『指輪物語』を再読したくなった理由

 前に、“突然『指輪物語』を再読したくなった”と書いたのですが、その理由についてです。

 要するに、映画の『ロード・オブ・ザ・リング』を見たからです。テレビで放送している映画を目に付いたものから片っ端に録画しているのですが、ほとんど見ていないのでそのままたまっていき、ついにHDDがいっぱいになってしまいました。これはいけない、と慌てて消化することに。まず見たのが、2年前くらいにNHK BSで放送してた『ロード・オブ・ザ・リング』。三部作一気に見ました。

 おもしろかったですが、「あれ? そんな話だったっけ?」と思う部分がいくつかありました。ヘルム峡谷の戦いってそんなに絶望的な戦いだったっけ? ファラミアってもっと活躍シーンがあった気がするのだけど?(エオメルも) ピピンはゴンドールで何やったんだっけ? 原作は何回も読んだのだけど、時間が経つと忘れるな。

 そこで、原作は本棚にあるかな? と思って探してみると、1992年初版発行の文庫本の新版、瀬田貞二田中明子訳の全9巻セットが出てきました。これ、読んだ記憶がありません(^_^;) いつの間に買ったんだろう? 自分が読んだ記憶があるのはその1つ前の版の瀬田貞二訳の全6巻セットの文庫本です。これは何回も読みました。少なくとも通しで3回は読んでいる。だから、自分の中ではいまだに“アイゼンガルド”ではなく“イセンガルド”、“ブリー村”ではなく“粥村”です。

 新訳が出ているのはもちろん知っていて(そりゃ、買ってるんだから)、いつかは読みたいと思っていたのですが、そう思ってからもう20年は経ってるな(^_^;) いい機会だし、20年ぶりに読んでみるか、というわけです。

 いまから原作を読み直すわけですが、読む前に映画を見たときの感想や疑問点を書いておきます。自分の思い違いがどれくらいあるか記録しておきたいとも思いますし。

 まず、第一部『旅の仲間』から。原作はかなり文章量の多い小説なので、原作ファンとしては「原作の内容がどれだけ入っているか」という視点で見てしまいます。そういう目で見始めると、カットの嵐を目の当たりにするわけですよ。1章「待ちに待った誕生祝い」の内容はむしろ原作より盛ってるんじゃないかいうくらい時間を掛けた半面、2章「過去の影」は薄まった感じ。ガンダルフの名言の数々がカットされたのは残念。特に「生きているものの大半は、死んだっていいやつじゃ。そして死ぬものの中には生きていてほしいものがおる」は伏線にもなっていると思うのだけど。

 それ以降はさらにカットが激しい。古森とトム・ボンバディルがまるまるカットされたのは仕方ないけど、「正体をあらわした陰謀」がカットされたのは納得いかないし、踊る子馬亭で馳夫(ストライダー)と話すシーンも短すぎる。『指輪物語』は――誤解を恐れずに言えば――小説としてはそれほど面白くないと思うのだけど、中にはいくつか面白い部分もあって、それが「正体をあらわした陰謀」であり、躍る小馬亭での一幕であると思うのに。そして、アラゴルンかっこ良すぎだろう。終盤はともかく、最初に出てきた時はもっとみすぼらしく、うさんくさい感じでないと。

 少し戻りますが、ギルドールが出てこなかったのも残念。事実上初めて出てくるエルフなので印象深かった。「あなたは、あなた自身のことについては、聞きもせず、話もしないね」「魔法使いにお節介をやくな。変幻自在でよく怒る」「勇気は思いもかけないところに見いだされる」など今でも覚えているセリフも多い。

 アルウェンの登場シーンが増えるのはなんとなく知っていたので、グロールフィンデルの出番はカットされるだろうなと思ったいたら、予想通り存在自体無かったことになってましたね。原作でもグロールフィンデルは、指輪隊の9人に入ってもおかしくなかったのに、ピピンとメリーがしゃしゃり出てきたせいで入らなかったりと、不遇でしたね。

 『指輪物語』の特徴の一つに、所々に歌が出てくるどがあると思うのだけど、映画ではあまり出てきませんね。『指輪物語』の魅力は歴史と世界観で、歌がそれを表わす重要な要素になっていると思うので、これがないのは寂しい。馳夫が突然「ルシアン・ティヌヴィエルの話をしてあげよう」とか言って歌い出すシーンは大好きだったのに。

 物語は『旅の仲間 上2』の内容へ。エルロンドの御前会議。出席したドワーフは、ギムリじゃなくてグローインだった気がする。

 原作と比べて映画でカットされているシーンは数限りなくあるけれど、カットされた中で最も残念だったのが、エルロンドの御前会議でレゴラスがゴクリ(ゴラム)の逃亡について報告するシーン。「ああ、しまったしまった!」と突然言い出して、誰もが「なんでそれをもっと早く言わない!」と思う内容を悪びれもせず話し出す(と自分は解釈した)。その時グローインと一悶着あったのも含めて、エルフというのはこういうものだと見せつけた名シーンだと思います。

