよね。6エンドで点数を取ることによって、先ほど言っていた順番が逆になって、自分たちがラストエンドで後攻を持てる流れになりますので、その勝負をここでかけるのはすごい賢い選択だと思います」

チーム荻原-岡山CA 6E 後攻(赤)チーム荻原 フォース2投目

6E 後攻(赤)フォース2投目

 ドローは完璧に決まったので、チーム荻原のラストストーンはハウス内ランバックを狙うしかない。決まれば最大3点、はずれれば1点スチール。まさに勝負所。

 ナンバー1の黄は飛ばしたが、シューターも飛ばした赤も出ていってしまって赤は1つしか残らず1点。岡山CAとしては土俵際で踏ん張った。チーム荻原としてはかろうじて優勢を維持した。とても見応えのある攻防でした。

女子予選 中部電力-LS北見:焦りすぎ?

中部電力-LS北見 4E 後攻(赤)中部電力 フォース2投目

4E 後攻(赤)フォース2投目

 この大会でのLS北見とは、藤澤五月率いるロコ・ソラーレではなく、育成チームのロコ・ステラのこと。

 3エンドをLS北見がスチールして、1-2でLS北見リードで4エンド。後攻の中部電力(赤)フォース2投目。

 ランバックで2点を取りにいきますが、ナンバー1の黄に飛ばずハウス内の形は変わらず。LS北見の連続スチールとなりました。

 1点ダウンの後攻で、確かに2点取りたい場面ではありますが、この選択どうだったか? もちろん、成功できると思ったからやったのでしょうが、距離はそれなりにあるので結構難しいように見える。失敗したらスチール。4エンド1点ダウンで、そこまでやる必要ある?

 投球前にはこんな会話もありました。

「それも行きそうっていちゃ行きそうだけど確実に1点とっとくか」
「うーん、まあでも2ダウンになるって事だよね、1点取られても」

 Jiritsukunによると、勝率は以下のようになります。

  • 1点取る→4エンド終了同点先攻:42.0%
  • 2点取る→4エンド終了1点アップ先攻:57.5%
  • 1点スチール→4エンド終了2点ダウン後攻:22.0%

 確かに2点取るのは大きいですが、スチールになってしまったらそれ以上に痛い気がします。ここは1点取りで我慢しても良かったのでは? 若手チーム相手に先にスチールされて焦っていたのかなという印象を受けました。

 まあ、この試合は中部電力が後半に力を見せて逆転勝ちするのですが。

女子予選 ロコ・ソラーレ-北海道銀行:リラーズの実力

 北海道銀行とは、吉村紗也香率いるフォルティウスではなく、昨シーズンから立ち上がった新チームのリラーズのこと。

 藤澤の転倒ショットなどもあった試合ですが、8エンド、4-5で後攻1点ダウン。接戦で終盤。

ロコ・ソラーレ-北海道銀行 8E 後攻(赤)ロコ・ソラーレ フォース1投目

8E 後攻(赤)フォース1投目

 後攻のロコ・ソラーレ(赤)フォース1投目。藤澤五月のナイスショット。実況は小山凌。

小山アナ「今日はデリバリーのときに転倒などもあった藤澤だったんですが、この終盤の勝負所」
市川「やっぱね、こういうところでしっかり決めてくれますね」
小山アナ「市川さん、この一投でかなり形勢としては、また大きく変わってと見ていいですか?」
市川「そうですね、一気に1・2を取られてしまって、しかもラスト1投しか残っていませんので、けっこう北海道銀行としては厳しいですよね」

 赤がナンバー1・2取って、左の赤は出せてもロコ・ソラーレ2点は固そう。やはりロコが一枚上手かと思ったが……。

ロコ・ソラーレ-北海道銀行 8E 先攻(黄)北海道銀行 フォース2投目

8E 先攻(黄)フォース2投目

 先攻の北海道銀行(黄)フォース2投目。

小山アナ「当ててナンバー1を作った!」

 お返しのナイスショット。赤の間に黄を押し込んで赤の裏でナンバー1を取る。逆にスチールチャンス。こんな手があったのか。これはすごいショット。

 このあと、ロコ・ソラーレのラストストーンは、ガードの黄からランバックで赤からナンバー1の黄を動かして1点取りを狙う手しかなかったが、ナンバー1の黄に飛ばず北海道銀行スチール。リラーズが力を見せた。

