カーリング女子世界選手権2018、富士急の挑戦を振り返る

 2017-2018年カーリングシーズンを振り返るシリーズ。前回の男子世界選手権のteam IWAIに引き続き、今回は女子世界選手権2018、日本代表の富士急の印象に残ったシーンを振り返ります。

ドイツ-日本

10エンド デビュー戦を飾る

ドイツ(赤)-日本(黄) 10エンド 後攻日本スキップ小穴1投目

 日本の初戦はドイツ戦。日本1点ビハインドで後攻の10エンド。赤ドイツ、黄日本。日本は2点取れば逆転勝利だが、1点にとどまってエキストラ先攻になってしまうと苦しくなる。

 スキップ小穴1投目がナイスドロー。完全にガードの裏に隠れて直接打ち出せず、フリーズしてもナンバー1を取りにくく、ドイツは2失点を阻止するのが難しくなった。

 このあと、ドイツスキップ2投目はナンバー1の黄を少し押してナンバー1・2を取る手を狙うが、わずかにラインがずれて奥に抜けてナンバー1を取れず。小穴がラストドローも決めて日本が逆転勝利。世界選手権初出場の富士急が初戦を白星で飾りました。

予選 ドイツ-日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
ドイツ 0 0 0 2 0 0 2 0 1 0 5
日本   0 1 1 0 1 0 0 1 0 2 6

日本-アメリ

5エンド 小穴の積極策その1

 日本の4試合目。試合内容とは関係ないけど、この試合からNHKの中継で現在の残りストーンの数を常に画面に表示するようになりました。これはナイス。この表示がないと、いま何投目なのかわかりにくいんだよね。特に録画を見返す時に。

 日本1点リードで5エンド後攻。赤日本、黄アメリカ。スキップ小穴の1投目。どうということのない局面に見えたが、小穴はここから2点を狙いたい。

日本(赤)-アメリカ(黄) 5エンド 後攻日本スキップ小穴1投目

小穴「この前にドローする? でもブランクもあるんだよね、打っとけば」
小野寺「ブランクしてもいい気がするけどね」
小穴「近ければ相手が打つから、勝手にブランクにはなると思うけど」

 ここは2点狙うものなんですかね? フリーズすれば2点取れる可能性はあるけれど、フリーズに失敗したり、成功しても次に付け返されたりしたら1点取らされることになる可能性もある。リードしているところだしブランクでいいのでは?と自分は思いました。

 小穴はフリーズを選択。ぴたり縦には付かなかったが、くっつけることには成功。このあと、アメリカスキップ、ジェイミー・シンクレア2投目は後ろの黄もろとも赤をテイク。ここは小穴の事前の言葉通り。最後は小穴2投目でピールして、結局このエンドはブランクになります。

 ところで、この小穴2投目のピールはちょっと厚く当たって危なかった。ヒット後、石垣がスイープで掃き出してブランクになったシーンでした。その後こんなやりとり。

小穴「失礼しました。ピールをね、スイープそんな使うなっていう」
石垣「いいよいいよ。掃いてなんぼよ」

9エンド 「もうタイム使っちゃおうぜー」

 試合は進んで、日本2点リードで先攻9エンド。日本のゲームプランとしては、2失点で同点後攻10エンドになるのは良い。1失点で済めばなお良い。3失点は良くない。サード小野寺2投目を前に長い作戦会議。赤日本、黄アメリカ。解説は敦賀信人

日本(赤)-アメリカ(黄) 9エンド 先攻日本サード小野寺2投目前

小穴「1・2だからガードでもいいと思うんだよね」
石垣「んー、まあそれも悪くないね、守って」
実況「センターガードですか?」
敦賀「そうですね、もしくは、まあ……。ここ、思い切ってタイムアウト取ってもいいのかもしれませんね。結構大事な局面だと思うんですね」
小穴「ダブルされると2点だから、2点まではいいけど、ガードでも悪くないと思う」
石垣「タイム使わないかい?」
小穴「タイム使う?」
石垣「守り切るか、2点に抑えるかどっちかしかないから」
小野寺「これ切ったら……」
小穴「ただ曲がる方からだとオーバーカールしそうなんだよね」

(このあたりで放送上VTRになったり、解説が入ったりで会話が聞き取れなかった部分があります)

小野寺「……そしたらこっちは必ず見えるから、最悪2点もOK」
小穴「うーん」
敦賀「あのですね、1・2あってガードを置くんですけど、ナンバー1のストーンがTラインより後ろなんですね。残り3つアメリカがありますので、くっけるのは両方向の道からできるので」
石垣「切るか前だよね」
小穴「何点までかだな」
石垣「もうタイム使っちゃおうぜー」
小穴「OK、タイム」

 しばらく話し合いがあった後にタイムアウトを使う。コーチ席で、J.D. リンドコーチが西室雄二コーチの前にあるタブレットを「ここ、ここ、ここ」と指さしている姿が映る。

石垣「ここでガード置けたら置けたで、センターなかなかつぶれるから、結構嫌な感じで」
小穴「まあフォースの1投目でもいいと思うけど」
敦賀「ふさぐということは自分たちのナンバー1を守る石にもなるんですけど、取らすにもやはり1点でなければいけないんですね」
小野寺「守ったら相手……」
石垣「フリーズかなー?」
小野寺「そしたらまたフォローかい? 狭くはなるよね、円は」

 ここで西室雄二コーチ到着。

石垣「前か切るか、やってるんですけど。2点アップだから……」
小穴「2点まではいいけど、できれば1点に抑えたいです」
西室コーチ「2点はいいんだったら……(ガードを指さしてガード外しを指示)。あまり中に行くと、中だけで3点取られちゃう」
(ここで別シートで歓声が上がる。メンバーがコーチに駆け寄って耳を寄せる。仕草がいちいちコントっぽい富士急の面々w)
西室コーチ「2点はいいと思う」
石垣「OK、じゃあ前切るか」
西室コーチ「あんまり、センターにも残したくない、センターにも残したくない」
石垣「うん、ピールでいいんじゃない」

 というわけで、コーナーガード外しという選択になりました。小野寺・石垣・敦賀(解説ですが)がガードを置くのは危険と指摘するが、小穴がなかなか納得しない。タイムアウトもなかなか取らなかったが、ついにタイムをとり、西室コーチの意見もガード外しで、とうとう小穴が折れたという場面でした。タイムアウトを使わせた「もうタイム使っちゃおうぜー」の一言は石垣のファインプレイだったと思います。

10エンド ベストショット

 9エンドは結局アメリカが2点取って、同点で10エンド日本後攻。赤日本、黄アメリカ。

 アメリカスキップ、ジェイミー・シンクレアの2投目のハウス内ガードが完璧な位置に止まって、ボタンへかけなければならない厳しいラストドローが残った。スキップ小穴2投目。

日本(赤)-アメリカ(黄) 10エンド 後攻日本スキップ小穴2投目

「ちょっと外通ってきてるよ」
「まだ速い、まだ速い」
「外のラインだ」
「落ちると思うんだよね」
「ラインまだ、ラインまだ」
「ちょっと待てるね」
敦賀「そうですね、ラインはいいと思いますね。速さが少し」
実況「強いですか?」
敦賀「いや、速さも少し落ち着いてきましたね。ラインはいいですよ」
「来てるよ」
「待ってまだまだ」
「まだ速い」
「ウォー、ウォー、ウォー……」

 最後は石垣が石に付いたままスイープせずに見送って、Tラインを越えるがボタンにかかって止まった! 日本勝ち!

 このドローは本大会の日本のベストショットでしょう。正直、シンクレアの2投目を見た時には「ああー、負けたかー。この展開で負けたか」と思いました。よく決めた。

予選 日本-アメリ
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
日本   0 0 4 0 0 1 0 1 0 1 7
アメリ 1 0 0 2 0 0 1 0 2 0 6

日本-ロシア

7エンド 小穴の積極策 その2

 日本の6試合目。赤日本、黄ロシア。

日本(赤)-ロシア(黄) 7エンド 後攻日本スキップ小穴1投目

 日本4点ビハインドの7エンド後攻。大きくリードしているロシアはテイク、テイクで石をためない。後攻にチャンスがない展開に見えたが、日本はここからスキップの2投で2点を取る。

 スキップ小穴の1投目、ナンバー1の黄に軽くさわって縦にピタリと止めるフリーズを決める。

 このあと、ロシアのスキップ、ビクトリア・モイセーワの2投目は縦にテイクして石を入れ替えたが、シューターがわずかに外にずれてナンバー1を取れない。スキップ小穴2投目はドローをボタンに決めて2点を取った。

 まあ、ここはビハインドの場面だから、積極策にいくしかないのだけど。

予選 日本-ロシア
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
日本 0 0 0 1 0 0 2 0 1 x 4
ロシア   0 1 2 0 2 0 0 2 0 x 7

スコットランド-日本

7エンド ガードの裏にガード

 日本の7試合目。日本1点ビハインドの7エンド先攻。サード小谷優奈2投目を前の日本の作戦選択が光った場面。赤スコットランド、黄日本。

スコットランド(赤)-日本(黄) 7エンド 先攻日本サード小谷優奈2投目

 ハウスを広く使って赤がナンバー1・2。このまま赤をテイクするとスコットランドの2点パターン。しかし、センターガードはハウスから遠いので、この裏に隠しても回り込んで打ち出されてしまう。

 というわけで、すでにサードの2投目だが、ここでセンターガードの裏にセンターガードを置いた。

 この後、スコットランドサード2投目は遠いセンターガード外し。日本スキップ小穴1投目でセンターガードの裏に隠す。センターライン上の展開に持ち込んだ。最後はスコットランドのスキップ、ハンナ・フレミングがダブルテイクを決めてスチールはならなかったが、それでも1点取らせることに成功。5エンド終了時には4点ビハインドだったが、2点ビハインドで8エンド後攻は勝負形。流れは日本だ!

