「カーリング、9エンドの戦術の考え方」は正しかったのか?

「AIじりつくん」のカーリング勝率テーブル

 「AIじりつくん」というTwitterアカウントで、カーリングの勝率テーブルが公開されています。過去の試合結果を集計して、ある残りエンド数・点差・先攻/後攻である場合に、その試合を何パーセント勝っていたかを表にしたものです。

 この表を使うと、例えば、試合開始時の後攻の勝率は何パーセントか? 9エンド1点ダウンの後攻は、2点取りとブランクのどちらを選択した方が良いのか? などを調べることができます。

 9エンドの選択と言えば、自分は以前「9エンドの戦術の考え方」という記事を書いたことがあります。

y-koutarou.hatenablog.com

 僅差の9エンドでどのような狙いで試合を進めるのが良いのか、9エンドはそれまでのエンドとは点数の価値が大きく異なる場合がある、ということを書いた記事です。しかし、この記事での勝率は自分の観戦体感に基づいて書いたので、主観的でいまいち根拠に欠けました。

 「AIじりつくん」の勝率テーブルを見れば、自分の考えていた9エンドの戦術が正しかったかどうかわかるじゃないか。というわけで調べてみます。

勝率テーブル(先攻/後攻まとめ版)

 まず、後攻と先攻の勝率テーブルは1つの表にまとめた方が見やすいと思ったので、そのような表を作ってみました。*1

勝率テーブル(先攻/後攻まとめ版)

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カーリング勝率テーブル(先攻/後攻まとめ版)

 まず、試合開始時の後攻の勝率を調べてみましょう。試合開始時ということは、残りエンドは10*2、点差は0です。よって、縦は左端の「10」の列、横は「0」の「後」の行を見ます。すると、後攻の勝率は60.4%であることが分かります。試合開始の時点で後攻の勝率が60%以上あるというのは、注目すべき点です。

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勝率テーブル:部分図

 次に、1エンドがブランクになった場合の後攻の勝率を調べてみます。点差は0のまま、先攻後攻も変わらないので、すぐ右の列を見れば良いことになります。勝率は61.5%です。ブランクにすると少しだけ勝率が上がることが分かりました。

 そして、2エンドは後攻が1点取ったとしましょう。1点アップになりますが、1点取ったので先攻になります。したがって右上の「+1」の「先」の行を見ます。勝率は58.0%。後攻が1点取ると勝率が少し下がることが分かります。

 逆に、2エンドは先攻に1点スチールされた場合の勝率はどうなるか? 1点ダウンになったので点差は-1、点を取られたので後攻のままです。右下の「-1」の「後」の行を見ると42.0%。1点スチールされると、1点取らされた場合と比べても勝率を大きく落とすことが分かります。

後攻の勝率変化表

 表をもう1種類作りました。ある点差の後攻が、どの残りエンドで・何点取ると(取られると)勝率がどれくらい変化するかを、勝率テーブルを見て計算して表にしたものです。

 表は後攻から見て1点アップ・同点・1点ダウン・2点ダウンの4種類作りました。横がそのエンドを終えての残りエンド数、縦が後攻が取った点数です*3

後攻の勝率変化表:1点アップ

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後攻の勝率変化表:1点アップ
後攻の勝率変化表:同点

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後攻の勝率変化表:同点
後攻の勝率変化表:1点ダウン

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後攻の勝率変化表:1点ダウン
後攻の勝率変化表:2点ダウン

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後攻の勝率変化表:2点ダウン

 例えば、試合開始直後(=同点)の1エンド(=残り9エンド)の後攻は、ブランクにすると勝率が1.1上がる*4、2点取ると12.7上がる*5、1点取らされると5.7下がる*6ことが分かります。

 この表を見ると、その得点を取ることの価値がどれくらいか、またその価値が他の点差・エンドと比べて大きいか少ないかが分かりやすいと思います。

「9エンドの戦術の考え方」の内容は正しかったのか?

 以上の表を使って、「カーリング、9エンドの戦術の考え方」で書いたことが正しかったかどうか調べてみましょう。

序盤~中盤はやはり原則通り

 序盤~中盤のそれほど点差が離れていないエンドについて、「9エンドの戦術の考え方」では次のように書きました。

  • 後攻:2点取り > ブランク > 1点取り > 1点スチール
  • 先攻:1点スチール > 1点取らせ > ブランク > 2点取られ

 この原則が正しいことは、勝率テーブルからも読み取れます。ほとんどのエンド・点差で、後攻にとっては1点取りよりブランクが、ブランクより2点取りが勝ります。極めて少数の例外*7を除いて上記の関係が崩れることはありません。

 というわけで、この点に関しては自分が思っていたとおりでした。

10エンド1点ダウンの後攻は結構不利

 しかし、10エンドの状況は自分が思っていたものとは違いました。「9エンドの戦術の考え方」では次のように書きました。

10エンド同点の後攻が勝つ確率は2/3~3/4という感覚です。
  • 10エンド同点なら後攻有利
  • 10エンド後攻1点ダウンなら互角
  • 10エンド後攻2点ダウンなら先攻有利

 まず、10エンド同点の後攻の勝率が自分のイメージと異なりました。勝率テーブルによると、10エンド同点の後攻の勝率が75.0%もあります。「2/3~3/4」と書いた上限ぎりぎりです。思ったより高いという印象です。

 そして、後攻1点ダウンは先攻・後攻とも互角という点も、勝率テーブルによると違いました。

  • 10エンド1点ダウンの後攻:42.3%
  • 10エンド1点アップの先攻:57.7%

1点アップ先攻の方が有利というデータです。しかも、結構大きな差があります。これは意外でした。

 なお、「2点ダウンの後攻」と「同点の先攻」の比較では、次のように書きましたが、

「2点ダウンの後攻」より「同点の先攻」の方が有利です。
  • 10エンド同点の先攻:25.0%
  • 10エンド2点ダウン後攻:14.5%

2点ダウンの後攻より同点の先攻の方が勝率が高い。これについては、自分が思っていたとおりでした。

9エンドの戦術にもズレが……

 これに伴い、9エンドの戦術の話も修正が必要になります。「9エンドの戦術の考え方」では、9エンド同点の場合について、次のように書きました。

9エンド同点

後攻:2点取り > ブランク >>> 1点取らされ = 1点スチール
ブランクの価値が高い。2点取るのも良いが、ブランクでも十分有利。1点スチールは怖くない。
先攻:1点スチール = 1点取らせ >>> ブランク > 2点取られ
狙いはほぼ1点取らせのみ。スチールの価値が低い。