 先攻の8エンドをスチールして北海道銀行が優位に立った。試合はこのあと、9エンドはロコ・ソラーレが2点取って同点に追いつくが、10エンドは後攻が順当に得点して北海道銀行の勝ち。

 この試合を見たときはリラーズが優勝するかと思いましたが、ベスト4にも残れなかったのは意外でした。来年以降に期待しましょう。

女子予選 SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ:ため息

SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレ 2E 先攻(黄)ロコ・ソラーレ フォース2投目

2E 先攻(黄)フォース2投目

 2エンド、先攻のロコ・ソラーレ(黄)フォース2投目。

 絶妙なウェイトで強い位置に黄を押し込んでスチールチャンスを作る。派手なショットではないですが、これはナイスショットですよ。放送席からもため息。実況は飯塚洋介。

飯塚アナ「うわぁーいいところに押してきました」
市川「うまい」
谷田「じょうずですね」

 この後、SC軽井沢クラブのラストストーンはランバックを狙うしかなかったが、中に当たらず、ロコ・ソラーレの2点スチールとなりました。

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男子予選 SC軽井沢クラブ-札幌国際大学:リスキーな作戦?

SC軽井沢クラブ-札幌国際大学 5E 後攻(黄)札幌国際大学 フォース1投目

5E 後攻(黄)フォース1投目

 予選リーグ初戦から、昨年の決勝の顔合わせとなった。5エンド、3-3の同点で後攻の札幌国際大学(黄)フォース1投目。

谷田「おそらく、赤からのダブルテイクアウト、狙っているのだと思いますけれど、ちょっと難しいショット選択に見えますね」
曽根アナ「そうですか。ちょっとリスキーですか?」
谷田「ちょっとリスキーだと思いますけれど」

という指摘もあったショットだったが、札幌国際大学はこれを決める。ナンバー1が黄のままで、赤2つはダブルテイクアウトができる形で、大量点もありえる形になる。

SC軽井沢クラブ-札幌国際大学 5E 後攻(黄)札幌国際大学 フォース2投目

5E 後攻(黄)フォース2投目

 SC軽井沢クラブ(赤)はそのダブルテイクのラインをふさぐハウス内ガードを置くが、これでもトリプルテイクがある。札幌国際大学(黄)のラストストーンは、右からドローして安全に2点という選択肢もあるが、ここはトリプルテイクを狙いに行く。

谷田「決まれば下手すれば5点、取れる可能性もありますので」
曽根アナ「シューターも残って、一番下の石も生きていますもんね」
谷田「ここはその点数を取ることができれば、試合を決定づけるようなショットにもなりますので、狙っていいと思います」

 結果は、3つ目の赤に飛ばず、黄はナンバー1のみ。惜しくも1点止まり。

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 札幌国際大学は、昨年の日本選手権は準優勝して台風の目となり今年も期待していましたが、青木豪選手が体調不良で欠場して、惜しくもベスト4に残れなかったのは残念でした。この2つのショットは、いかにも青木選手が好きそうなショットだなと思って見ていましたが……。

 ちなみに青木選手は、その後に行なわれたミックスダブルス日本選手権では小穴桃里選手と出場して準優勝と、元気な姿を見せてくれていました。

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おまけ:市川 vs. 谷田

 それと、この大会でおもしろかったのが、初めてNHKの解説に登場した谷田康真の解説。独特のトーンで静かにボケるタイプ。特に、市川美余とのダブル解説が3試合もあって、谷田が市川に仕掛ける話しかける場面がたびたびあって2人ともの良さが引き出されていたと思います。そんな場面を2つほど紹介します。*1

ラインイエス論争

 女子予選、SC軽井沢クラブ-ロコ・ソラーレの5エンド。こちらはTwitterで書いたので、そちらへリンクしておきます。

三角定規

 女子決勝、ロコ・ソラーレ-SC軽井沢クラブの7エンド。1投目が、センターラインに乗っているかどうか(ノーティックルール適用になるかどうか)、三角定規のようなもので測定していたのを受けて……。