 ……と思ったのに、続く8エンドは日本の4人が4人ともショットがまるで決まらず、スコットランドの3点スチールとなってしまう。解説は敦賀信人

実況「いやー敦賀さん、このスチールは痛いですね」
敦賀「そうですね。いまですね、一人ずつ、気持ちのコントロールが難しくなってますので。なんとか3点取ったところまでは良かったんですけど、その後ですね。1点うまく取らせて、このエンドに思い切って勝負にいったのは良かったんですけど、なかなかうまくゲームメイクができなかったですね。前が決まってなかったので、最後プレッシャーのかかるショットを小穴選手が強いられた。気持ち的にきちんと、全選手そうなんですけど、コントロールできてなかったなと思いますね。ミスした後にどれだけ他の選手がカバーできるか、それも重要になってくると思いますね」 

予選 スコットランド-日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
スコットランド 2 0 2 1 1 0 1 3 0 x 10
日本   0 2 0 0 0 3 0 0 2 x 7

日本-イタリア

6エンド 相手が使ったラインをふさぐのがセオリー

 日本の8試合目。日本1点リードの6エンド後攻の一幕。

 スキップ小穴1投目を前に作戦会議。いま、イタリアのスキップ、ディアナ・ガスパリ1投目の左からのドローが、かなりショートしてガードの位置で止まったところ。ガードが多数ある中、4フットにナンバー1の赤があって日本チャンス。しかし、まだ外側から中に入ってくるドローコースはある。次の相手のドローコースを限定するガードを置きたいが、左右どちらをふさぐ?

小穴「どっちかつぶす感じ。いま相手こっち(左側)投げてるからこっちつぶした方がいいと思う」と右側をブラシで指す。
小野寺「ああ」
小穴「…………違うか。こっち(左側)投げてるからこっち(左側)つぶした方がいい(笑)」

 大丈夫ですか小穴さんw

 しかし、投球の方は左側のハウス内ガードをきっちり置く。続く小穴2投目のピールも決めて4点のビッグエンド。ガードをギリギリかわしてヒットステイで5点という手もあったが、余裕を持ってガードをかわしてピールして4点取る安心ショットの選択だった。6エンド終わって7-2の5点リードと日本大優勢となりました。

8エンド 織り込み済みの1点スチール

 しかし、なんとこの試合はこのあと接戦になります。7エンドはイタリアが2点取って、それでも日本3点リードの8エンド後攻。まだ日本大優勢。

日本(赤)-イタリア(黄) 8エンド 後攻日本スキップ小穴2投目前

 相手の石を3つ見てのラストストーン。赤日本、黄イタリア。解説は石崎琴美

小穴「1点スチールされても」
小野寺「あーOKOK。ドローは厳しいかい?」
小穴「ん?」
小野寺「ドローは厳しいかい?」
小穴「ドローでもいいけど、3点スチールがあるからテイクしておいた方がいいかなって思う」
石崎「そういうことですね。ドローするコースとしてはあると思うんですけど、相手の石を3個見てのドローって、かなりのプレッシャーがあるんですよ。スルーしたら相手3点、ショートしても相手3点。なので、ここは1点スチールされてもいいから、はじきにいくという作戦にしてきました。そっちの方がスキップが気持ちよく投げられるのでいいと思いますね」

 結果は、ダブルテイクは成功。黄が1つ中央に残り、織り込み済みの1点スチールとなりました。

 この作戦はどうなんでしょう? 戦術的には正解なのかもしれないけど、白い円に半分かかれば1点スチールで済むし、1点取るチャンスで、1点取って4点差になればさらに優勢だし。この局面で1点スチールさせて9エンド2点差にするというのは、作戦として消極的すぎるのでは?と自分は思いました。

9エンド 忠言

日本(赤)-イタリア(黄) 9エンド 後攻日本スキップ小穴1投目前

 7-5で日本2点リードで9エンド後攻。このエンドはイタリアのショットも、ホッグラインを越えなかったり、カムアラウンドを狙ったのにハウスまで届かないショットがあったりと決まっていなかった。日本十分な形でスキップ小穴1投目を迎える。赤日本、黄イタリア。

石崎「もう、こっち(左側)に振ってナンバー1を作っておけばいいかなと思うんですが、いまこっち(右側)という話もあるんですけど、これが深くなりすぎると相手に付けられる形にもなって、最後にドローはできますけれども、振っておいてきれいにしておいてもいいのかなと思いますね」

 小野寺はハウス左側にドローして左右に広くナンバー1・2を作る手を提案するが、小穴は別のラインに投げたい。ここでタイムアウトを取る。

(この会話は聞き取れない部分が多かったので断片的です)
小穴「センターにドローしたい。ウェイトがわかんないから。できれば」
西室コーチ「できればこっちに置いた(?)方が、相手にヒットさせて。こっちに行ったら短くても長くても、相手に付けられちゃう」
小穴「バック4ダメですかね?」
小野寺「バック4に置いたらたぶんフリーズしてくると思うんですよね」

 西室コーチも小野寺も左側へのドローを提案するが、小穴は投げたいラインをなかなか譲らない。時間いっぱい使って、結局センター後方へのドローを選択する。

石崎「ただ、やっぱりセンターにいくよりも私はサイドに振っておく方が好きでした。センターにいってこれに付けられてしまったら、最後にTラインの奥ですけど使える円が狭まってしまっているので」

 何をしても「ナイスショット」しか言わない石崎にしては珍しい強い否定のコメントだった。

日本(赤)-イタリア(黄) 9エンド 後攻日本スキップ小穴2投目

 イタリアのスキップ、ガスパリ2投目はその石の前にフリーズがピタリ。

 小穴2投目はその石の手前へドローしてナンバー1を取るはずだったが、ウェイトもラインもまるで合わず、石1個分以上外れてスルーする大失投。イタリア1点スチール。9エンド終わって7-6で日本1点リード。10エンドは日本後攻だからまだ有利だが、6エンド終了時からは信じられない接戦になってしまいました。

石崎「最後はドローするっていうのわかっていて、1投目で自分の投げたいラインで投げてますので、最後あれは決めなければいけない」

 10エンドは、イタリアのスキップ、ガスパリ2投目、左側の4フット外のナンバー1の赤にフリーズにいくが、曲がりすぎてナンバー1を取れず。小穴のラストストーンを待たずにコンシードとなりました。もし、このガスパリのフリーズが決まっていて、小穴がラストストーンを投げる展開になっていたらどうなっていたか。

予選 日本-イタリア
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
日本   0 2 0 1 0 4 0 0 0 1 8
イタリア 1 0 0 0 1 0 2 1 1 0 6

韓国-日本

7エンド あの形のままだったら

 日本の10試合目。韓国は“メガネ先輩”の愛称で日本でもおなじみのキム・ウンジョン率いる、平昌五輪銀メダルチームが参戦。日本2点ビハインドで7エンド先攻。赤韓国、黄日本。

韓国(赤)-日本(黄) 3エンド 先攻日本スキップ小穴2投目

 この投球前までボタンの黄と赤のどちらがナンバー1か微妙だった。日本スキップ小穴2投目はハウス内の黄をわずかに押して確実に1を取ったが、横に開いてダブルテイクがある角度を残してしまった。

 このあと、韓国スキップ、キム・ウンジョン2投目はダブルテイクを決める。黄を2つテイクして、赤には触らずそのまま。韓国1点。解説は敦賀信人

敦賀「日本のストーンがナンバー1の可能性もあったので。最後本当に惜しかったんですけど、小穴選手の1投が少しだけ横に開いたというのが、もったいなかったですね」

 小穴の2投目は、ガードに当たっててもいいくらいの気持ちで投げてほしかったな。縦にまっすぐ押せれば一番いいし、むしろガードに当たって、中はあの形のままでキム・ウンジョンがラストストーンでどんな投球をするか見たかった。

 もしかしたら、選手たちはあの形は赤がナンバー1だという確信があったのかも? キム・ウンジョンの1投目もガードだったし。

予選 韓国-日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
韓国   3 0 1 0 2 0 1 0 2 x 9
日本 0 1 0 2 0 1 0 1 0 x 5

日本-カナダ

3エンド 予言

 日本の11試合目。同点で日本3エンド先攻。日本スキップ小穴2投目の選択。赤日本、黄カナダ。

日本(赤)-カナダ(黄) 3エンド 先攻日本スキップ小穴2投目

小穴「1点で収まると思うんだよね」
石垣「フリーズでも悪くないと思う」
小穴「芯よりちょっとこっちに当たれば引っ張って黄色だけ出ると思う。ガードね、ずれた時3点あるから」

