女子カーリング世界選手権2016に見る実戦・次の一手

 もう先々週のことになりますが、女子カーリング世界選手権の中継をずっと見てました。今年は日本選手権の中継が1試合しかなくて心配していたのですが、世界選手権は日本戦全試合完全生中継という大盤振る舞いで全部見るのが大変でした(^_^;) 日本代表のLS北見が五輪・世界選手権を通じて過去最高の銀メダルという快挙を成し遂げたのはご存じの通りです。

 さて、今回の世界選手権で印象に残った局面を図にしてみました。まず、その石を投じる前の図を載せて、次に実際に投じた図を載せるという、いわゆる「次の一手」形式にしました。スクロールする前に少し考えてみるとおもしろいかもしれません。と言っても、実戦では、自分たちや相手の技量・調子、氷の状態なども含めて考えるので、局面図だけではわからないこともありますが。全部で4題あります。

日本0-0ドイツ第2エンド赤:後攻スキップ2投目その1

1題目

2エンド 赤0-0黄 後攻・赤のスキップ2投目

 日本(赤)-ドイツ(黄)。日本の予選8試合目。

 先攻ドイツのスキップ2投目がミスになって、ラストストーンを投げる前にすでにナンバー1・2を持っているという大チャンス。当然、真ん中にドローして3点目を作るよね?

日本0-0ドイツ第2エンド赤:後攻スキップ2投目その2

答え

 日本の選択はダブルロールイン。ハウス手前の赤に軽く当てて、投げた赤と当てた赤を両方ハウスに入れてしまうという作戦。狙い通りに決まって、序盤早々4-0という大量リードを奪って優位に立った。

 この場面、スキップの藤澤五月はこの手に気がついておらず、バイススキップ吉田知那美が藤澤が投げる前に気がついて作戦を変えた。

知那美「さっちゃん、ダブルロールもあるけどそこまでしなくていいか」
藤澤「あーいいよ、やってみよう」
知那美「やる?」
藤澤「うん」

日本2-0スイス第5エンド:黄後攻スキップ2投目その1

2題目

5エンド 黄0-2赤 後攻・黄のスキップ2投目

 日本(黄)-スイス(赤)。日本の予選6試合目。

 スイスはスキップ1投目の時に、1試合に1回しか取れないタイムアウトを早くも取るという力の入ったエンド。赤にナンバー1・2を見せられて黄は苦しい。2点負けていて後攻なので、できれば2点ほしい。真ん中にドローすれば1点は確保できるが、それも簡単ではないショットだ。

日本2-0スイス第5エンド:黄後攻スキップ2投目その2

答え

 まだ、ナンバー1・2を両方はじき出すダブルテイクアウトの道があった。しかし、失敗すると赤が残ってスチールされてしまう可能性もある。この局面は日本の作戦会議も時間をかけた。このとき選手同士の会話が聞けるのもカーリング中継の醍醐味。解説の敦賀信人ダブルテイクアウト推し

敦賀「ここは思い切って狙ってほしいですね」
藤澤「ここ(ドロー)か、これダブルで2点か3点」(とチームメイトに説明)
敦賀「ダブルで思い切って、勢いをつけるショットをやってほしいですね」
?「ドローもムズいっちゃムズいのか」
?「でもドローはゆうみちゃんやってるからわかるよね」
?「3点もある」
藤澤「うまくいけばね」
敦賀「3点は難しいですけど(笑)2点は絶対ありますね」

 4人が集まって相談して、いったんはドローで決まりかけたが、その後でまた作戦を変えた。

「こっちから見ると行けそうな感じがするんだけど」
「あーダブル行けそうだね」
「うん」
「ブラシ1本分も離れてないんだ」

 見事にダブルテイクアウトが決まって、日本が同点に追いついた。

ロシア5-4カナダ第7エンド:黄後攻スキップ1投目その1

3題目

7エンド 黄5-4赤 後攻・黄のスキップ1投目

 ロシア(黄)-カナダ(赤)。3位決定戦。

 メダルがかかった一戦。第1エンドから白熱の攻防が続き、接戦のまま終盤へ。ハウス手前がガードだらけで真ん中へドローする道がない。このままだと、カナダ(赤)は次のスキップ2投目でどこかの赤に当てて中央を狙ってくる。

ロシア5-4カナダ第7エンド:黄後攻スキップ1投目その2

答え

 ハウス右上の赤の前にガードかと思いましたが、ロシアのスキップ、アンナ・シドロワの狙いはこれ!

 1点リードしている場面でこれ行きますか! 赤がナンバー1ならともかく、現時点では黄がナンバーワン持ってるのに。シドロワさんは積極策ですねー。

 しかしこの勝負手が実際はどうなったかというと……。

ロシア5-4カナダ第7エンド:黄後攻スキップ1投目その3

 なんと自分のナンバー1だけなくなってしまいました。やはりちょっと難しかったか?

 もしかしてロシアは、次のカナダ(赤)のスキップ2投目で左上から赤→赤→黄で出されて赤をナンバー1・2・3で残されるのを嫌ったのでしょうか? そうなったらロシアは全部テイクアウトするのは難しいし、中央にドローする道もないし、苦しそうだ。そうなるくらいなら今チャレンジした方がいいということでしょうか?

 ロシアは最後も難しいショットが決まらず、カナダに2点スチールされるエンドになってしまいました。

日本2-1スウェーデン第4エンド:黄後攻スキップ2投目その1

4題目

4エンド 黄1-2赤 後攻・黄のスキップ2投目

 スウェーデン(黄)-日本(赤)。日本の予選7試合目。

 ナンバー1はすでに持っているが、先攻日本のスキップ2投目でハウス中央へのドローを決められてナンバー2を押さえられた。後攻だし、1点負けているので2点目を作りたいところだが。

日本2-1スウェーデン第4エンド:黄後攻スキップ2投目その2

答え

 スウェーデンの選択はスルー! 2点目を入れるルートも難しいし、下手に触ると赤をナンバー1にしてしまうかもしれない。まだ4エンド、先はあるのでここは無理をせず1点を守るという選択をした。

 カーリングは戦術が深いスポーツで「氷上のチェス」とも呼ばれるけれど、チェスのようなマインドスポーツと決定的に違うのが、プレイ自体にミスが起こること。プラン通りに進むことも多いから考えないと負けてしまうのだけど、どんなに考えても想定外のミスが結構起こる。緻密に作戦を積み重ねて、最後の一投を決めるだけという局面で、その一投でとんでもないスルーをしてしまう。世界に名だたるスキップがそれをやってしまう。その辺の戦術の深さと危うさのバランスがカーリングの魅力の一つかなと思って観戦しています。

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