大西配列の感想 の続きです。今回は、習得してから現在まで使ってみて思った大西配列の長所と短所についてです。
大西配列の良いところ
大西配列(ローマ字入力 部分)
打ちやすいキーを多く使う
打ちやすいキーを多く使うのは、打ちやすい配列の基本中の基本です。打ちやすい文字キーは、人差し指・中指・薬指のホーム段(中段)のキー、具体的にはQWERTY配列 のキーでいうと、[S] [D] [F] [J] [K] [L]の6キーです(以下、[角かっこ ]で囲んだキー名は、QWERTY配列 でのキーの位置を表します)。一般的に、ホーム段>上段>下段の順で打ちやすく、人差し指≒中指>薬指>小指の順で打ちやすくなります。
大西配列は、打ちやすいキーほど多く使います。これは、公式サイトのヒートマップをみれは一目瞭然です。
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大西配列 左手の母音部分
左手の母音側は、ホーム段の4キーに母音を集めることでホームポジション の使用率を高めた上で、ホームポジション の次に打ちやすい上段中指の[E]に「U」を配置して、5つの母音をすべて打ちやすいキーに置いています。また、5つの母音の中では出現率が低い「E」を小指の[A]に配置して、小指の使用率を下げています。
右手の子音側では、一番出現率が高い「N」をホーム段中指の[K]、次に出現率が高い「T」をホーム段人差し指の[J]に置いて、使いやすいキーの使用率を上げています。特に「N」の配置が重要です。な行は出現率が高いかなが「な」「に」「の」と3つある上に、「ん」 の入力でも使うので、子音の中では最も多く出現するからです。*1
子音キーの中でも使用率が低い「B」「P」「F」は、[/] [P] [Y]と僻地に追いやっているのも見逃せません。「打ちやすいキーを多く使うということは、打ちにくいキーはあまり使わないということでもあります。これも打ちやすい配列を実現するには欠かせないことです。ついでに、「濁音はその清音と同じ指の下段、半濁音は上段」というわかりやすい配置にもなっています。
同指連打が少ない
「打ちやすいキーを多く使う」と同じくらい打ちやすい配列にとって重要な要素が、同じ指を連続して使わないことです。同じ指を連続して使うことを同指連打と言います。同指連打はできるだけ避けるべき打鍵パターンです。同じ指を連続して使わないようになっていれば、いまキーを押している間に次のキーを打つ準備ができるので、慣れれば慣れるほど早く快適なタイピングができるようになります。
大西配列はローマ字入力 なので、基本的に子音→母音→子音→母音→……の順番で入力します。大西配列では、母音キーはすべて左手、子音キーはほとんど右手に配置されているので、この順番で入力している限り、左右の手を交互に使います。これを左右交互打鍵と言います。左右交互打鍵になっている限り同指連打になることはないので、これは打ちやすい打鍵パターンの1つです。
しかし、片手を連続して使うこともあります。例えば、母音が連続する部分があります。これを連母音と言います、連母音の部分では同指連打が発生する可能性があります。
大西配列は、4つの母音をホーム段に置きつつ、「U」だけを上段中指に配置しています。このような配置になっている理由は、5つの母音の中でも出現率の高い「A」「I」「O」を最も打ちやすい[S][D][F]に割り当ててつつ、「A」と連なることが少ない「U」を「A」と同指に配置するためです。「U」をホーム段以外では一番打ちやすい[E]に配置するため、「U」とペアにするべき「A」を中指ホーム段の[D]にしています。これにより、「打ちやすいキーを多く使う」という基本中の基本は実現した上で、連母音での同指連打も限りなく少なくしています。
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大西配列の優れたところは、上記の2点を、ローマ字入力 のルールを一切変えずに実現していることです。
前項で連母音の同指連打を限りなく少なくすることはできましたが、子音でも同指連打は発生する可能性があります。それは拗音の部分です。ローマ字入力 では「Y」を拗音の入力に使うので、同指連打を避けようとすると「Y」を使う指にはほかの子音を置けないことになります。しかし、「Y」の出現率はそれほど高くないので、「Y」を優遇した場所に置いてしまうと「打ちやすいキーを多く使う」という基本中の基本が実現できなくなります。これはなかなか厄介な問題です。
ここで、ローマ字入力 のルールを放棄してしまえば、ことは簡単に解決します。例えば、自分が作ったけいならべ では、「や」「ゆ」「よ」を母音扱いにして母音側に配置して、「子音 + や・ゆ・よ」で拗音を入力することにしました。これはこれで合理的な方法だと思いますが、ローマ字入力 のルールは崩れます。
大西配列 右手部分 しゃ行・じゃ行の工夫
大西配列では、「しゃ行」の拗音は「SY」だけでなく「SH」でも入力できることに着目しました。「しゃ行」の拗音を「SH」で入力することにすれば、「S」と「Y」は同じ指に置いても同指連打は発生しなくなります。「S」をホーム段、「Y」を上段に配置すれば、出現率に対するキーの打ちやすさも妥当です。ついでに、「じゃ行」の拗音も「J」だけで入力できて「Y」は使う必要がないので、「J」も同じ指に配置できます。これで、「濁音は、その清音と同じ指の下段に配置する」というわかりやすい配置も実現できました。
左右分離の行段系配列は、見た目がわかりやすいことが特徴の一つなので、その配列を作ろうとしたときに、入力ルールも規則的に、例外がないようにする方向で考えがちだと思います。ローマ字入力 ルールの不規則な部分は切り捨てて、規則的な部分だけを抜き出して、規則的な追加ルールによって配列を組み立てれば、よりシンプルで美しい配列になるからです。そこを大西配列では、あえてローマ字入力 ルールの不規則な部分を利用して配列を組み立てたところに妙味があると思うのです。
大西配列の良くないところ
同指連打が少ないのは良いことですが、それで十分というわけではありません。異なる指を使う場合でも、どの2つのキーを打鍵するかによって打ちやすさには大きな差があります。同指連打という打ちにくい運指を避けるだけでなく、打ちやすい運指を多く使う ことも同じように重要です。大西配列の子音→母音の部分は左右交互打鍵の良運指になっています。他の部分はどうなっているか?