 というわけで、小穴は縦にテイクに行くが……。

敦賀「いやこれ、打ちにいくんですけど危険だと思いますね。というのはこれ、黄色が2つ残ってしまう可能性がありますね。2・3、でですね。これは危険なショットになると思います」

 敦賀の言葉通り、黄が2つ残ってしまった。このあと、カナダのスキップ、ジェニファー・ジョーンズは2投目はヒットステイを決めてカナダ3点。

 毎度のことながら、敦賀信人の解説はコメントの精度はすごい。この試合では、8エンドでもジェニファー・ジョーンズのドローのミスを予言しています。

 ショット前。敦賀「ただ、このラインでこのターン、逆時計回りというのは、この大会見ますとミスが少し出ているショットなので……」

 ショット後。敦賀「私が見る限りではこの大会あそのコースのショットというのは、決まっていなかったので、もしかしたらチャンスはあるかなと思ってたんですけど」

予選 日本-カナダ
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
日本 0 1 0 1 0 0 1 1 1 x 5
カナダ   1 0 3 0 2 2 0 0 0 x 8

チェコ-日本

3エンド Bプランのヒットロール

チェコ(赤)-日本(黄) 3エンド 後攻日本スキップ小穴2投目

 日本の12試合目は最終戦

 2-1で1点ビハインドの日本3エンド後攻。赤チェコ、黄日本。

 チェコのスキップ2投目は左からドローしてきたが、ほんのわずかの差でナンバー1を取れず、日本に2点チャンスが来た。

 日本スキップ小穴2投目は右のラインからボタンへのドローを狙う。ややウェイトが速かったが、赤に当ててロールするBプランへの切り替えが成功した。ギリギリ1・2を取るナイスショット。ナイスコール。

9エンド 主張を通して……

 試合は進んで日本1点リードで9エンド後攻。日本としては、ブランクにして1点リード後攻のまま10エンドになれば十分有利なので、クリーンな展開を狙う。日本のスキップ小穴1投目を前にして、残る石はハウス右側にチェコの赤が1つだけという形。

小穴「残していいと思う。残していいと思う。フォースだから」
石垣「ブランクでもいいよね」
優奈「ステイして相手がミスすれば2点取れるし……」
石垣「相手、でもフリーズする気がするんだけど……」
小穴「残していいと思う。フリーズはしてこないと思うんだよね」
石垣「ブランクでいいんじゃない?」
小穴「残して相手にテイクさせた方が良くない?」
石垣「フリーズされたら2点取れるチャンスあるよ」
小穴「してこないと思う、相手は」

 しかし、小穴1投目は単純なヒットステイに失敗してピールになってしまう。どうも小穴は、自分が主張したショットをした時に失敗することが多い気がします。

10エンド 富士急の作戦会議

 結局、9エンドはブランクになり、日本は1点リード後攻で10エンド。そして局面は進んで、スキップ小穴のラストストーンを残すのみという場面で日本はタイムアウトを取る。今大会の富士急の象徴するシーンだと思う作戦会議の会話をできるだけ。赤チェコ、黄日本。

チェコ(赤)-日本(黄) 10エンド 後攻日本スキップ小穴2投目前

小穴「一応こっちからがあるんだよ」
優奈「うん」
小穴「これ外側に当たると2点だけど、こっちからだと、ダブルでこれだけ出ても、シングルになっても、前ピールアウトで出しちゃってしても、1点なんだよ。ただこれの方が簡単だけどね。これの方が簡単。これをやればいいと思う私も。ただこれは2点が一応あるっていう」
優奈「これここに当たったら……」
小穴「こっちも薄すぎてもダメだし」
優奈「こっちからの方がいいと思うんだよね」

 ここで西室コーチが到着。

西室コーチ「速いのでいくと両方出ちゃうかもしれない。それだけ気をつければ」
小穴「これで10秒くらいで行きます? 一応こっちからもあるんですけど」
西室コーチ「そっちからでも。決まりそうなら」
小穴「唯一2点があるのがこれじゃないですか。だからこっちから行ってもいいかなと思うんですけと、ちょっとはこっちの方が簡単だと思う」
石垣「そうだね、こっちの方が簡単だ」
西室コーチ「いいんじゃない」
小穴「それか、ドローするか」
優奈・有理沙「いやいやいやいや」
石垣「なら10秒で」
有理沙「テイクやってるからテイクの方がいいと思う」
優奈「11とかじゃダメかな。遅すぎる?」
石垣「いやー曲がっちゃうと思う」
小穴「これステイでワン取れる? これ跳ねて……」
石垣「内側いけば……」
有理沙「ちょっとでも芯外せば」
小穴「ウェイトダウンでこっちに当たるとすごいよくないから。9秒くらいの方がいいですか?」
西室コーチ「いや下げた方がいい」
優奈「そしたらこっちからいった方がいいんじゃない?」
石垣「いやー」
小穴「えー」
西室コーチ「いや、ワンいけばいいよ」
石垣「1点アップだから。1点アップ」
西室コーチ「決まれば勝ちだから」
優奈「OK、じゃあ行こう(ブラシを突き立てる)。10?」
石垣「9?」
西室コーチ「10でも。9はダメ。両方出ちゃう。ウェイト落として10か11か」
小穴「このラインで10でいいと思う」

 強い口調で話し合いをリードする小穴。最悪の結果を心配して弱気な作戦にいきそうな小穴を「そうだね、こっちの方が簡単だ」と優しく誘導する石垣。小谷姉妹の「いやいやいやいや」のツッコミ。西室コーチの「9はダメ。両方出ちゃう」のこどもを叱るような口調。などなど(俺的な)見所満載で大好きなシーンでした。

 そして、話し合いにはあんなに時間を掛けたのに、デリバリーは光速の小穴。ボタン右の赤に当ててシューターがボタンにロールしてナンバー1を取って日本勝ち。最終戦を白星で終えました。 

予選 チェコ-日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
チェコ   0 2 0 1 0 1 0 1 0 0 5
日本 1 0 2 0 2 0 1 0 0 1 7

「一番印象に残っているシーンは何ですか?」

 最終戦後、NHKの中継では各選手へのインタビューが放送されました。小穴桃里のインタビューでのこの言葉が、今大会で自分が一番印象に残ったシーンです。

アナ「小穴選手の中で一番印象に残っているシーンは何ですか?」
小穴「印象に残っているシーン……。印象に残っているシーン? もう毎日めまぐるしく過ぎていったのでちょっと……。帰って録画見ます(笑)」

 端から見れば、今回の小穴のベストシーンはどう考えてもアメリカ戦のラストドローです。決勝のゲスト解説のときには、小穴自身もそのシーンをベストショットに挙げています。それがぱっと出てこないということは、他に印象に残る、恐らく悔しいシーンがいっぱいあったんだろうなと想像しました。

富士急プラス1

 ところで、この大会の富士急は、富士急所属の4人に加えて、北海道銀行小野寺佳歩が参戦するというチーム構成になっていました。これは自分はびっくりしました。

 富士急は長らくチームを支えていたベテランの西室淳子が産休に入って、リザーブ不在になっていました。4人しかいないチームが他のチームから選手を借りるというのはよくあることです。しかし、まさか北海道銀行から小野寺佳歩が参戦するとは。自分は、若手ばかりのチームになったので経験豊富なベテラン選手か、関東の若手か、あるいは昨シーズンまで所属していた倉光選手が臨時復帰か、くらいだと思っていました。ライバルチーム所属で地域的なつながりもない、現役バリバリで五輪出場経験もあり、今季はサードも経験して成長著しいと評判の最強選手を持ってくるとは。

 参戦にも驚いたけれど、起用法にも驚いた。まさか、初戦からサードで出場するとは。カーリングの場合、多くのチームはオーダーは固定で、試合ごとにオーダーを変えるチームもあるけれどそれほど多くはない。助っ人参戦の選手が出場する例はさらに少ないと思います。自分は、基本的にはリザーブで、序盤で負けが込んだら流れを変えるために出場もあるかも、くらいに思っていました。初戦からフル回転で使ってくるとは。

カーリング女子世界選手権2018 日本の選手起用
日時 対戦相手 勝敗 リード セカンド サード フォース
3/17 夜 ドイツ 小谷有理沙v 石垣真央 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/18 昼 デンマーク 小谷有理沙v 小谷優奈 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/18 夜 スイス 小谷有理沙v 石垣真央 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/19 昼 アメリ 小谷有理沙v 石垣真央 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/20 朝 中国 小谷有理沙v 小谷優奈 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/20 昼 ロシア 小谷有理沙v 石垣真央 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/21 朝 スコットランド 小谷有理沙v 石垣真央 小谷優奈 小穴桃里s
3/21 夜 イタリア 小谷有理沙v 小谷優奈 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/22 朝 スウェーデン 小谷有理沙v 石垣真央 小野寺佳歩 小穴桃里s
3/22 夜 韓国 小谷有理沙v 石垣真央 小谷優奈 小穴桃里s
3/23 朝 カナダ 小谷有理沙v 石垣真央 小谷優奈 小穴桃里s
3/23 昼 チェコ 小谷有理沙v 石垣真央 小谷優奈 小穴桃里s

 小野寺と言えば、どの大会だったか忘れたけれど、少し前に小野寺がリザーブに回っていた大会で、タイムアウトのときにチームメイトにしっかりとアドバイスを送っていた姿が印象に残っています。それまで作戦面に強い選手という印象がなかったので、ソチ五輪のときの姿とはずいぶん感じが変わったな、と思ったのを覚えています。