要するに、同点の後攻はブランクの価値が高く、1点スチールされても問題ないという事です。

 しかし、勝率テーブルを見て、9エンド同点の後攻が9エンドの結果によって勝率がどうなるかを調べと、次のようになります。

  • 2点取り:85.5%
  • ブランク:75.0%
  • 1点取らされ:57.7%
  • 1点スチール:42.3%

 ブランクの価値が高いのは確かですが、2点取りの価値もブランクより十分高いように思えます。また、1点取らされと1点スチールを比べても、1点スチールの方が十分痛いように見えます。

 後攻の勝率変化表を見ても、同点の残り1エンド(=9エンド)をブランクで終えると+9.0となっています。8エンドのブランクはわずか+0.1ですし、それより前のブランクも高くても+3くらいなので、9エンド同点のブランクの価値が高いのは確かです。しかし、同じエンドで2点取りなら+19.5。ブランクの+9.0よりかなり大きいです。

 また、1点取らされは▲8.3と、それまでのエンドと比べてマイナスが大きいのは確かですが、1点スチールは▲23.7とそれ以上に大きい。「1点スチールは怖くない」は言い過ぎのように思えます。

 1点ダウン後攻の場合も似たような感じです。「9エンドの戦術の考え方」の記述は以下の通りです。

9エンド後攻1点ダウン/先攻1点アップ

後攻:2点取り = ブランク >>> 1点取らされ > 1点スチール
狙いはほぼブランク。2点取りのメリットがない。
先攻:1点スチール > 1点取らせ >>> ブランク = 2点取られ
1点スチールか1点取らせ。2点取られは怖くない。

後攻は2点取りの価値が低く、ブランクの価値が高いと思っていました。しかし、9エンド1点ダウンの後攻の勝率がどうなるかを勝率テーブルで調べると、次の通りです。

  • 2点取り:57.7%
  • ブランク:42.3%
  • 1点取らされ:25.0%
  • 1点スチール:14.5%

 ブランクにして1点ダウンの後攻を維持するよりも、先攻になってでも2点取って逆転してしまった方が勝率が高くなります。「2点取りのメリットがない」なんてことはありません。

 また、先攻としても1点取らせの価値は高いですが、簡単にブランクにできるところを、1点取らせを狙って失敗して2点取られてしまう損もそれなりに大きいです。1点取らせのチャレンジをする場合は、成功率を考える必要があるということになります。

 総じて、勝率テーブルから読み取れることは、カーリングの後攻・先攻の狙いの原則――

  • 後攻:2点取り > ブランク > 1点取り > 1点スチール
  • 先攻:1点スチール > 1点取らせ > ブランク > 2点取られ

――は、ほとんどの場合に有効であるということです。多少の違いは生じますが、極端に大きな違いはない。後攻は2点取りを狙う。できないならブランクを狙う。先攻は1点取らせ、できれば1点スチールを狙う。接戦の終盤でも、この原則は変わらないということだと思います。

その他の勝率テーブルから読み取れること

 これまで見てきた以外で、勝率テーブルを見て思ったことをいくつか書きます。

「偶数エンドの後攻を持つと有利」は本当か?

 よく「偶数エンドの後攻を持つと有利」と言われます。お互いに後攻で得点を取るとすると、交互に後攻エンドが回ってくる。すると、偶数エンドで後攻を持つ方が後攻エンドが1回多くなり、より多く得点できるということです。

 偶数エンドで後攻を持った方が有利ということは、後攻にとって、奇数エンドをブランクにする価値が高い、また偶数エンドで得点を取る価値が高い、となっているはずです。

 後攻の勝率変化表を見ると、確かにそう読み取れる部分もあります。例えば、1点ダウンの表の0点(ブランク)の行を見ると、ちょうど残り5・3・1エンドではプラス、残り4・2エンドではマイナスになっています。つまり、5・7・9エンドをブランクにして偶数エンドを後攻で迎えると勝率が上がるが、6・8エンドをブランクにして奇数エンドを後攻で迎えても勝率は下がるということです。

 また、同点の表の1点取りの行でも、残り4・2エンド=6・8エンドで1点取っても勝率の減少はわずかですが、残り3・1エンド=7・9エンドで1点取ってしまうと6・8エンドで1点取るよりも大きく勝率が下がります。

 しかし、偶数エンドか奇数エンドかによる勝率変化の差は、それほど大きくありません。そして、偶数エンドでも奇数エンドでも、2点取れば勝率は大きく上がります。例えば、1点ダウンの後攻の9エンドをブランクにすると+7.0。これはブランクによる勝率アップとしては大きな数字ですが、しかし、同じエンドで2点取れば+22.4。ブランクよりもかなり大きいです。その他の部分を見ても、どのエンドでも2点取ると、ブランクや1点取りの場合と比べて勝率は大きく上がります。

 こう見ると、結果的に偶数エンドが後攻になるのは悪くありませんが、それを積極的に狙うほどの大きな得はないように思えます。たとえば、奇数エンドの後攻だからといって、2点取る可能性をなげうってまで最初からブランク狙いに行くのは、損をしている可能性が高いと思います。

8エンド同点のスチールは価値が高い

 そんな中、大きな違いがあると言えると思うのが、同点の表の残り2エンドの-1点。つまり、8エンド同点の1点スチールです。▲30.6(先攻から見れば+30.6)という大きな勝率変化になっています。1点取らせでは▲1.2ですので、表の他の部分と比べてもその差は大きいです。同じ8エンドスチールでも、同点以外ではそこまで大きな差はありません。

 8エンドを同点で迎えた先攻は、1点取らせで満足せず、何が何でもスチールを狙う価値は十分あると思います。逆に、後攻は悪くても1点は取る。とにかくスチールは避けたい。

 また、8エンド1点ダウンの後攻も似たような数字になっています。2点取りは+23.7、ブランクは▲5.7なので、2点取りの価値がすごく高い。ブランクでは不十分。

 9エンドを迎えた時点で、先攻なら1点リード、後攻なら同点。ここがその試合を勝てるかどうかの境目のスコアという事でしょう。*8

やっぱりスチールは痛い

 後攻の勝率変化表のほとんどの部分で、スチールされると後攻の勝率は大きく下がります。やはり後攻にとってスチールされるのは痛いことがわかります。

 5ロックルールになって後攻の価値が高くなったと考えると、1点スチールして不利な先攻のままでいるよりも、1点取らせて後攻になって次に3点以上を狙う方が良いのでは?と思うこともありました。しかし、表から読み取れるデータではそんな事はありません。序盤でも終盤でも、勝っていても負けていても、スチールできるならスチールするに越したことはないということです。

本当にこの勝率なの?