連母音の出現数
連母音は同じ手の指を連続して使う部分です。連母音は多く出現する組み合わせが決まっています。5*5=25種類の連母音のうち、「OU」「AI」「EI」の3種類が圧倒的に多く出現します*2 。試しにいくつか言葉を想像していただくだけでも、この3種類の連母音を多く使うことは感じられると思います。例えば、「想像」は「SOUZOU」なので、「OU」という連母音が2回出現しています。
大西配列では、この「OU」を[F][E]で打ちます。この2キーを続けて打つのはかなり打ちやすいです。このような、片手で打てる(かなり)打ちやすい運指を「アルペジオ 」 といいます。打ちやすい配列を作るには、アルペジオ をできるだけ活用することが大切です。
しかし、頻出する連母音の1つである「EI」を、大西配列では[A][S]で打ちます。[A][S]は隣り合ったホーム段のキーで打ちにくいわけではありませんが、小指と薬指という比較的使いにくい指を使うので、アルペジオ というほど打ちやすくはありません。頻出する連母音の1つがこの運指になってしまうのは、ややもったいないと感じます。
しゃ行の拗音は、大西配列では「SH」で打ちます。先ほどこれを利用して同指連打を避けたと書きました が、キーの位置は[L][;]です。これも薬指と小指を使うやや打ちにくい運指になります。対象はしゃ行の拗音だけなので頻出連母音と比べれば出現数は少ないですが、よりによって拗音の中では出現率が高いしゃ行がこの運指になってしまうかなあ*3 、とは思います。
さらに言うと、先ほど最頻出の連母音「OU」の[F][E]はアルペジオ で打ちやすい運指だと書きました。しかし、自分の好みで言えばこれでもまだ不満です。「OU」は頻出する3種の連母音の中でも最も多く出現します。自分が配列を設計するなら、「OU」は、ズバリ、アルペジオ の中でも一番打ちやすい[D][F]に配置することから考えたいです。 それが無理でも、[S][D]・[E][F]・[E][R]・[W][E]くらいの中から選んで、そこから配列を組み立てたい*4 。それくらい、頻出連なりをアルペジオ で打てることを重視したいです。
大西配列はローマ字入力 のルールの中で打ちやすい配列を実現しているのが長所です。しかし、ローマ字入力 のルールの中ではどうしようもない事もあります。
ローマ字入力 ルールの最大の問題点は、「ん」 の打ちにくさです。「ん」 はかな出現数3位の頻出文字です*5 。しかし、ローマ字入力 ではその「ん」 の入力で「NN」と2打鍵使うばかりか、同指連打になっています。場合によっては「N」だけで入力できることも多いですが、全体の出現数が多いので、「NN」と入力しなければならない場合だけでも影響は大きいです。大西配列では「N」を[K](右手中指)という一番打ちやすいキーに配置することで最大限打ちやすくはなっていますが、それでもマイナスは避けられません。また、なんで場合によって「N」と「NN」を使い分けるなんて難しい打鍵が要求されるのか、という問題もあります。*6
この問題は、ローマ字入力 のルールを崩して良いなら、簡単に、大幅に改善できます。どこかに「ん」 専用のキーを設けるだけです。ローマ字入力 で(ほとんど)使わないキーはまだたくさんあるので、配置する場所は見つけられるはずです。
「っ」(促音)の入力もローマ字入力 の弱点です。ほとんどの場合「TTE」で「って」と入力するなど、子音キーを続けて打つことで入力します。つまり、ここでも同指連打が発生します。これも、「っ」専用のキーを設置すれば簡単に改善できます。
拗音の入力はローマ字入力 は得意ですが、もっと良くできます。しゃ行を「SY」だけでなく「SH」でも入力できるのは柔軟で良いことです。しかし、それなら他の拗音も「H」で入力できたら、なお良いです。大西配列でも、拗音に「Y」([O])という上段キーを使う運指より、「H」([;])というホーム段を使う方が楽な運指になるパターンは多いです。「KHA」で「きゃ」と入力できることにしても、なにも問題ありません。ローマ字入力 のルールに反しているということ以外は。
大西配列の「濁音は、その清音と同じ指の下段に配置する」という配置は整理された美しい配置ですが、ざ行に関してはそれが実現しているのは「じ」の「JI」だけです。「ざ・ず・ぜ・ぞ」は「Z」を使って入力するので左手の連打になります。「じ」以外のざ行はどれも出現率が低いので大きな問題ではありませんが、例外が生じているのは美しくない。「J」ですべてのざ行を入力することにしてしまえば、「濁音は、その清音と同じ指の下段に配置する」という原則をより守れますし、運指も良くなります*7 。ローマ字入力 のルールを崩すことを認めるならば。