 小野寺参戦の経緯や、起用方法を決めた時期や理由などは興味深いところですが、明らかになった情報はあまりありません。今回の世界選手権は、男子と同じく、最下位回避が重要課題でした。日本の最下位の可能性が低くなってから小野寺の出場機会が減ったので、小野寺起用の主な目的は最下位回避だったとみることもできます。他に、単にそのとき調子の良い選手を使った、疲労回避のためのローテーション、小野寺にも経験を積ませたかったなどの理由も考えられます。小野寺や富士急選手のSNSなどを見ると、小野寺自身はやる気満々で、小野寺の参戦や出場は富士急の選手も納得していたことはうかがえます。

おまけ:ゲスト解説での一幕

 NHK BS1の準決勝と決勝の3試合の中継で、富士急の選手がゲスト出演しました。そこでの会話から。

 準決勝のカナダ-アメリカ戦での一幕。

石崎「チームのムードメーカーみたいな人っているんですか?」
小谷優奈「そうですね基本的には、えーと……、みんなが……、もう、結構……わがまま、じゃなくてすいません」
石崎・実況「はははははは(笑)」
小谷優奈「自分自身の良さを常に出しつつあるので、自由で、みんなで盛り上げて」

 決勝のカナダ-スウェーデンでの一幕。

敦賀「小穴さんはメガネがトレードマークになってますので。韓国のキム・ウンジョンさんがメガネ先輩ということで、小穴選手は、メガネ後輩ですか?」
小穴「はははははは……(無言)」
敦賀「…………違いますか?」
小穴「テレビの前の皆さんに考えていただければ(笑)」

男子カーリング世界選手権2018、team IWAIの奮闘を振り返る

 怒濤のカーリングシーズンもようやく落ち着いてきました。

 平昌五輪直前の2月に日本選手権があって、「SC軽井沢クラブLS北見が出場しない大会だからなあ」と思って軽く見る程度にするつもりが、女子は富士急が、男子はteam IWAIが優勝するという非常に興味をそそられる結果。その翌週には平昌五輪が開幕。「男子と女子の予選リーグは14日からだからしばらくは他の競技をゆっくり見られるな」と思っていたら、ミックスダブルスは開会式の前からすでに試合があるという誤算(でも他の競技も見た)。男子・女子予選リーグが開幕してからは1日1.5試合のペースで連日の中継。それが終わったら一段落付く予定でしたが、女子が銅メダルを獲得したことによるフィーバーが続く。3月半ばのミックスダブルス日本選手権LS北見SC軽井沢クラブのメンバーが出場することが突然決まり、テレビ中継もされることに。それが終わるや否やの3月下旬からは富士急が出場する女子世界選手権。それが終わったと思ったら、翌週の4月上旬からは男子世界選手権。これでようやく終わりかと思いきや、4月下旬のミックスダブルス世界選手権藤澤五月・山口剛史ペアが出場。もう大変(^_^;) 今年になってからはカーリングを見ていた記憶しかない。しかも、まだ終わっていません。5月18日(金)からPACC日本代表決定戦。男子はSC軽井沢クラブ-team IWAI、女子はLS北見-富士急。またまた楽しみで仕方がないカード。

 今シーズンのカーリングはいろいろな名場面があったのに、まだ平昌五輪の女子3位決定戦しか振り返れていないじゃないか。というわけで、ようやく時間が取れたので今シーズンのカーリングの思い出に残るシーンを振り返ってみます。今回は男子世界選手権に初出場したteam IWAIの名場面を見てみます。

アメリカ(赤)-日本(黄) 10エンド アメリカ選手とハイタッチ

 この大会のteam IWAIで目立ったのは、なんと言っても18歳のフォース青木豪のスーパーショットの数々。初戦のアメリカ戦から魅せてくれました。

 日本1点ビハインドで後攻10エンド。最低でも1点取らないと負けてしまうが、アメリカサード2投目で中央のいい位置にナンバー1を取られた。それに触れないままセンターライン上に石が増えていく。

アメリカ(赤)-日本(黄) 10エンド 後攻日本フォース青木2投目

 アメリカスキップ2投目でダメ押しのガードを置かれて(一番手前の赤)ハウス12時方向にある黄を押す道もふさがれる。

 残る手は、左上のガードの黄を押す手しかない。距離も角度もある難しいショット。しかし、この土壇場で青木がこれを決める! 青木、なんとアメリカのティルカ選手とハイタッチ。

 試合は、惜しくもエキストラエンドで1点取られて日本が負けたが、俄然この後の試合が楽しみになりました。

予選 アメリカ-日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
アメリ   0 0 2 1 0 1 0 0 1 0 1 6
日本 2 0 0 0 0 0 1 1 0 1 0 5

日本(赤)-ノルウェー(黄) 5エンド

日本(赤)-ノルウェー(黄) 5エンド 後攻日本フォース青木2投目

 日本の3試合目。日本2点ビハインドの後攻5エンド。

 ノルウェーのスキップ2投目でハウス内ガードを置かれて(ハウス入り口の黄)、ナンバー1を直接触る道がなくなる。フォース青木の2投目はハウス右上のガードから中に飛ばすランバックしかない。もし、少しずれてハウス入り口の黄に当たってしまうと、ナンバー2の赤だけなくなって2~3点のスチールにもなりかねないショット。

 しかし、その黄をギリギリかわして決める! 赤が1・2を取って2点。リードからずっとピンチの流れのエンドだったが、ラストストーン一発で逆転した。

 しかし、試合は4-8でノルウェーの勝ち。5エンドの他に、2・4エンドでも青木のナイスショットがあって終盤まで食らいついたが、終始ノルウェーのショットの方が決まっていた試合でした。

予選 日本-ノルウェー

チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
日本   0 0 1 0 2 0 1 0 0 - 4
ノルウェー 2 0 0 1 0 2 0 2 1 - 8

カナダ(赤)-日本(黄) 2エンド

 日本の7試合目の相手は、ブラッド・グシュー率いる優勝候補のカナダ。1エンドからいきなり縦に重ねるフリーズがピタリピタリと決まる。カナダ3点先制。解説は山口剛史。

山口「いやー、やられましたね。でも、取られちゃったのはしょうがないですから。2エンド目しっかりここで2点、取りたいですね。目標的には次3エンド目で1点取らせて、2点もう1回取れば、同点ですから」

と、画面のスコアボードに勝手に数字を書き込む山口。

カナダ(赤)-日本(黄) 2エンド 後攻日本フォース青木2投目

 2エンドも日本が厳しい形。カナダのスキップ、グシューの2投目でヒットロールを完璧に決められてハウス内の赤の後ろにナンバー1を作られる。ナンバー1を取るにはボタンにかけるドローしかない。

山口「いやー、これは……嫌ですね。気持ちが嫌になっちゃいます」

 しかし、フォース青木2投目はプレッシャーのかかるこのドローを見事に決める。

山口「スイーパーもすごく良かったです。ウェイトジャッジが素晴らしく良かったです」
実況「似里、宿谷。この2人」

予選 カナダ-日本

チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
カナダ 3 0 2 0 2 2 - - - - 9
日本   0 1 0 1 0 0 - - - - 2

ドイツ(赤)-日本(黄) 5エンド team IWAIの作戦会議

 日本の予選10試合目。team IWAIの話し合いがおもしろかったシーン。

 日本2点リードの先攻5エンド。フォース青木1投目を前に選択肢のある形が残る。投げ手側とハウス側で大声で話し合い。投げ手側にはフォース青木と、スイーパーの青山と宿谷がいる。ハウス側にはスキップの岩井。 解説は平田洸介。

ドイツ(赤)-日本(黄) 5エンド 先攻日本フォース青木1投目

(大声で)
青木「前から行くかい」
岩井「前から行ったら、黄色だけ死んじゃう気がするんだよね」
青木「ああそうか」
岩井「これしかなくなるから。フリーズする?」
青山・宿谷「うん」「OK」
(投げ手側で)
青木「まあまあシビアなんだよね、あの辺がね。……なんだなんだなんだなんだ? ノーマル?」
青山「ノーズで。たぶんノーズで」
(大声で)
青木「いやバンパー」
岩井「バンパー曲がったら怖くない?」
青木「ノーマルでヒットロールも嫌じゃない?」
(投げ手側で)
宿谷「前チップのこと考えたらさ、こうランバしちゃってもおもしろいよね」
(宿谷がブラシを縦に動かす仕草でランバックを提案)
(大声で)
岩井「それやる?」
青木「うん」
(投げ手側で)
宿谷「OK。どこ当たってもいいよ、バーンってやればいいから」
青木「てか別に赤1個消えればいいからね」
宿谷「後ろの黄色消えちゃってもいいしね」
平田「角度を付けて打とうとしています。そっちの方が赤が確実に出やすいのかなという。青木選手の大好きなショットです」

 手前の黄を使ってダブルテイク。赤2つを出して黄は1・2で残るナイスショット。失敗すると黄だけ出てしまう可能性もあるショットだったが、青木のやりたいショットをやらせて大成功。