 ここまで書いてきましたが、本当にこのデータは実際の試合の勝率を表わしているのか?という疑問は少しあります。

 先日まで行われていた北京五輪男子準決勝のスウェーデン-カナダの試合の中継の中で、こんな場面がありました。8エンドを終えて、4-3でスウェーデンリード。9エンド後攻はカナダ。つまり、9エンド後攻1点ダウンという状況です*9。解説は両角友佑。実況はTBSの熊崎風斗。

実況「9エンド目カナダが点数を取ると今度10エンド目スウェーデンが後攻になると考えますと、カナダはここ確実に複数得点ですよね?」
両角「もしくは、ブランクという手もありますね」
実況「はあー! なるほど」
両角「要は、複数得点が取りやすい後攻であれば、1点ダウンの状態で最終エンドを迎えるというのも選択肢の一つに入ってくるので」
実況「なるほど」
両角「逆に言うと、いま5ロックルールというのになってから、1ダウンで最終エンドを後攻で迎える方が、いいって思ってるチームもいるので。逆にここで2点を取ることによって、自分が1ダウン(筆者注:アップの言い間違い)の先攻になってしまう方が不利と捉えるチームの方がいま多いんですよね」
実況「そういうことなんですね」
両角「なのでここは複数得点を狙うよりも、おそらく気持ちはブランク側に……をしたいという思いの方が強いのではないかと思いますね。
 逆に言うと、スウェーデンはここ2点取られてもいいので多少無理できるんですよね」

 実際、このエンドのカナダはテイクを多用する守備的な戦術で、解説通りのブランクになっています。

 勝率テーブルによると、先にも紹介したとおり、10エンド1点アップの先攻の勝率は57.7%、1点ダウンの後攻の勝率は42.3%。両角解説によると、1点アップの先攻の方が不利と考えるチームの方が多いという話ですが、勝率テーブル上はそうなっていません。これは、選手たちの感覚の方が正しいのか、この勝率テーブルを見たら考えが変わるのか、あるいは違うデータを見ているのか。*10

 冒頭に紹介したAIじりつくんのツイートによると、この勝率テーブルは「女子トップチームの過去3シーズンの2000試合以上」を調べた結果だそうです。2000試合というのは十分な試合数のようにも思えますが、勝率テーブルを見ると、理屈の上ではおかしな部分がいくつかあります。例えば、「残り1エンド同点(=10エンド同点)」と「残り0エンド同点(=エキストラエンド)」は勝ち負けの条件は同じなので、勝率は近い数字になるはずです。しかし、残り1エンド同点の勝率は75.0%、残り0エンド同点の勝率は81.5%、無視できない差があるように思えます。この差はサンプル数を増やせば解消するのでしょうか?

 ただし、サンプル数を増やそうとする場合は、問題が1つ。カーリングはルールが変わることです。少し前には、2018-2019年シーズンからフリーガードゾーンのルールが4ロックから5ロックルールに変更されたという事がありました。当然、変更前と変更後では、戦術選択やその結果、勝敗に変化があったことでしょう。

 そして、2022年の世界カーリング選手権(女子は3月19日から、男子は4月2日から)では、ウィック禁止ルール(センターライン上にある石は、フリーガードゾーンルールが明けるまでセンターラインから外してはいけない)が採用されるそうです。

 ということは、これからデータの取り直しをする必要があるということですか? データを集めるというのも本当に大変なことです。

*1:残り0エンド・-1エンドで点差がある場合の勝率を入れています(100%か0%)。

*2:10エンド制の試合の場合。以下、この記事では試合は10エンド制であることにします。

*3:なお、ほとんどの場合で1点取るよりブランクの方が勝率が高くなるので、「0」の行を「1」の行の上に配置しています。

*4:60.4%→61.5%。

*5:60.4%→73.1%。

*6:60.4%→45.3%

*7:例えば、2点ダウンの残り8エンドの後攻は、ブランクにすると22.2%、1点取ると27.7%なので、1点取る方が勝率が上がるということになっています。また、当然ながら、残り1エンド同点の後攻は、ブランクよりも1点取る方が勝ります。

*8:なお、8エンド同点の後攻は、ブランクにできるところを1点取る必要はありません。9エンド1点アップの先攻より、9エンド同点の後攻の方が勝率は(少しですが)高いので。

*9:次のリンク先で試合動画を見ることはできますが、紹介した解説部分は含まれていません。

*10:男子と女子では異なるということもかも知れませんが。

北京五輪カーリング女子、予選リーグの勝敗表(将棋の順位戦風)

 平昌五輪の時に引き続き、北京五輪のカーンリグ女子、予選リーグの順位表をテキスト形式で作ってみました。

女子予選リーグ


■女子┃10朝 10夜 11昼 12朝 12夜 13昼 14朝 14夜 15昼 16朝 16夜 17昼
スイス┃ ○  ○  ○     ○  ○     ●  ○  ○     ○ 
☆ 8-1┃イギ 中国 ROC ―― デン カナ ―― スウ アメ 韓国 ―― 日本
スウェ┃ ○  ●     ○  ●  ○     ○  ○     ○  ○ 
☆ 7-2┃日本 イギ ―― カナ 中国 アメ ―― スイ デン ―― ROC 韓国
イギリ┃ ●  ○  ●     ○  ○     ●  ○  ●     ○ 
☆ 5-4┃スイ スウ 韓国 ―― アメ デン ―― カナ 日本 中国 ―― ROC 
日本 ┃ ●     ○  ○  ○     ○  ●  ●     ○  ● 
☆ 5-4┃スウ ―― カナ デン ROC ―― 中国 韓国 イギ ―― アメ スイ
カナダ┃    ○  ●  ●     ●  ○  ○     ○  ●  ○ 
▼ 5-4┃―― 韓国 日本 スウ ―― スイ ROC イギ ―― アメ 中国 デン
アメリ┃ ○  ○  ○     ●  ●  ○     ●  ●  ●    
▼ 4-5┃ROC デン 中国 ―― イギ スウ 韓国 ―― スイ カナ 日本 ――
中国 ┃ ●  ●  ●     ○  ○  ●     ●  ○  ○    
▼ 4-5┃デン スイ アメ ―― スウ 韓国 日本 ―― ROC イギ カナ ――
韓国 ┃    ●  ○  ○     ●  ●  ○     ●  ○  ● 
▼ 4-5┃―― カナ イギ ROC ―― 中国 アメ 日本 ―― スイ デン スウ
デンマ┃ ○  ●     ●  ●  ●     ○  ●  ‐  ●  ● 
▼ 2-7┃中国 アメ ―― 日本 スイ イギ ―― ROC スウ ―― 韓国 カナ
ROC┃ ●     ●  ●  ●     ●  ●  ○     ●  ● 
▼ 1-8┃アメ ―― スイ 韓国 日本 ―― カナ デン 中国 ―― スウ イギ
■女子┃10朝 10夜 11昼 12朝 12夜 13昼 14朝 14夜 15昼 16朝 16夜 17昼