 こんな風に、これまでは原作の内容がカットされまくりだったので、この後もどの名シーンがカットされるかと思っていたら、これ以降はわりと原作通りな印象です。むしろ、南下する道を探してさまようシーンとか、モリア坑道の入り口の謎解きとか、カットしても良さそうなシーンも残っている(船の操縦者を決めるときにメリーが出しゃばるシーンはカットされたけど)。ロリエンでギムリがいきなり弓矢を突きつけられるシーンは良かった。ボロミアは原作でも好きなキャラだったけど、映画でもかっこいいですな。

 そもそも、原作の文章量の配分がいびつなんですよね。『旅の仲間』がとにかく長い。9巻構成になった文庫版の新訳でも、『旅の仲間』が4巻分、『二つの塔』が3巻分、『王の帰還』が2巻分だし。これでは『旅の仲間』の内容が割を食うのは必然。映画では第二部と第三部の区切りを原作と変えていたのだから、第一部と第二部の区切りも見直したら良かったんじゃないでしょうか。第一部の終わりをカザド=デュムの橋あたりにするとか。これなら『旅の仲間 上』の内容をもっと盛り込めただろう。


 第二部『二つの塔』以降は、フロド視点と、アラゴルン視点、ピピン・メリー視点の物語が代わる代わる描かれる形になってます。これは原作でもそうした方が良かったんじゃないかと思ってました。原作の『二つの塔 上』でサルーマンを打ち破るという大きな話が一段落つくまでどんどん話が進んで、しかしピピンが余計なことをしてピピンとメリーが別れることに。さあ、ピピンとメリーはその後どうなるんだ? と思って『二つの塔 下』に進むと、さて一方フロドは……の話です、って今さらかよ!ということになりましたから。しかも『二つの塔 下』は暗い地味な道のりが続くので読むのがつらいし。後から思えばこれも興味深い話なのだけど(フロドが何を考えてるのか分からなくなってくる感じとか)、それよりピピンとメリーの話を聞かせてよ!

 先に書いた通り、ヘルム峡谷の戦いが原作の自分の印象と違います。自分の印象が間違っているかもしれない。あの戦いではレゴラスギムリが倒した敵の数を競っていた記憶しかありません。映画では全般的にギムリがこけにされているけれど、よく考えたら原作でもそうだったかもしれないw

 そう言えば、パイプ草は『指輪物語』の世界を構成する重要なツールだと思うのだけど、映画では全然出てこない。これは最近の嫌煙の流れの中でパイプ草は無かったことにされたのか。仕方ないけど、イセンガルドの廃墟の前でピピンとメリーが余裕こいてパイプ草吹かしてガンダルフたちをお出迎えするシーンは、パイプ草なしでは寂しいな、と思ってました。そうしたら、ずばり、アイゼンガルドの廃墟の前でピピンとメリーが余裕こいてガンダルフたちをお出迎えするシーンでパイプ草が出てきてた! これは嬉しかった。やはりこれでなくちゃ。


 第三部『王の帰還』。ガンダルフの指示でピピンが勝手にのろしを上げてるように見えたんだけど、いいんでしょうか? 原作でこんなシーンあったっけ? そんな簡単に部外者がのろし上げられていいの? デネソール大激怒では? その後、ピピンがデネソールに忠誠を誓うシーンがあって、デネソールもそれを受け入れているように見えたけど……。あと、原作ではピピンの案内役?でベレゴンドというキャラが出てきてピピンとコンビでいい味出してたと思うのだけど、出てきませんでしたね。

 エオウィンが戦いに加わっていることが最初から分かっている描き方になっているのは、良かったんでしょうか。あれは幽鬼を倒したところで明かになるのがいいと思うのだけど。ガンダルフがはっきり「この世に生きる人間の男には殺せんと言われておる魔物」って言ってたし、ネタバレの話を見せられている気分になりましたよ。

 療病院のシーンは丸ごとカットですか……。「王様の手は癒しの手」は重要なエピソードだと思うのだけど。あの時点で死にそうな人が3人ほどいたと思うのだけど、いつの間にか助かったことになってしまうのですね。

 そして、時間的に仕方ないかも知れないけれど「ホビット庄の掃蕩」はやはり全部カットされましたね。これは指輪戦争でのホビットたちの活躍を裏付ける欠かせない一幕だと思うのだけど。それに、サルマン(蛇の舌も)はアイゼンガルドの塔に閉じこめられて木の髭に監視されたままってことですか? それはすっきりしないなあ。

 ラストシーンは灰色港で船が出航したところで終わりではなく、その後サムが家に帰るところまで描かれていたのは良かった。やはりこの物語の最後は「いま帰っただよ」でなければね。

 さあ、これから原作を読み直します。文章量が多くて読むのが大変な小説だという印象があるのですが、結構楽しみな気分です。時間はかかるでしょうが、いつも通りマイペースで読んでいきます。