平田「青木君は勢いのある子なので、彼にそういうショットを選ばせてあげるというのがポイントなのかなと僕は思うんですけども」
実況「そのあたりはスキップの岩井選手も……」
平田「そうですね。彼の良さをうまく引き出せているというか、大人だなと感じますね」

予選 ドイツ-日本

チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
ドイツ   0 1 0 0 1 0 0 1 0 - 3
日本 1 0 0 2 0 3 1 0 1 - 8

スイス(赤)-日本(黄) 4エンド 青木のガッツポーズ

 日本の11試合目。3点ビハインドで後攻4エンド。

スイス(赤)-日本(黄) 4エンド 後攻日本フォース青木1投目

 センターライン上に多数の石がある中でナンバー1の赤をいい位置に持たれて日本ピンチ。サード岩井は2投とも一番手前のガードからランバックを狙ったが、ともに中に当たらず形を変えられない。

 しかし、スイススキップ1投目のセンターガードは、黄のガードとの距離が近くなってやや狙いやすくなった。

 フォース青木の1投目、三たびのランバック狙い。赤の次はセンターライン右側の黄に当てる狙いだったと思うが、やや左にずれて左側の黄を経由して狙いのラインに戻った。ナンバー1の赤をテイクして黄は1・2で残るナイスショット。青木、拳を突き上げるガッツポーズが出た。このエンド、日本は2点を取る。

スイス(赤)-日本(黄) 7エンド 「また出た」

 先ほどの場面と同じ試合の7エンド。まだ日本3点ビハインドで後攻。

スイス(赤)-日本(黄) 7エンド 後攻日本フォース青木1投目

  サード岩井1投目でコーナーガードを置いたが、スイスは構わずセンターガードを置いてきた。ナンバー1の赤に触れないままセンターライン上を固められて日本ピンチ。

 こんなときは例によって青木のランバック。フォース青木1投目、距離がある難しいショットだったが、赤のガードをギリギリかわしてガードの黄を飛ばし、フリーズ状態の黄からナンバー1の赤をテイクして黄が1・2を取る。誰かが「また出た」とつぶやく声が聞こえた。

 こうなると、センターへのドローの道がふさがっているスイスが逆に困った。スイススキップ2投目はハウス近くのガードの赤からランバックを狙うが中に当たらない。青木2投目は簡単なドローを決めて3点。日本がこのエンドで一気に同点に追いついた。

スイス(赤)-日本(黄) 9エンド 似里のカムアラウンド

 さらに試合は進んで9エンド。9エンド後攻で1点ビハインドは互角の形勢。

スイス(赤)-日本(黄) 9エンド 後攻日本セカンド似里1投目

 セカンド似里の1投目、コーナーガードの裏でギリギリハウスにかかるカムアラウンドを決める。

 このあと、スイスセカンド2投目は左と中央の黄2つのダブルテイクを決めるが、こうなるとこのドローで置いた黄が光ってくる。セカンド似里2投目のヒットステイで、きれいな2点パターン。このあと、フォース青木1投目でさらにコーナーガードの裏にドローしてこのエンド日本3点。7-9と最終エンドを前にしてついに逆転して2点リードを奪った。試合後、解説の両角友佑はこの場面をポイントとなったシーンに挙げた。

 しかし、試合はこのあとスイスに10エンドに2点取られ、エキストラエンドで1点スチールされて、日本は再逆転負け。非常に惜しい試合でした。

予選 スイス-日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
スイス 2 0 2 0 0 2 0 1 0 2 1 10
日本   0 1 0 2 0 0 3 0 3 0 0 9

日本(赤)-スウェーデン(黄) 4エンド

 日本の12試合目の最終戦は、このあとこの大会で優勝するスウェーデンが相手。もちろん格上の相手ですが、結構チャンスはありました。そのチャンスを自ら手放してしまった印象があります。

日本(赤)-スウェーデン(黄) 4エンド 後攻日本サード岩井1投目

 日本2点ビハインドの後攻4エンド。

 サード岩井の1投目を前にして、ハウスを広く使って1・2を持っているという、後攻としては絶好の形。しかし岩井1投目のドローはハウス内で平行に3つ置くのを狙ったはずだが、ウェイトがまるで足りずハウスにも届かない。このまま3つ目を置き続ければ3点チャンスだし、ダブルテイクされたとしても2点パターンは作れる形だったのに。

 結局このエンド、日本は1点に終わる。

日本(赤)-スウェーデン(黄) 6エンド

 さらに同じ試合の6エンド。日本の1点ビハインドで先攻。

 このエンドはスウェーデンのショットがいまいち。サード岩井の2投、センターガードとドローがともにナイスショットで、ハウス内4フットでいい形を作った。このままセンターガードを置き続けて、ラストストーンでドローを投げさせればスチールも期待できる。

日本(赤)-スウェーデン(黄) 6エンド 後攻日本フォース青木1投目

 しかし、フォース青木1投目のガードはハウス内の石が隠せていない。この後、スウェーデンのスキップ、ニクラス・エディンの1投目でダブルテイクを決められ、このエンドはブランクになる。解説は清水徹郎。

清水「(スウェーデンに)珍しいミスもあって、日本にいい流れが来てたので、1点取らせるか1点スチールもちょっと見えていただけに、ブランクになってしまったのはスウェーデンとしては良かったんですけど、日本としては今のエンドは点を動かしたかったですね」

 この大会の日本は、青木のスーパーショットのような難しいショットを何回も決めた反面、このスウェーデン戦の2つのエンドに象徴されるように、簡単なショットが決まらないという場面も多くありました。この大会、日本は3勝9敗で13チーム中11位という結果に終わります。あれだけスーパーショットが出ていながらこの勝敗数になってしまうあたりに、それが現れていると思います。アメリカ戦、ロシア戦、スイス戦は勝つチャンスがあった。 それに勝つだけでも、もうプレーオフ圏内に入れたかもしれないのに。

予選 日本-スウェーデン

チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
日本   0 1 0 1 0 0 0 1 0 - 3
スウェーデン 1 0 2 0 0 0 3 0 1 - 7

お茶目なteam IWAI

 試合の局面の名場面はこんな感じですが、これ以外にもteam IWAIの会話などで面白い場面がありました。ちょっととぼけた感じのサードスキップ岩井と、大会最年少18歳なのに物怖じしないクールな青木を中心に、独特の空気がありました。SC軽井沢クラブとはわけが違う。

 というわけで、team IWAIの見ていておもしろかったシーンをまとめて紹介します。

アメリカ戦3エンド 「まったく見えてないわ!」

 アメリカがセカンド2投目でコーナーガードの裏へカムアラウンドを決めて、サード岩井の1投目。最初はコーナーガードをかわして直接テイクする手を狙っていたが、いざハックから見るとコーナーガードの裏に完全に隠れているようだ。バイススキップの青木は外から曲げてのテイクを指示するが……。

岩井「まったく見えてないわ!」
青木「?」(左耳に手を当てる)
岩井「見えてない!」
青木「?」(右耳に手を当てる)
岩井「見えない! 石が見えないの! 見えない!」

 結局、岩井の声は伝わらず、青木が手招きで岩井を呼んで、岩井がハウス側に言って直接話すことになりました。

アメリカ戦10エンド さっさと投げろ

 10エンド、日本が1点ビハインドで後攻、ハウス内に石が多く点在する際どい場面。先ほど紹介した青木のスーパーショットが出る前のシーン。

 サード岩井の2投目を前に、残り時間2分を切っているのに4人集まってのんびり話し合うteam IWAI。話の中で残り時間の話も出ていたので忘れていたわけではないと思うが……。心配そうな顔の日本コーチ陣。しばらく話し合った後、タイムアウトを取る。画面に映っていた時計には残り時間1:13と表示されていた。

 J.D. リンドコーチが降りてくるが、二言三言指示を出してすぐに去って行く。爆笑するteam IWAIの面々。時間がないのでさっさと投げろということか。解説は両角友佑。

友佑「このショットしかないよということで、チームも納得しやすいので。真面目に考えていないわけではなくて、スッと終わらせて。グタグタ話をしてもダメな時もあるので、すごくいいコーチングだったと思いますけど」

オランダ戦5エンド フリーガードゾーンルール

 日本(赤)後攻リード青山2投目を前に、ハウスすぐ近くのセンターライン上に黄、すぐ左にハウスにかかって黄、という形。ハウス側のスキップ岩井と投げ手側のリード青山の間でこんなやりとり。

岩井「入ってる」(と左の黄を指し、その黄からセンターライン上の黄とのダブルテイクする仕草)
青山「(青山から見て)左、入ってなくない?」
岩井「ん?」
青山「こっち入ってないでしょ」
岩井「入ってない」
青山「出せないよ」

 岩井、投げ手側を指さし「それだ」という仕草。ざわめくデリバリー陣。

 なお、フリーガードゾーンルール忘れはスイス戦の9エンドでもやらかしてますw

オランダ戦11エンド 念力

 試合はエキストラエンド。先攻日本。4フット左側にナンバー1を持ったまま迎えたフォース青木の2投目は、その赤を守るガードを置きにいく。解説は両角公佑。

「ちょっとタイトだわ」
「待ちたい待ちたい待ちたい」
「あるあるあるある」
「2、3。2、3」
「待てる待てる待てる」
「ちょっとオーバーカールしちゃう!」
「ウェイトはもっとちょっとほしいんだよね」
「イエス!」
「ウォー!」
「行きすぎない行きすぎない行きすぎない」
「いい、いい」
「セット! セット!」
「セット!」
「ダーッ!!」(宿谷がブラシで石を指して力を入れて震わせる仕草)
実況「(笑)止まってくれという感じでした」
公佑「そうですね。気合いで何とか」

 ハウス内の赤を隠す最高の場所に止まりました。このガードが利いてオランダのラストストーンは惜しくも決まらず、日本スチール。本大会初勝利となりました。

カナダ戦4エンド なんの話?

