ゲームブックのパラパラサイコロは本当にランダムか?

 『ファイティング・ファンタジー・コレクション』を少しずつプレイしています。前も書いたとおり、1冊ごとの重さはそれほどでもないので、主に外出時に少しずつ、ケータイでメモを取りながらプレイしています。

 外で遊ぶ場合、サイコロを振るスペースがない場合が多いので、サイコロの代わりにページ下部に印刷されている「パラパラサイコロ」を使うことになります。各本の「冒険のはじめ方」に次のように書かれています。

手元にサイコロがなければ、サイコロのペアが本書の下部に書かれている。本をぱらぱらとめくり、どこかのページで止めるとランダムにサイコロを振った結果を出すことができる。サイコロを一個だけ振る場合も、印刷されたサイコロの最初の目だけを採用すること。二個振る場合、サイコロ二個を合計する。

 ゲームブックではおなじみの手法ですが、この「パラパラサイコロ」は実際にサイコロを振るのと同じ確率の結果が得らているのか?という疑問が浮かびました。サイコロを2個振った場合の出目は6*6=36通りあります。よって、少なくとも36ページからランダムに選ばれる必要があります。パラパラとてきとうにめくった結果、36ページもの中から選ばれているでしょうか? そもそも、サイコロは確率通り均等に印刷されているのか?

 というわけで調べてみました。

パラパラサイコロの出目の印刷は均等か?

 まず、『ファイティング・ファンタジー・コレクション』の各本に印刷されているパラパラサイコロの出目をすべて書き出して、2つの目の組み合わせの出現数を数えてみました。

各本の2つの目の出現数

2つの目の出現数『火吹山』

1 2 3 4 5 6
1 3 3 3 3 3 3 18
2 3 4 3 3 3 3 19
3 3 3 3 3 3 3 18
4 3 2 3 3 3 3 17
5 3 3 3 3 3 3 18
6 3 3 3 3 3 3 18
18 18 18 18 18 18 108
2つの目の出現数『バルサス』

1 2 3 4 5 6
1 3 3 3 3 3 3 18
2 3 3 3 3 3 3 18
3 3 3 3 3 3 3 18
4 3 3 3 3 3 3 18
5 3 3 3 3 3 3 18
6 3 3 3 3 3 3 18
18 18 18 18 18 18 108
2つの目の出現数『盗賊都市』

1 2 3 4 5 6
1 3 3 3 2 4 3 18
2 3 3 3 3 3 2 17
3 3 3 3 3 4 4 20
4 3 3 3 3 4 3 19
5 3 3 2 3 2 3 16
6 3 3 3 3 3 3 18
18 18 17 17 20 18 108
2つの目の出現数『モンスター誕生』

1 2 3 4 5 6
1 4 4 4 4 4 4 24
2 4 5 3 4 4 4 24
3 4 4 4 4 4 4 24
4 4 4 4 4 4 4 24
5 4 4 4 4 4 4 24
6 4 4 4 4 4 4 24
24 25 23 24 24 24 144
2つの目の出現数『火吹山ふたたび』

1 2 3 4 5 6
1 3 2 5 2 2 3 17
2 4 2 3 5 1 3 18
3 1 3 2 4 3 2 15
4 4 3 2 3 4 3 19
5 3 2 2 3 4 2 16
6 2 2 2 3 3 3 15
17 14 16 20 17 16 100

 ご覧の通り、2つの目の組み合わせは、各本ともほぼきれいに均等に印刷されていることが分かります。『火吹山の魔法使いふたたび』だけ少し偏りがありますが、まあいいでしょう。*1

左の目と右の目の出現数

左の目と右の目の出現数
火吹山 バルサ 盗賊都市 モンスター誕生 ふたたび
 
1 18 18 18 18 18 18 24 24 17 17
2 19 18 18 18 17 18 24 25 18 14
3 18 18 18 18 20 17 24 23 15 16
4 17 18 18 18 19 17 24 24 19 20
5 18 18 18 18 16 20 24 24 16 17
6 18 18 18 18 18 18 24 24 15 16

 片方の目だけを使う場合もあるので、左右個々の目の出現数もまとめておきます。言うまでもなく、各目(1~6)の出る確率はすべて1/6(約16.7%)で同じです。各本ともほぼ均等に印刷されていることが分かります。

