格子配列・左右分割キーボードはどうだったか?

 DUMANGキーボード DK6 miniを使おうと思ったのは、格子配列(オーソリニア)と左右分割キーボードを体験したかったからというのが最大の理由です。実際に使用を開始してから、少しずつセッティングを変更し、使用する日本語入力配列も変更して、1年ほど経ちました。この2点についてどう思ったか、これまでの感想を書きます。

格子配列キーボードってどうよ?

格子配列キーボードの配列図(文字キーの部分のみ)

格子配列キーボードの配列図(文字キー部分のみ)

 期待通り、格子配列は良いです。格子配列に触ってすぐは違和感がありましたが。すぐに慣れました。最初のうちは、キーの間に指が行ったり、隣のキーを打鍵してしまうこともありました。上段より下段、右手より左手が間違えやすい傾向です。特に[Ctrl] + [X][C][V]が間違えやすいです*1。あと、最上段の[1]を押そうとしてその左隣のキー*2を押してしまうのもよくやる。しかし、それも間もなく起こらなくなりました。

 格子配列のメリットの1つが、指の移動距離が短くなることです。上段・下段のキーが全体的に少しずつ近寄って、最短距離で打鍵できます。

 さらに、今までよりタイピングが簡単だと感じます。指をまっすぐ上かまっすぐ下に動かせば打鍵できます。指の移動方向が素直で、キーの位置を想像しやすいので、簡単にスムーズに打鍵できます。最上段(数字段)も今までよりは打鍵しやすくなります。

なぜ格子配列とロウスタッガードを使い分けられるのか?

 格子配列に慣れたあとに、普通のキーの縦の列が横にずれたキーボード(ロウスタッガード)を使っても、問題なく打鍵できます。普段、格子配列のキーボードを使っていても、いざロウスタッガードのキーボードを目の前に置いて打鍵を始めると、普通に打鍵できてしまうのです。

 これはちょっと不思議な現象です。もし、慣れたことで格子配列で打てるようになったのなら、格子配列からロウスタッガードに戻ったときも、格子配列を初めて触ったときのような戸惑いを感じても良いはずです。しかし実際は、違和感もほとんどなく、すぐに打鍵できてしまいます。

 これがどういうことかと考えてみると、キーボードを見ていなくても、無意識でやっているつもりでも、頭の中ではキーの位置をイメージしているのだと思います。上段は左に1/4キー・下段は右に1/2キーズレた場所をイメージして、そこに向かって指を動かしている。その感覚は、格子配列に慣れたあとでも残っているので、ロウスタッガードのキーボードのタッチタイプができなくなることはない*3。そして、そのキーの場所を正確に・瞬時に・無意識でイメージできることが、タッチタイピングが上達するということなのでしょう。

 しかし、無意識でできるからノーコストだということはないと思います。上段は左に1/4キー・下段は右に1/2キーズレた場所をイメージするのと、上段・下段ともまっすぐ上と下の場所をイメージするのでは、もちろん後者の方が簡単です。負荷の差はわずかでも、1キー打鍵するごとに確実に積み上がっていきます。これが格子配列のタイピングが簡単だと感じた理由だと思います。

新下駄配列と格子配列

格子配列キーボードにおける新下駄配列の配列図(単打部分のみ)

新下駄配列(単打部分のみ)

 格子配列になることによって打ちやすくなるキー・打ちにくくなるキーはあります。[B]と[Y]はホームポジションに近づくので打ちやすくなります。[T]と[N]はホームポジションから遠くなるので打ちにくくなります。新下駄配列はロウスタッガードを前提に作ったはずで、キーの打ちやすさに応じて文字を配置しているのだから、格子配列ではかえって打ちにくくなるのではないか?と思う人もいると思います。

 しかし、確かに理論的にはその通りで、もし格子配列前提で新下駄配列を作っていたら違う配列になっていたとは思いますが、だから格子配列で新下駄配列が打ちにくいということはありません。打ちにくくなるキーがあるといっても、著しく打ちにくいわけではない。打ちやすくなるキーもあります。そして、先ほど書いた格子配列のメリット――上段・下段キーが全体的に少しずつ近づく。キーの位置をイメージしやすい――は配列関係なくそのまま受け取れます。

 よって、格子配列にすることで打ちにくくなる部分はありますが、全体としては格子配列にするメリットの方がずっと大きいです。格子配列用に新下駄配列を一部変更するという案もありますが*4、それをする必要性を感じませんでした。