「この試合の勝敗当てたら4890ドルってこと? 48万9000円ですか。マジか」

 なんだこの会話は。これ、本当にteam IWAIのメンバーの会話だったのかな? セカンド宿谷1投目の直前、もうデリバリーに入るくらいのタイミングだったし。

ドイツ戦5エンド 「7まで!7まで!7まで!」

 リード青山1投目。ハウス内へドローを狙うが、やや短い。宿谷と青木が全力スイープ。

宿谷「5」
青木「ないわ」

 スキップの岩井が引き次いで全力スイープ。

岩井(32歳)「うぉー!」
青木(18歳)「7まで!7まで!7まで!」
岩井(32歳)「いや、無理でしょ(笑)」

 結局、5くらいの位置で止まりました。解説はSC軽井沢クラブリザーブでチーム最年少の平田洸介。

平田「青木選手、いいことだとは思うんですけど、年上とかあんまり関係なく(笑)いろいろされるので。ちょっと僕は怖くてできないです、そいうことは」

スウェーデン戦7エンド 年上相手でも遠慮なし

 先攻、フォース青木1投目を前に4人で作戦会議でこんな会話。年上相手でもまったく物怖じしない青木の性格が良く表れた場面。

青山「来てもまあこことか?」
青木「いやー、それだとここで簡単に2点取られちゃうんだよね。ここガードするとランバックしかなくなっちゃうから」
青山「赤1でしょ?」
青木「でもここ黄色1でもいいんだよ別に。だったらここ置いて、もし押されても次うちらが押し返せば全然」
青山「うんうんうん」
岩井「ここ置いとけば、どうにかなるからね。半分以上隠せれば」
宿谷「これピールされたら?」
青山「そんなここ曲がって強いウェイトで来ないと思うよ」
青木「これだけ見えてるから」
宿谷「これだけピールされたらやばいんだよね」
青山「ああー」
岩井「ここ置いとけばさ、別に、これだけ死んで」
宿谷「ここまでくっつけたいね、できればね」
青木「ここくっつけた方がいいよ。これピールされても別にもう1回押せば自分がここで1・2で持てるから」
宿谷「やばいのでも、これでハックとかで割られちゃうのが怖いからね」
青木「割られてもじゃない? 別にここで広がる分にはこうもできるし」
宿谷「まあね」
青木「ハックぐらいならたぶんここまで押されて、こっちからこうボーンとできるし」
岩井「OK」
青木「若干タップはありで。相手もしガードしてきたら、こっちガードしてきて1点やってもいいし」

最下位回避

 ところで、世界選手権の出場枠は前回・今回・次回でシステムが変わることになっています。前回までは12チーム出場でアジア枠は2でした。今回は13チーム出場で、アジア枠が暫定的に1つ増えて3になりました。

 次回からは、13チーム出場はそのままで「世界選手権最終予選枠」が2枠設けられることになりました。その2枠がどこからくるかというと、1つは暫定的に3だったアジア枠が2に戻る。もう1つは、前回大会で最下位になった国が属する枠が1つ減らされることになりました。

 つまり、今回の大会で日本が最下位になってしまうと、来年の世界選手権のアジア枠が1になってしまうところでした。今回の世界選手権に五輪代表チームであるSC軽井沢クラブが出場できなかったのは、今回の世界選手権の成績は次回の五輪出場に影響しないから、他のチームに経験を積ませることを優先したということだと思います。しかし、もしこの大会で日本が最下位になっていたら、この判断はどうだったのかという話になるところでした。team IWAIはなんとしても最下位を回避しなければならないというプレッシャーとも戦っていたわけです。その中で初出場ながら3勝をあげて最下位を回避したのは、本当によくやったと思います。

 まあ、自分としては、最下位になったらなったでいいやと思ってましたけど。パシフィック・アジアカーリング選手権(PACC)で優勝できなくても、最終予選には出場できるだろうし、そこで2位以内に入ればいいんだし。むしろ、試合が増えて楽しいじゃない。やる選手は大変でしょうけど。アジア枠が2枠あったとしても、PACCで3位になってしまう可能性はあるので、どっちにしろ世界選手権最終予選に回る覚悟はしておかないといけないのだから。


別冊付録 平昌オリンピック 女子カーリング メモリアル

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女子カーリング世界選手権2018の勝敗表(将棋の順位戦風)

  平昌五輪に引き続き、女子カーリング世界選手権の予選リーグの勝敗表を、将棋の順位戦風の形式で作ってみました。

■女子 17昼17夜18朝18昼18夜19朝19昼19夜20朝20昼20夜21朝21昼21夜22朝22昼22夜23朝23昼23夜
カナダ┃チェスイ----ドイ--中国--デン--スコ--韓国スウロシ--イタ日本--アメ
☆12-0┃○ ○     ○   ○   ○   ○   ○ ○ ○   ○ ○   ○ 
スウェ┃--デン中国イタ--アメ--韓国--チェスイドイ--カナ日本--ロシ--スコ--
☆10-2┃  ○ ○ ○   ○   ○   ○ ○ ○   ● ○   ○   ●   
韓国 ┃ドイ--チェ--デン----スウイタ--中国アメカナ----スイ日本--ロシスコ
☆ 8-4┃○   ○   ○     ● ○   ○ ○ ●     ● ○   ○ ● 
ロシア┃スコ--アメスイ--イタ--中国--日本----チェドイカナ--スウ--韓国デン
☆ 7-5┃○   ○ ○   ●   ●   ○     ○ ○ ●   ●   ● ○ 
チェコ┃カナ--韓国--中国--スコイタ--スウデン--ロシ--スイドイ--アメ日本--
☆ 6-6┃●   ●   ○   ○ ○   ● ○   ●   ○ ●   ○ ●   
アメリ┃--イタロシスコ--スウ日本----スイ--韓国中国----デンドイチェ--カナ
☆ 6-6┃  ○ ● ○   ● ●     ○   ● ○     ○ ○ ●   ● 
中国 ┃スイ--スウ--チェ--カナロシ日本--韓国--アメスコ--イタ--デン--ドイ
▼ 6-6┃○   ●   ●   ● ○ ○   ●   ● ●   ○   ○   ○ 
スイス┃中国カナ--ロシ日本----スコ--アメスウデン----チェ韓国--ドイイタ--
▼ 5-7┃● ●   ● ○     ○   ● ● ○     ● ○   ● ○   
スコッ┃ロシ--イタアメ----チェスイドイ--カナ日本--中国デン------スウ韓国
▼ 5-7┃●   ● ●     ● ● ○   ● ○   ○ ●       ○ ○ 
日本 ┃--ドイ--デンスイ--アメ--中国ロシ--スコ--イタスウ--韓国カナチェ--
▼ 5-7┃  ○   ○ ●   ○   ● ●   ●   ○ ●   ● ● ○   
デンマ┃--スウ--日本韓国--ドイ--カナ--チェスイイタ--スコアメ--中国--ロシ
▼ 3-9┃  ●   ● ●   ○   ●   ● ● ○   ○ ●   ●   ● 
ドイツ┃韓国日本----カナ--デン--スコイタ--スウ--ロシ--チェアメスイ--中国
▼ 3-9┃● ●     ●   ●   ● ○   ●   ●   ○ ● ○   ● 
イタリ┃--アメスコスウ--ロシ--チェ韓国ドイ----デン日本--中国カナ--スイ--
▼2-10┃  ● ○ ●   ○   ● ● ●     ● ○   ● ●   ●   
■女子 17昼17夜18朝18昼18夜19朝19昼19夜20朝20昼20夜21朝21昼21夜22朝22昼22夜23朝23昼23夜

 更新については、今回も自分が試合の録画を見終わった段階での更新になりますので、最新の勝敗表が見たい方は下記のサイトとかを見てください。

(コアキュゥト) Koaきゅぅと ミニカーリングベル (赤)

ミュアヘッドのラストストーン

平昌五輪カーリング女子3位決定戦のあの場面

女子3位決定戦イギリス赤-日本黄10E赤16前の局面

 平昌五輪カーリング女子3位決定戦。イギリス-日本。10エンド。スコアは3-4でイギリスの1点ビハインド。ラストストーンの投球前で、ナンバー1は10時の赤なのでこのままでもイギリスは1点取れているが、イギリスのスキップ、イブ・ミュアヘッドはラストストーンで2点を取りにいく。やや速めのウェイトで放たれたショットは1時の黄にあたる。複雑に石が動くが……、

黄が中央にに転がり込んできて黄がスチール

石崎琴美「あっ!」
実況「ナンバー1は、日本だー!」

黄が中央に転がり込んできてナンバー1。日本が1点スチールで日本勝利、銅メダル獲得となった場面でした。

女子3位決定戦 イギリス - 日本
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
イギリス 1 0 1 0 1 0 0 0 0 0 3
日本   0 1 0 1 0 0 0 1 1 1 5

 ところで、このラストストーンでミュアヘッドは何をやろうとしていたのか? 自分は中継を見ていた時はわかりませんでした。それは実現可能な手なのか? その難度は? 他の手はなかったのか? いろいろな可能性が考えられる場面で、試合後にさまざまな話が出てきました。

 というわけで、この場面に関する記事や選手のインタビュー、カーリング選手の見解などを集めてみました。

ミュアヘッドの狙いは?

