先日、第37回日本カーリング選手権大会の女子決勝が名シーン満載の好ゲームだっただという記事を書きましたが、本大会はそれ以外でも名シーンがありました。そこで、今回は女子決勝以外の名シーンをいくつか、局面図を交えながら振り返ってみます。
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3エンド 混み合った石の動き
のちに決勝戦で顔を合わせることになる両チームが予選第1戦で対戦。
0-2で2点ダウンの後攻(赤)コンサドーレ、スキップ松村雄太のラストストーンを前にすごい形が残った。コンサドーレの選手が4人集まって作戦会議、石の飛ぶ角度を綿密に検討している。
これ、どういうショットを投げたらどうなるか想像できますか? 自分は、こういう混み合った場面の石の動きが、なかなか分からないんですよね。
敦賀「これ、おもしろい形になったと思いますね。というのは石の芯より少し右側に……赤に当たってこの黄色も出ますし、これはこう、これはどこまで行くかですね。この赤は残ると思います。この赤も出る可能性ありますし、この赤も出る可能性もありますけど、もしかするとうまくいけば……赤2点を取ることができるショットになるかも知れませんね」
いつものように石の動きの読みを詳しく説明する敦賀解説。
1・2の黄が両方出ていく形だった。狙いより少し厚く当たったが、下の黄もぎりぎりナンバー3まで押しやれて赤2点。
敦賀「少し芯だったんですけど、ただ赤に少しかすったことによって良かったですね。黄色がずれたということで」
コンサドーレのコミュニケーションがおもしろかったシーン。
2-2の同点で先攻(赤)コンサドーレ、サード清水徹郎2投目を前にハウス側と投げ手側で作戦会議。ハウス側にはスキップの松村、投げ手側には清水、谷田、阿部。
最初、スキップの松村はガードの赤の黄の間の、さらに高い位置のガードを指示していたが……。
(投げ手側で)
谷田「あそこ置いて」
清水「赤・赤・赤で行ったら」
谷田「俺ら微妙そうじゃない」
阿部「ショットのガードになった方がいいんじゃないか」
(ハウスと投げ手側で)
清水「そこ、俺らふさぐ必要あるかい?」
谷田「ガードするならショット上の石の上じゃない?」
松村「こっちはさ、結構……」
谷田「そっち3つ一気に切られちゃったら黄色のガードになっちゃうよ」
松村「ここ来たとしても、こっち側抜くんだよね相手」
清水がハウス側に行く。投げ手側ではガードの赤から縦3つを一気にテイクされる手を心配している。
清水「ここ置いて、これ行ったら、俺らもうこれ取れないよ」
松村「こっち側しか抜けないんだよね相手」
清水「いや抜けてさ、これ1でしょそしたら。俺らそこにガード置いちゃったらさ、俺らもう」
さらに、ハウス側の松村と清水の話し合いが続き、中の黄を直接テイクする手に作戦を変えた。結果は、見事にガードの間を通してテイク成功。
コンサドーレは、松村が決断よく作戦を指示するが、清水と谷田からの指摘があって作戦を変えるというシーンを結構よく見る気がします。2018年12月の軽井沢国際でも印象深いシーンがありました。
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4エンド 女子決勝の伏線?