 これは、通常の実用文を入力するタイピングでもそうですし、実用入力の速度を超えてタイピングゲームでスコアを出すためのタイピングでも当てはまります。実際、格子配列にしてからタイプウェル国語Kの記録を更新しましたし。*5

大西配列と格子配列

格子配列キーボードにおける大西配列ローマ字の配列図

大西配列(ローマ字入力モードの場合)

 その後、久しぶりに新下駄配列とQWERTYローマ字以外の日本語入力配列を触ってみたいという気持ちになったので、2025年1月から大西配列を使っています。大西配列は英語・日本語共用配列ですが、自分は大西配列はローマ字入力の部分のみ使用し、英語部分はQWERTYのままにしました。*6*7

 大西配列は、作成過程を見るとカラムスタッガードのキーボードを使って作成しているようですが、紹介ページの配列図はロウスタッガードの形なので、必ずしもカラムスタッガード前提というわけではないように思えます。

note.com

o24.works

 格子配列とロウスタッガードで打ちやすさの違いが特に大きいキーは[T][B][Y][N]の4キーです。大西配列はその4キーはどれも使用率はあまり高くないので、影響は小さいと思います。大西配列は母音・子音が左右に分かれた左右分離配列で、右手の子音部分は清音と濁音も縦に並んでいるので、格子配列ならより配列がイメージがしやすいというメリットがあるかもしれません。しかし、自分はそれは感じませんでしたし、影響があるとしても練習の初期段階だけでしょう。

 よって、大西配列が格子配列に向いている・向いていないということはほとんどないと思います。ということは、先ほど書いた格子配列のメリット――上段・下段キーが全体的に少しずつ近づく。キーの位置をイメージしやすい――だけをそのまま受けとれるということです。

 要するに、ロウスタッガードのキーボードで大西配列を使うことはおすすめです。格子配列のキーボードで大西配列を使うことはさらにおすすめです。

ローマ字入力と格子配列は?

格子配列キーボードにおけるQWERTYローマ字入力の配列図

QWERTYローマ字入力

 格子配列をローマ字入力QWERTYローマ字)で使う場合はどうでしょう? 自分は格子配列キーボードでは新下駄配列か大西配列を使っていてローマ字入力はほとんど使ってないですが、これまでの体験から考えてみます。

 さきほどから書いているように、ロウスタッガードから格子配列にすることで特に打ちにくくなるキーは[T][N]、特に打ちやすくなるキーは[B][Y]です。ローマ字入力では[T][N]はかなり使用率が高いキーです。特に[N]は、な行に加えて「ん」でも使うので、子音キーの中では最も使うキーです。それと比べると[B][Y]の使用率は低い。よく使うキーが打ちにくくなるので、この点はQWERTYローマ字と格子配列は相性が悪いと思います。また、[-]の長音符(ー)もやや遠くなります。

 他はそんなに変わらない気がするなあ……。ロウスタッガードに慣れていれば慣れているほど打ちにくくなる部分が目立つと思いますが*8、格子配列の方が打ちやすくなる部分もあるはずです。格子配列に慣れてくれば、打ちやすくなった部分も感じられるのではないでしょうか。

 そして、さきほどから書いている格子配列のメリット――上段・下段キーが全体的に少しずつ近づく。キーの位置をイメージしやすい――は、そのまま受け取れます。このメリットは、むしろローマ字入力の方が大きくなります。というのは、ローマ字入力はホーム段*9の使用率が低く、上段の使用率が高い*10配列だからです。格子配列のメリットはホーム段から離れるときに大きくなりますので、この点ではQWERTYローマ字入力は格子配列向きだといえます。

 というわけで、格子配列とQWERTYローマ字入力は相性の悪い部分があるものの、相性の良い部分もあるので、ローマ字入力を格子配列で使うメリットは十分あると思います。ロウスタッガードのキーボードでローマ字入力を使っていて、打ちにくいと思うところがある、格子配列に興味があるというのなら、試してみる価値はあるでしょう。

左右分割キーボードってどうよ?