 左端の国名(3文字表記)の下の数字は、左が現在の世界ランキング、右が勝敗数。世界ランキングは確定し次第予選リーグ通過表記に変える予定(☆は予選通過、▼は予選敗退

 よくある対戦相手を縦軸に取る形式ではなく、将棋の順位戦で採用される形式で作りました。この形式だと、これまでの勝敗の流れと今後の対戦相手が分かりやすく、順位順に並べ替えるのも容易なので、自分はこの形式が好きなのです。

 日程としては、10日から17日の8日間で1チーム9試合。朝(10:05)・昼(15:05)・夜(21:05)の3つの時間帯で試合が行われます*1。「朝・夜」に試合をする日と「昼」に試合をする日が交互に訪れます。ただし、各チーム抜け番が3回あります。よって、1日2試合ある日がある一方、1試合も試合がない日があるチームもあります。日本の場合、12(土)と14(月)が1日2試合、13(日)が試合がない日となっています。

*1:時間は日本時間での試合開始時間。

カーリング日本選手権2021での後攻の作戦を調べてみた

左右にコーナーガードを置く作戦は有効なのか?

 カーリングの試合で、後攻がリードの2投で左右にコーナーガードを置くという作戦をよく見ます*1。僅差の場面ではあまり使われず、ある程度以上の点差で負けている後攻がこの作戦を採ることが多いです。5ロックルールになって、後攻リード2投目で置いたガードをすぐにテイクアウトすることができなくなったので、この作戦の採用率が高くなったと思います。

 しかし、自分の観戦体感的には、左右にコーナーガードを置く作戦は、あまりうまくいっていないという印象があります。後攻リード2投で左右のコーナーガードを置くと、先攻はその間にセカンド1投目まででセンターライン上に3つの石を置いてきます。後攻はこれ以降、このセンターの3つの石に対処せざるを得ず、結局左右のコーナーガードの裏を使うことなくそのエンドを終える、ということがよくあります。左右のコーナーガードの裏を両方使える展開になることはかなり少ないです。だったら、使えないコーナーガードを置くよりも、コーナーガードは1つだけにして、もう1つはコーナーガードの裏にカマーで置いておくか、センターでフリーズ合戦にいった方が有効な石になるのではないか?と思うのです。

 そんな事にも注目しながら2月に開催されたカーリング日本選手権の試合を見ていましたが、今回の日本選手権では、なんとほぼ全試合の動画が放送・配信されました*2*3

 せっかくすべての試合の動画を見られるのだから、この疑問を調べてみよう。というわけで、動画を見て、負けている後攻がどんな作戦を採って、その結果がどうなったかを調べてみました。

 後攻がある程度負けていて大量点をほしい場面を調べたかったので、調べる場面は「6エンド以前で3点ダウン以上」「7エンド以降で2点ダウン以上」に限定しました。

docs.google.com

負けている後攻の作戦とその結果の一覧表

 その結果の一覧表が以下の通り。

※2021/06/27追記:競技10・女子予選・北海道銀行-中部電力は、この記事作成後のかなり後になってから動画が公開されたので、以下の集計の数値に加えられていません。

docs.google.com

 そして、そのうち左右のコーナーガードを置いたのがどれくらいで、どのくらいうまくいったかを集計したのが以下の表です。

 ところで、そのエンドの結果に一番影響を与えるのは、作戦うんぬんより「点差とエンド」です。大差が付いた終盤では、負けている方は無理でも大量点を狙うしかありませんし、勝っている方は無理せずテイク中心の安全策で十分。その結果、大差で負けている後攻は、大量点どころか2点取ることさえかなり難しくなります。

 というわけで、集計は、まず点差とエンド別にわけ、その中で後攻が「3点以上取った」「2点取った」「1点取った・ブランク・スチール」の3つの結果に分類しました。ある程度負けている場面ですので、成功と言えるのは3点以上、2点は望み通りではないが最低限、1点以下では(ブランクでも)失敗、というイメージです。

後攻の作戦と結果:左右のコーナーガード
後攻の作戦と結果:それ以外の作戦

結果は微妙……

 というわけで集計したのですが……結果はなんとも言えない感じです。

 まず、左右のコーナーガードの作戦の採用率は、129回中38回で29.5%。負けている後攻が取る作戦を分類すると、「左右のコーナーガード」「縦のダブルコーナーガード」「コーナーガードとその裏へカマー」「コーナーガードとフリーズ」「その他の作戦やセットアップ失敗」の5通りくらいだと思いますので、なかなか高い採用率です。

 そして、肝心の左右のコーナーガードの作戦がうまくいっているかどうかですが……。なんとも言えません。先ほども書いたとおり、大差が付いた場面では負けている方の作戦がうまくいく可能性が低いのは当たり前なので、4点ダウン以下くらいの部分だけを見た方が意味があると思います。それの場面を取り出すと以下の通りとなります。

2~4点ダウンで後攻が2点以上取った確率
後攻の得点 左右のコーナーガード それ以外の作戦
+3点以上 2/26 7.7% 5/55 9.1%
+2点以上 6/26 23.1% 15/55 27.3%

いちおう、3点以上取る確率も2点以上取る確率も、左右のコーナーガードを置くより、それ以外の作戦を採った場合の方が高い、という結果になりました。しかし、それほど大きな差はありません。そして、いずれにせよにせよ2点以上取れる確率は低い。3点以上となるとさらに低い。そもそも、確率を出すにはサンプル数が少なすぎる。この数字だけを見て、左右のコーナーガードを置く作戦が有効であるとかそうでないとかは言えないと思います。

 というわけで、あまり意味がある数字は出なかったかも知れませんが、今回調べた結果はこうなりましたということで、今後も後攻の作戦に注目しながらカーリングの試合を見ていきたいと思います。4月2日~11日には男子世界選手権もあるし、一度は中止に決まった女子世界選手権も、ちょうどゴールデンウィークに開催されることが決まったところですし。

左右のコーナーガードがうまくいった例:
男子予選 TM軽井沢(赤)-常呂ジュニア(黄) 10エンド

 「左右のコーナーガードはうまくいかない」という自分の思い込みを取り払うために、日本選手権2021の試合の中から、左右のコーナーガードを置いてうまくいった(いきかけた)試合の局面図を見て、展開を追ってみることにします。まずは男子予選のTM軽井沢-常呂ジュニア。

10E 後攻(赤)セカンド1投目

 この大会の台風の目となって、最終的に準優勝した常呂ジュニアの予選5試合目(全6試合)。ここまで4戦全勝。この試合も、平昌五輪に出場した両角友佑率いる強豪TM軽井沢を相手に優勢に試合を進め、最終10エンドを迎えて3点リード。5連勝は目前だったが……。

