2011年ヤクルト、クライマックスシリーズの狂気

 今年もクライマックスシリーズが真っ盛りの季節で楽しそうですね。ヤクルトは出てないけどね(´・ω・`) でも、試合は結構見ています。やはり短期決戦は試合の密度が濃くて見応えがある。セはちょうど秋雨前線が停滞している影響をもろに受けて、雨中の決戦あり、雨天中止あり、コールドゲームありと天気で明暗が分かれていておもしろいです。

 ところで、CSと言えば、自分は2011年のヤクルトの戦いぶりが強く印象に残っています。自分は「無茶な采配」だと思いました。2011年CSのヤクルトに関する記述を見ると「奇襲に博打」「明日なき戦い」「館山は耐えられたか?」「命を削って試合をしている」「捨て身」「狂気」という不穏な言葉が出てきます。このCSについてはこの前の記事で少し書いたのですが、そうしたら他の部分も書きたくなりました。そこで、2011年ヤクルトのCSシリーズの戦いぶりについて、ちょっと長くなりますが当時を思い出しながら書いてみます。

まさかの大逆転V逸とヤ戦病院

 2011年のヤクルトはシーズン序盤から首位をキープしていて、2001年以来の優勝が見えていました*1。8月は怪しくなってきたけれど、9月の初めに9連勝して「さすがにこれはもう大丈夫だろう」と優勝を確信。ところが、そこから中日が急激に追い上げてきて、最後は直接対決で4連戦4連敗を食らって優勝を逃すという結果に終わりました。

 でも、レギュラーシーズン優勝が最大の目標ではあるけれど、まだクライマックスシリーズがあります。神宮球場でのCS開催はこの時が初めて、ポストシーズンに出場するのは神宮球場で開催されるのはもちろん2001年の優勝以来でした。久々の短期決戦出場で、これはこれで楽しみ。

 この時のヤクルトの戦力を見てみます。投手は館山昌平石川雅規の左右のエースが盤石。他の先発は、由規村中恭兵増渕竜義赤川克紀の「ドラ1四兄弟」ら。リリーフは日本4年目を迎えた林昌勇(イム・チャンヨンが安定のクローザー。いったん自由契約になりながら再契約したバーネットがリリーフに転向して大活躍。長年活躍してきた押本健彦松岡健一もやや金属疲労が見えながらこの年も60試合登板を達成。ドラフト4位ルーキーの久古健太郎が貴重な左のリリーフ。という布陣。

 打線は、リーグの中では良い方だけど物足りない。この年は統一球(というか違反球)が導入された年で、NPB全体が打撃低調でした。中心選手の青木宣親は、少なくとも打率.330は期待したい選手でしたが、この年は.292と不振。ベテランの宮本慎也が.302で打率リーグ3位。畠山和洋が.269で本塁打23本。新外国人のバレンティンは31本で本塁打王だけど、.228で打率最下位だからねえ*2。悪くはないけど、投手が打たれても打線でカバーできるという戦力ではない。特に、シーズン終盤にみんなで調子を落としていたので……。「いかに失点を防ぐか」。短期決戦ではよく言われる言葉ですが、それが特に重要という年でした。

 それなのに、肝心のCSを前に伝統のヤ戦病院が発動。レギュラーシーズンで勝ち継投の一角だった久古が不在。バーネットもケガあがり。林昌勇もいまいち怪しい。鉄壁だったリリーフ3枚が不調という状態でした。先発も由規、七條祐樹が離脱。この投手陣をどうするかがCSの課題でした*3。信頼できる投手は館山昌平石川雅規村中恭兵の先発3枚。これをどう使うか。小川淳司監督の構想やいかに?

“クローザー”村中恭兵の活躍

 ファーストステージ。相手は巨人。初戦の先発は11勝5敗、防御率2.04の館山昌平。5回1失点で代打を出されて降板(代打の藤本敦士が同点適時打)。6回からリリーフのマウンドに上がったのは、先発要員の村中恭兵でした。村中は9回2死から大村三郎本塁打を打たれるまで、3回2/3を投げるロングリリーフを見せてヤクルト勝ち。このときの村中の投球は、自分の中の“ヤクルトベストシーン”の一つです。この時点では「不安なリリーフ陣に速球派の村中を回す構想か! 久古不在で手薄な左リリーフの補強もできて一石二鳥だ」と思っていました。そんなのんきな作戦ではなかった。

2011年セ・リーグCSファーストステージ第1戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
巨人 0 0 0 1 0 0 0 0 1 2
ヤクルト 0 0 0 0 1 2 0 0 X 3