 DK6 miniを使うもう一つの目的が、左右分割キーボードを体験することです。こちらも期待通りの快適さです。肩が自然に開くので、肩がすくむ感じがなくなります。長時間タイピングした際の肩の疲労が少なくなりました。左右のキーボードの間隔や角度を、自分の体格やキーボードを置く環境に合わせて自由に変更できるので、自分の状態にぴったり合った体勢でタイピングすることができます。

 左右分割キーボードに慣れた後で一体型のキーボードを使うと、姿勢の不自然さを感じます。現在の分割キーボードの[F]と[J]の間隔は、いままで使っていたREALFORCE 108USの[F]とテンキーの[5]よりも広い間隔です。これくらいの広さが自然な間隔です。一体型キーボードにに指を置いたときに、いままでこんな不自然な体勢でタイピングしていたのか、と驚きます。

 左右のキーボードの間に空間ができることで別の物を置くことができる、というメリットを挙げる人もいまが、自分は有効活用はしていません。マウスやテンキーを置くという案がありますが、中央に置くとそれほど使いやすとは思えないのでやっていません。マウスは右手ボードのさらに右にスペースを確保*11テンキーは右手ボードの一部をレイヤー切り換えでテンキーになるようにしています。*12

 分割キーボードになることでアイテム数が増えてセッティングが難しくなる、というデメリットに関しては、自分の答えは前の記事で書いたとおりです。要するに「多少のズレは気にする必要がない。むしろズレる方が自然」ということです。

y-koutarou.hatenablog.com

 物理的に左右の距離が変わるのが感覚的にどうなのか?と思う方もいるかもしれません。確かに最初は左右の手の位置がいままでと違うこと違和感はありましたが、実際に机にキーボードを置いて使い始めてしまえば、違和感はすぐに消えました。

 DUMANG DK6 miniを使ってみて、格子配列・左右分割がキーボードの標準であるべきと思いました。

これからもDK6 miniを使っていきます

 DK6 miniを使った格子配列・左右分割キーボード体験の成果は期待以上のものでした。キータッチ・キー入力の安定感に関してはREALFORCEの方が良いと思いますが、格子配列・左右分割キーボードのメリットは、それをはるかに上回ります。

 というわけで、自分はこれからもDUMANGキーボード DK6 miniでの格子配列・左右分割キーボードの使用を継続します。

 懸念点は、DK6 miniが壊れてしまったらどうするか?ということです。DK6 miniは発売から5年が経過し、すでに入手困難な状態です。DK6 miniが故障したときに買い換えたいと思っても、同じ物を入手するのは難しいでしょう。その時にどうするのか?

 しかし、同じキーボードを入手できるとは限らないという点では、他のキーボードも同じではないか?とも思います。

これまでのキーボード遍歴

 自分がキーカスタマイズを本格的に始めたころに使っていたキーボードはREALFORCE 108UHでした。All 45gのテンキー付きキーボード。キーが軽いのに「押したか、押していないか」はしっかり感じられる打鍵感と、キーの押下・解放に余計な引っかかりがなく、チャタリングや取りこぼしがない安定感が気に入っていました。

 108UHのキー配置は、スペースキーが短めで、その分[無変換]と[変換]が大きめです。親指キーのカスタマイズをするには最適な配置です。このキー配置のキーボードは、当時どこにでもあった標準的なキーボードでした。親指まわりはキーの大きさが異なるキーボードも多くありましたが、少なくともこの「標準モデル」がなくなることはないだろう、と思っていました。

 しかし、そうはなりませんでした。REALFORCEの第2世代モデルでは、スペースキーの長さが文字キー2.5個分から4.25個分に長くなりました。その分[無変換]と[変換]が遠く、小さくなりました。その時に書いたのが以下の記事です。

y-koutarou.hatenablog.com

自分がREALFORCEでやっていたキーカスタマイズは、[無変換][スペース][変換][ひらがな]の4キーを親指でフル活用することが大前提なので、[スペース]の大きさが変わってしまうと多大な影響があります。特に、[無変換][変換][ひらがな]に親指が届きにくくなってしまうのは致命的でした。

 その後、R3モデルなどではスペースキーの長さはやや短くなりましたが、元には戻りませんでした。家電量販店のキーボード売り場に並んでいる他の商品を眺めても、スペースキーは長めのキーボードが主流です。自分が「標準モデル」だと思っていたキーボードはあまり見かけません。というわけで自分は、REALFORCEのR2が発売されてもR3が発売されても、見向きもせずに第1世代の108UHと108USを使い続けていました。そんなにキーボードが壊れるわけでもないので、実際はそれで問題ありません。

格子配列・左右分割キーボードへのあこがれ

 もはや市場に同じ製品がない以上、「標準モデル」にこだわる意味はないなあ、いつかは別の製品を使う事態も考えないといけないなあ、と思うようになりました。そして、どうせ「標準モデル」がないなら、その時に市場にある製品に慣れる必要があるのは同じこと。じゃあ、親指キー以外の部分の標準である必要はないな、と思うようになって、格子配列+左右分割キーボードへのあこがれが強くなっていきました。