同じ4エンドの後攻(黄)TM軽井沢、スキップ両角友佑1投目。ほんの少ししか見えていない黄に向かって、速いウェイトでデリバリーする。狙い通りの場所に当てて黄からナンバー1の赤をテイクする。スルーになる危険もあったと思うけど、そこを狙うか。
これが、女子決勝での8エンド中部電力タイムアウトで話していたショットかな。
しかし、TM軽井沢のラストストーンは、ガードの間を縫って4フットに止めないといけない難しいドローが決まらず。このエンドはTM軽井沢が1点止まりとなった。
男子予選 コンサドーレ - TM軽井沢
チーム名 |
H |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
計 |
コンサドーレ |
|
0 |
0 |
2 |
0 |
2 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
7 |
TM軽井沢 |
★ |
1 |
1 |
0 |
1 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
0 |
6 |
女子予選 札幌協会-富士急
5エンド 富士急コミュニケーション
5エンドで2-0とリードして先攻の富士急。1投目はハウス内へのドローを選択。Tラインの前で止めたいが……。解説は石崎琴美。
「ちょっと伸びそう」
「ちょっと伸びそうじゃない?」
「でも止まるよりは……」
「そうだよ、止まるよりまだマシ」
「いいよ、ちょっと止まってきた」
「ラインはいいよ」
(スイープをやめる)
「あんまり最後引っ張りたくないよ」
「OK」
「ちょっと速いね」
「大丈夫かい」
「14.1」
「あらー」
「おー、また」
(Tラインを越えて止まる)
「ちょっと後ろ」
「ちょっと後ろ、失礼」
石崎「(笑)。分かりますあの気持ち(笑)。そうなんですよね、本当はT前に止めたいのにね、ちょっと行ってしまうと投げ手に申し訳ないと思いますからね」
ボタンで止まるがわずかにT奥に行ってしまいました。前年の西室の「走ってるよー。やり過ぎたわー」を思い出す。なぜ、富士急のコミュニケーションは解説者を吹き出させてしまうのか……。
10エンド 劇場型
10エンド。7-4で3点リードで先攻(黄)富士急、スキップ小穴桃里1投目。3点リードで大優勢の富士急だが、ここで大きなミスが出てしまう。
半分見えている赤から左下の赤へのダブルテイクを狙う。決まれば一気にコンシードだが……。
実況「当たらない!」
石崎「あれ?」
実況「中の石が、富士急の石がすべて出ました」
石崎「それも……あったか(笑)。これは、3点あるかもしれないですね」
実況「考えていた中では、富士急は一番悪い結果になりましたね?」
石崎「そうですね、はい。ちょっとやっぱり警戒しすぎたというか。なんかこう……薄くなきゃいけなかったので、ダブルにするには」
ラインが左にずれてスルー。ボタンの黄に当たって、自分たちの黄だけなくなってしまう。これだけは避けたかったというショットになってしまった。手のひらを顔の前に縦にしてこうべを垂れる小穴。
続く札幌協会、スキップ佐々木1投目は左下の赤にフリーズを決める。ガードの裏に赤が3つある形になる。赤を1つテイクしたとしても、シューターの黄がテイクできる位置に止まると、簡単に3点取られて同点に追いつかれてしまう。3点リードしているのに追い詰められた富士急。
しかし、小穴2投目は、1投目のミスを帳消しにするショットを決める。後ろの赤をテイクしつつ赤の前にぴったり縦に止めて、この黄は出せない。
石崎「決めてきましたね。ナイスショット」
ナイスショットを決めたのに、小穴の表情は固いままだった。
札幌協会はラストストーンの角度を検討するが、打つ手がない。残り時間もあとわずか。
「どう思う? ここから3つ」
「ちょっと待って」
「飛ばすしかないよね」
「いま後ろどれくらい近い?」
「もうくっついてるよ、ほぼ」
「ああ、マジかー」
「1分切った」
「でも3つ飛ばなくない?」
「後ろの赤、入ってるの?」
「入ってないよ。掛かってない」
「3つの目ある? これからも飛ばせないし……」
「赤から飛ばないっしょ」
「35秒」
「ちょっと時間ないから。こっち来れる?」
「ないんなら握手でもいいんだけど」
「ないよね」
「終わるか」
残り時間17秒で、ラストストーンを投げずにコンシードとなった。コンシード後、札幌協会と富士急の選手が一緒になって、ラストストーンで何か手がなかった検討する「感想戦」が行われていた。
女子予選 札幌協会 - 富士急
チーム名 |
H |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
計 |
札幌協会 |
★ |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
2 |
0 |
2 |
0 |
x |
4 |
富士急 |
|
0 |
1 |
1 |
0 |
3 |
0 |
1 |
0 |
1 |
x |
7 |
というわけで富士急が勝ったわけですが、富士急を応援している観戦者としてはなんと心臓に悪い試合だったことか……。自分は録画して見ていたので、残り録画時間からエキストラエンドには行かないんだろうなとは思っていましたが、4点取られて逆転負けまで想像しましたよ。
今大会の富士急は、ロコ・ソラーレ、中部電力、北海道銀行を含めた「四強」の一角と見られていました。しかし予選リーグは、四強直接対決の他、チーム軽井沢にも敗れて、4勝4敗の4位でギリギリ予選リーグ通過。プレーオフでも3位-4位で北海道銀行に敗れて4位で大会終了。その北海道銀行も準決勝では中部電力に完敗して、トップとは差があるという印象が残る大会となりました。自分としては、もう1回世界選手権で富士急を見たいものだと思っているのですが……。2018年の富士急の世界選手権は実に魅力的でした。
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ちなみに富士急は、次のチーム東京戦でもすごい劇場型ショットを決めてます(^_^;)
2020/06/04(木)追記:#おうちで作戦会議 Part 4
日本カーリング協会公式Twitterで「#おうちで作戦会議」という企画が行われていましたが*1、そのPart 4で札幌協会-富士急の10エンドの局面が取り上げられました。
さらに、富士急の選手・コーチによるリモート作戦会議の動画もアップされています。これは貴重な動画だ!