 3点以上が必須のTM軽井沢はリード2投で左右のコーナーガードを置く。対する常呂ジュニアは、ハウス内に2つ放り込んだ後、セカンド1投目をわざとスルーした。この作戦がどう出るか。

 後攻、TM軽井沢セカンド1投目は右コーナーガードの裏にカマー。

10E 先攻(黄)セカンド2投目

10E 後攻(赤)セカンド2投目

 先攻、常呂ジュニアセカンド2投目。安全にコーナーガード外し。

 後攻、TM軽井沢セカンド2投目。左コーナーガードの裏にカマー。

10E 先攻(黄)サード1投目

10E 後攻(赤)サード1投目

 先攻、常呂ジュニアサード1投目。ガードの赤からハウス内の赤へ飛ばすランバック狙い。赤のダブルテイクとなったがシューターの黄が残ったので、実質的にはハウス内の赤1つをテイクした形。

 後攻、TM軽井沢サード1投目。ガードで残った黄を利用してその裏へカマー。

10E 先攻(黄)サード2投目

10E 後攻(赤)サード2投目

 先攻、常呂ジュニアサード2投目。再びランバック狙いだが、ずれて自分の黄を飛ばす形になってしまった。コーナーガードは外れたが赤ナンバー1・2。TM軽井沢、3点チャンスが出てきた。

 後攻、TM軽井沢サード2投目。スキップの両角友佑は、小考した後、ブラシでハウス内の黄の前を指し示す。やや押す形となったがナンバー3まで取る。

10E 先攻(黄)スキップ1投目

10E 後攻(赤)スキップ1投目

 先攻、常呂ジュニアスキップ1投目。右の赤をテイクして、シューターは中央へのロールを狙っていたが、ほぼステイでとどまった。

 後攻、TM軽井沢スキップ1投目。黄をヒットステイしたかったが、中央へロールして赤の縦のダブルテイクがある形になってしまった。

10E 先攻(黄)スキップ2投目

 先攻、常呂ジュニアスキップ2投目。ダブルテイク狙い。

 解説「ナイスショットじゃないですか?」

 決まったかに見えたが、左に動いた赤がわずかにハウスに残った。

10E 後攻(赤)スキップ2投目

 後攻、TM軽井沢スキップ2投目。残った黄をヒットステイで3点。

 解説「結構、あっさり3点って、入るとき入りますね」

 TM軽井沢は、3点ダウンの最終10エンドで3点取って同点に追いつき、勝負はエキストラエンドにもつれ込んだ。

 常呂ジュニアに大きなミスはなかったと思うが、3点入ってしまった不思議なエンド。TM軽井沢が良かったのは、コーナーガードの裏やダブルテイクをされない位置にドローを置き続けたこと。常呂ジュニアとしては、さすがにセカンド1投目のスルーはやり過ぎだったか?ということと、3回あったダブルテイクのチャンスで1回でも決めていれば、というところだと思います。

 この試合は、YouTubeに動画(実況・解説付き)がアップされています。特に10エンドからの展開はとてもおもしろかったのでオススメです。

www.youtube.com 

左右のコーナーガードがうまくいきかけた例:
女子準決勝 中部電力(赤)-北海道銀行(黄) 5エンド

 もう一つ実例を見てみます。このエンドは最終的には後攻が複数点を取ることはできなかったのですが、途中まではうまくいっていました。

 女子準決勝、中部電力-北海道銀行。勝てば決勝進出だが、負けると3位で大会終了。つまり、負けた方は北京五輪出場の可能性が消滅するという試合です。

 1エンドに北海道銀行が3点取るビッグエンド。4エンドも北海道銀行がスチールして、5-1と大差がついて迎えた5エンド。中部電力は早くもかなり苦しい状況に追い込まれました。

5E 先攻(黄)セカンド1投目

 リード2投。後攻は左右のコーナーガード、先攻は4フットとハウス入り口に2つ入れる。解説は金村萌絵。

実況「後攻めのチームからすると、センター線にしっかり置かれていくのは嫌なんですね?」
金村「そうですね。どこかでセンターのストーンは触らないといけないので、その時に難しいタップとか、難しいことをしないと、複数点取るつもりが実は1点を取るのも難しい状況になってしまうということがあるので、リードのセンターに2投、良い場所に置くのいうは、先攻にとっては大切なことです」

 先攻、北海道銀行セカンド1投目。センターガードはハウスにかなり近づいた。

5E 後攻(赤)セカンド1投目

 後攻、中部電力セカンド1投目。第1の狙いはハウス内の黄を使ったヒットロールだったが、事前に「前の石でもいい」と話していたとおり、手前のガードの黄からのヒットロールになる。隠れきれてはいないが、コーナーガードの裏に入るナイスショット。

5E 先攻(黄)セカンド2投目
5E 後攻(赤)セカンド2投目

 先攻、北海道銀行セカンド2投目。ウェイトを抑えてガードの裏の赤をテイクに行くが、惜しくもスルー。失敗するならガードに当ててガードを外したかった。先攻一歩後退。

 後攻、中部電力セカンド2投目。今度は反対側のヒットロールを決める。2つの赤を左右のコーナーガードの裏に隠す、後攻としては絶好の形。

5E 先攻(黄)サード1投目
5E 後攻(赤)サード1投目

 先攻、北海道銀行サード1投目。「前、切るのは遅いよね」というわけで再びウェイトを抑えたテイク。これは見事に決める。

 後攻、中部電力サード1投目。今度はヒットロールではなく、センターの黄は無視してカマー。

金村「できればナンバー2を取っておけばよりプレッシャーにはなったんですが、ずっと最初から掃いてナイススイープ、よくここまで持ってきたなという感じですね」

5E 先攻(黄)サード2投目
5E 後攻(赤)サード2投目

 先攻、北海道銀行サード2投目。いま置かれた赤にフリーズに行くが、ラインがずれて後方へドローする形に。

金村「ナンバー3いま取れたので、ミスはミスなんですけど、効果はある石にはなったと思うんですよね」

 後攻、中部電力サード2投目。ここからセンターラインの石への対処を開始。右下の黄も狙っていたがそれには当たらず。しかし、シューターがコーナーガードの裏で得点源になる位置に行く。

5E 先攻(黄)スキップ1投目
5E 後攻(赤)スキップ1投目

 先攻、北海道銀行スキップ1投目。ウェイトを抑えたショットで赤を得点になりにくい位置まで押しやって、ナンバー3まで取り返す。

 後攻、中部電力スキップ1投目。黄のトリプルテイク狙い。1つ残ったがダブルテイクには成功。何とかチャンスがありそうな形になってきたか?