 第2戦。先発はもちろん石川雅規。中盤は1-2のビハインド展開。5回途中から押本 - 増渕 - 松岡 - 林昌勇といつものリリーフ陣(増渕は前の年リリーフだったので)でつなぎますが、最後の林昌勇が打ち込まれて大差負け。もともと林昌勇は不安がある状態でしたが、それが露呈した形となってしまいました。

2011年セ・リーグCSファーストステージ第2戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
巨人 0 0 0 1 1 0 0 0 4 6
ヤクルト 0 0 0 0 1 0 0 0 1 2

 第3戦は赤川克紀が先発。またも村中がリリーフで登板し、8・9回の2イニングを投げてヤクルトがファイナルステージ進出(森岡良介の「お立ち台、2回目でーーーーーす」が出た試合です)。ここまでの投手起用は理解できます。しかし、あとで知りましたが、この時点で初戦に先発した館山もリリーフで待機していたそうです。

2011年セ・リーグCSファーストステージ第3戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
巨人 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
ヤクルト 0 0 1 0 0 0 1 1 X 3

狂気のファイナルステージ

 ファイナルステージ。相手は中日。この年の中日は落合博満監督の最終年。チーム防御率はリーグ最高、チーム打率はリーグ最低で優勝というシーズンでした。一方、ヤクルトも打線は低調。ファーストステージにもまして失点を防ぐことが重要となることが予想されました。

 初戦の先発は増渕竜義。ファーストステージ第2戦でリリーフ登板した投手です。ちょっと「おや?」と思う起用ですが、まだこの時点では気がついていない。試合は吉見一起 - 浅尾拓也 - 岩瀬仁紀の鉄壁の中日投手リレーに抑え込まれてヤクルト負け。

2011年セ・リーグCSファイナルステージ第1戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1
中日 1 0 1 0 0 0 0 0 X 2

 そして問題の第2戦。先発は石川雅規。え? 順番通りなら館山が登板するところです。石川は中3日ですよ!? 打線もびっくり。レギュラーシーズンでは1試合も出場していないルーキーの山田哲人を1番で起用するという大博打。スタメンで使うのはまだ分かるけど、1番で使うかあ? 1番山田・2番上田ってフェニックスリーグかよ!*4 この頃から山田にはシンデレラボーイの雰囲気がありました(このシリーズでは活躍してないけど)。3番宮本慎也・4番青木宣親というのもレギュラーシーズンでは一度もなかった打順です。なんと無茶な采配。

 試合内容はこの前の記事で書いたので詳しくはそちらも見てください。ヤクルト石川・中日チェンの両先発が好投し、0-0のまま8回表。1安打無失点と好投を見せる石川の打順、2死走者なしで代打飯原誉士を送る勝負手。これが的中。飯原の代打本塁打で均衡が破れてヤクルトが勝ちました。

 問題は石川の後に登板した投手です。自分は当然“クローザー”の村中が登板するものだと思っていました。ところが、出てきたのはなんと館山昌平。ファーストステージ第1戦で先発した投手で、翌日の先発も予想された投手です。今日の先発が館山だと思っていたらそうではなく、明日の先発が館山かと思ったらそうでもなさそうで、村中がクローザーだと思っていたのにそれもそうではない。もう何が何やら……。館山は8・9回の2イニングを投げました。

2011年セ・リーグCSファイナルステージ第2戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3
中日 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 第3戦。先発は……村中恭兵! 村中はクローザーじゃなかったのかよ! この時点で、小川監督がこのシリーズをどう戦うつもりだったのかがようやく分かったような気がしました。この試合はバーネット - 渡辺恒樹 - 押本健彦 - 松岡健一 - 林昌勇の必死の継投で1点差を守り切ってヤクルト勝ち。このシリーズで「先発要員のリリーフ」なしで勝った唯一の試合です。特に、2回1/3を投げたバーネットが光るロングリリーフでした。

2011年セ・リーグCSファイナルステージ第3戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
ヤクルト 0 1 0 0 1 0 0 0 0 2
中日 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1

 第4戦は先発の赤川が初回に失点してヤクルト負け。対戦成績2-3(アドバンテージ含む)と追い詰められる。

2011年セ・リーグCSファイナルステージ第4戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
ヤクルト 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
中日 4 0 0 0 1 0 0 0 X 5

 そして第5戦。先発は館山昌平。リリーフ登板から中2日ですが、もう驚きません。館山は好投しましたが、0-0の6回1死1塁、井端弘和に2点本塁打を浴びてヤクルト敗退となりました。井端に2ランを打たれた時の絶望感は忘れられない。ここでの最悪は、1塁走者の荒木雅博に盗塁されて井端ヒットで1点、またはヒットエンドランで1死1・3塁を作られてその後1点、だと思っていました。それが2ラン。最悪より悪いことが現実に起きるなんて……。荒木が走るぞ、走るぞと執拗に牽制していたのにやられて、井端に狙い澄ました長打を打たれたというシーンでした。

2011年セ・リーグCSファイナルステージ第5戦
チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9
ヤクルト 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
中日 0 0 0 0 0 2 0 0 X 2

もし第6戦があったら?