男子予選 北海道大学-チームTANI
この試合は、自分が見た中では本大会で2番目にいい試合*2。名シーン満載でした。
3エンド 解説を上回るショット
3エンドで2点リードの先攻北海道大学、スキップ河野2投目。ショットの選択はヒットロールだが、解説の敦賀信人はカムアラウンドを推奨。
敦賀「ここ思い切って、回り込んでも面白かったんですけどね。当てて内側にロールしないとナンバー1を隠すことできませんので。それができるかですね」
ヒットロール狙いの石が進んでくるが……。
敦賀「お、良さそうですね」
実況「いい角度で当たりそうです!」
敦賀「ナイスショットですね(笑)」
苦笑する敦賀。
敦賀「ほぼ完璧です。わたし始め、いま置けたところに直接置いてくるのかなと思ったんですね。そうしますとナンバー1を完全に隠すことができる位置ですので」
相手の石をテイクしてセンターガードの裏に入るヒットロールを決める。敦賀推奨ショットを上回るショットを決めた。
このあと、チームTANIのラストストーンのドローは決まらず。このエンド、北海道大学が2点スチールする。4-0と序盤で優位に立った。
5エンド 踏みとどまる
さらに、4エンドも北海道大学が1点スチール。3エンド連続スチールで、5-0と大きくリード。カーリングでは、序盤で差が付くと負けている方が無理をせざるを得ず、さらに大差になってしまうという展開も多い。しかし、ここでチームTANIは踏みとどまる。
後攻(黄)チームTANI、スキップ谷のラストストーン。ガードの間をすり抜けて、黄をまっすぐ押してナンバー1の赤をテイク。難度は高く、失敗すればまたスチールという場面だった。飛ばした黄も止めて、右下の黄もメジャーで計測してナンバー2で黄が2点。ここからチームTANIの逆襲が始まる。
8エンド 満面の苦笑い
試合は進んで8エンド。6-3で北海道大学の3点アップ。しかも8エンド後攻。まだ北海道大学が大優勢といえる点差。
先攻(黄)チームTANI、スキップ谷1投目はフリーズ狙い。ドローは狙ったラインよりやや外側を走っている。
「ちょっとあるよ」
「6、7、7」
「クリーンだけ、クリーン」
「ウェイトオンリーで」
「8」
「クリーン」
「ウェイトオンリーで」
「9はない」
「8ならごっつんさせて外の方がいいよ」
「7」
「8」
コールが飛び交うが……。
「おお、曲がったわ」
「イエスイエスイエス」
「わからんわからんわからん」
何か噛んで急に曲がった。さらに中の赤にかすってコースが変わり、当初の狙い通りの位置にピタリ。満面の苦笑いの谷。
谷「いま無茶苦茶噛んだよね」
このあと、4フットに黄に1・2持たれた状態で迎えた北海道大学のラストドローは、わずかに伸びてしまった。今度はチームTANIが2点スチール。これで試合はわからなくなった。
9エンド 9エンド1点ダウン先攻の作戦選択
しかし、9エンドで1点リード側が後攻なので、スコアだけを見ればまだ北海道大学が十分有利。
そして、先攻(黄)チームTANI、スキップ2投目で作戦選択の局面を迎える。センターラインが空いていて先攻のチャンスが少ない形。単にヒットステイすればブランクになる可能性が高い。チームTANIのスキップ谷はあくまで1点取らせを狙っているが、解説の敦賀信人はブランクを推奨。
敦賀「これ、入れ替えてゼロゼロにしてもいいと思いますね。くっつけにいってもし短いようでしたら2点取られて3点差になる、可能性もあるので。くっつけにいくショットというのは置きにいくショットの中で、難しいと思うんですね」
「前の方が1点取らせられる」
「8?」
「付けるとやばい。完全に付くなら付いてもいいけど」
「付けた方がブランクにされて嫌かも。8くらい」
「バック4くらいだな」