金村「ナンバー2が北海道銀行が取っているというのが大きいので、これがナンバー2・3も中部電力が取っていたら中部電力大量点のチャンスだったんですが」

5E 先攻(黄)スキップ2投目

 先攻、北海道銀行スキップ2投目。ナンバー1の赤にフリーズ狙い。成功すれば1点取らせができる形になっていたが、ドローがやや短く、ナンバー3を取るに留まる。これでどうなったか。

金村「これで、2点はあるけれそれ以上は難しいという状況にはなっていると思いますね」
実況「2点の道はまだありますか?」
金村「はい、もうドローをして2点という道もまずあるんですけど、それ以上を見てるから悩んでいると思うんですよね」

 中部電力の選手の作戦会議。
「ここ狙った方が……点差的には」
「点差はもう4点離れちゃってるから」
「狙うしかないね」

5E 後攻(赤)スキップ2投目

 後攻、中部電力スキップ2投目。ドローで2点ではなく、縦のダブルテイクで大量点狙いに出る。見事に後ろの黄は出ていったが……。

金村「んーーー!!」
実況「ナンバー……んー? この止まり方は?」
金村「ワンが黄色ですかね」

 まっすぐ縦に当たって飛ばした黄が残ってしまった。逆に北海道銀行が1点スチール。5エンドで北海道銀行5点リードと、前半で半ば勝負がついた展開になってしまった。

 先攻に明白なミスショットもあって、後攻はヒットロールを2投決めて、ダブルテイクも決めて、それでも結果はスチールか……。やっぱり難しいなあ。まあ、決まれば4点だったから紙一重ではあった。北海道銀行は、1回はミスしたものの、その後は難しめのウェイトを落としたコントロールショットをある程度決めていたのが、ギリギリ大量失点回避につながった。

参考リンク

カーリング、なぜ、5ロックルールでコーナーガードを2つ置かないのか ⑧ | トリプルテイクアウトカーリング専門ブログ
https://ameblo.jp/ttokumacurl/entry-12429082500.html
左右のコーナーガードの有効性を、様々な実戦例を踏まえて検討した連載記事。

*1:なお、左右にコーナーガードを置く作戦を指して「ダブルコーナーガード」と言われることがありますが、ダブルコーナーガードというと同じサイドに縦にコーナーガードを置くことを指すそうです。今回の日本選手権の男子予選 コンサドーレ-SC軽井沢クラブの中継で、解説の金村萌絵が「ダブルコーナーガードだと同じサイドに2個並べる感じなんですけど」と言っていました。

*2:NHK BSの中継と、それがなかった試合は公式YouTubeの配信(実況ありの試合と動画だけの試合がある)。ただし、なぜか競技10:女子予選 北海道銀行-中部電力の試合だけYouTubeの動画リストに載っていない。生配信はあったはずだが……。

*3:2021/06/27追記:その後、競技10:女子予選 北海道銀行-中部電力もいつの間にか公開されていました。

カーリング五輪・世界選手権、国別の順位/スキップ選手名一覧表

※このページの表は随時更新しています。

最終更新日:2024/03/28(木) ※この日より後に更新していることもあります。

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カーリング日本選手権2020は他にも名シーンがあったぞ

 先日、第37回日本カーリング選手権大会女子決勝が名シーン満載の好ゲームだっただという記事を書きましたが、本大会はそれ以外でも名シーンがありました。そこで、今回は女子決勝以外の名シーンをいくつか、局面図を交えながら振り返ってみます。

y-koutarou.hatenablog.com

男子予選 コンサドーレ-TM軽井沢

3エンド 混み合った石の動き

 のちに決勝戦で顔を合わせることになる両チームが予選第1戦で対戦。

f:id:y_koutarou:20200301231110p:plain

3E 後攻(赤)スキップ2投目前

 0-2で2点ダウンの後攻(赤)コンサドーレ、スキップ松村雄太のラストストーンを前にすごい形が残った。コンサドーレの選手が4人集まって作戦会議、石の飛ぶ角度を綿密に検討している。

 これ、どういうショットを投げたらどうなるか想像できますか? 自分は、こういう混み合った場面の石の動きが、なかなか分からないんですよね。

敦賀「これ、おもしろい形になったと思いますね。というのは石の芯より少し右側に……赤に当たってこの黄色も出ますし、これはこう、これはどこまで行くかですね。この赤は残ると思います。この赤も出る可能性ありますし、この赤も出る可能性もありますけど、もしかするとうまくいけば……赤2点を取ることができるショットになるかも知れませんね」

 いつものように石の動きの読みを詳しく説明する敦賀解説。

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3E 後攻(赤)スキップ2投目

 1・2の黄が両方出ていく形だった。狙いより少し厚く当たったが、下の黄もぎりぎりナンバー3まで押しやれて赤2点。

敦賀「少し芯だったんですけど、ただ赤に少しかすったことによって良かったですね。黄色がずれたということで」

4エンド コンサドーレの作戦会議

 コンサドーレのコミュニケーションがおもしろかったシーン。

 2-2の同点で先攻(赤)コンサドーレ、サード清水徹郎2投目を前にハウス側と投げ手側で作戦会議。ハウス側にはスキップの松村、投げ手側には清水、谷田、阿部。

 最初、スキップの松村はガードの赤の黄の間の、さらに高い位置のガードを指示していたが……。 

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4E 先攻(赤)サード2投目

(投げ手側で)

谷田「あそこ置いて」
清水「赤・赤・赤で行ったら」
谷田「俺ら微妙そうじゃない」
阿部「ショットのガードになった方がいいんじゃないか」

(ハウスと投げ手側で)

清水「そこ、俺らふさぐ必要あるかい?」
谷田「ガードするならショット上の石の上じゃない?」
松村「こっちはさ、結構……」
谷田「そっち3つ一気に切られちゃったら黄色のガードになっちゃうよ」
松村「ここ来たとしても、こっち側抜くんだよね相手」

 清水がハウス側に行く。投げ手側ではガードの赤から縦3つを一気にテイクされる手を心配している。

清水「ここ置いて、これ行ったら、俺らもうこれ取れないよ」
松村「こっち側しか抜けないんだよね相手」
清水「いや抜けてさ、これ1でしょそしたら。俺らそこにガード置いちゃったらさ、俺らもう」

 さらに、ハウス側の松村と清水の話し合いが続き、中の黄を直接テイクする手に作戦を変えた。結果は、見事にガードの間を通してテイク成功。

 コンサドーレは、松村が決断よく作戦を指示するが、清水と谷田からの指摘があって作戦を変えるというシーンを結構よく見る気がします。2018年12月の軽井沢国際でも印象深いシーンがありました。

y-koutarou.hatenablog.com

4エンド 女子決勝の伏線?