黄を2つダブルテイクしてシューターはなくなるが赤は2つ残る

 次の項目で紹介するように「薄すぎた」と言う人が何人もいますので、狙いは左図だったのは間違いないでしょう。黄を2つテイクアウトしてシューターはなくなるが、7時の赤はそのままで10時の赤も残る。

 この手のときに自分が素人目に思った疑問は、「1時の黄が7時の赤に当たらないの?」というのと、「10時の赤がロールしすぎて11時の黄より外に行かない?」ということです。前者についてはそもそも当たらない。後者についてはその可能性はあるがウェイトが速すぎなければ十分残る。ということのようです。

 Twitterで図入りで解説している方がいましたので紹介します。

どのくらい薄すぎた?

 狙いから薄く当たりすぎて失敗したわけですが、具体的にはどれくらい薄かったのか? 人によってやや意見が分かれています(強調と末尾の著者名・発言者名は引用者が付け加えました)。

「あの石があと1センチ曲がっていたら、私たちが銅メダルを首から下げていた」(イブ・ミュアヘッド(Eve Muirhead))

わずかにミスになり、日本が1点をスチールしたが、もう5センチ石が曲がっていれば、英国が2得点して銅メダルを取っていたはず。(岩永直樹)

あと数センチずれていれば銅メダルは英国選手の首に掛かっていたはずだ。(西室淳子)

ミュアヘッドの最終投は狙ったラインよりだいぶ外側にずれた。痛恨のミスショット。(阿部晋也)

狙いよりも外側に薄く当たってしまった。半分くらいで当てたかったんですけど3分の1くらいで薄く当たってしまって。(どのくらい?)2~3センチくらいですね。(柏木寛昭)

  • 「あさチャン」2018/02/26(月)放送

 阿部晋也だけが「だいぶ」という、ややズレが大きいというという表現になっています。あと、1センチから5センチの差は、このレベルのカーラーにとってどれくらいのズレなのかという問題もあります。まあ、数字の大小は著者・発言者の表現の感覚の問題という気もします。

成功率はどれくらい?

 最大の問題は、ミュアヘッドの狙いのショットの難度です。どれくらい決まる見込みがあったのか? 素人の自分の目にはかなり難しいショットのように感じました。

 試合直後に出てきた、実際に試合をしていた両チームの選手・コーチや、カーリング選手の話では、それほど難しくないという見解が大勢でした。

吉田知と「簡単なショットにしちゃったね」と言い合い顔をしかめた。(藤澤五月

(試合後に画面で見たら)かなり危ないな、半分負けたかもしれないと思いましたね。(鈴木夕湖

7・8割はたぶん決まるであろう。いつものミュアヘッド先輩だったら絶対決めれる。(吉田夕梨花

この形を見た瞬間に、吉田知那美と『あっ』と。(藤澤五月

やっちまったと。最後の最後に3センチ4センチ曲がりすぎてしまって。/完全に、相手の2点になるなと正直思った。(吉田知那美

チームがやっちまったという感じもすぐわかりましたし(笑)/ただメダルを取るか取らないかのキーショットになるので、通常であれば決めれると思うんですけど、投げてみないとわからないなというのは半々くらいで思ってました。(本橋麻里

  • 「ひるおび」2018/02/27(火)放送

簡単なショットではなかったが、決められるショットでもあった。我々はうまくいかなかった。(グレン・ハワード)

延長戦にいくと(後攻の)日本がラストストーンを持っているので、英国は逆転を狙ってきたショットでしたが、簡単ではなかったです。(敦賀信人

第10エンドの相手のラストショット。本来ならそれほど難しい場面ではなく《中略》。経験豊富なミュアヘッドがあのようなミスをするなんて、と驚いたが、彼女の手元をわずかに狂わせたのは大舞台の重圧だけではなかっただろう。最後まで諦めないLS北見の姿勢がもたらした銅メダルだった。(西室淳子)

すでに延長が確定していたにもかかわらず最後のショットで日本の石2つを追い出し銅メダルをもぎ取ろうとしたがそれはあまりにも難しいショットだった。 (ジャッキー・ロックハート(Jackie Lockhart))

普段のイブ・ミュアヘッド選手なら100回のうち99回は成功していたショットだったが、彼女はそれをあまりに強く大きく投げ過ぎた。リスクをとったが代償は極めて大きかった。(デイビッド・マードック(David Murdoch))

(このショットは難しい?)そうですね。ただ、難しい中でもとっても難しいわけではなく、少し難しい。強い選手ならできるショット。ミュアヘッドならできる。(目黒萌絵

9割以上決められるショット。(柏木寛昭)

  • 「ひるおび」2018/02/26(月)放送

 ジャッキー・ロックハートが「あまりに難しいショット」、敦賀信人が「簡単ではなかったです」、本橋麻里が「投げてみないとわからない」と、難しめのショットだったという表現になっています。他はおおむね「ミュアヘッドなら決められる」という認識でした。実際、ミュアヘッドはスーパーテイクをばしばし決めてきた選手だからね。

 ところが、少し時間が経つと「実は難しいショットだったのでは?」という意見が出始めます。

【図9左】のストーンの動きはかなり複雑ですが、結果的にLS北見のナンバー2と3の2つのストーンを弾き出すことができると考えられます。「じりつくん」はこのショットを選んだときのイギリスの勝率を26%と考えていました。
《中略》
実は「じりつくん」は、イギリスが狙ったショットでは、【図9右】のように、イギリス(赤色)のナンバー1ストーンも左上に動いてしまい、イギリスにとって2点目となるナンバー2ストーンとなる可能性が低いと考えていたのです。(じりつくん)

 男子カーリング選手が再現したところ、それぞれ何回か試行すると成功したそうです。再現動画がTwitterにアップされています。

 実際のショットより厚く当てると、黄は右下に出て行くけれど10時方向の赤ももっと外に逃げてしまい赤1点しか取れないとか、それでも黄が赤ナンバー1・2になるほどには外に出ない、というパターンになる可能性もあったようです。再現といっても、石の配置がわずかでも違えば結果も異なるだろうし、氷の状態を再現するのはほぼ無理だから、なかなか難しいでしょう。

 当初言われていたような9割以上成功するというほど簡単なショットではなかった、かといって現実的に成功が望めないというほど難しいショットでもなかった、と言うところだと思います。

失敗した場合にスチールになる危険は?

 自分が気になったのは、失敗した場合にスチールになって一気に負けになる可能性はあるとミュアヘッドは思っていたのか?ということです。スチールになる可能性がないと思っていたのなら成功率がどんなに低くてもやるでしょうが、スチールの危険があると思っていたのなら一か八かの勝負に出たということになります。

 実際にスチールになったのだからその危険はあったのですが、その危険の認識はあったのか? その可能性はどれくらいあったのか?

(薄かったらどういう期待がある?)勝ってしまうんではないかと。/(コーチボックスで)薄かったらチャンスだねという話はしていた。(本橋麻里

 本橋麻里はスチールの可能性もあると思っていた。 

 これはスチールの可能性はほとんどないと思っていたという見解。

 再現実験ではスチールになることはなかった。

イギリスが2点を取って勝つ可能性もありますが、LS北見が1点をスチールする可能性もそれなりに高いと判断したのです。(じりつくん)

 「じりつくん」は1点スチールもあり得るとの判断。

 あと、中継で解説の石崎琴美が、黄が中に転がり込んできたときに「あっ!」と驚いた声を上げましたが、これは黄がナンバー1になることは想定していなかったから……と解釈することもできます。

 というわけで、なかなか微妙です。ミュアヘッドが実際にどう思っていたのか気になるところです。

他の手はなかったか?

薄く当てる手はダメ?

黄に薄く当ててきを横に逃がす

 主に素人筋から言われていたのが、薄く当てて黄を図の左方向に横に押し出す手はなかったのか? という意見です。自分もこの手はいけるんじゃないかと思っていました。むしろミュアヘッドが狙ったショットより角度がありそう。

 薄く当てた場合は黄が横に行く力が弱いので、7時の赤をナンバー2にするほど外に行ってくれない、ということのようです。いい手だと思ったのにー。

シューターが残る手はなかった?

シューターが残ってナンバー1・2を作る

 これも主に素人筋から言われていた意見です。実際に図に書いてみるといけそうに思えてくる……。

 ただ、この手に言及したカーリング選手の見解を見つけることができませんでした。というわけで、この手の角度はなかったんじゃないかという気がします。

ドローで2点目を置けば良かったんじゃない?

右側からドローで4フットに置いて2点目を作る

 これは有力な作戦に見えます。4フットの右側にナンバー2で置くスペースはあるように見えます。難しいかもしれないけど、このレベルの選手ならできるんじゃない? 失敗してもスチールになる危険はないように見えるのもこの手を推す理由の一つ。

 今回の大会はかなり曲がるアイスコンディションだったと思います。そうすると右上の赤のガードが影響するかも? その赤をかわそうと思ってやや内側に投げると、1時の黄を押してナンバー1にしてしまうかも?