谷田「市川さんに一つお聞きしたいのですが」
市川「はい(笑)」
谷田「カーリング選手って結構どの選手も練習中にメジャーとか使ったりすると思うのですが、三角定規みたいなメジャーって使ったことありますか?」
市川「三角定規? 先ほどのやつですか? いや、あれは使ったことないです」
谷田「ないですよね。……っていう話でした(笑)」
《中略》
市川「フリーガードゾーンに有効かどうかって確認するときに、バイターのメジャーも試合中に使うことはあるんですが、このノーティックがつい最近ですので、私もう引退してかれこれ10年くらい経ちそうなので、あの三角定規の時代には、生きてなかった……(笑)」
田中アナ「現役ではなかったということですね」
谷田「いや、あれだと思いますよ。ホグラインを越えてるかどうかにも三角定規使っていたはずなので、市川選手がいたときから使われていたと思います」
市川「えー、見たことないですねー」
(画面は、ちょうどドローがホグラインを越える場面)
田中アナ「このホグラインを越えているかどうかを計測するときにということですね」
谷田「そうですね、はい」
市川「(小声で)え、使ったことありますか?」
谷田「ないんですよ」
市川「あ、ないですよね」
田中アナ「……さあお話の間に、ゲームの方は、フロントエンド、セカンドのSC軽井沢1投目が終わりました」

 三角定規って、選手でもめったに見ないくらい珍しかったのか。じゃあ、日本選手権2020の女子決勝でバックラインを越えたかどうか測定したのって、かなりのレアシーンだったんだな。見れて良かった。これがなかったらカーリング観戦沼ビンゴも達成できないところでした(^_^;)

y-koutarou.hatenablog.com

y-koutarou.hatenablog.com

*1:まじめな内容の解説も良かったです。念のため。

カーリング観戦沼ビンゴ(見たことのある珍しい場面)

カーリング沼ビンゴを作りました

 「カーリングで見たことのある場面(観戦歴チェック)」というビンゴを作りました。要するにカーリング沼ビンゴ。

mekepon.com

 カーリングで起こりえる珍しい場面を見たことがあればチェック(または現地観戦などをしたことがあれば)。カーリング観戦歴が長ければ長い人ほどチェックが増えるはず。めざせ全チェック!

 説明文にも書きましたが、「見たことがある」の定義はプレイする人それぞれにお任せします。自分は、「現地または生中継で見た試合か、録画をあまり時間を置かずに見た試合で」という条件にしました。その結果……。

カーリングで見たことある場面(観戦歴チェック) プレイ結果

 まさかの0ビンゴ!(>_<) もう10年以上(無料の)テレビで放送される試合は欠かさず見ているのだけど……。

 エキストラエンドがブランク、1試合14点以上、時間切れ負けあたりはありそうで見たことないなあ。エイト・エンダーはテレビで中継されるレベルの試合ではなかなか……。メジャー関連では、同距離判定と目視測定は見たことないですね。

 ビンゴをプレイすると、それぞれのマスを何パーセントの人がチェックしたのか表示されるので、そのシーンのレア度アンケートにもなっています。やはり最難関は「プレー中に石が割れる」ですかね。

自分が見たことがある・知っているレアシーン

 自分が見たことがある・知っている珍しい場面をいくつか紹介します。

エキストラエンドがブランク

 2021年世界選手権女子、日本-ドイツ。NHK BS1で放送予定でしたが、中継スタッフに新型コロナ感染が出たためテレビ中継は中止。YouTube「カーリングYAMAチャンネル」で、公式サイトの「Shot by Shot」という1投ずつ更新される図を使って生配信されていました(自分も見てました)。

youtu.be

 しかも、ドイツの選手にも新型コロナ感染が出たため、ドイツは3人で試合をしているという別のレアシーンを見られた試合でもありました。この試合が中継されていれば、多くの人が2つのチェックを獲得できたことでしょう。

時間切れ負け

 2016年PACC女子、決勝の中国-韓国。

youtu.be

 ダブルテイクが決まれば優勝勝ちの中国ラストストーンを前に、厳しい顔のキム・ウンジョン(メガネ先輩)と、時間切れに気がついた瞬間の王氷玉の表情が見物。

 また、2021年ミックスダブルス日本代表決定戦、吉田・松村-竹田・竹田。竹田・竹田が残り17秒で「いや、やってみよう」と最終エンド突入して、これは時間切れが見られるぞと思ったら、間に合いやがった(^_^;)

 先攻なので1投目は0秒で投げて、2~4投目を17秒以内で投げきって、最後はタイムアウトを使って0秒投球。残り時間は2秒でした。

エイト・エンダー

 2021年世界選手権女子、スイス-デンマーク

 世界選手権でエイト・エンダーは空前絶後で間違いないと思うが、前述のコロナ禍の影響があった大会なので、断片的な映像しか残っていない。残念でならない。

3人で試合をしている

 つい最近。2022年世界選手権女子、スイス-日本。コロナ禍の影響で日本が石郷岡・鈴木・北澤の3人で試合をした。NHK BS1の中継もありました。

 また、自分が最も印象に残っているのが、2015年日本選手権女子、チームフジヤマ-青森県協会。3人で試合をした青森県協会が勝ちました(^_^;) チームフジヤマは後の富士急で、まだ4強と呼ばれる前のこと。小穴や西室という選手はこの試合で初めて知りました。青森県協会には、先日行われた2022年日本選手権にも出場した木原(フィロシーク青森)と兼田(札幌協会)も所属していました。