「ピールするには難しくて、2点取るにはジャムりそうな位置、がベスト」
「芯でまっすぐ付くんならそれはそれで最高だけど、ちょっとでもずれたらブランクにされちゃうから」
敦賀「ちょっとでもずれたら、ブランクどころか2点取られる危険性もあるので。1点差で最終エンドを迎えるのであれば全然大丈夫な場面なんですね」
狙いは、完全にフリーズではなく、あえて赤を少し押して、黄と赤の距離を作ってダブルテイクを難しくする手。しかし、少し斜めに押してしまって黄の後ろに赤があまりかぶらない配置になってしまった。北海道大学は2点チャンス。ここは敦賀の不安通りになってしまった。ややうつむき加減の谷。
しかし、北海道大学のラストストーンは、黄は後ろの赤に引っかかって残り、シューターの赤は右にロールして出ていってしまう。黄が1点スチール。天を仰いだ北海道大学スキップの河野。結果的にはチームTANIの狙い通りとなった。試合は同点で最終エンドを迎える。
そして、局面は後攻(赤)北海道大学スキップ、河野2投目。同点の最終エンド。カーリングの醍醐味、プレッシャードロー。
この場面はNHKスポーツのTwitterで動画が見られるので、とにかくこのショットを見てください。当たったらまずい石も見える中、4フットに入らないといけないラストドローをボタンに決めて北海道大学勝ち。ナイスゲーム!
男子予選 北海道大学 - チームTANI
チーム名 |
H |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
計 |
北海道大学 |
★ |
1 |
1 |
2 |
1 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
7 |
チームTANI |
|
0 |
0 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
2 |
1 |
0 |
6 |
4エンド 両角友佑のスーパーショット
最後は男子決勝、TM軽井沢スキップ、両角友佑のスーパーショットを紹介。
ショットの前に4人集まって作戦会議。石が散っていていろいろな手がある。左上の黄を飛ばして中を狙う手を選択。黄が赤を経由して中に飛んでいって、なんと赤3つをはじき出すトリプルテイク。シューターの黄も残って黄が1・2でスチールチャンス。掛け値なしのスーパーショット。
NHKスポーツのTwitterの動画は、通常ラストストーンしか配信されないのが、このシーンが配信されている。逆にラストストーンがない。コンサドーレスキップ、松村雄太のラストストーンはドローで1点を狙うが、わずかにウェイトが足りずTM軽井沢の1点スチールとなった。
敦賀「ただここもよくナンバー2にしたなと思いますね。ナンバー1、ナンバー2いい位置でしたし、ああいう決められ方をしますと、ものすごくプレッシャーの掛けられるんですけど、よく1点に抑えたなと思いますね」
エンド後、両角と松村が、逆側のハウスに移動しながら今のショットについて何か話している姿が映る。この2人、試合中にも何か言葉を交わしている姿がたびたび映っていました。
男子決勝 コンサドーレ - TM軽井沢
チーム名 |
H |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
計 |
コンサドーレ |
★ |
2 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
x |
6 |
TM軽井沢 |
|
0 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
2 |
0 |
x |
4 |