f:id:y_koutarou:20200301231113p:plain

4E 後攻(黄)スキップ1投目

 同じ4エンドの後攻(黄)TM軽井沢、スキップ両角友佑1投目。ほんの少ししか見えていない黄に向かって、速いウェイトでデリバリーする。狙い通りの場所に当てて黄からナンバー1の赤をテイクする。スルーになる危険もあったと思うけど、そこを狙うか。

 これが、女子決勝での8エンド中部電力タイムアウトで話していたショットかな。

 しかし、TM軽井沢のラストストーンは、ガードの間を縫って4フットに止めないといけない難しいドローが決まらず。このエンドはTM軽井沢が1点止まりとなった。

男子予選 コンサドーレ - TM軽井沢
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
コンサドーレ   0 0 2 0 2 0 0 2 0 1 7
TM軽井沢 1 1 0 1 0 0 2 0 1 0 6

女子予選 札幌協会-富士急

5エンド 富士急コミュニケーション

 5エンドで2-0とリードして先攻の富士急。1投目はハウス内へのドローを選択。Tラインの前で止めたいが……。解説は石崎琴美

「ちょっと伸びそう」
「ちょっと伸びそうじゃない?」
「でも止まるよりは……」
「そうだよ、止まるよりまだマシ」
「いいよ、ちょっと止まってきた」
「ラインはいいよ」

(スイープをやめる)

「あんまり最後引っ張りたくないよ」
「OK」
「ちょっと速いね」
「大丈夫かい」
「14.1」
「あらー」
「おー、また」

(Tラインを越えて止まる)

「ちょっと後ろ」
「ちょっと後ろ、失礼」
石崎「(笑)。分かりますあの気持ち(笑)。そうなんですよね、本当はT前に止めたいのにね、ちょっと行ってしまうと投げ手に申し訳ないと思いますからね」

 ボタンで止まるがわずかにT奥に行ってしまいました。前年の西室の「走ってるよー。やり過ぎたわー」を思い出す。なぜ、富士急のコミュニケーションは解説者を吹き出させてしまうのか……。

10エンド 劇場型

 10エンド。7-4で3点リードで先攻(黄)富士急、スキップ小穴桃里1投目。3点リードで大優勢の富士急だが、ここで大きなミスが出てしまう。

 半分見えている赤から左下の赤へのダブルテイクを狙う。決まれば一気にコンシードだが……。

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10E 先攻(黄)スキップ1投目

実況「当たらない!」
石崎「あれ?」
実況「中の石が、富士急の石がすべて出ました」
石崎「それも……あったか(笑)。これは、3点あるかもしれないですね」
実況「考えていた中では、富士急は一番悪い結果になりましたね?」
石崎「そうですね、はい。ちょっとやっぱり警戒しすぎたというか。なんかこう……薄くなきゃいけなかったので、ダブルにするには」

 ラインが左にずれてスルー。ボタンの黄に当たって、自分たちの黄だけなくなってしまう。これだけは避けたかったというショットになってしまった。手のひらを顔の前に縦にしてこうべを垂れる小穴。

 続く札幌協会、スキップ佐々木1投目は左下の赤にフリーズを決める。ガードの裏に赤が3つある形になる。赤を1つテイクしたとしても、シューターの黄がテイクできる位置に止まると、簡単に3点取られて同点に追いつかれてしまう。3点リードしているのに追い詰められた富士急。

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10E 先攻(黄)スキップ2投目

 しかし、小穴2投目は、1投目のミスを帳消しにするショットを決める。後ろの赤をテイクしつつ赤の前にぴったり縦に止めて、この黄は出せない。

石崎「決めてきましたね。ナイスショット」

 ナイスショットを決めたのに、小穴の表情は固いままだった。

 札幌協会はラストストーンの角度を検討するが、打つ手がない。残り時間もあとわずか。

「どう思う? ここから3つ」
「ちょっと待って」
「飛ばすしかないよね」
「いま後ろどれくらい近い?」
「もうくっついてるよ、ほぼ」
「ああ、マジかー」
「1分切った」
「でも3つ飛ばなくない?」
「後ろの赤、入ってるの?」
「入ってないよ。掛かってない」
「3つの目ある? これからも飛ばせないし……」
「赤から飛ばないっしょ」
「35秒」
「ちょっと時間ないから。こっち来れる?」
「ないんなら握手でもいいんだけど」
「ないよね」
「終わるか」

 残り時間17秒で、ラストストーンを投げずにコンシードとなった。コンシード後、札幌協会と富士急の選手が一緒になって、ラストストーンで何か手がなかった検討する「感想戦」が行われていた。

女子予選 札幌協会 - 富士急
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
札幌協会 0 0 0 0 0 2 0 2 0 x 4
富士急   0 1 1 0 3 0 1 0 1 x 7

 というわけで富士急が勝ったわけですが、富士急を応援している観戦者としてはなんと心臓に悪い試合だったことか……。自分は録画して見ていたので、残り録画時間からエキストラエンドには行かないんだろうなとは思っていましたが、4点取られて逆転負けまで想像しましたよ。

 今大会の富士急は、ロコ・ソラーレ中部電力北海道銀行を含めた「四強」の一角と見られていました。しかし予選リーグは、四強直接対決の他、チーム軽井沢にも敗れて、4勝4敗の4位でギリギリ予選リーグ通過。プレーオフでも3位-4位で北海道銀行に敗れて4位で大会終了。その北海道銀行も準決勝では中部電力に完敗して、トップとは差があるという印象が残る大会となりました。自分としては、もう1回世界選手権で富士急を見たいものだと思っているのですが……。2018年の富士急の世界選手権は実に魅力的でした。

y-koutarou.hatenablog.com

 ちなみに富士急は、次のチーム東京戦でもすごい劇場型ショットを決めてます(^_^;)

2020/06/04(木)追記:#おうちで作戦会議 Part 4

 日本カーリング協会公式Twitterで「#おうちで作戦会議」という企画が行われていましたが*1、そのPart 4で札幌協会-富士急の10エンドの局面が取り上げられました。

 さらに、富士急の選手・コーチによるリモート作戦会議の動画もアップされています。これは貴重な動画だ!