2つの目の合計の出現率

2つの目の合計数の出現数・出現率
本来 火吹山 バルサ 盗賊都市 モンスター誕生 ふたたび
2 2.8% 3 2.8% 3 2.8% 3 2.8% 4 2.8% 3 3.0%
3 5.6% 6 5.6% 6 5.6% 6 5.6% 8 5.6% 6 6.0%
4 8.3% 10 9.3% 9 8.3% 9 8.3% 13 9.0% 8 8.0%
5 11.1% 12 11.1% 12 11.1% 11 10.2% 15 10.4% 12 12.0%
6 13.9% 14 13.0% 15 13.9% 16 14.8% 20 13.9% 15 15.0%
7 16.7% 18 16.7% 18 16.7% 18 16.7% 24 16.7% 14 14.0%
8 13.9% 15 13.9% 15 13.9% 14 13.0% 20 13.9% 13 13.0%
9 11.1% 12 11.1% 12 11.1% 14 13.0% 16 11.1% 11 11.0%
10 8.3% 9 8.3% 9 8.3% 8 7.4% 12 8.3% 10 10.0%
11 5.6% 6 5.6% 6 5.6% 6 5.6% 8 5.6% 5 5.0%
12 2.8% 3 2.8% 3 2.8% 3 2.8% 4 2.8% 3 3.0%

 FFルールでよく使うのはサイコロ2個の合計なので、この表が一番重要です。

 2つの目の合計は2~12ですが、各数が出る確率は同じではありません。2つのサイコロの出目の組み合わせは36通りあります。2が出るのは2つのサイコロが「1・1」の場合の1通りしかないので1/36(約2.8%)です。7は「1・6」「2・5」「3・4」「4・3」「5・2」「6・1」の6通りあるので6/36(約16.7%)となります。2つの目の合計は7が出る確率が一番高く、7から離れるほど確率は低くなります。表の左端の縦に本来の確率を入れました。

 サイコロを複数振る場合は、この確率の構造が再現されているかどうかが重要です。各本とも多少の違いはあれど、おおむね本来の確率に近い数字になっています。ファイティング・ファンタジー・コレクション』のパラパラサイコロは、きちんとサイコロを2個振る場合の特徴を再現した印刷になっていると言えます。

パラパラサイコロを実際に振ってみた結果

 しかし、パラパラサイコロが実用に耐えるかどうかは、印刷されている目を見ただけでは不十分です。印刷は均等でも、実際にパラパラめくった場合は偏るということも考えられます。

「指を挟んだまま」か「本を閉じてからめくる」か

 というわけで、『ファイティング・ファンタジー・コレクション』の『火吹山の魔法使い』を使って、実際にパラパラサイコロを振ってみました。

 パラパラサイコロ振る方法は、2通りの方法を別々に集計しました。1つは、右ページのパラグラフ番号303のページに左手の指を挟んだ状態で、残ったページを右手で、ばらけるようになど意識せずてきとうにめくる。もう1つは、いったん本を閉じて、できるだけページがばらけるように意識してめくる、というものです。各方法で100回めくってみました。

実際に振った2つの目の出現数
(指を挟んだままてきとうに)

1 2 3 4 5 6
1 0 0 4 0 0 10 14
2 0 0 5 8 11 8 32
3 2 0 14 5 2 4 27
4 2 1 1 6 1 0 11
5 1 0 3 2 0 10 16
6 0 0 0 0 0 0 0
5 1 27 21 14 32 100
実際に振った2つの目の出現数
(本を閉じてばらけるように)

1 2 3 4 5 6
1 1 4 1 3 3 4 16
2 0 3 4 2 1 3 13
3 6 1 7 3 4 1 22
4 2 1 4 1 3 2 13
5 0 1 6 5 1 5 18
6 3 3 5 2 2 3 18
12 13 27 16 14 18 100

 指を挟んだままてきとうにめくった場合は、かなり偏ることが分かります。パラパラサイコロを振ったのは100回ですが、出たページは23種類しかありませんでした。これでは偏るのも当たり前です。

 一方、本を閉じてばらけるようにめくった場合は、偏りはあるものの、てきとうにめくった場合の比べると偏りは少ないです。出たページは59種類でした。

 そして、現実のサイコロを振った場合でも均等に出るわけないなと思ったので、どれくらい偏るのか現実のサイコロを100回振って出目を調べてみました。左右は、振った結果少しでも左側に止まったサイコロの方を左の目ということにしました。

現実のサイコロ

1 2 3 4 5 6
1 1 1 4 2 1 4 13
2 6 1 2 1 4 4 18
3 3 4 4 1 4 3 19
4 3 5 3 3 2 2 18
5 4 1 2 2 2 4 15
6 3 3 4 2 3 2 17
20 15 19 11 16 19 100

 こんな感じ。36通りすべての目が出るなど思ったより偏らなかったという感じがします。まあ、100回くらいではやるたびに結果は変わると思います。

実際にめくった場合の左の目と右の目の出現数

実際にめくった場合の左の目と右の目の出現数
指を挟んだままてきとうに 本を閉じてばらけるように 現実のサイコロ
 
1 14 5 16 12 13 20
2 32 1 13 13 18 15
3 27 27 22 27 19 19
4 11 21 13 16 18 11
5 16 14 18 14 15 16
6 0 32 18 18 17 19