 というわけで、そもそもドローウェイトでナンバー2を取るラインはなかったかもしれないし、ノーリスクの選択でもない、ということのようです。

スルーしてEEに持ち込む?

 どうやってもスチールになる危険があるというのなら、いっそのことスルーさせて1点確保して、エキストラエンド(EE)の先攻で勝負する方が良かったんじゃない? わざとスルーさせるのはもったいなさ過ぎるとしても、1点しか取れない可能性を見込む作戦なら、すべてEEの勝率を考慮する必要があります。

 EE先攻で勝つにはスチールするしかありません。EEが通常よりスチールしやすいかどうかは、以下の2つの考え方があります。

  • 先攻は大量失点を恐れずスチールに専念できるからスチールしやすい。
  • 後攻は2点以上を狙うことなく1点取ることに集中してくるからスチールしにくい。

 どちらもそれなりに正しいように思えます。あと、プレッシャーのかかるラストドローは通常では考えられないようなミスもしばしば出る、という自分がカーリングを観戦してきた中での印象があります。自分の観戦体感的には、10エンド同点先攻またはEE先攻が勝つのは4回に1回くらいという感覚です。

また、仮にスルー(ストーンを関係ないところに投げて現状の配置を確保する)した場合は、イギリスは1点しか取れず同点になり、不利な先攻でエクストラエンドをプレーするため勝率は22%です。 (じりつくん)

 「じりつくん」の見解ではEE先攻の勝率は22%だそうです。実際のところはどうなんでしょう? 統計を取ってみたらおもしろいかもしれません。まあ、統計を取ってみたところで、統計的なスチールのしやすさとその試合・その場面でのスチールのしやすさは違うという話になるのかもしれませんが。

「じりつくん」推奨のショット

 人間が思いつく手はだいたいこんな感じですが、カーリング戦略AI「じりつくん」が奇想天外な手を見つけていました。

実は、この局面で「じりつくん」は衝撃的なショットを発見していました。【図10】のようにハウスの前方にあるコーナーガードを利用して、斜めからLS北見の黄色のストーンを狙うショットです。(じりつくん)
《中略》
コーナーガードに当てるショットは、当てる角度が難しいのですが、もしずれたとしてもハウス中央のLS北見の黄色ストーンに当たらないことが多く、イギリスがそのまま1点を確保できる可能性が高いショットだと言えるでしょう。「じりつくん」は、このショットを選択した場合のイギリスの勝率を50%と見積もっていました。他のショットに比べて、かなり有効なショットであると「じりつくん」は判断していたのです。

右の赤のガードに当てて角度を変えてシューターで中を狙う

 より角度をつけることで、1時の黄は出やすく、10時の赤は出にくくなるということでしょうか。また、1時の黄に薄く当てて横に押し出す手も、この角度なら可能性があるように思います。あと、ガードに当てて角度を変えてシューターで中を狙うのではなく、ガードの赤の方を中に飛ばす手の方がいいような気がします。

 しかし、このショットの難度はどうなんでしょうか? 石に当てて角度を変える手は、少しでも当たる場所がずれるとその後の進路が大きくずれます。しかも、1つ目の赤から2つ目の黄までの距離が長い。相当難しいショットに思えます。EE先攻の勝率が22%で、この手を選んだ場合の勝率が50%もあるとはとても思えません。

ミュアヘッドの選択は正しかったのか?

 結果的には、イギリスはスチールされて負けてしまったわけです。負けたのだから、ミュアヘッドの選択は正しかったのか?という疑問が出てきます。この場面での考え方は以下のようなものがあると思います。

  1. 2点取るのは簡単だから2点取りに行く。
  2. 2点取るのは難しいけど、失敗しても1点はある可能性が高いから2点取りに行く。
  3. 2点取るのは難しいし失敗してスチールになる可能性もあるけど、EEの先攻になったら厳しいから2点取りに行く。
  4. スチールになる可能性が高いから何もしないでEEに懸ける。

 4以外は2点取りに行くという選択になります。それなら当然チャレンジでしょう。ミュアヘッドの認識が1~3のどれだったのかはわかりませんが、スチールになる可能性があるとしても、自分のショットで勝てる可能性があって、それができると思ったのなら、そりゃそれを選ぶでしょう。

  あえて確率の話をすると、仮に、2点ショットが決まる可能性が30%、1点にとどまってEEに入る可能性が40%、1点スチールになって一気に負ける可能性が30%、EE先攻で勝つ確率が40%と想定すると、このショットに挑戦した場合の勝率は30% + (40% * 40%) = 46%です。この想定ではスルーした場合の勝率は40%ですから、それよりも高いことになります。EEにした方が勝率が高くなるには、スチール確率とEE先攻の勝率をかなり高く見積もらないとそうなりません。

黄のドローはわずかに短くて赤の斜め前で止まる

 そもそも、ミュアヘッドのラストストーンは、1つ前の藤澤五月のショットを受けてのものでした。藤澤のショット(ハウス内1時の黄)は赤に並ぶくらいの位置で止めるつもりでしたが、わずかに弱く、手前の黄にチップし石1個分手前で止まってしまいました。

 藤澤にとっては痛恨のミスショットでしょうが、もし、もっと手前で止まっていたらドローで2点目を置かれていたかもしれません。もっと奥まで行っていればヒットステイで簡単に2点取られていたかもしれません。そうはならずに、この位置で止まった。だからミュアヘッドはこの局面の最善策としてダブルテイクアウトを選択した。藤澤のショットがあったからこの結果が生まれまた。そして、藤澤のショットも、この試合のこれまでの両チームの158投のショットを受けて生まれたものです。

 前のショットを受けて局面ができ、ざまざま手が考えられる中、ミスする可能性も含めてその局面での最善手を選択する。そしてミスした結果も含めて次の局面ができる。それを繰り返してあの局面が生まれ、勝敗が決する。カーリングらしい場面だったと思います。

リンク集

 これまでに紹介した以外でこの件に言及した記事を集めてみました。


(コアキュゥト) Koaきゅぅと ミニカーリングベル (黄緑)

北海道カーリング選手権のある一場面

 平昌五輪のカーリング競技の男女もいよいよ大詰めですね。日本は、男子は惜しくも1勝足らず予選リーグ敗退で残念。最終戦に勝てばタイブレークには進めたのに……。これが20年ぶりの出場の難しさということか。まあ、勝てる試合もあったとか言い出したら他のチームもそうだろうけど。スウェーデンのピタリピタリと決まるショットはすごかったな。

 女子は最後に連敗して5勝4敗で終わるも、混戦の中4チームが4勝5敗で終わる巡り合わせで、単独4位となり予選突破。5勝4敗でタイブレークなしで準決勝に進出できるとは思わなかった。だんだん調子を落としている感じがするので心配ですが、準決勝まで1日空くのでこの1日をうまく使ってほしい。世界ランク1・2位のカナダとスイスがともに調子が上がらず予選敗退というのが驚き。カナダはぎりぎり間に合ったかと思ったが……。

y-koutarou.hatenablog.com

 さて、今回はそんな平昌五輪とはまったく関係のないカーリングの話を1つ。

 J:COMテレビで「sapporoジモスポ★特別編 #3」という番組をやっていまして、そこで北海道カーリング選手権の模様が伝えられていました。

 女子決勝は北海道銀行 - 札幌国際大学というカードで、ダイジェストですがいくつかのシーンが取り上げられていました。そのうちの1つが驚きのシーンだったので思わず局面図を作ってしまいました。北海道銀行が5-4でリードして迎えた9エンド、後攻・黄の札幌国際大学のラストストーン投球前の場面。

北海道カーリング選手権決勝 9エンド黄16投目

 なんだこの局面は。ハウス内に密集して赤6個、黄4個。これだけ密集している局面はあまり見たことないなあ。どういう経緯でこうなったのか……。先攻赤のセンターガードからひたすらフリーズ合戦になったのでしょうか。

 このあと札幌国際大学のラストストーンはガードに引っかけてしまって、ハウス内はこの形のままで赤が1点スチール。試合はそのまま北海道銀行の逃げ切り勝ちとなりました。熱い試合をやってますね。

女子決勝 北海道銀行 - 札幌国際大学
チーム名 H 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
北海道銀行 3 0 0 1 0 0 0 1 1 0 6
札幌国際大学   0 0 1 0 2 1 0 0 0 1 5

 J:COMテレビがどういう条件で見られるのかよくわからないけれど、この番組は頻繁に再放送されているので、放送される地域にお住まいの方は探してみると見られるかもしれません。


 ちなみに、J:COMテレビでは平昌五輪も他ではなかなか放送しない競技を放送をしていてよく見ていました。特にバイアスロンを放送してくれたのはありがたかったです。トップ選手でも射撃は百発百中ということはない。射撃で外しても走力で挽回できる一方、やっぱりクロスカントリーでリードしていたのに射撃で外して逆転されることもある。1回失敗したら終了みたいな競技が多い中、絶妙なバランスがある競技です。まだ、2/24(土)と2/25(日)にもバイアスロンの放送があるようですね。

カーリング魂。