これらの問題は「日本語入力と英語入力を同じ配列で入力するべきか」という問題に行き着くと思います。これまで書いたとおり、ローマ字入力 のルールを崩しても良いなら、ローマ字入力 としての打ちやすさを上げる手段はいくつもあります。左下の[Z] [X] [C] [V]の配置を変えても良いなら、配列を工夫できる余地は上がります。しかし、その場合は英語入力の配列としてはそのままでは使えなくなります。
自分は英文タイピングはほとんどしないので、大西配列はローマ字入力 の部分のみを使用し、英語はQWERTY のままという方法を採用しました。しかし、英文タイプもするという人も多いと思います。
QWERTY ローマ字と同時に、英語入力のQWERTY配列 も改善したいと思う人にとっては、使う配列を選定し、実装し、練習・習得するという行程を、日本語と英語の両方でするというのは、骨が折れることだと思うでしょう。1つの配列を習得するだけで日本語入力と英語入力の両方が改善できるならそれに越したことはない、と思うのももっともです。
自分の考えとしては、日本語と英語で同じ配列を使う意味はないと思います。日本語タイピングと英語タイピングはまったく別の技能です。覚えたての、1文字ごとに配列図から打ちたい文字を探して打つような段階なら、ローマ字入力 と英語入力で同じ配列を使うことで、打ちたい文字を見つけやすくなるでしょう。しかし、それだけです。少しでも速度を上げたいと思ったら、ローマ字入力 と英語入力は、それぞれ別の練習が必要になります。ローマ字入力 のタイピングがどんなに速くなっても、それだけで英語入力のタイピングが速くなることはありません。英語は英語で練習が必要です*8 。どうせそれぞれで練習するなら、日本語は日本語に、英語は英語に最適化された配列を使う方が効率は良くなるはずです。
しかし、これは日本語入力は毎日しているが、英語入力はほとんどしないという自分だからかもしれません。日本語入力と英語入力を同じくらいタイピングする、あるいは英語入力がメインで日本語入力はたまにという人なら違う意見になるという可能性はあると思います。
ショートカットはどうする?
ただし、英語配列 を変更する場合は、ショートカットキーをどうするか という問題は考える必要があります。大西配列では「Z」「X」「C」「V」をQWERTY と同じ位置にすることで、最も重要な「元に戻す・切り取り・コピー・貼り付け」のショートカットは今までどおり使えるようになっています。しかし、ショートカットに使う文字キーはこの4キーだけではありません。
[Ctrl]や[Alt]押下時はQWERTY配列 にするという手はありますが、アプリケーションによっては単打のショートカットキーもあります。単打でQWERTY のキーの位置が由来のショートカットキー*9 はどうするのか。
大西配列の配置でショートカットキーを覚え直すのか、そのようなショートカットは使わないことにするのか、「QWERTY配列 に戻すレイヤー切り替えキー」を設けるのか……。運用や実装で工夫が必要になると思います。
大西配列はおすすめです
これまで、約7ヶ月大西配列を使ってみて、大西配列は自信を持っておすすめできます。まず、日本語入力を打ちやすくする効果が非常に大きいです 。そして、シンプルで実装しやすく、覚えやすく、英語配列 も同時に改善できます。ローマ字入力 のルールはそのまま使うことや、ショートカットキーの関係で、QWERTY から移行も比較的しやすいと思います。新配列に初めて触れるという方、もっと複雑な配列を使おうとしてうまくいかなかった経験がある方に良いと思います。
その上で言っておきたいことが2つ。1つは、QWERTY配列 と大西配列は併用できる ということです。どうしてもQWERTY配列 を使う機会はあるという方も多いと思います。そういう方でも大西配列は使えるということ。
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もう1つは、大西配列をローマ字入力 の部分のみ使うという使い方もありえる ということです。ショートカットキーの問題で大西配列をあきらめようとしているなら、日本語入力の時のみ大西配列にするという運用にすれば問題は解決するかもしれません。日本語入力をある程度多く使うなら、この使い方でも十分効果はあります。
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