 目を覆うような結果です。指を挟んだままてきとうにめくった場合は、左の目は100回振って6が1回も出ていないなど、ひどい偏りがあります。とても看過できるものではありません。

 本を閉じてばらけるようにめくった場合は、それと比べると比較的均等に出ています。現実のサイコロと遜色ありません。

実際にめくった場合の2つの目の合計の出現率

実際にめくった場合の2つの目の合計の出現数・出現率
本来 指を挟んだままてきとう 本を閉じてばらける 現実のサイコロ
2 2.8% 0 0.0% 1 1.0% 1 1.0%
3 5.6% 0 0.0% 4 4.0% 7 7.0%
4 8.3% 6 6.0% 10 10.0% 8 8.0%
5 11.1% 7 7.0% 10 10.0% 11 11.0%
6 13.9% 24 24.0% 13 13.0% 15 15.0%
7 16.7% 27 27.0% 16 16.0% 16 16.0%
8 13.9% 19 19.0% 17 17.0% 16 16.0%
9 11.1% 7 7.0% 14 14.0% 11 11.0%
10 8.3% 0 0.0% 5 5.0% 6 6.0%
11 5.6% 10 10.0% 7 7.0% 7 7.0%
12 2.8% 0 0.0% 3 3.0% 2 2.0%

 こちらも、指を挟んだままてきとうにめくった場合はひどい結果。特に10が0回、11が10回というのがひどすぎます。表の左端の「本来」の確率と比べると、本来の確率からかけ離れているのが分かります。

 本を閉じてばらけるようにめくった場合、多少偏りはあるものの、1回も出なかった数はないなど、ある程度本来の確率に近い結果が出ています。現実のサイコロと大差ありません。

本を閉じてからパラパラサイコロを振ろう

 調べた結果をまとめると、次のようになります。

  1. ファイティング・ファンタジー・コレクション』のパラパラサイコロは、ほぼ本来のサイコロ2個振りの確率通りに印刷されている。
  2. 指を挟んだ状態でてきとうにめくると、出目は極端に偏る。
  3. いったん本を閉じて、できるだけばらけるようにめくれば、実際にサイコロを振った時に近い結果が得られる。

 というわけで、いったん本を閉じて全ページ出る可能性がある状態にして、できるだけ止める場所が偏らないようにしてパラパラサイコロを振るのが重要という結果になりました。それでも、「どの辺をで止めるか」を意識してしまうととうてい1/36の確率は実現できないと思います*3が、「自分の意識の中でできるだけランダムで止める」ということでいいでしょう。一人用のゲームでのことですから。

 実は、自分は今まで「指を挟んだままてきとう」に近いスタイルでパラパラサイコロを振ってました。やっぱり、その戦闘が起こっているパラグラフから指を離したくないよね*4。でも、それは確率的にとんでもないことを引き起こしているということが今回の調査で分かりました。これからは、パラパラサイコロを振る際は、現在のパラグラフは覚えておいて、一回本を閉じてからめくろう、と反省しました。

 それと、パラパラサイコロを使う場合の問題点として、「本に開くクセが付いてしまって特定のページが出やすくなってしまう」というものがあります。今回実際にパラパラサイコロを振ってみた『火吹山の魔法使いファイティング・ファンタジー・コレクション版)』は自分はけっこうやり込んだあとでしたが、その現象は見られませんでした。とはいえ、もっと読み込んだ本だとこの現象が起こることもあります。この現象は、パラパラサイコロを使う限り避けらないと思います。やはり理想は現実のサイコロを使うことでしょう。

 自分も、自宅などスペース+音に配慮する必要がない時は現実のサイコロを使います。前にバックギャモンの大会に参加した時に買ったプレシジョンダイスがあるので、それを使っています。やっぱり現実のサイコロを使った方が結果に納得感があるよね(^_^;) サイコロ振るのが楽しいし。

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*1:どうも『火吹山の魔法使いふたたび』だけパラパラサイコロの印刷が不自然な気がする。他の4冊は印刷されている数が108または144というのは36の倍数なのに、『火吹山の魔法使いふたたび』だけ100で終わっている。まだページはあるのに……。誤植じゃないの?

*2:リンク先の「パラグラフ」は、めくった結果の右のページの最初のパラグラフ番号です。『ファイティング・ファンタジー・コレクション』は本編の部分にはページ番号が書かれていないので。

*3:偏る可能性もありますし、逆にばらけて止めるように意識するあまり、現実のサイコロより均等に出過ぎてしまうという可能性もあります。

*4:ひどい時だと、他のパラグラフにも指が挟まっていることも……(..;