 しかし、現に市販されているキーボードは、ほぼキーが斜めにずれた(ロウスタッガード)一体型キーボードです。なので、格子配列・左右分割キーボードは半ばあきらめていました。2010年代後半から自作キーボードが盛り上がりを見せて、格子配列+左右分割キーボードもやや現実的になってきましたが、電子工作などやったことがない自分からするとまだハードルは高い。

 そんなときに知ったのがDUMANG DK6 miniです。キーの物理配置を自由に変更できるのが最大の特徴のキーボードですが、格子配列にすることももちろん可能です。左右分割だし、キー数も比較的多い。テンキーはありませんが、そこは妥協できる。自分が格子配列+左右分割キーボードをやってみるには、これが最適解なんじゃない?

 そう思って購入したDK6 miniですが、そのあと長らく放置していました。やはりREALFORCEの打鍵感は捨てがたいし、新下駄配列でタイプウェル国語K総合XAを出したいという気持ちもあったし……*13。購入してから3年あまり、2024年5月頃になって、ようやく重い腰を上げて使い始めた。……というのが現在までの流れです。

もしDUMANG DK6 miniが壊れたら?

 よって、「もしDUMANG DK6 miniが壊れたらどうするか」という問題の答えは、「その時になったら考える」です。

 いままで使っていたキーボードが「壊れた」ということはないので、そんなに壊れる物じゃないだろう、と思っています。キーキャップやキースイッチは交換可能なので、そこが故障・劣化しても問題ありません。

 キーボード自体が動かなくなってしまうような事態を迎えたら……どうしましょう? 自作キーボードはまだ自分にはハードル高く思えます。完成品に近い物を購入するとしても、自作キーボードで格子配列やカラムスタッガードの物は、60%キーボードや40%キーボードなどキー数が少ない物が主流で、自分の好みに合わないという印象もあります。格子配列は続けたいので、入手できる格子配列キーボードを探すのが第一選択ですが、どうしても無理なら[無変換]と[変換]の位置は妥協してREALFORCEに戻るかもしれません。いずれにせよDK6 miniのキー配列から変わることは必至なので、新たなキーカスタマイズを考えることになります。

 そして、一番期待するのは、その時には格子配列・左右分割キーボードが販売されているのが当たり前の世の中になっているということです。

関連する記事

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【DUMANGキーボード DK6 mini 目次】

*1:上段より下段の方がズレ幅が大きい(上段は左に1/4キー、下段は右に1/2キーズレている)ことに加え、[Ctrl]を押すときに少しホームポジションから離れることが影響している気がします。

*2:自分のキーマップでは[Esc]

*3:長期間、まったくロウスタッガードのキーボードに触れなければ、感覚は失われるかもしれませんが。

*4:例えば、[U]と[N]の割り当て文字をそっくり交換するという案があります。その案は自分も合理的だとは思います。

*5:

  • Xユーザーのkouyさん: 「タイプウェル国語K@新下駄配列+格子配列。 突然来たぜ!! 基本常用語\新記録樹立!/ 最終ラップでミスったのは残念だが、それまでは突出して速い部分はないものの終始完璧。「あらわれる」は新下駄的には難ワードではある。 Dumangキーボード DK6 miniを使い始めてからは初の記録更新。 https://t.co/89FWBkM3KG」 / X
    https://x.com/y_koutarou/status/1823024878653727105

*6:

y-koutarou.hatenablog.com

*7:ちなみに、自宅以外の職場などのPCでは、QWERTYローマ字を使っています。これは大西配列でも新下駄配列でも、新下駄配列を使う前でも、はるか昔のJISかなを使っていた時代からずっとそうです。

*8:特に、標準運指からはずれた指使いをする「最適化」を行なっている場合は、より顕著になるでしょう。

*9:[A][S][D][F][G][H][J][K][L][;]のキーがある段。

*10:5つの母音キーのうち[I][U][E][O]の4キーが上段にあるため。

*11:そういえば、テンキーレスキーボードを推す人の意見に1つに「右手ホームポジションとマウスの距離が近くなる」というものがあります。それは確かに感じます。

*12:本などを置けるというメリットを挙げる人もいて、それは確かにそうで自分もよくやりますが、メリットというほどでも……。

*13:タイプウェル国語Kで総合XAを達成したというのが、DK6 miniの使用に踏み切れた一つの要因ではあります。

y-koutarou.hatenablog.com

しかし、先ほども書いたとおり、その後DK6 miniでタイプウェル国語Kの記録を更新しました。じゃあもっと早くやってればよかったな。