 このシリーズでヤクルトで先発した投手の登板を表にしてみました。

2011年CSのヤクルトで先発した投手の起用
月日 相手
館山昌平 石川雅規 赤川克紀 増渕竜義 村中恭兵

10/29 巨人 先5回 - - - リ3回2/3
10/30 巨人 - 先4回2/3 - リ2回 -
10/31 巨人 - - 先6回2/3 - リ2回
11/1 - - - - - - - -
11/2 中日 - - - 先2回1/3 -
11/3 中日 リ2回 先7回 - - -
11/4 中日 - - - - 先3回1/3
11/5 中日 - - 先4回 - -
11/6 中日 先5回1/3 - - - -

 館山は先発2回・リリーフ1回、村中は先発1回・リリーフ2回登板しました。増渕もリリーフ登板しています。しかも、リリーフはすべて2イニング以上。先発は5人で回す中で、その合間を縫って4回もロングリリーフに突っ込んだのです。

 もし、ファイナルステージ第5戦にヤクルトが勝って第6戦があったら、先発は誰だったのでしょうか? たしか、増渕はファイナルステージ第1戦の先発後に登録抹消されてたと思います(そして山田を一軍登録した)。ということは、再び中3日で石川が先発だったんでしょうか。そうだとすると、ファイナル第2戦の「代打飯原」も納得できます。もともと石川は早めに降板して中3日先発に備えるつもりだった。石川降板後は館山をロングリリーフさせる予定。館山はファーストステージ第3戦からリリーフ待機していたのだから、むしろ休養十分。石川が7回まで投げたというのは、むしろ引っ張った方だと。予定通りの代打飯原。そういうことだったのか? そして、もし第6戦があれば村中も再びリリーフに突っ込んだんでしょうね。

 いま考えても無茶だよね。でも、勝てる可能性があるとすればこれしかなかったよね。仮に、きれいに中5日で先発ローテを組んでいたらこうなります。

2011年CSのヤクルトが中5日ローテだったら……
月日 相手 館山昌平 石川雅規 赤川克紀 増渕竜義 村中恭兵
10/29 巨人 - - - -
10/30 巨人 - - - -
10/31 巨人 - - - -
11/1 - - - - - -
11/2 中日 - - - -
11/3 中日 - - - -
11/4 中日 - - - -
11/5 中日 - - - -
11/6 中日 - - - -

うん、無理だな。ぜんぜん勝てる気がしない。おそらくファーストステージで敗退する。

 レギュラーシーズン中ではあり得ない、もしかしたら選手寿命を縮めてしまうかもしれない、しかしポストシーズンという重要な試合で勝つためにはそれしかない。そういう采配をするべきだったのかどうか。いまでも迷います。でも、やったからには勝ってほしかった。正直、始まる前は中日は勝てる気がしなかったけれど(4連戦4連敗の流れがあったからね)、ファイナルステージ第2戦の飯原の本塁打を見たときは勝てると思った。だからこそ、第5戦の井端の2ランの絶望感を味わったわけです。

 このクライマックスシリーズの終了後、館山昌平は右手血行障害の手術を受けました。この時点では翌年には戻ってくるのですが……。

2011年東京ヤクルトスワローズのCSに関するリンク集

データ

総評

戦前予想・観戦記・記事

動画

*1:ちなみに、自分は開幕前から優勝間違いなしと思っていました。だから、CSと日本シリーズのチケットを取るためにこの年からヤクルトファンクラブ入ったしね。優勝は逃しましたが、神宮開催のCSは首尾良く第1・2試合を現地で観戦することができました。

*2:ちなみに、60本のシーズン最多本塁打記録を樹立するのは2年後の2013年。

*3:なお、打撃陣も川端慎吾川島慶三が離脱していました。また、CSには間に合いましたが、相川亮二が骨折で、宮本慎也が肺炎(!)で終盤に離脱して、それがV逸の要因になっています。

*4:上田剛史も2011年12試合、通算55試合出場の若手選手です。