男子予選 北海道大学-チームTANI

 この試合は、自分が見た中では本大会で2番目にいい試合*2。名シーン満載でした。

3エンド 解説を上回るショット

 3エンドで2点リードの先攻北海道大学、スキップ河野2投目。ショットの選択はヒットロールだが、解説の敦賀信人カムアラウンドを推奨。

f:id:y_koutarou:20200301231119p:plain

3E 先攻(赤)スキップ2投目

敦賀「ここ思い切って、回り込んでも面白かったんですけどね。当てて内側にロールしないとナンバー1を隠すことできませんので。それができるかですね」

 ヒットロール狙いの石が進んでくるが……。

敦賀「お、良さそうですね」
実況「いい角度で当たりそうです!」
敦賀「ナイスショットですね(笑)」

 苦笑する敦賀

敦賀「ほぼ完璧です。わたし始め、いま置けたところに直接置いてくるのかなと思ったんですね。そうしますとナンバー1を完全に隠すことができる位置ですので」

 相手の石をテイクしてセンターガードの裏に入るヒットロールを決める。敦賀推奨ショットを上回るショットを決めた。

 このあと、チームTANIのラストストーンのドローは決まらず。このエンド、北海道大学が2点スチールする。4-0と序盤で優位に立った。

5エンド 踏みとどまる

f:id:y_koutarou:20200301231123p:plain

5E 後攻(黄)スキップ2投目

 さらに、4エンドも北海道大学が1点スチール。3エンド連続スチールで、5-0と大きくリード。カーリングでは、序盤で差が付くと負けている方が無理をせざるを得ず、さらに大差になってしまうという展開も多い。しかし、ここでチームTANIは踏みとどまる。

 後攻(黄)チームTANI、スキップ谷のラストストーン。ガードの間をすり抜けて、黄をまっすぐ押してナンバー1の赤をテイク。難度は高く、失敗すればまたスチールという場面だった。飛ばした黄も止めて、右下の黄もメジャーで計測してナンバー2で黄が2点。ここからチームTANIの逆襲が始まる。

8エンド 満面の苦笑い

 試合は進んで8エンド。6-3で北海道大学の3点アップ。しかも8エンド後攻。まだ北海道大学が大優勢といえる点差。

 先攻(黄)チームTANI、スキップ谷1投目はフリーズ狙い。ドローは狙ったラインよりやや外側を走っている。

f:id:y_koutarou:20200301231126p:plain

8E 先攻(黄)スキップ1投目

「ちょっとあるよ」
「6、7、7」
「クリーンだけ、クリーン」
「ウェイトオンリーで」
「8」
「クリーン」
「ウェイトオンリーで」
「9はない」
「8ならごっつんさせて外の方がいいよ」
「7」
「8」

 コールが飛び交うが……。

「おお、曲がったわ」
「イエスエスエス
「わからんわからんわからん」

 何か噛んで急に曲がった。さらに中の赤にかすってコースが変わり、当初の狙い通りの位置にピタリ。満面の苦笑いの谷。

谷「いま無茶苦茶噛んだよね」

 このあと、4フットに黄に1・2持たれた状態で迎えた北海道大学のラストドローは、わずかに伸びてしまった。今度はチームTANIが2点スチール。これで試合はわからなくなった。

9エンド 9エンド1点ダウン先攻の作戦選択

 しかし、9エンドで1点リード側が後攻なので、スコアだけを見ればまだ北海道大学が十分有利。

 そして、先攻(黄)チームTANI、スキップ2投目で作戦選択の局面を迎える。センターラインが空いていて先攻のチャンスが少ない形。単にヒットステイすればブランクになる可能性が高い。チームTANIのスキップ谷はあくまで1点取らせを狙っているが、解説の敦賀信人はブランクを推奨。

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9E 先攻(黄)スキップ2投目

敦賀「これ、入れ替えてゼロゼロにしてもいいと思いますね。くっつけにいってもし短いようでしたら2点取られて3点差になる、可能性もあるので。くっつけにいくショットというのは置きにいくショットの中で、難しいと思うんですね」
「前の方が1点取らせられる」
「8?」
「付けるとやばい。完全に付くなら付いてもいいけど」
「付けた方がブランクにされて嫌かも。8くらい」
「バック4くらいだな」
「ピールするには難しくて、2点取るにはジャムりそうな位置、がベスト」
「芯でまっすぐ付くんならそれはそれで最高だけど、ちょっとでもずれたらブランクにされちゃうから」
敦賀「ちょっとでもずれたら、ブランクどころか2点取られる危険性もあるので。1点差で最終エンドを迎えるのであれば全然大丈夫な場面なんですね」

 狙いは、完全にフリーズではなく、あえて赤を少し押して、黄と赤の距離を作ってダブルテイクを難しくする手。しかし、少し斜めに押してしまって黄の後ろに赤があまりかぶらない配置になってしまった。北海道大学は2点チャンス。ここは敦賀の不安通りになってしまった。ややうつむき加減の谷。

 しかし、北海道大学のラストストーンは、黄は後ろの赤に引っかかって残り、シューターの赤は右にロールして出ていってしまう。黄が1点スチール。天を仰いだ北海道大学スキップの河野。結果的にはチームTANIの狙い通りとなった。試合は同点で最終エンドを迎える。

10エンド カーリングの醍醐味

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10E 後攻(赤)スキップ2投目

 そして、局面は後攻(赤)北海道大学スキップ、河野2投目。同点の最終エンド。カーリングの醍醐味、プレッシャードロー。

 この場面はNHKスポーツのTwitterで動画が見られるので、とにかくこのショットを見てください。当たったらまずい石も見える中、4フットに入らないといけないラストドローをボタンに決めて北海道大学勝ち。ナイスゲーム!

男子予選 北海道大学 - チームTANI
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道大学 1 1 2 1 0 1 0 0 0 1 7
チームTANI   0 0 0 0 2 0 1 2 1 0 6


男子決勝 コンサドーレ-TM軽井沢

4エンド 両角友佑のスーパーショット

 最後は男子決勝、TM軽井沢スキップ、両角友佑のスーパーショットを紹介。 

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4E 先攻(黄)スキップ2投目

 ショットの前に4人集まって作戦会議。石が散っていていろいろな手がある。左上の黄を飛ばして中を狙う手を選択。黄が赤を経由して中に飛んでいって、なんと赤3つをはじき出すトリプルテイク。シューターの黄も残って黄が1・2でスチールチャンス。掛け値なしのスーパーショット。

 NHKスポーツのTwitterの動画は、通常ラストストーンしか配信されないのが、このシーンが配信されている。逆にラストストーンがない。コンサドーレスキップ、松村雄太のラストストーンはドローで1点を狙うが、わずかにウェイトが足りずTM軽井沢の1点スチールとなった。

敦賀「ただここもよくナンバー2にしたなと思いますね。ナンバー1、ナンバー2いい位置でしたし、ああいう決められ方をしますと、ものすごくプレッシャーの掛けられるんですけど、よく1点に抑えたなと思いますね」

 エンド後、両角と松村が、逆側のハウスに移動しながら今のショットについて何か話している姿が映る。この2人、試合中にも何か言葉を交わしている姿がたびたび映っていました。

男子決勝 コンサドーレ - TM軽井沢
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
コンサドーレ 2 1 0 0 0 0 2 0 1 x 6
TM軽井沢   0 0 1 1 0 0 0 2 0 x 4