6点差以上を逆転勝ち

 自分が知っているのは2010年バンクーバー五輪女子、日本-ロシア。

 5エンド終了時0-6から逆転勝ち。

 自分がはっきり「この試合を見た」と覚えている一番古い試合です。実況が「6点という点差はカーリングでは逆転可能ですか?」のような質問をして、解説が「難しいが不可能ではない」のように答えていたと記憶しています。自分は「1点取らせて2点取るのがセオリー」というのは知っていたので、いやいや6点は返らないでしょうと思って見ていたら、本当に、しかも結構すぐに追いついたので、「そうかー、カーリングは6点くらいは射程圏内なんだー」としばらく思っていましたが……。

 いや、やっぱり6点差逆転は相当ないですよ。「じりったー」のデータでも、-6点はすべて勝率0%です。

2023/02/11(土)追記:7点差逆転

 2023年日本選手権で7点差逆転の試合がありました。プレーオフ女子 予選3位-予選4位のSC軽井沢クラブ-フィロシーク青森戦。

 6エンド終了時1-8から逆転勝ち。

 6点差逆転でも上に挙げた試合以来見ていないと思うけど、まさかそれを上回る逆転劇が日本選手権プレーオフで見られるとは……。上記のリンクからYouTubeで実況解説付きで見られるので、みなさんぜひ見て下さい。とてもカーリングらしい試合でした。ピンゴの1チェックも達成できるし(^_^;)

投げる順番を間違える

 投げる石の色を間違えるのは時々あるのだけど、順番を間違えるのは1回しか見たことないと思う。でも、これは見たことある人も多いんじゃないかな? 注目されている試合で大々的にやらかしましたから。

y-koutarou.hatenablog.com

 2019年日本選手権女子、プレーオフ1位-2位の中部電力-ロコ・ソラーレ。9エンド、中部電力のサード2投目、松村が投げるはずのところで、フォースの北澤が投げてしまいました。NHK BS1の中継があった試合だったので、ひとしきり話題になりました。

測定の結果、同距離判定(2023/04/13(木)追記)

 2021年ミックスダブルス日本選手権、予選の吉田・清水-チーム栁澤。

www.youtube.com

 3石メジャー。ナンバー1は赤ですぐに決まるが、ナンバー2が赤か黄か、メジャーで測っても確定できない。接戦の終盤で、パワープレーを使って1点になるか2点になるかという、試合の行方を左右する重要な1点です。審判長も呼び寄せて何度も測定した結果、同距離と判定される。ナンバー1の赤だけ得点で、ナンバー2以降はカウントされず、赤1点となりました。

R11. スコア
(f) 目視でも測定機器を用いても決定できなければ同距離とみなし、以下の手順に従う。
(i) 測定が、どちらのチームが近いかを決定するための場合には、ブランクエンドとする。
(ii) 測定が 2 点目以上を決定するための場合は、それよりティーに近いストーンだけをカウントする。

*1

プレー中に石が割れる

 そんなことあるのかな? でも、ちゃんとルールブックに書いてあるので、きっと起こりえる事態なんでしょう(^_^;)

R2. ストーン

(c) ストーンがプレー中に割れた場合、「カーリング精神」に基づいて代替のストーンを置きなおす。合意が得られない場合は、エンドをやり直す。

*2

 

*1:このルールだと、後攻で相手にセンターラインを固められて、どう見ても1点取らされか1点スチールの形にされたけど、ラストドローで奇跡の同距離判定をもぎ取ってブランクに持ち込む……なんてことがあり得るわけ? 見てみたいなあ。

*2:以前、「一番大きい破片が止まった場所に置く」 と聞いた記憶があるのだけど……。いつからか変わったんでしょうか?

http://www6.plala.or.jp/t-ozawa/Baron/dete/rule2007.pdf

カーリング規則

2.ストーン

(c)ストーンがプレー中に割れた場合、代替のストーンは一番大きい岩片が静止した場所に置く。